僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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第26話

 

「ああ、お前か。初めましてだよな。俺はC組の心操。よろしく」

 

「…………」

 

 

僕は礼儀正しい人間なので、目の前に差し出された手は握って握手した。しかし一言も挨拶は返さない。僕がコイツの個性を知らないとでも?

 

黙ったままニコニコ笑う僕に、心操は苦笑した。

 

「あー、俺のこと知ってるんだ。別に洗脳しようとか思ってないから全然話してもらって構わないんだけど」

 

僕は無言で拒否を示し、首を傾げて続きを促した。体育祭直前に不用意な真似をするつもりはない。そんな僕に心操は肩をすくめて、まあいいけど、と言った。

 

「特に用というほどのことでもないんだけど、有名人に挨拶しとこうと思って」

 

「……?」

 

「お前、人気若手ヒーロー心理距離(メジャーハート)の弟で、雄英のヒーロー科に正規合格したにも関わらず蹴ってわざわざ普通科に入ったんだろ?なにか裏があると思われて当然だと思わねぇか?」

 

探るような目で見られて僕は苦笑した。あー、あれね。心操が知りたいのはあのくだらない噂の真実か。バカにしたような顔をした僕に心操が目を細める。

 

「速坂統也は姉のように体育祭で普通科からヒーロー科への派手な転入を狙ってるって噂……、どうやら知ってるみてぇだが、本当なのか?」

 

体育祭が近くなるにつれて、僕が大人しくヒーロー科に入らなかったのは姉と同じ道を歩んで注目を集めたいから、などというアホみたいな噂が出回りはじめたのである。冷静に考えなくてもそんなことあるわけないだろうと思うが、この噂はまことしやかに囁かれているようだ。いやぁ集団心理ってこわいね。

 

「まあその顔を見る限り信憑性は薄そうだが……。一応言っておこうと思って、来た」

 

ほう。なにを?

 

「あの噂が本当なら、お前は鼻持ちならない態度のヒーロー科の連中より嫌なやつだ。俺らみたいな普通科のやつらとか、そんな周りの人間全てを嘲笑うような真似するつもりなら俺らは許さねぇよ」

 

「…………」

 

 

先程から僕を睨んでいた奴らが頷いてこちらを見ている。

僕はそれに薄く微笑んでかえしながら、心でため息を付いた。まったく厄介な個性だ。

僕の周りにいる奴らはそいつらの気迫に呑まれて黙り込んだままだし、僕も洗脳されたくはないので迂闊に発言はできない。うーん、不愉快だな。

 

「それだけだ。じゃ、開始前に邪魔したな」

 

 

自分の言いたいことだけ言って心操はそのまま控室を去っていった。なんだあいつ、うざ。

 

「心操の言うとおりだ。あんま調子のってたら痛い目見るぞ」

 

「は? お前が僕を痛い目に遭わせるってこと? 大きく出たねぇ、やれるもんならやってみろよ」

 

 

僕がずっと黙り込んでいたことに味をしめたのかなんなのか、クラスメイトの1人が喧嘩を売ってきたので言い値で買うことにする。決めた。コイツも心操も潰そう。体育祭で活躍するまでもなく蹴落としてやる。

 

**

 

「せんせー。俺が1位になる」

 

諸々の要素が足を引っ張って補欠だったとはいえ実技試験で1位だったためか、選手代表となった爆豪の生徒宣誓は、そんな全方面に喧嘩を売る発言でスタートした。

 

壇上から周囲を睥睨したその赤い瞳がふと、普通科の列に並んでつまらなさそうにしていた僕とバチッとあう。

 

無表情だった爆豪の目元がピクリと動く。

 

「テメェもだぞ。ヒーロー科だろうが普通科だろうが関係ねぇ。せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

僕を静かに睨みながら、爆豪は親指で喉をかききる仕草をした。周りからはブーイングが起こっていたが、爆豪の視線の先を追って僕にも注目が集まる。あらゆる思惑を含んだ視線を感じて僕はふっと笑みをこぼした。

 

言うじゃないか、爆豪のくせに。

 

あの件から雄英に入学して今まで、爆豪にどんな心境の変化があったのか。これまで折れたことのなかった鼻っ柱、思い通りにいかないことなんか無かったであろう全能感。僕の件だけじゃない、緑谷や轟、他のクラスメイトとの関わりを通してなにか思うところでもあったのだろうか。

 

これまでの爆豪なら笑っていうだろう先程の台詞は、しかし、真剣な険しい表情で吐き出された。自分を追い込んでるのかな。へーえ。ウケる。

 

 

「我が校は自由さが売り文句!コースさえ守れば何をしたって構わないわ!さあさあ、位置につきまくりなさい!」

 

