バグのかけらをひたすら集めるクリームランド在住のデバッガー 作:けっぺん
ジャスミン嬢、メディと出会った日から二日後。
その日はプライド様から公務の手伝いを任されている日だった。
エンドシティが誇るシャチホコ城のメインコンピュータにセキュリティシステムを組み込む作業。
午後から行われるその作業を控えた午前中、私はホテルの部屋で臨時のメールニュースを読んでいた。
なんともタイムリーというか、都合が悪いというか。
『エ、エール、仕事ハ、大丈夫ナノカ……?』
「どうだろうね。私たちが何をするまでもなく、午後までに復旧されれば良いのだが」
――どうやら日本の西側で大規模な通信の乱れが起きているらしい。
原因として、エンドエリアの通信システムの異常が考えられ、ナビをプラグインさせていると悪影響の可能性があるとのこと。
復旧には時間がかかると想定されており、安全のためインターネットにいるナビはプラグアウトするように――と。
問題は、果たしてエンドエリアに通信異常の根幹があるかというところ。
あのエリアは日本の西側の各インターネットエリアを通信を安定させるためのシステムこそあるが、それはあくまでも
大本のサーバーはシャチホコ城にある。言わずもがな、本日私が一仕事することになっているサーバーだ。
――つまり。あまり考えたくはないが。
サーバーが原因である場合、私がこれから赴こうとしている場所でなんらかの不具合が発生しているということである。
さて。システムの老朽化などによるバグであればともかく、後が絶えないという不正アクセスにより、ウイルスでも仕込まれていたというのなら厄介な話。
愉快犯にしろネビュラの仕業にしろ、それはオフィシャルの仕事。
間の悪いことに、プライド様は今日別行動だ。私一人である程度対処も出来なくはないとはいえ、犯人がいた場合それにも限界が出てくる。
どうしたものかと考えていれば――PETが鳴った。オート電話だ。
『ム……グレース、カラダナ』
「ふむ……?」
――ジャンクマンに秘密にしている以上、チームの活動に関わる連絡であれば、サブPETかパソコンに送るように、関係者には言い含めている。
次回ミッションで協力するグレース嬢たちに対しても伝えているため、そういう話題ではないとは思うが……だとすればなんの用だろう。
『――もしもし? ヴァグリースさん、今大丈夫です?』
「やあ、グレース嬢。午前中なら問題ないが、どうしたんだい?」
PETの画面に映る、相変わらず感情の読みにくい表情。
それはいつも通りだが、彼女の背後に映っている古風な風景は……エンドシティか?
『はい。ヴァグリースさん、先日、お仕事でエンドシティに赴くと言っていましたよね。現在起きている大規模な通信障害はご存じですか?』
「ちょうど、そのニュースを見ていたところだよ。シャチホコ城のメインコンピュータに原因がなければ良いのだが」
『僕もそう思っていたところです。それで、まあ、こんな感じでして』
グレース嬢はPETを動かし、今いる場所の町並みを映してきた。
やはりエンドシティだな。遠巻きにシャチホコ城も見えている。
「……観光かい?」
『だったらよかったんですけどね。それは事態が解決してからです。……炎山くんに頼まれたんですよ。暇なら行ってこいって。そんな風に送り出すような距離でもないと思いませんか?』
「一応キミ、シャーロからの客人の扱いじゃないのか?」
『その筈です。そもそも、別に暇ってわけでもないんですけど』
グレース嬢もまた、次のミッションに向けて、色々と作業がある。
こちらのチームのシステム管理者として話は聞いているが、少なくとも片手間で出来るようなことではない。
暇でないのは当然だが……作業に目途がついて一息入れていたのか、単純にサボっていたのか、或いはそう見えるだけで作業をしていたのかは不明だが、とにかく伊集院少年に目を付けられてしまったらしい。
その結果が、デンサンシティからエンドシティへの緊急出張か。大変だな、向こうのチームも。
『まあ、そういう訳ですので。もし都合が合うようであれば、ご助力いただけないかなと』
「……本当に偶然だが、実を言うと午後、シャチホコ城に行く用事があってね」
『おや。僕は幸運だったようです』
これが他の場所に原因があるなどであれば断る選択肢もあったかもしれないが、ちょうど今から行く予定の場所である。
どの道、シャチホコ城のメインコンピュータに原因があるのならば、それを放置して作業をすることも不可能だ。
何かしらの悪意が絡んでいる可能性を考えれば、私以外に対応できる者がいた方が良いだろう。
私も、荒事は不得意なわけだし。
『ああ……より厄介な事態になっても大丈夫なよう、ライカくんも合流させますのでご安心を。今こちらに向かってもらっています』
