気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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11話 なんだかんだ仲良くなってきたので、名前を付けようと思います。(後編)

 何かしゃべらなければと強迫観念に近い何かにかられた俺は、自分自身のデザートであるはずのシュークリームを進めてみる。何やってるんだ俺は?

 

 目の前の女の子は俺の言葉に反応して一瞬首を縦にこくっと振ったものの、そのあとすぐに思い直したのか、はっとした表情を見せながら、ふるふると横に振りなおす。

 

 風呂とかはいってないだろうに、どうしてこの子はこんなに髪がサラサラなんでしょうね。

 実は俺の知らない間に風呂に入ってるとかそんなことある?

 さすがにそうなってくると水道代折半にするか考えちゃうけど。

 

 俺は頬杖をつきながら、目の前の女の子が首を振るたびにさらさらと流れに任せて揺れている髪をじっと眺める。

 

 女の子は唐突に首を振るのをやめると、思い出したかのように俺の目の前にあるメモ帳をじっと見つめていた。

 

 そうそう、俺が出かける前とか帰ってきたときとかもこうやってすごい目力で見つめてくるんだよな。

 

 メモ帳に魂はないと思うよ?多分。

 

 そういえばこの子に言いたいことがあったのを思い出した。

 

「だから机の上には座るなよ?なに?お気に入りなの?ちょこんと座っているのはかわいいけど、でもだめだよ。行儀悪いよ?」

 

 女の子は俺の話を聞いてもいないのかずっと俺がさっきまで文字を書いていたメモ帳を眺めている。

 

 会話が進まない……。まあ一日通して、休日の日は俺は終日独り言しかしゃべってないから会話なんて何一つ成立してないんだけど。

 

「なに、そんなに気になる?俺そんなに字汚い?」

 

 そんなに見つめられると嫌でも気になるじゃん。これでも社会人として最低レベルの文字の綺麗さは保っているはずだ。

 

 仕事しているときですら最低レベルだからな。今俺が書いているこの文字が読めるかどうかなんてことは知らん。

 俺が読めるからいいんだよ。

 

 女の子はいつまでたっても彼女の意図に気づかない俺に業を煮やしたのか、メモ帳にかいている文字を指さす。

 

「ん?ポチ?」

 

 フルフル。

 

「タマ?」

 

 フルフル。

 

「ポチ?」

 

 ぶんぶんぶん。

 

 あー、髪がサラサラだー。すごいなあ、触ってみたいけど触れないだろうなあ。

 女の子の髪ってみんなこんなさらさらなの?すごいね女の子って。人間の神秘だね。

 

 目の前のいる子は人間じゃないけど。

 

 どうでもよい思考をしていると、目の前から冷たい空気が流れ始める。

 冷気の先を見ると女の子がふくれっ面でこちらを見つめていた。

 残念!そんなことをしても可愛いだけだから俺には全く効果がない!!

 

 あ、寒い、寒いです。ごめんなさい。ちゃんとやります。すいません。

 

「えっと……レイ?」

 

 コクコク!

 

 まだ横線で消されていない文字『レイ』にボールペンで指さして呼ぶと、さっきまで首を横に振ってたのに、今度はヘドバン並みに激しく縦に振っている。

 

 もしかして俺がこれやってるのずっと聞かれてたってこと?

 

 そう、今日俺はこの貴重な休日の一日を使って彼女の名前を考えていた。

 まあ一日ってまだ30分くらいしか費やしてないんだけども、それでも考えていた。

 

 いや、幽霊か俺の想像なのか何者なのかわからない奴に名前を付けるなんて自分でも変だとは思う。

 

 でも出かける前とか帰ったときとか物陰から出迎えてくれて、俺が買ったデザートをおいしそうに平らげてくれやがって、俺が話しかけると物が飛んできて反応してくれる。

 

 まあそんな律義な同居人に愛着がわかないわけがないんだよな。

 それでずっとあの子とか、女の子とか、おーいとか、彼女とか呼ぶのはなんか違うなってなるじゃん?

 

 彼女って言ってたらなんか紛らわしいし、別に付き合ってないし。

 いやそんなんでからかうのは中学生までですよ、ほんとに。

 ちょっと丁寧な言い方したら女性はみんな彼女でしょ?

 いやこの言い方は語弊があるか。日本語って難しいな。

 

 ともかく俺は目の前に女の子にこっそり名前を付けることにしたのだ。

 そう、こっそりだ。

 しかし俺の作戦は見事に粉砕され、すべてこの女の子に筒抜けだったらしい。

 

 もう首を振るのやめた方がいいんじゃない?首疲れるよ、痛めるぞ。寝違えるぞ。

 

「……さすがに恥ずかしいなあ」

 

 でもこれも怪我の功名。彼女が気に入ってくれたならそれが一番かもしれない。

 

「俺が名前決めちゃっていいのか?タマ」

 

 一瞬で鳥肌とジト目が襲い掛かってきました。

 この子を前にするとついからかいたくなるんだよ。幼い少年の心を忘れてないってことで許してくれよ。

 

「レイでいいのか?名前とかめちゃくちゃ安直だぞ?」

 

 さすがに俺自身も不安になるネーミングセンスだが、目の前の女の子はよっぽど気に入ったのか必死にヘドバンを再開させている。

 

「わかった、わかった。じゃあ今日から君のことはレイって呼ぶからな」

 

 俺は新しいページを開くと一ページ丸々使って『レイに決定!!』と書いた。

 うん思った以上に達筆だ。なんて書いてあるのかまるで分らん。

 

 かくして目の前の女の子の名前がレイに決まった記念すべき日となったわけだ。

 いやあまさかこんなすぐに決まると思ってなかったな!

 

 俺は凝った肩をほぐすようにぐるぐると肩を回してリラックスモードへと移行する。

 

 しかし目の前に座るレイはまだじっとメモ帳を、ていうか『レイに決定!!』と俺が書きなぐった文字を見つめている。

 

「どうした……レイ」

 

 う、なんか名前を呼ぶと途端に女の子らしさというか人間らしさが出て、自分がつけた名前なのにちょっと呼ぶのが恥ずかしいな。

 

 なんだ、このむず痒い感触は。こんなの忘れてたぞ……。

 だって俺が女の子の名前を呼んだのなんてかれこれ3年…5年…いや8年……?

 やめよう過去を振り返るのは。むなしくなるだけだぞ、俺。

 

 しかし俺がこんなにもしょうもないことを考えているというのに、レイはそこから一歩も動こうとしない。

 いつもだったら速攻でどっか行っちゃうのに。

 

「……メモ帳が欲しいのか?別にあげるぞ?」

 

 そういった直後だった。俺の目の前においてあったメモ帳が一瞬で消え、それと同時にレイの姿もかき消える。

 

 そして数秒後にもう一つ部屋がバタンと閉まる音が聞こえてきた。

 そんなにあのメモ帳ほしかったのか。

 

「……て、レイのやつボールペンまで持っていってるじゃん! それは会社でも使ってる普通にいいやつだから!ちょっとお高いやつだから!返してくれますかね!」

 

 その後家の中からは俺の怒号と激しい物音とふふふふという楽し気な笑い声が響いていたと、後日隣人が嫌味たらしく教えてくれた。

 

 あ、ボールペンは普通に見つからなかったし取り返せなかったので、新しいのを買いました。

 

 やっぱり掃除プラス洗い物も覚えさせてやろうかな。

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