僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

24 / 27
高校生
第24話


 

 

4月、高校生になった。 

 

雄英高校ヒーロー科を蹴って普通科に進学した僕はいつも通り順調にクラスの権力を握りつつはあるのだが、小・中学校ほどうまくはいかなかった。

 

なぜなら僕にアンチが存在したからである。全くまだ4月の初めだというのにどこから噂が回るものやら。

 

そう、何を隠そう雄英高校の普通科は、成績優秀者はヒーロー科に編入できるという、入試に落ちて夢破れた者にとっては千載一遇のチャンスがある科であった。そのため普通科は虎視眈々とそのチャンスを狙う姉のような奴らが多数を占めており、そういう奴らからすると、自分たちが喉から手が出るほど欲しがった枠を記念受験で奪った挙げ句あっさり捨てたような僕の存在は非常に腹立たしいものであるらしい。

 

まあそれはそう。僕は相手の立場に立って物事を考えられる視野の広い人間なので、彼らに対して特に腹は立たない。たしかに彼らの感情はごもっともであり、心の底から同情を捧げるのみである。才能溢れちゃってゴメン。

 

なにはともあれ僕の新生活はごく平和なスタートを切り、穏やかな日常は満足できるものであった。

 

 

「お、速坂じゃねぇか」

 

「あれ、轟じゃん。久しぶりだね」

 

更には意外な……まあよく考えれば意外でもないが、意外な再会もあった。

 

「お知り合いですか?」

 

廊下ですれ違って再会した轟の隣りにいたポニーテールのお嬢様然とした女の問いに、小学校の同級生だと伝えると驚きに目を見張られる。

 

「お前は……普通科か?」

 

「うん。轟はヒーロー科だよね。まあ昔から頑張ってたもんな」

 

「ああ、まあな」

 

 

轟の過去を知る男である僕はその複雑そうな表情を軽く肩をたたくことで受け流す。まあまあ、お前も大変だね、頑張れ。そして父を告発したくなったらいつでも言ってくれ、面白そうだから協力する。じゃ、またな。

 

と、去ろうとしたところで後ろからさらに知った声がした。

 

「あれ!速坂くん!」

 

「緑谷じゃん」

 

振り返ると緑のモジャモジャ頭が笑顔を浮かべてこちらに向かってくる姿が目に入る。彼の横にはのほほんとした顔のショートヘアの女とメガネを掛けたいかにも真面目そうな男がいた。おや。緑谷が誰かと一緒にいるぞ。

友達と仲よさげに歩く緑谷、なんて中学時代ついぞ見たことのなかった僕は驚いたが顔には出さずに挨拶をする。

 

「デクくん、友達?」

 

「え、デク?」

 

しかしその女はにこやかに緑谷を蔑称で呼び、僕は思わず繰り返した。ん?やっぱ陰でいじめられてる?

 

「あ!いやいや、えっとデクっていうのはあだ名で…」

 

「あだ名?」

 

弁解するように慌てて手を振る緑谷に胡乱な視線を送る僕。そんな僕にノホホン顔の女はにこやかに元気よくのたまった。

 

「うん!デクってなんか頑張れって感じがして私好きなんだ!」

 

どこがだよ。だが緑谷はハイ僕はデクですと良いお返事をした。その顔はほんのり赤く染まっている。あー。うーん、うん。

長年蔑称として爆豪が使っていたのをずっと見てきた僕からすると違和感極まりないあだ名であるが、まあ、本人がいいなら好きにすればいいとは思う。なんとあの緑谷に春が訪れるときが来るとは驚きだったがなんか色々頑張れ。

 

「ん…?君は、どこかで会ったことがあるかい?」

 

「いや、ないと思うけど」

 

と、そこでメガネの真面目そうな男が話しかけてきた。ずいぶんと体格が良い彼はいかにもヒーロー科にいそうなかんじである。しかしコイツと会ったことは一度もないと思うがなんだ?