「……口出しする気もあまりないが、そこまで振り回して良いのかい?」
『良いんですよ。普段ならともかく、今はライカくんも観光気分で浮かれてますし』
なんだか適当な様子でグレース嬢はあっけらかんと言った。
普段でも彼女はライカ少年をだいぶ振り回している様子だったが……それ以上ということか。
しかし、ライカ少年が浮かれているというのも、未だにピンとこない。
この前会った時の様子は確かにどこかおかしかった。あれが彼の素なのだろうか。慣れるのに時間が掛かりそうだ。
というか……今回の任務はシャーロ軍人として気を抜いて良いものか? レッドサントーナメントのような緊急性はないものの、それでもオフィシャルと連携して臨む重要度の高い任務な筈だが。
「まあ、キミたちが納得しているのなら良いのだが。とりあえず、城の職員に同伴者がいることは伝えても?」
『よろしくお願いします。一応オフィシャルのライセンスは持っていますので、事件性の調査とでもしてもらえれば』
了解だ、と伝えて電話を切る。
おかしくない話ではあるが――グレース嬢たちも、オフィシャルのライセンスは有しているのか。
ライセンスがあるとないのでは、こうした有事の際の動きやすさが格段に異なる。
私も取得を目指してみた方が良いのだろうか……いや、無理だな。クリームランドの資格取得基準は今後厳しくなっていくと聞くし。
オフィシャルにある程度顔が利く知り合いがいるというだけ、恵まれていると思うべきなのだろう。
『エール……グレース、タチガ、来テイルノカ?』
「そうみたいだね。向こうは向こうで色々と仕事があるみたいだが、本日は共闘ということらしい。さて、私たちも準備をしよう。ジャンクマン、アイリス、来てくれるかい?」
『ア、アア! 任セロ!』
『うん……分かったわ』
アイリスをこちらのPETに呼び込む。
レヴィアは留守だ。日本のインターネットの大半が解放されたことで外に出やすくなり、レヴィアがパソコンからいなくなる時間もまた増えてきた。
また今日も、どこぞでゲリラライブでもやっているのだろう。
乱入してきたネビュラの連中が観客に蹴散らされたという話を聞いたが、何をしているのだろう、あの連中は。
レヴィアのライブに飛び込むなど、ウラにおける自殺行為の中でも有名だろうに。いや、今の情勢であまりネビュラを殺気立たせるのはやめてほしいのだが。
聳え立つシャチホコ城に続く桟橋の傍に立って、十分ほど。
城を眺めながら買っておいた水で喉を潤していれば、グレース嬢の声が聞こえてきた。
「お待たせしました、ヴァグリースさん」
「ああ、来たか、二人とも」
どうやら先にライカ少年と合流していたらしい。いつも通りの白衣と軍服姿で、二人はやってきた。
「未だ通信障害は復旧していない。城内の職員がメインコンピュータの調査に当たっているようだが、どうやらセキュリティシステムが暴走しているようだね。解除に時間を要しているようだ」
「自分たちの管理しているシステムでしょうに……複雑すぎるのも考え物ですね」
私も少々、苦言を呈したいところではある。複雑なセキュリティを逆に利用されて解除できないなど、笑い話にもならないぞ。
これでクリームランドのシステムを組み込んでも良いのだろうか、とは思うが、これも仕事である。
まずはその仕事を可能とするためにも、今の状況をどうにかしなくては。
「では行こうか。よろしく頼むよ、グレース嬢、ライカ少年」
「はい。早めに終わらせましょう。そうすればその分、エンドシティ観光に時間を使えますから。ね、ライカくん」
「……そうだな。エンドシティには名物が多い。さっさと片付けて、街を回るとしよう」
やはり別人としか思えないのだが、グレース嬢は特に変わらず接している。
ライカ少年のあんな……どこか爽やかな笑顔。失礼かもしれないが、あまりにも似合っていないぞ。
微妙な気分になりつつも、二人を連れて城内へと入る。
現在は入場規制が敷かれているが、既に許可を得ているため、職員たちが慌ただしく走り回る中を奥へと歩いていく。
明らかな子供が来たことに戸惑いもあったものの、グレース嬢がオフィシャルのライセンスを見せたことで無事許可は下りた。
「ここも、出来れば観光目的で来たかったんですけどね。落ち着いたら改めて来てみたいものです」
「まあ、少なくとも今日は見回ることは出来なさそうだね」
これだけの騒ぎだ。問題が解決したとしても、暫くは立ち入りは制限されるだろう。
この城を落ち着いて見学することは難しいかもしれない。
……ミッションも近く行われる予定だ。その時は両チームが科学省に集まるらしいし、二人のエンドシティ観光もそう長い期間は取れないだろうな。