ミッドナイトの声と共に僕たちはゾロゾロと位置についた。先頭らへんはヒーロー科の連中が陣取っている。僕はそこそこの真ん中あたりについた。周りには普通科の奴らが多い。

 

よし。

 

「スタァァァァト!!」

 

まずは普通科の連中を蹴落とそう。ヒーロー科はその後だ。

 

ピコン、と信号の色が変わり、ゲートが開く。

 

「死に晒せオルァ!!!」

 

と、同時に僕は個性を発動し、地を勢いよく踏みしめて上空に跳ぶ。一拍後、怒号と共に一秒前まで僕がいた位置に周囲からの攻撃が炸裂して爆ぜた。

 

主犯は4人だ。クラスメイトで僕のことを蹴落としたいと本気で思っている、アンチ過激派。

その中には当然、控室で僕に痛い目見るぞとかほざいた奴もいた。

 

自分の手を少し柔らかくして鞭のようにしならせることができる個性のソイツの攻撃を余裕でかわし、地面に降り立ちざまに腹に一発かまして吹き飛ばす。痛い目見るのはお前の方だよ、ばーーか。

 

個性によって強化された僕のスピードについてこられるはずもなく、4人は僕に各個撃破されてあっという間に倒れ伏した。

 

その中のひとりが自分の髪の毛をちょっと強靭にして伸ばせる個性、みたいなものだったので、そいつの伸びた髪を3人の足を絡めてテキトーな拘束をした上で団子状になった4人を力を込めて蹴り飛ばし、その速度を操って後ろにそこそこのスピードで吹き飛ばして後続の妨害を行う。ドミノ倒しに巻き込まれた後ろの方からは悲鳴が上がり、場が混沌にざわついた。

 

この一連の動作を流れるように短時間で済ませた僕は、そのまま突然前の方から襲ってきた地を這う氷結攻撃を躱してゲートをくぐる。

 

「えーお前なにしてんの、ウケるんだけど」

 

「は……うわぁああっ……!!」

 

 

その途中で、騎馬の上に乗って謎に一人で騎馬戦を開催していた心操を見かけたので、すれ違いざまに振り返って、前からトン、と肩を押した。

 

後ろにのけぞった心操はその勢いを僕に操られて間抜けな悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、ゲートを逆走してスタート地点に戻っていく。あばよ、また1からせいぜい頑張ってくれ。

 

 

『1ーA轟!攻略と妨害を一度に!……って、ん?ゲート前でなんか起こったぞ!!』

 

プレゼントマイクの実況が響き渡るのを聞きながら、僕は氷結した道で苦しむ奴らを尻目にゲートをくぐり抜ける。

 

この氷と今の実況を聞くに、先頭をいち抜けしたのは轟のようだ。僕がゲート付近で僕の後続や心操を妨害している間にヒーロー科の連中はもちろんとして、他の科でも僕より前にいた奴らはもうそれなりに先に進んでいるようである。

まあ問題ないけどね。この競技、僕の個性と死ぬほど相性いいし。

 

『ヒーロー科の奴らが先で争う中、ゲート前では普通科同士の争いかぁ!?くぅー!見逃したぜ!おいお前見てたか、イレイザーヘッド!』

 

『いや、だがアイツは知ってる、たしか1−Dの速坂統也……』

 

『1−D速坂統也ァ!残念なことに詳細はチーッと見逃したが、ゲート前でなんやかや後続を華麗に妨害!普通科も負けちゃいねぇ!と言いたいところだが、普通科同士の足の引っ張り合いにゃ早くねぇか!?』

 

うるさいな、足なんて早く引っ張ったもん勝ちなんだよ。

僕は更にダメ押しとして適当な箇所で轟の氷を砕いて幾人かを解放し、心操や僕のアンチ共のライバルを増やしてあげながら心のなかで毒づく。さっき妨害したとはいえどうせしばらくしたらまた来るだろうし、まあせいぜい頑張るといい。

 

じゃ、先に行くとしようか。

 

眼の前に現れた、入試以来の再会となるロボをみてほくそ笑みながら僕は再び走り出した。

 

 

ここで改めて僕の個性、速度支配(スピードラプス)について説明しておこう。何度も言っているように、僕は知覚したものの速度を操る事ができる。

 

止まっているものを動かすことはできないし、速度をゼロにすることもできない。だが、既に動いているものなら何でも自由に速さを変えられる。

 

幼少期は一度に2つのものしか速度を操れなかったが、成長した今は同時に操れる上限は増えた。更には自分の体に関しては特に制限なく自由に速度を操ることができるという強個性である。

 

