僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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第3話

季節外れの転校生、轟焦凍は転校初日から学校中の話題をかっさらった。イケメンなこと。強個性なこと。有名な私立小学校から微妙な時期に公立に転校してきた謎。そして何故かいつも怪我をしていること。ミステリアスな彼の感じと合わせて、他人の興味を引くには十分だったようだ。

 

更に、転校してきて1週間が経ったころには、彼がNo.2ヒーロー、エンデヴァーの息子であることは周知の事実と化していた。

 

この地域はエンデヴァーのお膝元であるので、他の地域に比べるとだいぶエンデヴァーについて詳しいし、かつ、それなりに田舎なので噂も回りやすい。エンデヴァーの苗字が轟であることはみんな知ってるし、回ってくる噂などから総合して轟焦凍がヒーローの息子であることは容易に特定されたのである。

 

その上、1ヶ月が経つ頃には、転校してきた理由などの噂もわんさか回ってきた。

 

曰く、轟家はなんとなく家族の雰囲気がおかしかった。奥さんがいつもビクビクしている感じだった。末の息子はなぜかいつもどこかしらを怪我していてボロボロ。

 

やっぱり、いつかそうなるんじゃないかと思ったのよねぇ。なんかおかしかったもの!ある日いきなりしばらく学校休んだかと思ったら顔に火傷が!奥さんが病院に入院したって………etc。

 

 

今紹介したこれらは他にもわんさかある中から僕が厳選した、まだ真実に近いであろう噂だ。

 

ちなみに前の小学校では顔に火傷を負ってから爆発的に蔓延した噂に耐えきれずに転校してきたらしい。

 

転校先のこの学校でももう既に噂は飛び交ってるからあんまり意味なさそうだけどね。うん。まあ、前の学校よりはマシなのかな。

 

へーえ、ふーん。ほぉーん。波乱万丈だなあ。僕は好奇心が刺激されるのを感じた。色んな噂が飛び交う中で、なにが本当で何が嘘なのか。ちょっと興味がある。

 

ちなみに、なかには轟に直接火傷について訊ねた猛者もいたが、冷たい目で睨まれ撃退されたそうだ。馬鹿だ。ただの馬鹿だ。もっと頭を使え。うーん、そうだな、探りを入れるんだったら聞くのは一つだけでいい。

 

 

当の轟はといえば、騒ぐ周囲になんの関心もない顔で淡々と学校生活を送っており、集まってくる人をつれない態度であしらいつづけた結果一匹狼で過ごしていたので、1人のときを狙って話すのは容易かった。

 

僕はちょうど人気のない図書室近くの廊下ですれ違った轟を呼び止めて、単刀直入に聞く。

 

 

「轟ってさ、なんか武術とか習ってんの?」

 

「習ってねえけど。いきなりなんだ?」

 

 

話しかけるなオーラをまとった紅白頭は僕を訝しげな目で見た。そんな視線をまるっとスルーして僕は笑顔で彼の体を指さす。

 

「近所に護身術を習ってるお兄さんがいてね、その人もキツい訓練とかした後そんな感じのアザとかできてたから、もしかしたら轟もそうなのかなって」

 

「ああ……そういうことか。まあ似たようなもんだ。……俺は武術っていうか、親父に訓練されてるだけだけど」

 

僕の言葉を聞いて轟は心なしかホッとした表情を見せた。おおかた、他にもそういう人が普通にいるということに安心したのだろう。うん、まあ、真っ赤な嘘だけど。僕の近所には常に痣だらけなお兄さんなんて存在しない。

 

 

「へえ、そうなんだ。やっぱりね、そうじゃないかと思ったんだよ。……でも、なんか痛そうだけど手当とかしなくていいの?お兄さんはいつも湿布とか貼ってたけど」

 

「姉さんがやってくれてるから大丈夫だ」

 

「そっか。なら安心だな。みんなも心配してたから大丈夫だって伝えとくね」

 

「ああ……ありがとう」

 

 

ニコニコ笑顔で僕は轟と別れると、自分の教室に戻って取り巻きに、轟はいつも武術の訓練してるから痣だらけなんだって。お姉さんに手当してもらってるから痛くはないそうだよ。ヒーローになるにはそのくらいやる必要があるんだねーすごいねー。と上手く言い包めてその噂を学校中にばらまいた。

 

すると酷かった轟焦凍関連の噂は徐々に沈静化されてきて、その結果、学校内の治安というかそういうのをおさめた僕の評価が上がった。難しい転校生の立場が落ち着いたことにホッとした先生方からも感謝され、いいことずくめだ。優等生の仮面の裏でちょっと悪いことしたって誰にも咎められない。ははっ。信用があるっていいね。