「これもセキュリティなのでしょうか」
「非常時には城中のセキュリティが動くらしい。とはいえ、流石にこの辺は正常化されているようだが」
鎧を着込んだサムライの姿をしたホログラム。これを投影するシステムそのものがセキュリティとなっているらしい。
あまり解除に時間のかかるものでもないようだが、恐らくは上層のセキュリティが実行されるまでの時間稼ぎを目的としたものだ。
つまるところ、上層部のセキュリティはもっと複雑であるということで。
階段を上っていけば、またずいぶんと趣の異なる部屋に辿り着いた。
「ここのセキュリティは解除されていないようだな」
「ふむ……内容は――」
だだっ広い空間だが、道は細い十字路。空洞は下層まで続いている訳ではなく、数メートル下に落下防止のマットか何かが敷いてある。
侵入者を捕える仕掛けだったのだろうか。そうだとしても、こんな城の真ん中の階にあったら暮らし難いと思うが。
十字路の向こう――上層への階段は塞がれている。無理やりよじ登ることは……そんなことできるの、この場ではライカ少年だけだろうな。
さて、周囲にプラグインできるようなものはない。目立つものといえば、十字路の傍に立っている巨大なサムライの像だ。
背中に何本もの武器を背負う、異様な雰囲気を持つ像の片手には、人が持てる程度の大きさの木剣が立てかけられていた。
……言いようのない寒気というか、気分の悪さを錯覚する。まるで、少し前に経験したナニカを、体が思い出したかのように。
いや……うん。名人氏はどうしているだろう。ネビュラとの戦いでは積極的に声明の発信はしていないようだが。
「これは、音声案内か?」
『――この先に進みたくば、百人の猛者をなぎ倒し、その力を示せ……』
そらきた。これ見よがしなボタンを押してみれば、厄介なセキュリティであるとすぐにわかる説明が流れ始めた。
セキュリティとしては有効な手の一つだ。何しろ、単純なハッキングの腕では突破できないものなのだから。
『この試練を乗り越えぬ限り、道を塞ぐホトケの心は動かぬ。さあ、このカタナを持ち、先の十字路の中心に立つが良い』
ここに来るのが、悪人だろうが、システムを修復に来た者だろうが、オペレーターそのものの身体能力を求めるシステム。
いざという時に厄介なことから、こういうものは廃れる一方だ。ちなみに今がいざという時である。
これは普段は体験型の設備なのだろう。一騎当千のサムライの気持ちを味わってみるとか、そういう類の。
さて……どうしたものか。
「……ライカ少年、いけるかい?」
「……難しいな。剣道の経験はない」
「いやいや、別に良いんじゃないですか。ケンドーじゃなくっても」
苦々しい表情のライカ少年。一方で、気楽な様子でグレース嬢は、立てかけられていた木剣を手に取った。
両手で持ったり、片手で持ったりとある程度調子を確かめてから、一つ頷く。
「長さも重さもしなりもまるで違いますが、まあやるだけやってみますか。ペナルティはないみたいですし。あ、期待はしないでくださいね」
「まあ、やるのは構わないが……グレース嬢、この手の経験はあるのか?」
「齧った程度ですが。僕で駄目だったらライカくんにお願いしますよ。あ、ヴァグリースさん、これ持っててくれますか」
グレース嬢は白衣を脱ぎ、手渡してくる。
動きやすい恰好になり、木剣を片手に十字路に歩いていく彼女は、どこか楽しそうだった。
・百人切り
みんなのトラウマ。5に登場するミニゲーム。
通信システムを修復するためにシャチホコ城の屋根上を目指す最中、非常事態のセキュリティにより道が塞がれており、これを解除するために挑むことになる。
受け取った木刀を構えて十字路の中心に立ち、四方からやってくる人形・ジュウジュツくんを倒していくというもの。
途中でジュウジュツくんに触れてしまうと最初からやり直しとなり、百人倒すまでは先に進めない。
ジュウジュツくんは一定数ごとに色が変わって加速し、終盤はかなり手が忙しくなる。
また、十字路とは言いつつロックマンエグゼのマップビューの関係上、×字になっているため斜め入力が必要で、これを忙しなく押しまくらないといけないのが地味にキツい。
シミュレーションが苦手でも時間を掛ければ何とかなるリベレートミッションとは違い特に逃げ道はないため5の最難関ポイントだという人もいる。
作者はさほど苦戦した記憶はないがアドコレで久しぶりにやってみたら普通に疲れた。
余談だがロックマンではなく熱斗を操作するタイプのこうしたギミックは地味に珍しい。
シャチホコ城攻略編。
日暮さんはこの事件に関わらせるのが難しいのでお留守番。彼と関わるエピソードは別途ありますのでご安心ください。
それから更新も気長にお待ちください。