【書籍化&コミカライズ】逆行の英雄 ~無才の少年は、幼馴染の女勇者を今度こそ守り抜く~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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超お久しぶりの番外編です。
番外編を書いたということは、お知らせがあるということ。
詳しくは活動報告をご覧ください。

そして、今回の番外編は魔族サイドです。
超久しぶりだから変だったらゴメン……!


番外 王の誕生日

「誕生日プレゼント?」

「えぇ。この世界にはそんな文化があるそうで」

 

 魔界の門が開いてから三年。

 少し前に二人の剣聖との戦いがあり、魔王がより慎重を喫して四天王の温存を改めて決めた頃。

 

 治療に専念しろと言われて休みを貰ってしまったフェザードは。

 その時間を使って、普段遠方で活動している部下に、より詳細な報告を聞いていた。

 

 今はその報告の中で気になる話が出てきたところだ。

 いや、休めよ。

 

「自分の生まれた日を誕生日と言って特別視し、暦で区切った時の巡りで同じ日が来た時、何か喜ばれるものを贈り合うんだとか。

 ひっひっひ。人間ってやつは意味不明なことをするもんですねぇ」

「ふむ……」

 

 ひと通り覚えていることを語り終えた老婆の魔族は「では、あたしはこれで」と言って去っていった。

 数年後、自分の子と呼べる存在を得た彼女が、この風習をバカにしたもんじゃないと思い始めるのはまた別の話。

 

「誕生日プレゼントか……」

 

 残されたフェザードは、妙に胸に残り続けるその言葉を、噛みしめるように呟いた。

 

 

◆◆◆

 

 

「ということで、魔王様に誕生日プレゼントをお贈りしようと思うんだが、何を贈れば喜んでいただけるだろうか?」

「…………何故そんなどうでもいい話を私にするのです?」

「お前も贈るんだよ。誕生日プレゼント」

「ッッッ!!!」

 

 そう告げた瞬間、相手は激怒の表情になった。

 

「人の!! 部屋に!! 勝手に入ってきて!! 命令まで!! なんと不敬な下等魔族だ!!」

 

 ツバを飛ばして叫ぶのは『水』の四天王ヴァンプニール。

 待機命令を受け、これ幸いと昼間から血とワインを浴びるように飲んでいた、自称高貴な吸血鬼。

 

「どうせ暇だろう? こんな暗い部屋に引きこもって昼間から酒盛りしてるくらいなんだから。ほら、せめてカーテンくらい開けろ」

「やめろぉ!! この太陽というやつは嫌いなのだ!!」

「引きこもりめ」

 

 なお、この時点のフェザードには吸血鬼の弱点の一つが太陽という認識が薄かった。

 魔界に陽光は差さないのと、ヴァンプニールが頑なに弱点を話さず隠し続けた弊害である。

 

「出ていけ!!」

「断る。どうせなら『さぷらいず』というのをしてみたいんだ。お前の部屋は良い感じに魔王様のお部屋から離れていて、会議室にちょうどいい」

「会議、室……?」

「来てやったぞ、フェザード!!」

「!?」

 

 その時、部屋の扉をぶち破りながら、新たな来訪者が室内に入ってきた。

 深紅の鱗を持つ二足歩行の竜。

 『火』の四天王ドラグバーン。

 

「来たか、ドラグバーン。アースガルドもよく来た」

「ダルい……」

 

 更に、ドラグバーンに掴まれた人形のように『土』の四天王アースガルドの姿もある。

 魔王軍最高戦力四天王、全員集合である。

 ヴァンプニールの部屋で。

 

「な、なっ……!?」

「四天王だけで集まりたいと聞いてな! 何用だ? 魔王に内緒で出撃か? 俺は大歓迎だぞ!」

「違う。魔王様に誕生日プレゼントをお贈りしようという話だ」

「たんじょうびぷれぜんと?」

 

 フェザードは老婆魔族から聞いた情報を説明した。

 話が進むにつれて、ドラグバーンのテンションがどんどん下がっていく。

 