え?ちょっと悪いことって何かって?あはは、別に大したことじゃないよ。気にしないで。

 

 

 

まあそんなことはどうでもいいとして、収穫はあった。

 

轟焦凍がいつもボロボロなのは、父親に訓練を受けているからである。

 

本人の口から聞いたからこれはきっと事実なのだろう。

 

うん、でもそれにしたって明らかにあのあざの数とかボロボロ具合とか、ちょっとおかしいよな。まあ、恐らく超絶鬼スパルタレッスンを受けているのだろうが、ここまでくると虐待なのではないかと僕は思う。まあどうでもいいけど。ヒーローにも色々あるんだろう。ただの野次馬根性で探りをいれただけなので、これ以上どうこうする気は僕にはない。ていうか仮にどうにかしたくたって、どうにもならないし。どうにかしたくもないし。

 

聞こえてくる噂から察するに、轟が火傷を負ったのと同時期に奥さんが姿を見せなくなったそうなので、おそらく火傷の犯人は母……?そして轟くんは常に虐待に近い訓練を父から受けている。

 

この2つの結論に僕は達した。おそらく真実からそう遠くはないだろう。うん、好奇心もみたせたし、満足と言ったところか。複雑な家庭っぽいし関わると面倒くさそうだから今まで通り適度な距離感を保つとしよう。

 

僕は欠伸をしてベッドに寝転がった。

 

 

 

**

 

 

僕が小五ということは姉は中三ということだ。つまり受験生ということである。

 

姉はたいそう頭が悪いと昔言ったことがあるしその評価は変わっていないのだが、どうやらそれには、“ 僕から見ると ” という言葉を付け足さなくてはならないようだ。

 

実のところ姉の学力はかなり良いらしい、ということを最近知った僕はかなり衝撃を受けている。あの幼稚な姉が、雄英高校を第1志望としていることを知った当初は鼻で笑ってバカにしていたが、どうやら模試でA判定をもらったという事実を知ってビビった。まじかー。マジなのかー。

 

正直昔からお勉強の面でも(姉が僕の歳の頃の成績表と比較すると分かる)駆け引きの面でも姉より出来が良かった僕からすると、驚き桃の木山椒の木である。

 

でもまあたしかによく考えてみれば、うちの父親はどっかの大学の教授で母親は薬剤師なので、教育に関しては熱心だったのかもしれない。

 

姉は昔から有名塾に通ってスパルタで勉強していたし、それなりに学力は高いのかな。ちなみに僕はそこらへんの名もない塾に放り込まれただけで、姉とは違って勉強も全く見て貰えなかったものの、それでも一応塾に通わせた時点で彼らの教育に対する意識が高いのであろうことが察せられる。

 

まあそれはおいておいて、最近、姉は随分と荒れている。

 

 

リビングから喚く声が聞こえてきた。

 

 

「私はヒーロー科がいいの!!第1志望学科はヒーロー科にする!!」

 

 

「でも綺羅ちゃん……、塾の先生もお父さんも言っていたけど、綺羅ちゃんの個性はヒーロー向きじゃないから難しいと思うわ……」

 

 

ついで、癇癪をおこす姉を必死に宥める母の声も聞こえてくる。

 

 

昔から、ヒーローに憧れてるから将来はヒーローになりたいの!と言っていた姉には受け入れられないのだろう。

 

ちなみにだが、姉がヒーローに憧れる理由は別に人助けがカッコイイとかそんな理由じゃない。

 

ヤツはただ、困ってる人を助けたいからヒーローになる!と言っておけば周りの好意が上がる、ヒーローになればチヤホヤされる、みんなから尊敬されるし高収入高ステータス、ヒーロー兼芸能人になって世間の憧れの存在になりたい!というようなただの欲まみれの煩悩から、ヒーローになりたいのであった。

 

さすが僕の姉。ヒーローとは程遠いねじ曲がった心の持ち主だ。まあ、世の中には家族を虐待する有名ヒーローもいるようなので、ヒーローになるためにはその心持ちは大して重要ではないだろう。能力があれば誰だってなれるのだ。そう、能力があれば……。

 

姉の個性は魅了である。ヒーローとして何の役にも立たない。あ、うーん、諜報とかならいけるのかも。でも雄英の実技試験に受かるのは難しいだろう。ふん、まあ、どうでもいい。むしろ落ちろ。あ、それか試験官に個性使って篭絡でもすれば?裏口で入れてくれるかもよ。

 

僕は姉の不幸は蜜の味であることを再確認した。

 

 

 

 

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