僕の灰色アカデミア   作:フエフキダイのソロ曲

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第4話

僕は姉のことは大嫌いだし最低な人間だと常々思っているが、実はそんな姉にも一つだけ評価できる点がある。

 

それは執念の強さだ。何年もチミチミ僕に嫌がらせをしている時点でそのしつこさはお察しであろうが、それ以外にも姉には自分の望みにはトコトン貪欲で絶対に諦めないという一面がある。

 

日々姉のお粗末さを嘲笑っている僕だけど、どんな汚い手を使ってでも目的を達成してやる、というその執念と強靭な精神力だけは認めてやってもいいだろう。

 

まあ何が言いたいかというと、結局あれから姉はその凄まじい執念を燃やして、ヒーローになるという自分の夢を絶対に諦めなかったのだ。

 

まず最初に姉がしたことは情報収集だ。姉は勉強の片手間に雄英高校ヒーロー科の入試情報(主に実技)を隅から隅まで調べあげようとしたが、残念なことにパソコンが得意では無かったため行き詰まった挙句、弟の僕を無理やり引き摺ってパソコンの前に座らせ調べさせた。

 

 

ちなみにここ3年ほどで僕と姉の関係はある程度変化していて、小二の時に初めて反撃をしてから、今までの姉が僕をいじめて僕が泣き寝入り、という関係では無くなっていた。

 

まあもちろん、表向きは全然変化していない。相変わらず姉は人心掌握に長けていて両親は姉の言いなりだし、僕へのチクチクした嫌がらせも止んでいない。

 

変わったのは姉の僕に対する認識だ。実はあれから僕と姉は密かに裏で大喧嘩を繰り広げ、一進一退の攻防をチクチクお互いに繰り返したのである。そして今では休戦状態のようなものになっている。誤解なきように言っておくが、仲が良くなったわけではない。ただ、お互い、お互いと争ってもあまりメリットがないことに気がついただけ。

 

今では顔を合わせれば嫌味を言うか無視するかのどっちかで、かつ、姉は効果がないと知りつつも昔からやってる地味な嫌がらせを続け、もうそれに慣れている僕は特別反応せずに適当にあしらっている。

 

 

すこし詳しく説明すると約2年前、僕はついに姉に裏から反撃を開始したのだ。

 

狙いは姉にとって1番大事な世間体というか周りからの人気というか周囲からの評価。僕はイロイロやりくりして様々な手を打ってそれらを失墜させる画策をし、姉を引きずり落としにかかった。

 

そしてある程度追い詰められたところで姉はやっと僕が裏で糸を引いていることに気がつき、その時点から僕に対しての反撃を開始。使える手はなんでも使って僕と戦った。

 

戦況は拮抗した。どちらかというと僕が優勢だったが、1年ほど戦ったあと、ふと僕は、自分は一体何をしているんだろうか、という素朴な疑問におそわれて、ひょっとしてものすごく時間を無駄にしているのではないかと考え始めた。

 

その疑問を姉にぶつけると、姉も苦々しい顔をしてそれに同意。そして暗黙の了解でお互いにホコを収めたのだ。まあ、戦況が有利だったのは僕だしもう少し粘れば潰せたんだけどね。姉がまだ息をしているのは僕の心が広かったからだ。

 

ちなみにこれに関しては、姉も同じことを主張している。戦況が有利だったのは姉だし僕がまだ生きてるのは姉の心が天使のように清らかだったからだと、ヤツは堂々とほざいていた。さすがだ。面の皮の厚さだけは誰も姉にかなわないだろう。……はっ、寝言は寝て言うがいい。

 

 

話が逸れたが、ともかく姉は僕のことを自分には敵わないが、まあ自分の弟と断言できるレベルの人材だと認識したらしく、どんな手を使っても最高のブランドをひっさげたヒーローになったるわと腹を括ってから、僕をもその目論見に巻き込んだ。

そう、ここで重要なのは、最高のブランドをひっさげた、の部分である。

というのも、姉は何がなんでも上(世間体的な意味で)を目指さないと気が済まないらしく、ヒーローになるなら雄英出身じゃないと箔がつかない!とわめいて敢えて最難関の雄英への険しい道を驀進しているのであった。なんのこだわりだよ。

 

 

ありとあらゆる手を使って、嫌がる僕に手を貸すことを求めて突撃してくる姉にうんざりして嫌気がさした僕はついに折れてある程度なら協力してやることにした。姉と僕が協力。うえ。吐き気がする。

 

 

そんなこんなで、ここ最近だいぶパソコンに詳しくなっていて、なんなら不正アクセスにまで手を染めはじめている腕前を持つ僕は、非常に不本意ながら姉の手足となって情報収集を始めた。

 

まあさすがにまだ僕程度の技量じゃ雄英高校への不正アクセスなんかはやった所で失敗するのは目に見えているので合法的な範囲でネットの奥へ奥へと検索していき、毎年変わる雄英高校ヒーロー科実技試験についての情報を手に入れようと奮闘する。

 

もうなんか途中からは何故か、姉に協力というより、雄英高校を出し抜いて情報を手に入れてやる今に見てろ、という気持ちになったので、自分でも意外なほど熱中して情報を集めた。

 

 

まずは、まあ、有名な対策サイトみたいなとこからの情報。基本的に実技はロボと戦闘するらしい。どんな形式で行われるのかについては毎年変わるのでわからないが、対策としては個性を云々……。

 

姉の個性はどう贔屓目に見ても戦闘向きじゃないので、個性対策みたいなのはパス。意味ない意味ない。

 

