気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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112話 はじめての連続で混乱しているみたいだけど、ちゃんと楽しめているようで何よりです。

 背中は熱い。腹上は冷たい。

 俺は寝転がっている。レイは俺にまたがるようにしてしがみついている。

 久しぶりのスキンシップの結果、こういうことになってしまった。

 

 いや正直嬉しいよ? レイから歩み寄ってくれたんだからそりゃ嬉しいさ。

 でもどうして実態のないはずのレイがぶつかって、俺は派手に砂の上で転んでるんだろうか。

 

 ほんとこの子の構造がどうなっているのか誰か教えてほしい。

 俺は一生かかっても解き明かせそうにない。

 

 まあでも今はそうも言ってられない。

 レイは何かに対してひどくおびえているようだ。

 

 頭についた砂を払いながら、ゆっくりと起き上がる。

 そしてレイがずっと見つめている方に目を向けるが、特に何か怖がるようなものがあるようには見えない。

 

 さっきはつい勢い余って海に対して怒ってしまったけど、別に海が荒れているわけでもないしな。

 

 レイの方に視線を戻しても彼女と目が合うことはない。

 彼女の視線の先を追ってみると、やっぱり海の方を見ていると思うんだけど、やっぱり俺には何も見えないんだよなあ。

 

 ご存じの通り俺には霊感がない。

 だから仮にレイが仲間的な種族としては同じ的な何かが見えていたとしても、俺はそれを目視することはできない。

 

 こうなったら近づくしかない。

 その場で靴と靴下を脱ぎ、ズボンを捲し上げながら海の方へと近づく。

 

 レイはというと信じられないものでも見るような目で俺のことを見つめてきていた。

 ……やっぱりやめとこうかな。

 

 なんでそんな「お前正気か?」みたいな目で見てくるの?

 そんなにやばいナニカがいるの?

 レイが止めてくれたら俺も別に無理する必要もないんだけど。

 

 しかしレイが俺を止めようとする気配はない。

 それどころか俺に近づくつもりもないみたいだ。

 

 さっきはあんなに猛烈なアタックをしてくれたというのに。物理的にだけど。

 いやある意味精神的なのか? あのアタックはどういう分類に入るんだろう。

 

 ともかくレイが俺のこと止めてくれないから、俺は海に近づくしかない。

 耳に入ってくる罵倒の数々を意識的に無視しながら、ゆっくりじわじわと波打ち際の方に近づく。

 

だいぶ近くまで来たけど、全然違和感とかは感じない。いや単純に霊感がないから、気づいてないだけかもしれない。

 

 波が素足に触れる。

 やっぱり結構冷たいな。

 

 こんな中で泳いだりでもしたら、死んじゃうもんな。

 やっぱりどうしてこんな時期に海なんて来たんだろう。

 そりゃ叫ぶくらいしかやることなくなっちゃうよな。

 

 もう少しくらいは進んでも大丈夫か。

 さっきまで背中が砂の熱さにやられていたからか、このくらいの冷たさが今はちょうどいいまである。

 

 でもこれ以上進むと急に深くなったりするから、そろそろ止まりたいんだけど。

 レイの様子をうかがうために、後ろを振り返ると彼女はさっきまでのおびえたような表情ではなく、きょとんとして首をかしげていた。

 

 いや首をかしげたいのは俺なんだけど。

 いったい何におびえてたんだよ。

 

「大丈夫?」

 

 何の心配か知らないが、首をかしげながら不安そうに尋ねてきたので訳も分からないままとりあえず首を縦に振っておく。

 するとレイは恐る恐るこちらに近づいてきた。

 

 しかし波が砂浜へ迫るたびにレイはそれをにらみつけるようにして、びくっと震えながら足を止めてしまっていた。

 

 あー、そういうこと。

 迫ってくる波に襲われるって思ってること?

 

 レイって大きい音が苦手だったり、基本的に受け身だもんなあ。

 海の積極性なんて天敵に近しいだろうな。

 まあ物理的干渉を受けないんだから、関係ないような気もするけど。

 

 そんなことを考えている間にもレイはゆっくりと歩を進めている。

 俺も少しレイの方に近づいて、万が一転んでも受け止められるくらいの距離に立つ。

 

 まあこれもレイにその気がなければすり抜けるんだろうけど、そこは気分でカバー。

 

 ついにレイの足に波が触れる。

 

 触れるといっても俺が立っているところみたいに波が乱れるわけでもなく、特に流れに変化はないけど、レイからしたら触れた感触があるのかジャンプしてそのまま砂浜まで後ずさりしてしまった。

 

 何かしてあげたいけど、かといって俺に何もできることはない。

 せいぜいずっと海の中に足を入れて、安全だと身をもって示すことくらい。

 

 結構足が冷えて感覚とかなくなったけど、ここでおおげさに海から出ても余計に恐怖心を抱かせてしまうかもしれない。だから我慢だ。

 まあ無理して海に触れる必要もないとは思うけど、レイも頑張ってるしな。

 

 そこからレイは何度か海に立ち向かっては砂浜に戻りを繰り返し、ついにはその場にしゃがみこみ、自分の足元を流れている波をじっと見つめていた。

 

 別に転んだとかではなく、自主的にしゃがみこんだって感じ。

 もしかして妹に倣ってこの子も海に喧嘩うりだしたんだろうか。

 

「大丈夫か?」

 

 近づいて波を揺らしてレイを刺激するのもどうかと思い、一応そこから動かずに声をかける。

 

「……おもしろい」

 

 ……全く面白そうとは思ってなさそうなトーンだけどほんとに大丈夫?

 

 そんな心配をしたのもつかの間、顔をあげてこちらのレイはわかりやすいほど目をキラキラさせて俺の顔を見つめてきていた。

 

 なんだ、ちゃんと海と仲良くなれてるじゃん。

 もう完全に海を人と同列にしてるけど、これ海に対して失礼とかにならないよね。

 海もレイと仲良くなれて光栄でしょ。

 むしろ海には感謝してほしいくらいだ。

 

「さとる後ろ!」

 

 生暖かい目でレイと見つめ合っていたら、突然レイが慌てるように俺の背後を指さす。

 

 いやいやレイさん、いくら定番とはいえ幽霊自身がそれをやっても俺は引っかからないよ。

 むしろやるなら俺がレイの方指さして言うべきセリフだからね? 

 

 そんなことを考えていてもそれでもついつい気になってしまうのが人の性というもので、俺は後ろに体をひねろうとした。

 

「ざばーん」

 

 やけに無機質な声が聞こえてきたと同時に全身が一瞬で冷たさに覆われる。

 レイがとてつもない冷気を放ったのかとも思ったけど、口元がしょっぱいし全身濡れてるしどうもそれとは別のようだ。

 

 頭に理解が追い付いてきたところでようやくひねりかけていた体を完全にひねり切り、後ろへと体を向ける。

 

 そこには高々と掲げたバケツをさかさまにして満面の笑みでこちらを見つめている妹の姿があった。

 

 なに? 海に嫌われすぎて海に体を乗っ取られたの?

 

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