気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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105話 もうちょっと待てば季節に沿った料理なのに、まだちょっと早い気がする。

 いや待て待て待て待て待って、レイそれ生肉だから!! 超絶危ない生ものだから!!

 

「ちょっとレイちゃんなにしてるのー!!?」

 

 ダッシュでレイのもとへと駆け出す俺と妹。

 まさに彼女の口の中に吸い込まれんとしていた生肉をすんでのところでキャッチする。

 

 妹はレイが掴んでいる生肉を解放しようといつの間にか手に持っていた菜箸で肉を引っ張っている。

 しかし不思議パワーが働いているのかレイがとんでもない馬鹿力を発揮しているのか、生肉はその場からピクリとも動こうとしない。

 

 あーもう生肉を手でわしづかみしてるから、めちゃくちゃ手がべたべたしてるんだけど。

 しかし今レイはどんな顔して生肉をつかんでいるのか。妹からの襲撃に抵抗しているのか。

 

 そんなことが気になった俺はふとレイの顔へと目を向ける。

 その瞬間にレイもこちらを見ていたのかばっちりと目が合ってしまう。

 

 突然訪れる沈黙。

 

 まるで時が止まったかのように、多分時間としては一瞬なんだろうけど何分にも感じられるような、そんな奇妙な時間が流れていた。

 

 俺がぽけーっとしていると、レイは突然顔を真っ赤にして大げさに後ろへとジャンプして俺から大きく離れる。

 それと同時にレイの手から肉が解放され、妹が宙に浮いた肉を器用に菜箸でつかみ取って皿の上に戻していく。

 

 ……ええ。

 

 今まで一つ屋根の下で過ごしていたから、目が合うことなんてしょっちゅうあったのに、こんな警戒されるの最初に会った時以来なんだけど。

 普通にショックなんですけど。

 

 いや、ま、まあ結構な至近距離で顔が接近していたし、そのことにびっくりしただけかもしれないよな。

 それくらいしかいまさらレイに警戒される理由なんて思いつかないし。

 

 自分にそう言い聞かせ、ようやくその場が落ち着いたことにより周りにも目が向くようになる。

 

 いつも簡素であまりものが置かれていないはずのテーブルの上には、色とりどりの野菜やら、レイが触ってぐちゃぐちゃになったのであろう肉が皿に並べられておかれていた。 

 

 そしてテーブルの真ん中には見覚えのない土鍋が置かれていた。

 あー……鍋ってそっちの鍋ね。リアル鍋の方ね。

 

 いや別に後輩が持っていた鍋がバーチャルとか妄想とかそういうわけではないけど、なんというかジャンルが違う方の鍋だった。 

 

 そもそも俺こんな土鍋持ってったけ?

 うちには今そういった鍋系統のものはないと思ってたけど。

 

「ど、どうよ」

 

 どもりながらも妹は胸を張りながら、こちらを見つめてくる。

 妹が俺にとってほしいリアクションとしては驚いてほしいのだろう。

 でもなあ。さっきのレイの行動を見た後だしなあ。

 

 確かに普通にリビングに入ってこんな準備を見たら、普通に驚いたんだろうが、さっきのレイの映像が強く目に焼き付いていて、いまさら鍋を見ても「おー鍋だー」くらいの感想しか思い浮かばない。

 

 というか鍋って普通冬とか寒い時期にするんじゃないの?

 なんか鍋をするにはまだ若干残暑がのこってざんしょ。って感じなんですけど。

 

「この土鍋は何?」

 

「えー、感想そこ? これを見てまず気になるところがそこなの? そんなんだから彼女できないんだよ? 自覚してる?」

 

 土鍋と彼女は関係ないだろ。

 なんだよ。道行く人に「へいそこの彼女、土鍋変えた?」とか「ハローお姉さん。最近土鍋使ってる?」とか聞きまわれば彼女ができんのか。

 

 土鍋トークで女性がホイホイついてくんのか。怖えな土鍋。

 なんだよ土鍋トークって。

 

「まあいいや。この鍋はこの家に鍋という存在がなかったから、わざわざ買ったの。持って帰ってくるのめちゃくちゃ重かったんだから。実家から持っていったあの大きな鍋はどうしたの? ……てなんで聞いただけでそんな顔ゆがめるの。不細工だよ」

 

 うるせえ。嫌なことを思い出させるんじゃねえ。

 その鍋は今元気に変人の家で愛用されているだろうよ。

 

 どういう使い方されているのかは知らんけど。

 被り物として使われているのか、それとも新手のバッグとして使用されているのか。

 使用用途はわからないが、きっとろくな使い方をされていないことは容易に想像がつく。

 

 ご愁傷様。元うちの鍋よ。

 

「おなかすいた」

 

 いつの間にか妹の隣に移動していたレイがお腹をさすりながら、テーブルの上の食材たちにらんらんと目を光らせている。

 

「そうだよねー。お腹すいたよね。考えなしのおバカさんはほっといて、ご飯にしよっか」

 

 妹は俺には一切見せることのない満面の笑みをレイに向けると、俺のことが見えなくなったかのようにテーブルの前に座る。

 まあ俺も座るんだけど。

 

 いつもならテーブルの上が座る定位置であるレイは、今日はテーブルの上が食材でいっぱいだからか妹の膝の上に座っていた。

 てっきり俺の方に来るのかと思ってたけど、ずいぶんと二人は仲良くなったみたいだ。

 

 なーんか、レイとの間に距離を感じるような気もするけど、まあ……気のせいかな。

 そういう日もあるよね。

 

「うーん、ちょっとやりすぎちゃったかな」

 

 妹が何か独り言を言っているが、よく聞こえなかった。

 まあなんやかんやで平穏に鍋パーティは幕を開けた。

 

 パーティというには身内ばっかりだし、人も少ない気がするけど。

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