「質問いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「何でAFOは伝説の犯罪者とか裏社会の究極悪とか言われてるんですか?あとヤクザってほぼ全部摘発されたんだと思ってたんですけどこれに関しては?」
僕の問いに琉電はにこやかに頷いた。
「まず最初の質問ですが、そのほうが都合が良かったからです。政府はヒーローVSヴィランという構図で社会を落ち着かせて行く方針に舵を切りました。
さて、ここにおいて、多くの小物ヴィランをまとめ上げたボスだったAFOはこの構図を確固たるものにするのにちょうどよい存在だったといいますか、まあチンピラ界にも秩序があったほうが監視もしやすくなるのが良かったのでね。なにせ我々は当時圧倒的な人手と予算不足だったものですから……」
琉電はふぅ、と息を吐くと先を続けた。
「長くなりましたね。まあつまり、チンピラ界の秩序を保つ、かつ、監視をしやすくするために、AFOが我々に利用価値を見出された結果、伝説の犯罪者、究極悪、などの二つ名を与えられたというわけです、我々によって」
「…………」
ああ……。中途半端な半グレが暴れまわるより裏社会の秩序を作ったほうが治安的にはまだマシと国防軍に思われた結果、情報操作が行われてAFOの権威付けのダメ押しとして、伝説の犯罪者(笑)、究極悪(笑)と呼ばれるようになったと。
バカにしてるだろ国防軍。
僕の胡乱げな視線を琉電は笑顔で受け流した。
「まあまあ、やりやすくなりましたよ。AFO以下の犯罪者はヒーローが。AFO以上の犯罪者は我々が。棲み分けの目印として彼は大変優秀でした」
「……AFOはこのことを?」
「当時は知らなかったはずですね。今はどうか知りませんけど」
さらりと言ってのけると琉電はそのまま先を続けた。
「次にヤクザについてですが、彼らはヒーローの隆盛により次々と摘発・解体され、オールマイトの登場で完全に時代を終えたとされていますね、表向きは。
実際のところ大物ヤクザたちは黎明期の初期に裏ルートを通じていち早く転身、諸外国とつながり表にダミー組織を残してより地下深くに潜って凶悪犯罪に手を染め始めたので、ヒーローが摘発したのはダミーか、もしくは個性発現以前の世界で小物だったヤクザです」
「なるほど」
なるほどなるほど。首を傾げながらもなんとかここまで聞いた情報を自分の中で消化した僕は、続きを促した。
「ここまではわかりました。で、えーっと、なんで僕がその国防軍とやらの手伝いを?今まで聞いた限り、ただの一般人の僕が貴方がたの何の役に立つのかさっぱりわからないのですが」
「ええ、ごもっともな質問です。先程オールマイトが引退するといいましたね、それに関係します」
そう言って琉電はオールマイトの受け継げる個性の話を始めたあと、爆弾発言をした。
「そして次の後継者がどうやら君のお友達の緑谷出久くんとなったようです」
「ええ!?緑谷!?なんで緑谷!?」
驚いた。え、よりにもよって何故?もっといい人はいると思うんだけど……。え?オールマイトの頭の中身は大丈夫なのか?
