気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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102話 目の前に変質者(知り合い)が現れた!!

 会社についた瞬間入り口がやけに賑やかだった。

 全国的なニュースで取り上げられるような大きな会社でもないし、入り口をふさいでいるのは記者とかそういうのには見えない。

 

 というか明らかに不審げにうちの警備員が誰かを取り囲んでいるように見える。

 なんだろう。不審者とかが入ろうとしたのかな。

 うちに入っても大したことないだろうに、酔狂な人間もいるもんだな。

 

 そんなことを考えながら入口の方に近づくと、入り口を取り囲んでいる警備員の隙間から人影が見える。

 

 ……なんかでかい鍋を持ってるんだけど。

 

 その人物は必死に何かを説明しているように見えるけど、会社に鍋を持ってくるっていったいどういう言い訳をするんだろうなあ。

 

 あの鍋に見覚えはあるようにも見えるし、そもそも鍋を持っている人物にすら見覚えしかないような気がするけど……やべ、目が合った。

 

 俺は慌てて入り口から離れて視線を逸らす。

 ……なんか取り込んでるみたいだし、今日は裏口から入ろうかなあ?

 

「先輩! おはようございます! 助けてください!」

 

 鍋を持った不審者が大声で何か言っている。

 俺の方へと一斉に視線が向けられるのを背中で感じるとともに、俺は早歩きでその場から離れた。

 

 俺は知らない。あんな非常識な不審者なんて知り合いじゃない!!

 

 

 それからはひたすらに不審者から逃げた。

 なんとか会社に入れたらしいそいつは、ことあるごとに俺のところへ来ようとする雰囲気を醸し出していた。

 

 俺はその雰囲気を察知するたびに席を立ち、男子トイレへと逃げる。

 だって鍋持った人に話しかけられたくないんだもん。

 そりゃ逃げるでしょ。そいつと同類と思われたくないし。

 

 いくら寛容な職場だからと言って丸出しの状態で鍋を持ってくるバカがどこにいるんだよ。

 せめて何かに入れて持ってくるとかさ、そういうことを普通考えるでしょうが。

 

 きっとそんなこと考えなかったんだろうね。

 鍋を持ってくることに全身全霊で鍋を何かに入れようなんて、頭の片隅にも思い浮かばなかったんだろうね。バカだから。

 

 とにかくこんな調子では仕事にならない。

 そう思いながらもそいつに話しかけられるのが嫌すぎて、午前中は大半をトイレで過ごすことになってしまった。

 おれこのままだと便所飯になったりしないよね。

 

 

「先輩! どうして逃げるんですか!」

 

 やけにくぐもった声が背後から聞こえる。ごはんの味が一気に何も感じなくなる。

 ここまでか……。

 

 観念して声がした背後に顔を向けるとそこには化け物が立っていた。

 顔が鍋に侵食されている新種の未確認生命物体。

 

 ……いや、何やってんの?

 なんで鍋かぶって食堂に意気揚々と入ってこれるの?

 

 君社会人だよね? 羞恥心とかそういうものはかけらも持ち合わせてないのかな?

 そんなことやられたらふつう逃げるでしょ。というか逃げさせてほしい切実に。

 

 周りの視線を感じますか? そもそも物理的にも精神的にも周りの目なんか見えないから感じないか。

 

 俺はビシビシと感じてるから、俺の肩を押さえつけて逃がさないようにするのやめて!

 頼むから俺をここから逃げさせてくれ!

 

「あの、暑いのでこれ取ってもいいですか」

 

「お好きにどうぞ」

 

 俺の返事を待つことなく、鍋人間はその本体である鍋を外す。

 下から現れた見慣れてもはや見たくないほどの後輩の顔はやけにすまし顔で、どこぞのCMを意識しているのか髪をふぁさふぁさと振り回していた。

 

 俺のヴィクトリー丼に髪の毛はいるからやめてくれないかな。

 

「そういえば聞いてくれよ後輩」

 

「……なんですか?」

 

「このヴィクトリー丼、メニュー表に何かを隠してます! って書いてただろ? 何が入ってたと思う?」

 

「なんですか? というか自分で言うのもあれですけど、今その話します? それよりもっと言うことありません?」

 

「なんとな、ゆで卵が飯の中に隠れてたんだよ……」

 

「なんだろう。このどうでもいいネタバレを食らった感じ」

 

 思った以上に後輩の反応が薄い。

 ああ後輩もヴィクトリー丼を持ってるから、隠し味がわかってがっかりしてるのか。

 

 いやそんなことよりも俺の方が悲劇だ。

 ぱっと見この丼、ご飯の上にちょこっと申し訳程度の焼き鳥が乗っている程度で量が少ないように見える。

 

 これだけでは後半乗り切れないと思った俺は、単品でゆで卵を注文した。

 そしていざ実食してゆで卵が出てきた時の絶望感……後輩よ、お前にわかるか?

 

 昼飯にゆで卵二個はさすがに重いって!

 

 いや確かに何かを隠していますとはメニュー表に書いてあったよ?

 書いてたけど、まさかゆで卵まるまる一個が入ってるなんて思わないじゃん。

 

 しかもたちの悪いことにご飯の上には卵のそぼろも乗せているため、まさかご飯の中からまた卵が出てくるだろうなんてことを思わせないようにミスリードさせている。

 

 いやまあ乗ってなくてもゆでたまごが出てくるなんて思わないけど。

 そもそも親子丼ならまだしもまんま焼き鳥と卵を一緒の料理の中にそのまま入れるってそんな独創性はだれも求めていない。

 

 それなら親子丼でいいじゃん。なんでそこで個性爆発させちゃったの。

 そもそもの話ヴィクトリー丼ってどういう意味だよ。何とかけてるのか全く分かんねえよ。

 あれそもそもなんで俺は今こんなに食堂のメニューにケチつけてるんだっけ?

 

「あのー先輩? そろそろこちらの世界に戻ってきてもらってもいいですか?」

 

 いつの間にか俺の正面の席に腰かけてゆで卵を器用に箸で挟み持ち上げながら、俺の方を見つめている。

 

「突然なんですけど、今日お家にお伺いしてもいいですか?」

 

 …………ん? いまなんて?

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