「ゴルゴ13?」
皇帝ラインハルトは軍務尚書オーベルシュタインと憲兵総監ケスラーに向かって問いかける。
この二人が伴って参内するなど奇跡に近いが、それだけに重要事項だと認識していたラインハルトにはインパクトのある名前だった。
「はっ。」
一応は事前に段取りを決めており、ケスラーが口を開く。
「ゴルゴ13とは旧治安維持局がつけたコードネームで、通常はデューク・トーゴーと名乗っております。こちらも偽名ですが。」
「ほう、そのゴルゴ13という暗殺者が余を狙っているということか。」
「いえ、まだそこまでの情報ではありません。何かしらの大きな依頼を受けたとの情報と帝都への侵入を確認したのみです。」
ケスラーらしからぬ精度の低い報告に、ラインハルトはオーベルシュタインに確認する。
「卿らがそろって来るには、今ひとつ要領をえんな。それほど危険なのか、ゴルゴ13というのは。」
「依頼を受けた暗殺は全て成功しております。その件数は100件を超えます。」
オーベルシュタインは事実しか言わない。それを知っているラインハルトでもにわかには信じられない。
「本当かケスラー。」
軍務尚書の回答に対して真偽を補足するなど本来は許されないが、皇帝からの問いにケスラーも答えないわけにはいかない。
「はっ、広域指名手配犯936113通称ゴルゴ13は帝国領内だけでも73件の狙撃による暗殺を成功させており、同盟領での数を考えると妥当な数字かと。」
オーベルシュタインは珍しく言葉を繋ぐ。
「特に長距離狙撃を得意とし、1kmから光学観測のみで狙撃を成功させた記録もあります。」
ラインハルトは驚きの声を上げる。
「そのような輩が存在するとはな。まるで小説の人物ではないか。」
ラインハルトはたとえ自分の命を狙う者でも、それに何かしらの見るべきものがあれば好意的になる。
その癖というには深刻な行動原理に眉をひそめる者も多い。
親衛隊長キスリングも顔には出さないが、仕える主君が暗殺者に会いに行くなどという暴挙にでる可能性を危惧している。
ケスラーはオーベルシュタインに目配せすると本題に入る。
「そのため陛下にはしばらくの間、地上車での移動では地下から御乗車いただけますよう。」
その言葉でラインハルトの表情が変化する。
「卿は狙撃手を捕らえる事よりも、余にモグラのように振る舞う事を薦めるのか。卿を帝都防衛司令官にしたのは余の誤りであったのか。」
暗殺者から身を隠す、そのような行動はラインハルトの思考には含まれていない。
「小職の非才により手配犯を捕縛叶わず、職責の至らなさを痛感しております。ただこの儀だけは何とぞおきき願いますように。」
ケスラーの低姿勢にラインハルトは怒気が覚まされる。
彼ほどの男が事前に対処できないとは。
戸惑うラインハルトにオーベルシュタインが口添えをする。
「小官も憲兵総監に賛成です。陛下の身に万が一がおこった場合、新帝国の臣民120億はいかがなりますでしょうか。」
もっともな事を言っても感銘を受けないオーベルシュタインの言葉から、ラインハルトはある違和感を感じ取った。
彼はオーベルシュタインに尋ねる。
「軍務尚書よ。卿の言はいつもとは異なるな。なぜ卿はそこまでそのゴルゴ13を恐れる。」
オーベルシュタインは何も答えずただ頭を下げるのみ。
ラインハルトはふと気がつく。
「卿はもしやゴルゴ13を知っているのか。」
今度はオーベルシュタインも答えなければならない。
「陛下のご慧眼、恐れ入ります。旧帝国で行われたゴルゴ13捕獲作戦に参加しておりました。」
ラインハルトは促されオーベルシュタインは説明を続ける。
「過去に帝国同盟の双方の刑事警察がサイオキシン麻薬撲滅のため協力したように、ゴルゴ13の捕獲作戦に帝国・同盟双方の警察および軍事機構が協力した事があります。」
この話にはラインハルトだけでなくケスラーも驚く。
「軍はその作戦に憲兵隊一個連隊、装甲擲弾兵を1個中隊投入しましたが結果は失敗に終わり、双方の作戦指揮者が暗殺されて捕獲作戦は2度と行われなくなりました。」
キスリングは主の様子からまずいことに気がついていた。
ラインハルトが前のめりになりながら、大人しく話を聞いている。
「そのような人物がいようとはな。」
ラインハルトは話を聞き終えると嘆息した。
一個人でありながら国家を敵にして勝利するとは並大抵ではないと考える。
ケスラーはラインハルトの発言と表情から、再び諫言する。
「規格外の相手であればこそ、狙撃の機会を与えてはなりません。」
真っ当な意見は、最高権力者の遊び心に一蹴される。
「しかし、それではゴルゴ13とやらに会えないではないか。」
ケスラーは一瞬だけ眩暈がした。
キスリングは微動だにしていないものの、内心は嘆息している。
「陛下。」
唯一動じない男が献策する。
「ゴルゴ13に対しては影武者が有効です。」
ラインハルトの眉が跳ね上がる。
「なぜ余が誰かの影に隠れなければならぬ。」
怒りの衝動が軍務尚書と憲兵総監への命令へと繋がる。
「卿らに命じる。ゴルゴ13とやらの身柄を拘束せよ。銀河帝国の重鎮を怯えさせるその男を、余の前に連れてこい。」
皇帝の命令は万人の意思の上に起立する。
こうして冷戦状態の軍務尚書と憲兵総監がタッグを組むという異例の事態となった。