そんな僕に琉電は重々しく頷いた。
「我々も同じことを思いましてね、考え直すように説得に向かったのですが頑として応じられませんでした」
そして案の定、緑谷は今とてもじゃないがオールマイトの個性を受け継げるような状態ではないため特訓を受けているそうだ。内容はなぜか海岸のゴミ掃除。
ネットでのオールマイトゴミ捨て場目撃情報の謎と、最近やたらやる気に満ち溢れた緑谷の謎が解明された。そういうことだったのか。
「まあ仕方がないです。緑谷少年が使えればよし使えなくてもよし。我々にも色々な考えがあります。オールマイト引退に伴い、いずれ来るヒーローの幻想に支えられた社会の崩壊。そのときに彼が使えるか使えないか。それによって我々の出方も変わります。どちらに転んでもいいでしょう」
肩をすくめて薄ら笑いを浮かべた琉電はそう言って口を閉じた。その灰色の瞳には嘲るような色が浮かんでいる。
滲み出るその威圧感に僕は思わず口を閉じた。
「さて。君に声をかけた理由ですが。きっかけは君がオールマイトの正体を知ったことですね。我々も当初はいつも通り対処しようと思ったのですが、真実を知ったあとの君の動向を見て、君を調べることにしました。するとなんと、とても利用価値の高い人材であることが判明したというわけです」
「利用価値?」
「ええ。まずは君の立ち位置ですね。緑谷少年の心を許した親しい友人であるということ、彼が目指す雄英高校に受かる可能性が非常に高いということ。次に君の思想。ヒーローに傾倒しすぎていないところ、かといってヴィラン寄りでもない。更には個性も強く全体的な能力も非常に高く優秀である。
我々は現在、緑谷少年の情報を集めて監視下に置こうとしています。君にはその一助になっていただきたいと考えております」
「つまりオールマイトの後継者である緑谷を生徒の立場から監視してほしいってことですか?」
「はい。もちろん監視網の主力が君というわけではありませんが、雄英高校はヒーローのお膝元でしてね、何かとやりにくいもので内部からの監視がこのままでは少し弱いんですよ」
どうでしょうか?
そう聞かれた僕は国防軍の予備要員の待遇やら条件やら様々なことを聞き出して熟考した末に同意することにした。
「それでは、ご協力ありがとうございました」
「とんでもないです」
慇懃な一礼をして去っていく琉電を見送ったあと、校長は青い顔をしながら椅子に体を預けて天井を見つめた。
「……私は何も見なかったことにする」
「まあ、賢い選択ですね」
では僕もこれで。
校長室を後にした僕はそのまま教室に戻って勉強を再開した。
***
それから約半年がすぎた今日、僕は校長との約束通り雄英高校ヒーロー科の受験会場に訪れていた。昨日は普通科を受けたので、連日の受験に少し疲れはある。
折寺中学からは僕と緑谷と爆豪の3人が受験する。同じ中学から受験申込を学校がしたため、僕ら3人は連番での受験となった。筆記が終わったあと、3人並んで席に座り実技の説明を聞く。
相変わらずやけにおとなしい爆豪は入試当日の朝、僕の顔を見ても「テメェがヒーローって柄かよ」と吐き捨てた以外には何も言わなかった。ほかでもない爆豪にだけは言われたくなかったが、ここで騒いでも迷惑なので鼻で笑うだけにしておいた。
まあ僕が入試を受けること自体が折寺から史上唯一の合格者を目指している爆豪の癇に障っていることを知っていたのでいい気分である。
実技試験会場はバラバラだったので、緑谷と手を振って別れる。
今年の試験はロボットを倒せばいいだけの単純な試験だったので僕はロボットを倒しまくり他の受験生をレスキューしまくり大満足で試験を終えた。
あとで聞いたところによると緑谷はボロボロになりながらなんの得点にもならない巨大ロボを一体だけ倒して終わり、対して爆豪はロボットを狩りまくって意気軒高、絶対に落ちるはずがないと自信満々だそうだ。
それはどうかな。僕の賭けがうまく行けば面白いことになるはずである。まあ、この賭けは希望的観測でしかないのでうまくいかない可能性のが高いけど。
そして緑谷よ。オールマイトにつきっきりでほぼ1年訓練しといてもらって何をやっているんだろうか。しっかりしてほしい。
僕は放課後、河原で沈み込んだ顔をした緑谷を眺めてしみじみそう思った。