掘り下げていくうちに見つかったのは、雄英高校の入試の実技試験は今まで対人戦闘(ヴィランに扮した教師と戦う)という形式で行っていたが、批判がかなり集まったので対ロボットに変えたという、かなり古い記事。ふーん。そうか。

 

更に深く潜った僕は実技で使われる会場、模擬市街地場に整備に入ったという会社名を特定しそこに派遣されたスタッフも特定、最後にその中の一人の個人用パソコンをも特定したあと、そこで指を止めて迷った。

 

ちょっと古い型のパソコンだしざっと見た感じだとセキュリティも甘そうだ。これならいけるか……?うーんでもなぁ。ちょっと自信ないかもしれん。

 

 

「どうしたのよ?固まっちゃって。なんかいい情報でも見つけた?」

 

 

動きをとめた僕に気がついて、隣で勉強兼僕が逃げ出さないように監視をしていた姉が声をかけてくる。それに僕は素直に答えた。曰く、ハッキングするかしないか迷っている、と。

 

 

すると姉の答えはこうだった。

 

「そういえば近くの河原にパソコンが捨ててあったわね。あれ拾ってきて最低限だけ直して、それでハッキングしなさいよ。で、終わったらすぐに粉々にして川に捨てるのよ。くれぐれも足がつかないように注意しなさい」

 

「うわ、それでもヒーロー志望のつもりなの?」

 

「うるさいわね!バレなきゃいいのよバレなきゃ!」

 

 

とてもヒーロー志望には見えない禍々しい表情でくけけと笑った姉はグズグズする僕に、指紋残すんじゃないわよ!と、手袋をつけさせケツをひっぱたいてパソコンの回収に向かわせた。

 

指紋残すも何も終わったらパソコンは粉々にする予定だし、あんまり意味はないんじゃないの、と思いつつも僕は重い腰を上げて河原へと向かった。

 

 

 

**

 

 

結論からいえば大成功で、幸い軽く修理するだけで直ったそのパソコンで行ったハッキングは完全犯罪に終わり、その持ち主が会社の同僚とやり取りした内容が手に入った。これが大当たりだったのだ。

 

それによるとどうやら今回彼らは試験会場を改造し、市街地と更地を半分ずつ作らされたらしい。要するに右半分が市街地で左半分が更地というような会場づくりをしたという訳だ。

 

当初僕は彼からはどういう会場メイクをしたかという情報を手に入れたかっただけなのだが、彼は僕の予想以上に有能だった。

 

彼はメールで、雄英教師と話したけどなんか今回は更地側から襲い来るロボから市街地を他の人と協力して守るっていう趣旨の試験らしいぜ、と、本来なら部外秘であるはずの情報をあっさり同僚に送っていて、なんと期せずして詳しい試験内容まで手に入ってしまったのである。

 

さすがにそれ以上の情報は入手できなかったが姉と僕の喜びは大きかった。採点基準予想や、姉がどうそれを切り抜けるかを考えた結果、姉の人たらしな性質……場の空気を掌握して人の上に立つのが得意な才能を利用してその場のリーダーシップを奪い、周りの人を指揮してロボを倒すという計画が出来上がった。

 

ロボットを倒すことでももちろん点は入るのだろうが、市街地を守ることに関しての全体への貢献度的な点もきっと入るはず。周りをうまく利用してそこらへんの点を稼ぐのだ。あと救助ポイント的なのもありそうだから危なそうな人に手を貸すとか、そういうのでちまちま点を稼ぐといいだろう。

 

まあ……もし失敗したり、そんな採点基準がなかったりしたらアウトだけど。その時はその時だ。正直この作戦はけっこう穴だらけだとは思うけど、ないよりはマシといったところかな。あとは姉次第だな。

 

というか姉は別に運動神経悪くないんだし、上手くやればロボットの一体や二体倒せるんじゃないの?幸い試験会場へ道具の持ち込みは自由ってあるし、なんか、こう、金属バット的なものをもちこんでぶん殴ればいーんじゃねーの。おれしーらね。

 

さて、僕の役目はこれで終わりだな、あばよ姉さん。後は野となれ山となれ。多分人生初、キセキの姉弟共同戦線はこれにて終了だ。そして2回目はないだろう。

 

そんな清々しい気持ちでガタリと席を立ってその場から立ち去りかけた僕は、次の瞬間首根っこを掴んで引きずり戻された。小学生の僕と中学生の姉ではまだ姉の方が力が強い。僕は戻されたリビングのソファーの上で姉と睨み合った。

 

 

「もう僕の役目は終わっただろ?あとは自分でやれば」

 

「はんっ、あの程度で終わるわけないでしょ。毒食らわば皿までってことわざ知らないの?アンタにはまだまだ付き合ってもらうわよ」

 

 

最近、私、自分の個性について気づいたことがあるのよね。アンタにはその検証に付き合ってもらうわ。姉が目を爛々と光らせてそう言った。

 

僕は鼻で笑ってヒラヒラ手を振った。

 

 

「いやいや、どうあがいても姉さんのは戦闘向きな個性じゃないから。もういい加減ヒーローとか諦めてアイドルにでもなれば?」

 

 

「うっさい、そう簡単に諦めてたまるもんですか!私は地位と富と名誉を確実に手に入れるんだからね。将来、アンタも不出来ながら一応私の弟ってだけでそのおこぼれに預かれるかもしれないわよ。ほら、いいからちゃんと話聞けこの愚弟」

 

ビシッと叩いてこようとする手の速度をいじって亀のごとく遅い速さに変化させる。暴力反対。姉はギロっと僕を睨んだ。僕はそんな姉をまたしても鼻で笑った。……ふん、まあいい。

 

ハイハイ、一応話だけは聞いてやるからとっとと話せこの愚姉。

 

 

 

 

 

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