回廊の戦いでラインハルトとヤンの講和が成立したif物語。

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独裁者 ヤン・ウェンリー

回廊の戦いの講和条件としてヤン一党は、ハイネセンを中心としたバーラト星系及び周辺二星系の自治権を獲得した。

経済の中心だったとはいえ、生産よりも消費が上回り、防衛には不向きな星域のため帝国側の反対論は少なかったという。

それよりも軍及び政務関係者が歓迎したのはイゼルローン要塞の返却だった。

不敗の名将に難攻不落の要塞。

ヤンやラインハルトが考える以上に帝国関係者にはこの要塞が障害として映っていた。

もっともこの要塞を戦術的にはフライングボールに、戦略的には石ころにした両者以外にイゼルローンを軽く見ることは不可能あったのだが。

一方で多数の反対論が上がりながら、最終的に皇帝の独断で確定した事項があった。

ヤンの自治政府の首相就任である。

 

「ヤン・ウェンリーなる者が銀河統一の障害となること幾数度。その間、数百万の帝国将兵が彼の手によってヴァルハラに旅立つことになった。その者に自治権の代表とすることは帝国に百害あって一理なし。陛下に再考を求める。」

 

多数の声を纏めると以上のような内容となる。

これらの声の中には当然、あの軍務尚相が入っているはずと思われていたが、意外にもオーベルシュタインは賛成派であった。

 

その情報を聞き及んだミッターマイヤーは偏見に基づき、

「あのオーベルシュタインなら政治上の失敗をもとにヤンを糾弾、追放するはずだ。」

と断定し、ロイエンタールは、

「むしろ反帝国派を仕立てて内戦を誘導し、纏めて共和主義者を処断するつもりでは。」

と根も葉もある誹謗を口にした。

 

その他、数々の憶測を呼んだこの裁可は、皇帝陛下に伺うわけにもいかず、軍務尚相が口を開くわけも無く、結局はごく一部を除いた万人が知らないまま実行されることとなった。

 

ただ、ごく一部に含まれるミッターマイヤーとロイエンタールそしてヒルダは、開陳されたその経緯に三者三様の表情をしたという。

 

「ヤン・ウェンリーの処遇についてか。」

「はっ。此度は監視のみというわけにはまいりません。」

「あの者を余の配下に加えることは無理か。」

諦めの悪い皇帝に対して、オーベルシュタインはただ頭の下げるのみ。

ラインハルトはその態度に苛立ちをおぼえる。

「ただ隠居させるのは、おもしろくないな。」

オーベルシュタインは沈黙を守る。

「いっそのこと自治政府の代表にしてみるか。」

ラインハルトはオーベルシュタインの反応をみる。

表情には反応を楽しむ雰囲気があった。

「よろしいかと考えます。」

その返答にラインハルトの表情が不快になるも、軍務尚書が冗談でも揶揄でも無いと気が付くと表情が引き締まる。

「申せ。」

「はっ。」

 

一つ、ヤンをハイネセン自治政府の首班とすれば、旧同盟領内の不穏分子の動きも沈静化する。

二つ、ヤンを政権のトップに据えることで共和制のシステム上、軍権をヤンから奪える。

三つ、公人としてのヤンの活動を制限、監視できる。

 

「卿はそれほどまでヤン・ウェンリーを恐れるか。」

ラインハルトは意外な発見に驚きを持って問う。

真夏でも聞くだけで寒気を覚える者もいるというオーベルシュタインの沈着冷静な声が、このときばかりは違った。

 

「帝国は政略によって地位を追い、戦略によって率いる兵を寡兵としました。でありながらヤン・ウェンリーは戦術レベルの勝利のみで自治領を獲得した。このような詐欺を平然と行う人物を野放しにはできますまい。」

 

ラインハルトは驚く。

あのオーベルシュタインがヤンに対しては焦っているのか。

 

ラインハルトは思い出す。

オーベルシュタインがヤン・ウェンリーを謀殺するために、偽講和の使者に自ら立候補したことを。

あの時は不快感が勝ったが、今更ながらその意図がみえてくる。

オーベルシュタインはそうまでしなければ倒すことが出来ない相手だと考えていると。

 

「卿も賛成するのであれば問題なかろう。では彼に付ける帝国側の人選が必要だな。」

「自治領駐在武官は少将からとして、高等弁務官は文官より選ぶのがよいかと。」

オーベルシュタインの進言にラインハルトは頷く。

「そうだな。武官が大将クラスだと、どうしてもあの男に対抗意識を持ってしまうか。」

過去の失敗についてラインハルトは思いやる。

ミュラーやワーレンであれば昇華できるであろうが、重要とはいえ一部の星系の監視にそのクラスの投入はやり過ぎとも考える。

「良かろう。武官の候補者は軍務省から上げよ。文官については国務尚相と相談する。」

 

こうしてバーラト自治政府のヤン首相の就任が決まった。

平和の時代の幕開けか戦争の時代の小休止か。

その時は誰にもわからなかった。


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