これだけ言うと、こんな競技一瞬で片がつくのではと思うかもしれないが、そうは問屋が卸さない。なぜなら、いくら早く動けるとは言え、僕の体は生身なのである。もちろん他の人よりは耐性はあるが、例えば早く走れば走るほど心拍数はそれに比例して上がるし、体が耐えられないほどの速度を出すことはできない。

 

例えばこのロボに超スピードで拳を打ち込んだ場合、僕の拳のほうがぐちゃぐちゃになるだろう。

 

と、まあ制約もある個性ではあるが、使い勝手は非常にいい。馬鹿みたいに殴り合うだけが戦い方ではないし、要するに一度僕にとって都合のいい方向に速度をつけることさえできれば好き勝手に操れるのだから。

 

「よっ、と」

 

「うぉぉ、はぇえ!!」

 

突然加速した僕に横を走る男が驚きの声を上げた。

 

自分の体に関しても、別に死ぬほど常識外れのスピードさえ出さなければ十分飯田レベルには出すことができる。まあここらへんは僕の体力や持久力、動体視力など諸々他の要素とも応相談にもなるわけだけど。

 

僕は地を蹴った勢いを操って高く跳び上がるとそのままロボの腕に着地して駆け上がる。そしてロボの頭を蹴って更に勢いをつけ、先にある別のロボに飛び移った。その際、僕に蹴られたロボは速度を操られ猛スピードで地面にぶっ倒れる。もくもくと上がる土煙に後続の悲鳴が上がった。

 

こんな具合に2体ほどロボの撃退と妨害工作をしつつ、あとはロボを倒すより避けることを優先しながら先を目指すと、聞き慣れた爆発音を耳が捉える。よし、先頭集団に追いついたな。前の方に爆豪の爆発の光が見えた。

 

『ウォイオイオイオイ!1−D速坂の猛追がとまらねぇ!最初こそ出遅れたが攻略と妨害をこなしながら一気に何十人もごぼう抜きだぜ!何だあいつ!ほんとに普通科かぁ!?』

 

『個性もさることながら状況判断力、反射神経もずば抜けてるな。あのスピードで動き回りながら軽々とこなすのは並大抵じゃできない』

 

実況が僕に着目して解説を始めるのを聞きながらふと姉はどこにいるのか疑問に思う。解説に呼ばれたとか言ってなかったか?何らかの手違いで遅れているのか、直前でクビになったのか。まあ今はそんな事を気にしている場合じゃないしいいか。

 

軽く頭を振って雑念を追い払い、走りながら少し周りの状況を見回したところ、僕は気合のこもった雄叫びをあげる緑谷を発見した。ロボの装甲とおぼしきものを使って敵を倒している彼もまた、真剣な顔で戦っているが、まだ個性を扱いきれないからか、この場においても個性に頼らないつもりらしい。頭を使って頑張って立ち回っている。

 

「…………」

 

やっぱり何でオールマイトがコイツを選んだのかさっぱり分からん。他にいいやつはいたはずだ。というか本当にコイツは普段の実技の授業、どうしてるんだろう……。

 

首をひねりつつ再びロボの上を駆け上がり、飛び移りながら先に進む。

 

『一足先行く連中、A組が多いな、やっぱり!』

 

『立ち止まる時間が短い。各々が経験を糧とし、迷いを打ち消している』

 

 

ドォン!!

 

と、そこで、実況の声をかき消して後方から爆発音が聞こえ、僕は咄嗟に本能のまま自分が今降り立ったロボットの上から別のところに飛び移る。直後、爆風がおそって体勢を崩した僕は一旦地に降りた。なんだ!?

 

後ろを振り返ると、ヒーロー科のポニーテールの女がどこから作り出したものやら大砲で先程まで僕がいたロボットの頭を撃ち抜いたところだった。殺す気かお前ふざけんな。

 

まあおそらく狙いを定めて撃つ直前に僕がロボットに降り立ったため、人に気づかずに発射したのであろうが。

 

『オイオイ、第一関門チョロいってよ!んじゃ第二はどうさ!?』

 

そのまま僕は、ポニーテール女が切り開いた道を行こうとする連中を加速してごぼう抜きすると、何故か崖の前で固まって立ち止まっていたヒーロー科の連中に追いついた。

 

『ザ・フォーーール!!』

 

一旦足を止めて次の競技の概要を把握すると同時にプレゼントマイクのテンションの高い叫びが会場中に響き渡る。

 

先の方に目を凝らすと、轟が氷の個性でうまく勢いをつけて華麗に綱渡りをしている姿が、そして空中では爆豪が爆破で飛んでいくのが見える。ふぅん。

 

僕は後ろに下がってから軽く助走をつけ、崖から次の崖をめがけて勢いよく跳んだ。

 

まあすぐ追いついてやるから待っているといい。

 

 

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