まあ1年前に比べれば薄っぺらかった体にも少し筋肉がついてきたが、まだまだである。OFAの個性に適する理想形がオールマイトの体格だとするならば道のりは遠そうだ。本当に、選ばれたのがなぜよりによってコイツなのか。僕の通っている合気道教室の師範の息子とかにあげたほうがよっぽど良さそうである。彼は大した個性は持ち合わせていないが、幼い頃からのたゆまぬ修行の成果でかなりの戦闘力を有している上に性格もいい将来有望な少年だ。なにはともあれオールマイトの目は節穴である。
そんなことを目の前の僕に思われているとはつゆ知らず、緑谷は入試の実技の出来栄えに落ち込み続けていた。
それに付き合うのも飽きてきたのでここで言葉のナイフをぐさり。
「てかさ、緑谷、無個性だったよね。どうやって巨大ロボ倒したわけ?」
「ぅ、うぇえ!?そっ、それは……」
突然痛い腹を探られた緑谷の声が動揺でひっくり返った。なんてわかりやすいやつなんだ。
「えっと、えっと、それは……ぼ、僕だけの力じゃないっていうか、その、他の人の協力も得たうえでの成果だったっていうか…」
「あー共闘した結果だったってこと?」
「あ、あ、うん。まぁ…そんなかんじかな……」
緑谷は目をキョロキョロせわしなく動かしながら答えた。優しい僕は納得したフリをした。
無個性から個性持ちになるんだったら言い訳を考えとくくらいできないのか?
そんなことを思わなくもなかったが、まあいいだろう。どうせ緑谷は雄英に受かるし、雄英では緑谷の過去を知る人間もほぼいないからなんとか乗り切れるはずだ。
緑谷が大量のレスキューポイントを獲得して合格点に達しているのは琉電からの知らせで知っているのである。ちなみに彼が教えてくれたのはそれだけで、僕の結果も爆豪の結果も何一つ漏らさなかった。ケチ。
まあ雄英高校の普通科の合格通知は今日の朝受け取ったので、琉電にとっては別に僕がヒーロー科に受かろうが受かるまいが、そこらへんはどうでもいいのだろう。彼は僕がヒーロー科に受かってもいかないことを知っている。
そして気になるヒーロー科の合格発表は明日であり、僕はそれを楽しみにしながら就寝し、楽しみにしながら朝を迎え、家に届いた手紙を開けると想定通り合格しており、それをみた姉は死ぬほど面白くなさそうな表情で舌打ちをし、そんな姉を見た僕はルンルンで登校した。さて、賭けの結果はどうなったかな〜。
その日爆豪は学校に姿を見せず、僕は結果を確かめるためにウキウキで校長室に突撃した。
**
数日後。
「いやぁー!ウチの中学から雄英進学者が2人もでるとは!特に緑谷は奇跡中の奇跡だな!」
校長室に呼び出された僕と緑谷と爆豪は上機嫌の校長の話を聞き、緑谷は褒められて照れたような顔をし、爆豪は今にも爆発しそうで地獄の番犬のようなおどろおどろしい表情で歯を食いしばっていた。
「ま、爆豪は惜しかったな!でも補欠合格1位だろう!まだチャンスはあるから、気を落とさないようにな!」
そう、爆豪は正規合格できなかったのである。実技点は1位、筆記も上位だったらしい彼が辛酸を舐める羽目になった原因は内申点だった。しかし足を引っ張ったのは点数ではない。その内容だった。
いくら能力が高くとも、人を個性で脅したり、いじめまがいの行動などで人間性に問題がある生徒をヒーロー科にいれるのはいかがなものか。折寺中学からの内申書を読んだ雄英高校側はそう考えたらしい。しかし彼がまだ思春期真っ只中、更生の余地はある上に極めて実力が高く優秀な人材であるのでその点も考慮され、なんやかや調整が行われた結果の補欠合格になったらしい。
想定外の結果だったが、ともかく僕は賭けに勝った。笑いが止まらない。ざまぁみやがれ。
ーーー
今回のことは全部僕の計画かと言われれば全くそうではない。ただ僕は、レスキューポイントなどを重視する雄英の試験体制的に、人間性も大事にしているのかなーと思ったため校長を使って内申に爆豪の良くない素行を付け加えてもらっただけである。
雄英高校は倍率がすごいのでもはや1点の争いになってくる。そのため、僕がやったことは、このことが1、2点ほど響いて爆豪の足をひっぱればいいなー、つーか願わくば落ちろやという嫌がらせであり、うまくいけば儲けもの、まあうまくいかない可能性のが高い、くらいの話であった。
しかしそれがまさかこんなに上手くいくとは!僕の運も捨てたもんじゃないね!