「くだらん! 雌に旨い肉でも贈るなら理解できるが、何が悲しくて魔王に贈り物などするのだ! フェザード! 意中の雄のご機嫌取りなら一人でやれ!」

「い、意中の雄……!? そういうのではない! というか魔王様を雄とか言うな! 斬り捨てるぞ!」

「上等! 貴様が勝てば、つまらん話にも付き合ってやろう!」

 

 四天王同士の対決が始まってしまった。

 戦況は筆頭を務めるフェザードが優勢。

 ドラグバーンが何かしようとする前に、行動の起こりを神速の剣で叩かれて潰されてしまう。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!!」

「こんなものかぁ!!」

 

 片方がまるで実力を発揮できないがゆえに、被害も四天王同士の戦いとは思えないほど軽微。

 自室にいる魔王にすら「ああ、また誰か喧嘩してるのか」としか思わせない完璧な戦闘管理。

 それでも最低限の被害は発生し、ヴァンプニールの部屋は滅茶苦茶になった。

 

「私の部屋がぁぁぁ!?」

「ドラグバーンもよく飽きないね」

 

 絶望に膝をつくヴァンプニール。

 興味なさそうにアクビをするアースガルド。

 やがて戦いの方も決着し、竜の頸骨の間際まで刃をめり込ませたフェザードが勝ち名乗りを上げた。

 

「私の勝ちだな」

「ぬぅぅぅ! 右眼を失っても健在だな!」

 

 悔しそうに、しかし衰えを見せぬ強敵の姿に嬉しそうな感情も混ざった顔で、ドラグバーンは口角を上げる。

 

 そして、宣言通りつまらん話に付き合うべく、半壊した部屋の床にアグラをかいて座り込んだ。

 

「さて、静かになったところで話を進めよう」

「おのれぇ!! おのれぇぇえええ!!」

「ヴァンプニールがまだうるさい。うるさいから帰っていい?」

「ダメだ。誕生日は四天王全員で祝う。私達が仲良くし、できれば他の魔族達も追従してくれれば、それが一番魔王様を喜ばせられると思うからな」

 

 基本的に互いの足を引っぱり合うばかりの魔族が、多少強引にでも、こんな平和的なイベントで協力できたのなら、魔王の夢見る争わない魔族の未来に少しでも希望が湧くはず。

 健気な忠臣はそんなことを思っていた。

 

「なら人の部屋で破壊行為をするなぁ!!」

「それについては済まなかった。少し熱くなり過ぎてしまったんだ」

「ぐぬぬ……!」

 

 あっさりと頭を下げられ、ヴァンプニールの怒りは行き場を失う。

 やっぱり、こいつ嫌いだ!

 

「では、具体的な贈り物の内容を決めよう。意見を出してくれ」

「旨い肉!」

「石」

「ふん! 知ったことではありませんね! むしろ私の方が、部屋と一緒に壊れたコレクションの埋め合わせを贈ってほしいくらいですよ!」

 

 ものの見事に色んな意味でバラバラな意見。

 一番マシなのが戦闘狂(ドラグバーン)の意見なあたり、魔族の悲しさが垣間見える。

 

「ハッ! 贈り物の意見一つ出せんとは、吸血鬼の叡智とやらもチンケなものよ!」

「はぁぁぁぁぁぁああああああ!?」

「おい、ドラグバーン!」

 

 それどころか、早速脳筋ドラゴンが、嫌いなインテリ吸血鬼に喧嘩をふっかけてしまった。

 魔族はぶつからないと気が済まないのかもしれない。

 

「クソの役にも立たんことを長いこと継承し続けてご苦労なことだな! 代わりに戦闘技術の一つでも受け継げば良かったものを! いや、継承者が貴様ではそれすら宝の持ち腐れか! ハッハッハ!」

「き・さ・まぁぁぁぁッッッ!!」

「やめんか!」

「ぐぇ!?」

 

 勢い余って日頃の嫌悪感が爆発しているドラグバーンの脳天に、フェザードがお仕置きの一撃を叩き込む。

 だが、少し遅かったようで、ヴァンプニールは普段蒼白い吸血鬼顔を真っ赤に染めて、何故か窓枠に足をかけていた。

 

