吉兎の即興短編
制作時間2時間

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広い世界の小さな箱、誰もが持ってる小さな箱

「おはよう……」

「うんおはよう!」

「今日の予定は?」

「相変わらず仕事だよ。今から打ち合わせ、もう行かなくちゃ。」

「おう、頑張れよ。」

 

そう言って彼女は家を出ていった。さて、俺もさっさと支度して出ないとな。そんな事ことを思いながら、洗面台に向かった。

 

今日も調子がいい。何故だか分からないけど、兎に角調子が良かった。いつも締切ギリギリに原稿を貰う先生も今日は来た時にすぐ貰えたし、もう1人担当している先生とのディスカッションも順調だった。今日は少し早く帰れる。そんな日はあれに決まっていたのだ。彼女も気分がいいと良いのだけど……

 

 

「たっだいまー!」

「おう、おかえりなさい。元気に帰ってくるなんて珍しいな。」

「うん!そういう君だって早く帰ってきてるね。ということは…」

「「餃子!!」」

「だよな。」

「そうだよね!」

 

まぁ、こういうことになるのだ。俺は1から作った餃子を焼きながら答えた。彼女も気分がいいと餃子を必ず食べるのだ。

 

「焼き終えたから食べるぞ」

「それじゃ!」

「「いただきます!」」

 

俺らは好物の餃子を食べながら、今日の出来事や、他愛のない話をしながら、楽しく食べ終えた。

 

 

「おはよう…」

「ん、おはよう。どうした?機嫌悪るそうだが風邪か?」

「そうみたい。けど今日明日が休日でよかった。」

「そうか、辛いなら俺も休もうか?大丈夫か?」

「休んじゃダメ。ちゃんと仕事頑張ってきなさい!」

「わかったお前も無理するなよ。」

「うん、わかってる。気をつけてね。」

「おう、行ってくる。」

 

彼女は布団に潜ったあと、俺は支度を整えて仕事へむかった。勿論、今日の仕事は、余り手につかず、上司からも怒られた。平謝りしたが、上司からは、

 

「今日は早めに帰ってやれ。心配なんだろ?お前いつも仕事頑張ってるんだからさ。後は上司である俺に任せて、な?」

 

と言われた。申し訳なさが一杯に溢れ出た。

 

「けど、先輩はどうするですか、妻や息子さんも待ってるんじゃないんですか?」

「ナーニ気ぃ使ってんだよ。先輩の言うことは聞くべきだぞ!大体お前に気を使われんでも、家族サービスの一つや二つしてるっての。お前の仕事を受け持ったって苦じゃねーよ。こちとら大黒柱なんだ。ペーペーのお前と一緒にするなよ。」

「嫌でも……」

「はい、おしまい!それ以上言うと、仕事3倍に増やすぞ。イチャコラしたいんだったら、素直に言うことぐらい聞け。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 

そう言って定時1時間前に会社を出させてもらった。今度先輩の仕事を受け持って、休みをあげよう。

 

 

今日は珍しく彼女からくることはなかった。俺もラストスパートだ。残り1週間で俺の全てが決まる。その日から彼女の声は聞こえなかった。俺は寂しさを振り払い、ワクワクと心臓がはち切れんばかりのドキドキを抱えながら、仕事を続けた。

だったのだが、残り2日を切ったあたりに、ワクワクは全て吹き飛んでしまった。残ったのは、ブルーな気持ちと、死にそうになるぐらいの動悸だけだった。そんな日の昼休み先輩が話しかけてきた。

 

「よう、あと2日だってな。どうだ?引き継ぎとか色々進んでっか?そう色々とな?」

「ニヤニヤしながら言わないでくださいよ……結構きてるんですから…不安とか、責任とか色々…」

「まぁ、そうだよな…俺も初めはそんな感じだったよ。チーム内の編集者達をどうまとめるかとか、俺ら上の会議で、漫画家さんの人生まで決まっちまう。命や人生を背負いながら決めてるんだ。そんな気分にもなるだろう。」

「そうですね。俺の場合さらに…」

「そうだな。だから、人の気持ちに敏感になって、意見をちゃん話す。そしてちゃんと聞いてあげる。そういう力が必要なんだよ。」

 

先輩の言うことは凄くわかる。けど俺にその力はあるのだろうと、それがブルーな気分の正体の1部なのだから。この先できるのか……なんて考えてると先輩が口を開いた。

 

「お前さんには、とっくに出来てるさ。それもこれも努力の賜物だな。心配すんな!胸張れ!」

 

そう言って俺の肩を加減なしにドンドンと叩いてきた。

なんだか勇気が湧いてきた。

 

「ありがとう、ございます!これからもよろしくお願いします!」

 

自然とそんな言葉が出た。それを聞いて先輩は驚き、そして恥ずかしがりながら、返事をして仕事に戻って言った。俺もここからだ。

 

ここからまた、始まるんだ。

 

 

まだ体が冷えそうになる夜、俺は駅前のベンチに座っていた。行き交う人々はブルーシートを持っていたり、お酒や料理の入ってそうなビニール袋を運んだりしている人が多かった。

そんな人たちを見ながら待ちぼうけを食らっている俺の所に聞きなれた曲がその小さな箱から流れてきた。俺は数え切れないぐらいしている動作を、さも、当たり前かのごとく操作しその小さな箱を耳に当てた。

 

『元気?』

「あぁ、元気さ。それより話したいことがあるんだ。」

『うん、けどそれよりも、おめでとう!!』

「あ、う、うんありがとう。お前もおめでとう。」

『えへへ、ありがとう。そんな事より前見て!』

「うん?」

 

そんなことを言われたので俺は前を見た。駅から出てきたのは、5年ぶりに会う彼女自身だった。身長とか色々変わっていたが、その雰囲気と、何より、俺を呼ぶいつも聞きなれた声が彼女だとすぐに確信した。

 

俺は、いつの間にか走り出してそんな、笑顔が溢れている彼女を抱き締めた。彼女は驚いて硬直していたが、手にしっかり握りしめたその小さな箱には、俺の名前が載っていた。

 

「久しぶり」

俺の声はエコーのかかったような響き方をする。それに気づいた俺は、すぐさま、抱き留めていた彼女から離れて電話を切った。

 

「うん、変わらないね。体格とか色々変わってはいるけど、その声だけはずっと聞いていた通りだよ。」

「そうだな。よし、帰るか新しい我が家に。」

「え!?都会でも綺麗に咲いているのにお花見しなくていいの?」

「これからは2人でいつでも出来る。そんな事より」

「「餃子!!」」

「だよね。」

「おう!」

 

新しい我が家には、俺の作った餃子と給料3ヶ月分の何かが待っている。ちょっとイチャコラするには口臭も気になってくるかもしれない。けど……

これからは違う。声だけしかなかった生活が今度は2人で歩めるようになるんだ。ずっとずっと一緒に……

 

俺たちはスマートフォンをポケットにしまって、手をつなぎながら帰路についた。

 




知り合いの人がやっていたので、自分もやってみたく短編即興シリーズとして書いてみました。
他の作品頑張ってるんだからさとどこっていたりしててますが、今回はリハビリということで、「電話」を題材に書いてみました。
制作時間は2時間。即興なので誤字脱字や打ち間違いが多いかもしれませんが、暖かい目と誤字脱字への指摘と感想をお願いします。

それでは、またどこかで会いましょう。

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