放課後、爆豪が不穏な空気を漂わせて緑谷を引きずってどこかに消えるのを見送った僕は、この最高の結果を更に最高にするために最後の仕上げをすることにした。
「どんな汚ねぇ手を使えばテメェが受かるんだよ、ああ゙!?」
下校中の生徒の目撃情報を頼りに校舎裏に訪れた僕の耳に入ってきたのは爆豪の罵声と緑谷のうめき声だった。
「テメェだろ、チクったのぁ゙!イジメだぁ!?人間性だぁ!?テメェの実技に小細工するだけじゃ飽き足らず俺の結果まで細工しやがって殺す殺す殺すぶっ殺すぞクソナードォ!!」
「ち、かっちゃ、、落ち着いて……僕は何もしてないって……」
どうやら彼のよく回る頭はこの未曾有の事態に上手く働いておらず、無個性の緑谷が合格=不正=そのツテをつかって俺も蹴落とした、という図ができあがり、よく校長室に出入りしていた怪しげな僕という存在を頭から追い出しているらしい。
「史上初、唯一の雄英合格者……、俺の将来設計が早速ズタボロだよ!!」
「やだなぁ、そんな悲観するなって」
僕は最後の仕上げをするために、幼馴染2人の争いにひょこっと参戦した。
突然物陰から現れた僕を、呆気にとられた顔をして見つめる2人。
僕は優しい笑みを浮かべてゆっくりと爆豪に語りかけた。
「僕さぁ、もともとヒーローになる気とかなくてね。雄英のヒーロー科受けたのも記念受験だったんだよね」
「……は?」
「当初の予定通り僕は普通科に進学するんだ。だから爆豪、お前のためにさっき枠1つ空けといたから、安心しな。ヨカッタネー、繰り上がり合格おめでとう!僕の分まで立派なヒーローになってくれると嬉しいな〜」
爆豪は呆気にとられた顔をした。あまりの出来事に理解が追いついていないようだ。
しかし数秒後、やっと事態を飲み込んだようで顔が赤と白のまだらに染まり、全身が怒りに震え始める。
「……テメェか?」
「なにが?」
「しらばっくれてんじゃねぇ!テメェの小細工かって聞いてんだよクソがぁ!!!」
「えー小細工?何言ってんの?今回の結果は全部お前の行動が招いたことだと思うけどな〜」
まあ嘘は言ってない。僕は爆豪が不利になるようにすこ〜し後押ししただけ。それ以外は全部爆豪の自業自得であり自分の行動が自分に返ってきただけのことである。
しかしそれを理解できない可哀想な頭の持ち主である爆豪は怒りが沸点を超えたらしく、両手からとんでもない威力の爆発を起こし始め僕に向き直ったが、
「今ここで問題起こしたら雄英行けなくなると思うけどいいの?」
という僕の言葉になんとか踏みとどまった。
今にも射殺しそうな殺意と憎しみのこもった目と顔でこちらを見てくる爆豪に、どういたしまして、と告げて僕はその場を後にした。
ああ、今日はなんて良い日なんだろう!!
大変お久しぶりです。
数年ぶりに読み返してみたところ矛盾を発見したので、18話と19話あたりをこっそり直させていただきました。