「脳筋蜥蜴が好き勝手に言いやがって! そこまで言うなら見せてあげますよ! 吸血鬼の叡智に解決できぬ問題はないということを! せいぜい自分のチョイスとの格差に恐れおののくがいい!!」

 

 そんな台詞を残して、ヴァンプニールは窓から飛び出していってしまった。

 力に訴えるのではなく、贈り物の内容で勝負しようとしてるあたり、力では勝てないという本音が見えているというか、なんというか。

 

「ふん! 小賢しく考えるより単純が一番! 戦い以外なら旨い飯に勝る至福なんぞ無いわ!」

「待て待て!? お前達、どこに行く!?」

「旨い肉を狩りに行く!」

「勝手な行動は……」

「心配せずとも国内からは出ん!」

 

 魔王に禁じられているのは人類との勝手な接触と戦闘。

 完全支配した旧ムルジム王国領内なら出歩くことくらいは許されている。

 

 あの二人は一見自分勝手だが、そういう決まりは律儀に守るのだ。

 ヴァンプニールは根が臆病者ゆえに、ドラグバーンはなんだかんだで魔王とフェザードを己の主と認めているがゆえに。

 

 二人が我慢の限界に達するのは、ここから十年以上先の話である。

 

「行っちゃったね」

「ああ……。これでは合同プレゼントは無理だな……」

 

 それでも贈り物をする意思自体はあると見て、強引に連れ帰ってヘソを曲げられるよりは良いのではと、追いかけることを躊躇ってしまったフェザード。

 彼女はため息をつきながら、最後に残ったアースガルドに向き合った。

 

「それで、お前の贈り物は石だったか。そうだな。石像とかにしたら、それっぽいかもしれない」

「うん。じゃあ、それで」

 

 アースガルドの興味関心がある分野は酷く限定的なため、どうにかその方向性で上手く纏めようと助言するフェザード。

 その結果──

 

「石像なら、やっぱり魔王様をモデルにしたものが良いな。この城にも元の国王の石像があったし」

 

「待て。魔王様の筋肉が少し違う。もっとワイルドの中にセクシーさが潜む感じで……」

 

「うーむ。ポーズが微妙だ。戦っているお姿よりも、日常のお姿の方があの人の本質に近い気がする。よし1から作り直そう!」

 

「おお、ようやくできたな。あ、そうだ! せっかくなら、魔王様の周りに私達の石像も作らないか? その方が魔王様の理想に近い!」

 

「何? もうめんどくさい? 勘弁してくれ? ……仕方ない。追加の石像の数を減らそう」

 

「あと一体が限界? なら、やはりお供すべきは最初の臣下である私が適任か。こう絶対の忠誠を誓っていて、深い信頼関係が見ただけでわかるように作ってほしいんだが……」

 

 フェザードの注文はうるさかった。

 虚無の塊であるアースガルドが、思わず人生最大のしかめっ面を見せてしまうほどうるさかった。

 ガチ勢の熱意に付き合うには覚悟がいるのだ。

 

 そして──

 

「な、なんだか想定と違うものができたな。つい調子に乗って願望を詰め込め過ぎたか? 悪いがアースガルド、これは作り直……ま、待て! 無言で魔王様のお部屋に持っていくな!」

 

 とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、四天王筆頭の命令を無視して、魔王の自室に突撃していくアースガルド。

 フェザードは必死で説得を試みたが無視され、他のバカ二人のように力尽くというわけにもいかず。

 

「ん? 二人でどうした?」

「ま、魔王様! こ、これはその……」

 

 目的地に辿り着いてしまった。

 

「ん」

「? アースガルド、これは……?」

「たんじょうびぷれぜんと」

「誕生日プレゼント……?」

「あ、誕生日というのはですね!」

 

 首を傾げる魔王に、フェザードが慌てて説明を開始。

 魔王はそれを聞いて誕生日という風習は理解したものの、まだ首は傾げられたままだった。

 

「話はわかったが、我の誕生日は今日ではないぞ? というか魔界に暦など無いのだから、生まれた日などわからんし覚えてもいない」

 