 

「うーむ。どこかで見たことがあるような気がするんだが……」

 

「お前が見たのはこいつの姉さんだと思う。プロヒーロー心理距離(メジャーハート)

 

考え込むメガネ男に轟が淡々と声をかけた。え、姉?だから何回もいうけど僕らは顔そんな似てないから違うと思うけど。

 

「!?ああ!そうだ!心理距離(メジャーハート)!彼女に似ているんだ君!」

 

「いや似てないですよく見てください」

 

「うーん、たしかに瓜二つというわけではないんだが、顔立ちや雰囲気がとても良く似ていると思う」

 

しかし最悪なことにメガネ男は轟のセリフに大いに納得して頷いていた。なんなんだ、どいつもこいつも適当抜かしやがって。

不服そうにしている僕に轟が微かに笑った。

 

「ていうか君、あの心理距離(メジャーハート)の弟さんなん!?」

 

「うん。姉だよ」

 

「へぇええ!すごい!いいなぁ!私ファンなんだー!」

 

無邪気にそういうノホホン女に笑顔で礼を言いながら僕はそっと心の距離をおいた。姉のシンパか……。

 

「俺も兄がプロヒーローなんだ!インゲニウムというのだが、もしかしたら君の姉君と知り合いかもしれないね!なにか聞いていたりしないかい!?」

 

「いやーごめんね、姉は最近忙しいみたいであんま話せて無くてね」

 

「む、そうか。たしかに人気若手ヒーローは多忙だものな」

 

律儀にふむふむと頷くメガネくん。そんな彼を見ながら僕は姉がヒーローとしてしっかりと世間で足場を固めていることを改めて実感した。

 

「あれ?ていうか轟くん、速坂くんの知り合いなの?」

 

「ああ。同じ小学校だったんだ。お前こそ知り合いなのか?」

 

「う、うん!僕は中学の同級生!」

 

「ということは爆豪くんの友達でもあるのか。後で聞いてみるとしよう」

 

爆豪くんの友達。なんとも奇妙な響きに酢を飲んだような顔をする僕と、あとで爆豪に聞いてみるというメガネくんの発言を聞いた緑谷がこの世の終わりのような顔をした。

 

「ええ!?だだだだだめだよ!!ぜっっったい!かっちゃんの前で速坂くんの話を出しちゃ……」

 

「そうなのか?なんでだい?」

 

「ええっと……それはその……」

 

「ハヤサカくんとバクゴーくんって仲悪いの?」

 

困った顔で口ごもる緑谷をみて何かを察したように声を上げたノホホン顔に僕はふっと笑った。

 

「別にそんなこともないよ。どうぞ、いくらでも僕の名前を出してもらって」

 

「いやいやいやいや」

 

「まあ僕は何も困らないし」

 

「あーお前またなんかやったのか」

 

爆豪の話題を鼻で笑い飛ばす僕に大いに焦った顔の緑谷。そんな僕らを見ていた轟が呆れた顔で僕に言った。失礼なやつだ。先に僕の生活にズカズカ入り込んできたのは爆豪の方だったというのに。

 

「なんとなく想像はつく。爆豪の前ではこいつの話題は出さないほうがいいな」

 

シラッと肩を竦める僕に小さくため息を付いた轟が緑谷に言い、不思議そうな顔をしつつもメガネくんもそれを了承した。

 

 

「チッス!あれ皆こんなとこで集まってなにしてんの?」

 

「俺らも混ぜてくれよ!」

 

そこで新たに乱入者が。金髪のチャラめの男と赤髪の体育会系の男がひょこっと顔を出した。またヒーロー科か?

上鳴くん!切島くん!緑谷が声をかけた。どうやら金髪が上鳴で赤髪が切島というらしい。2人は僕を見ておやと首を傾げた。

 

「あれ、お前A組じゃないよな?」

 

「デクくんと轟くんのお友達でプロヒーロー心理距離(メジャーハート)の弟さんなんやって」

 

「ええ!?心理距離(メジャーハート)の弟!?」

 

ノホホン顔の紹介に上鳴が驚きの声をあげたあとテンション上げてはしゃいだ。どうやらこいつも姉のファンらしい。

 

「ところで自己紹介がまだだったね。俺はヒーロー科1年A組の飯田天哉だ。よろしく頼む」

 

「あ!はーい私も!同じくヒーロー科1年A組の麗日お茶子です!よろしく!」

 

飯田のセリフを皮切りに、その場にいた人たちが次々と自己紹介をしてきた。ちなみに最初に轟の横にいたポニーテールの女はいつの間にかその場から離脱していていなくなっている。

 

「どうも。普通科の速坂統也です。よろしく」

 

「え!普通科!?B組かと思ってたぜ!」

 

「バッカお前……!」

 

僕の自己紹介に驚いた切島を慌てた顔の上鳴が小突いた。どうやらここまでの流れから完全に僕をヒーロー科だと勘違いしていたらしい。まあ無理もない。しかし普通科ヒーロー科の問題は割と根深いため上鳴が慌てたような顔をする。トラブルの元だからねこういう話題は。これからは金ボタンの数をよく見たほうがいいだろう。ヒーロー科以外は制服に金ボタンが二つついているのである。

