「好きな貴方に、1つだけのお願いがあります。聴いてくれますか?」
これは2人が眠るまでの物語。
「好きな貴方に、1つだけのお願いがあります。聴いてくれますか?」
その日、私は彼に愛の告白をした。
次の日、私は彼に別れを告げられた。
その日、私は彼を大きな池に突き落とした。
次の日、私は彼女に愛の告白をした。
その日、私は彼女に脛を蹴られた。
その日、彼女は私のかわいいお嫁さんになりました。
「素敵でかわいい貴女に1つだけのお願いがあります。聴いてくれますか?」
今日も私は彼女に愛の告白をする。彼女は慣れない格好に、慣れない仕草で返事をする。
「素敵だけど残念な貴方、お、私をかわいいと言う貴方、地獄に墜ちて下さるのなら、御聴きしますわ。」
今日も今日とて、告げられたその告白を彼女は慣れたように笑顔で返す。
そして、私は思う。ああ、私はとても幸せ者だと。
「ああ、かわいい貴女に捧ぐこの思い、どうか貴女の心に届く事を、私は貴女の瞳に願おう。」
「ああ、残念な貴方、叶わない私の願いを届かない貴方の心に届く事を、私は貴方の小指に願うわ。」
ぎりぎりと私の合わせた指は音をたてる。
指を握る彼女を見て、私は思う。ああ、とても痛いと。
「…かわいくお茶目な貴女に捧ぐこの思い、儚くも届かないこの思いよ。何が足りないと言うのですか!」
「残念でそれでいて馬鹿な貴方、私の願いを聴いて下さるかしら?」
合わせた指から血の気が引いていく。
笑顔な彼女を見て、私は頭を縦に振る。
「……麗しい貴女よ、如何様な事でも私は貴女の為に叶えて魅せましょう。」
「では、分かりやすく不器用な貴方に願う事は1つよ。」
月の見えないそんな朝、私は彼女と池に浸かる。そこに私である物は無く、麗しい彼女と水面に映る彼女だけがいた。
「可愛くなった貴女、今なら貴女のお願いを聴いてあげても良いわよ。」
「……かわいい貴女よ、私の、私は、貴女に届かなくなってしまった。」
「あら、可愛くなった貴女は、私に何をしたかったのかしら?」
「……」
「変わらず馬鹿な貴女に言うけど、私は貴女の届かないそれを拒む気持ちは無いわよ。」
「!」
「だって、私が今あるのを受け入れたのも、お馬鹿な貴女の頼みですもの、受け入れる位は出来るわ。」
「あ、兄上。」
「今は、姉、ね。」
「あ、姉上ぇ〜!!」
「ちょ、ちょっと、貴女ねえぇ!」
「姉上、その姿、とっても綺麗です。」
「フフッ、貴女のその姿も綺麗よ。」
今日は一家と村を騒がせた結婚式。純白のヴェールに身を包んだ2人の結婚式。参列客は2人の姿に皆、苦笑いを送る。心は、諦めと疲労の文字。今夜の疲労宴は酒盛りだろう。そんな周りを幸せな2人は気にしないだろう。それを皆わかっている為、苦笑いを崩さないのだろう。
「2人共、おめでとう。2人の事をずっと見てきた俺が、2人の式でこれを言う事になるとは思っても見なかった。だから、言うがこの式が執り行える事は奇跡だろう。だが、2人の幸せを祝う気持ちは変わりはしない。そして、願いも同じだろう。2人共、末永くお幸せに。」
「はい、ありがとう。」
式に一番反対していた、村一番の美青年。彼からの言葉には祝う気持ちと羨望、そして、後悔の念が感じれらた。彼女等と青年は幼馴染だ。良く遊び、学び、叱られた。その中で、青年は彼女への思いを持った。だが、青年はその思いを持ち続けた。持ち続け、持ち続け、いつしか渡す事を諦めていた。そして、ある知らせを受けて、青年はそれを捨てた。今の青年は思いを渡さなかった自分への後悔、手に入れた彼女への羨望が笑顔の裏で渦巻いていた。
「それでは、皆様、本日は私達の式に出席頂き、ありがとうございました。只今の時間を以て、お開きとさせて頂きます。お気を付けてお帰り下さいませ。」
式も披露宴も終わり、出席者は疎らに会場を後にした。そして、片付けも終了した深い夜に新婚夫婦は帰宅した。
「姉上、お疲れ様です。」
「ええ、貴女もお疲れ様ね。それと、おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさいませ。」
帰宅後、夫婦となった2人は新居にて眠る。2人で購入したキングサイズは、2人を落とさずに2人を深く眠りに落とした。
これは、新婚夫婦が眠るまでの物語である。