 悲しきかな。魔族には誕生日どころか記念日の概念すらない。

 荒廃し、滅びに向かうのみの過酷な世界と、そこで生きられてしまう異形の人と獣だらけの魔界に、そんな楽しいイベントなど用意されていないのだ。

 

「……はい。なので、この世界に降り立った日を、魔王様の誕生日の代わりに祝おうと思っていたのです」

「それは……」

「わかっています。あなたがそれを喜ばないことは」

 

 魔王は優しい。

 フェザードとの出会いをキッカケに優しくなってしまった。

 平穏を手に入れるための虐殺が始まった日を、喜べるはずなどない。

 

「ですが、あなたのおかげで救われる者もいるのです。あなたに感謝する者が確かにいるのです。

 それを知ってほしかった。実感してほしかった。

 そのために、お祝いをしたいと思ったのですが……」

「……そうか」

 

 最愛の部下の想いを嬉しく思う。

 ずっと心の中に巣食っている嫌な気持ちが、ほんの少しだけ、されど明確に軽くなった気がした。

 

「しかし、今日はこの世界に降り立った日でもないぞ?」

「はい。アースガルドが先走りました」

「……それと、その」

 

 最後に、魔王はとても言いづらそうに、先送りにしていた一番わかりやすい問題に切り込んだ。

 

「この像は、なんというか、とても嬉しいんだが、中々に気恥ずかしいものがあるな……」

「申し訳ございません!!」

 

 フェザードは勢いよく頭を下げる。

 アースガルドが先走って持ってきた小さな石像は、実物より大分美化された凛々しい魔王と、その隣で綺麗なドレスに身を包んで微笑む、翼の生えた美女の像。

 

 フェザードの要求を聞いているうちに、当初目指していた王の姿ではなく、愛し合う二人の男女のような形になってしまった。

 

「アースガルド! やっぱり作り直……」

「もうやらない」

「待っ……!?」

 

 製作者は珍しく食い気味に拒否の言葉を口にし、そのまま自室へと消えた。

 そして、残された二人の間には、甘いような恥ずかしいような、なんとも言えない空気のみが残ったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

「なんだこの像……?」

「ああ。露天商で買ったやつよ。フランが妙に気に入っちゃって」

 

 人魔の戦争が終わってから数年後。

 例の石像は今、故郷である田舎に引っ込んだ勇者の家に流れ着いていた。

 

「ねぇ、もしかしてなんだけど、これって魔王じゃない?」

「いや違うだろ。魔王にしちゃイケメン過ぎるし、隣の女のモデルがあいつなら、こんな恋する乙女みたいな顔はしな……痛い!?」

 

 いつの間にか近くに来ていた最愛の娘(フラン)が、無才の英雄様のスネを全力で蹴り飛ばした。

 特別頑丈なわけではない彼は、油断したところに放たれる不意打ちに弱い。

 

「ふん!」

 

 犯人は何やら怒った様子で石像を回収し、そのまま兄のいる子供部屋に消えてしまった。

 

「は、反抗期……?」

「好きな作品をバカにされたように聞こえたのかしら? 過敏なお年頃ってやつね」

 

 涙目の夫と、大真面目な顔で考察する妻。

 今日も世界は平和だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「むー!」

 

 なんとなく、おとうさんがにがてだった。

 きらいじゃないけど、にがてだった。

 

「フラン?」

「おにーちゃん!」

 

 なんとなく、おにーちゃんがだいすきだった。

 すき、すき、だいすき。

 

『ああ、良かった』

 

 なんとなく、いつも、だれかいるきがした。

 わたしと、おにーちゃんのなかに、ちっちゃな、ちっちゃな、だれかが。

 ほんとに、なんとなくだけど。

 

『それで良い。何も知らなくていい。ただ、ここにいさせてくれ。小さな、小さな残骸として、ただ、ここに』

 

 いーよ。

 ちっちゃなだれかが、なんていったか、わかんないけど、なんとなく、そういってあげたくなった。

 

『ありがとう』

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