 

「はは、そうだよ。僕は姉と違ってヒーロー志望じゃないからね」

 

「おう、そうなのか!まあ人それぞれだよな!!」

 

ニカッと切島がいい笑顔を見せた。随分と好青年である。そんなこんなで交流しているうちに昼休み明けのチャイムが鳴り、その場はお開きとなった。

 

 

***

 

それから数週間ほどして、騒がしかったオールマイトとマスコミ関連の騒動も落ち着きを見せた。まあマスコミがセキュリティを破ってなだれ込むという騒ぎが起きたが、飯田が生徒を落ち着かせ特に怪我人などは出なかったし、僕はといえばその日ちょうど優雅に二度寝を決め込んでいたため、余裕で昼頃登校したので騒ぎには直接巻き込まれなかった。というかまさに危機一髪だった。僕が学校付近を歩いているときにちょうど校門が破壊されたらしく、一歩間違えたらマスコミどもの雪崩に巻き込まれていたかもしれない。

 

と、このように騒動を神回避した僕だったが運をそこで使ってしまったのか直後、不審者に出くわした。堂々と遅刻して登校した僕が粉々に塵のようになった校門を見て唖然としているその横を、ゆっくりとした歩みで通った男がピタリと足を止めたかと思いきやじっとこちらを見つめてきたのだ。僕の制服を見て「雄英生……」と呟いたそいつはよく見るととてもキモかった。

 

目深に被ったフードの隙間からパサパサの青白い髪をのぞかせた病的な痩身のそいつは異様な眼光を宿した目をしていて、額から頬にかけて干乾びたような皺が刻まれ唇の回りはカサカサに乾いており、口元には裂けた様な傷跡がある。よく見ると存外顔立ちは整っていなくもなかったがそこが逆にアンバランスさを生み出していた。更にはパーカーの首元から覗く謎の手のようなものが得体の知れない不気味さを醸し出している。同時に、ボリボリと首をかくその姿はすこぶる不潔そうであり、なんとなく口も臭そうだったので僕は何歩か下がって距離を取った。

 

「なにか?」

 

「おまえ、ヒーロー科か?」

 

「あーマスコミの方ですか?」

 

「マスコミ?…ハッ」

 

こんな得体の知れないやつに個人情報を渡す気はさらさらなかったので質問に質問で返すと鼻で笑われる。なんだこいつ。無視して立ち去ろうかとも思ったがなんとなく背を向け隙を見せるのが躊躇われたので注意深く距離を保ちながら相対した。

 

「申し訳ないんですけど学校からオールマイトに関することには誰にも答えるなと言われているので……」

 

「オールマイト……!!」

 

適当に無難なことを言ってお茶を濁そうと思ったのだが男はオールマイトの名を聞いた瞬間、異様な狂気に満ちたような表情を見せた。首を傾げる僕にそいつは目を細めて猫撫で声で語りかけてくる。

 

「オールマイトは元気か?」

 

「は?……元気なんじゃないですか?」

 

今日も朝出勤途中でヴィラン逮捕に一役かったというニュースが流れていたし、まあ元気なんじゃない?知らんけど。マジでなんなんだこいつ。

 

「ふぅん……、いい気なもんだ」

 

「…………」

 

 

上を見ながらブツブツ呟いたそいつはふと視線を戻すと、いぶかしげな顔をしている僕に気づいてニタァと笑って上から下まで目を動かす。そして鼻で笑うと、まあせいぜい今を楽しんどけよ、と典型的な三下のような捨て台詞を吐いて去っていった。言われなくてもお前よりは楽しい人生を歩めそうだと思ったが、まあいい。励ましどうもありがとう。

 

そう思って僕もそのまま登校したが、後日usj襲撃事件後その男が緑谷と轟から聞いた襲撃犯の主犯格の特徴とニュースに出ていた似顔絵と一致することに気がついて驚いた。これは善良な一般市民として警察やヒーローに通報するべきだろうか、と悩んだ僕は、最近の緑谷の個性の発現状況などの報告と合わせて国防軍に伝えることにし、彼らから特になにもしなくていいとお達しがあったのでそれに従うことにしたのである。

 

 

そんなこんなで僕の雄英高校での4月は終わりを告げ、目前には雄英の一大イベントである体育祭が迫っていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。