気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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104話 霊的存在がラスボスなのはよくあることだけど、レイがそれをやるとただただ可愛い

 変人という名の後輩による鍋返却攻撃という名の奇行から何とか逃げ切った俺は、へとへとになりながらも家に帰還することができた。

 

 くそ、まだ口の中がじゃりじゃりしてる気がする。

 なんかちょっとだけ血の味も残ってるし。

 

 いくら変人になることを避けるためにとった選択だとはいえ、払った犠牲は大きかったようだ。

 主に俺の口の中が大変なことになってる。

 

 しかし仕方なかった。俺まで奇行をしてしまう変人にはなり下がりたくなかったしなあ。

 

 まあそのおかげで危機は回避できたのだから、必要な犠牲だったのだろう。

 

「ただいまー」

 

「遅い」

 

 うつむき気味に、ため息をつきながら玄関の扉を開けると、辛らつな言葉が降りかかってくる。

 

 顔をあげると、しかめっ面をして腕を組んでいる妹が仁王立ちしてこちらを見下ろしていた。

 

 いや遅いって言われても俺ほとんど定時にあがってるからね?

 なんなら早く帰りたすぎて定時よりちょっとだけ早い時間に会社出てるからね?

 

 これが社会人の普通の帰宅時間なんだよ。社会人をなめるんじゃないよ。

 

「なに辛気臭い顔してんの? そんな顔してると幸せが逃げちゃうよ~」

 

 手をひらひらと振りながらからかうような口調でそんなことを言ってくる。

 

 人をイラつかせるうえで、最適な行動をして見せる妹のことをにらみつけたくもなるが、睨もうものなら何倍返しされるかわからないから、ここはお兄ちゃんらしく大人の対応をとることにしよう。

 

 そう、スルーだ!

 

「…………」

 

 俺は妹から向けられる蔑みに似た視線を受けながら、ひたすらに無言を貫き通す。

 

 というか、いつまでもそこに立っていると俺ずっと玄関でいないといけなくなるんですが。 

 

 なに? 俺はここで飯食えって?

いじめかな? 家庭内いじめかな?

 

 一対一はいじめじゃなくてただの喧嘩だよ?

 しかも俺は手を出さないから実質カツアゲなのでは?

 

「……はあ」

 

 目の前でため息つかれると傷つくよ?

 いや確かに俺も家に入るなりため息ついたけどさ。

 

 それはだれに対してでもないこの世界に向かって吐き出したため息でしょ?

 

 あなたのため息は完全に俺に対して吐き出したため息だろ?

 

 俺に幸せが足りなさそうだからって、自分の幸せを吐き出してどうするんだよ。

 

 別に俺その幸せ取り込めないから。ため息飲み込まなきゃいけないの?

 もっと自分を大事にしてください。

 

 というか妹の吐いたため息を必死こいてパクパクと飲み込もうとしてたら、それはただのシスコンを超えた変態なんだよ。

 

「さと兄が何を考えてるのか知らないし、想像したくもないけど。まあ別にさと兄が幸せか不幸かなんて私には関係ないし? さっさと上がりなよ。私も立ってるの疲れた」

 

 そう言って踵を返しリビングの方へと歩き始める妹。

 いやいや上がりなよって言われても、そもそもここ俺の家だし。

 

 なんでたかが二日いたくらいで家主気分になってるの?

 

 どんどんこの部屋の賃貸者である俺の存在感が薄くなってる気がするんだが、気のせいだろうか。

 

 しかし妹が玄関から離れたことで、ようやく俺も家に上がることができるのも事実だ。

 ここは変な口答えはせずに素直に家にお邪魔させていただこう。

 

 ……お邪魔する?

 

 とりとめのないことを考えながら家に上がると、妹は今度はリビングへと続く扉の前で仁王立ちしていた。

 不敵な笑みを浮かべながら。

 

「……これからあと3人倒さなきゃいけないの?」

 

「何言ってんの?」

 

 ちょっとボケのつもりで言ったのに、予想外の真顔で返されてしまった。

 ノリの悪いやつだ。俺の妹のくせに。

 

 いやだってそんな立ち方してさっきと違う顔してたら、四天王的な何かを倒さないと部屋には入れないロールプレイなのかなって思うじゃん。

 

 そういうことをしたがるお年頃なのかなって、遅めの思春期なのかなってお兄ちゃんちょっと心配しちゃうでしょうが。

 

 もちろん妹四天王を倒した先に待ち受けるのは、我が家の魔王レイだ。

 

 そして俺は四天王を倒すものの、魔王レイのあまりの可愛さにその身を取り込まれてしまうのだろう。

 

 そして世界は光に包まれるのだ。

 はい。ハッピーエンド。うん、何の話?

 

 ここまで長々と妄想をしていても妹はその場から動く様子を見せない。

 

 本当に四天王のつもりなのだろうか。それとも番人?

 どちらにせよそういうことは俺が休みの時にしてほしいものだが。

 

「さて頭の悪いお兄様に質問です。秋といえば何?」

 

 頭の悪い? お兄様?

 いろいろといいたいことはあるが、この質問に答えなければここを通ることはできないということだろう。

 仕方ない。付き合ってやるか。

 

 秋といえば何といわれても当てはまるものは大量にある。

 

 食欲の秋、芸術の秋、紅葉の秋、読書の秋、スポーツの秋、卵の秋……。

 

 こういうものをあげれば春夏秋冬の中で秋が一番豊富だ。

 その中から一つ選べと言われてもなあ。

 

 まあ時間帯を考えるなら食欲の秋なのかもしれないが、果たして妹がそんな単純なことを答えにするだろうか。

 

 いやそんなことをするはずがない。

 もっとわけのわからない回答を用意しているからこそ、こんなことを聞いてきているのだろう。

 

「えーっと」

 

「そう。秋といえば鍋です」

 

 俺が口を開くのとほぼ同時にかぶせるように、そしてどや顔でそんなことを口にする妹。

 

 鍋? どうしてここでも鍋が出てくるの?

 もう鍋からは解放されたんだよ。

 

もう半年はその言葉を聞きたくないくらい、堪能してきたんだよ。

 勘弁してくれ、ふざけんな。

 

 妹はふっふっふと気持ち悪い笑いを浮かべながら扉を開ける。

 

 開いた扉の隙間から熱を持った煙が漏れ出してくる。

 

 え、なにしてんの? 火事? 放火?

 家族に我が家を放火されてるの?

 

 急いでリビングへと入る。

 

 目の前には机の上に身を乗り出し、小さな手からあふれるほどに掴んでいる肉を、大口を開けて今まさにその中に放り込もうとしているレイの姿があった。

 

 

 レイさん、それ生肉ですけど……?

 

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