気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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114話 些細なことで戦いは終わりを迎え、そしてまた些細なことで戦いは再開する。

 世はまさに群雄割拠の時代。

 歴代の名だたるバケツ将軍たちが大海で自分の尊厳をかけて戦を行っていた。

 

 そしてそれは俺たちも例外ではない。

 いま兄妹での悲しい戦がこの静かな秋の海で繰り広げられていた。

 

「はあ……はあ……」

 

「もうそろそろ降参したら?」

 

 俺は今兄の尊厳をかけて実の妹と戦っている。

 そして状況は最悪。

 

 俺は全身びしょびしょ。手足の感覚どころか全身の感覚すら残っていない。

 満身創痍。まさにそんな状況だといえるだろう。

 

 そして対する妹は無傷。

 せいぜい海に使っている足が濡れているくらいだろう。

 

 そして息が上がっている俺に対して妹は嘲笑の笑みをこちらに向けてくる余裕すらある。

 まさに戦況は劣勢も劣勢。敗北寸前といったところだろう。

 

 ……冷静に考えてみればこの状況になっているのは至極当然なんだけどね。

 

 昔から妹は運動神経がよく、そして明るく家の中で遊ぶよりも外で遊び続けているようなアウトドア派、まあ簡単に言えば陽キャの象徴みたいな存在だ。

 

 対して俺は運動神経はそこそこ、めちゃくちゃできるわけでもなくめちゃくちゃできないわけでもない。いたって普通。

 

 そして休日は外に遊びに行くくらいなら真夏にこたつに入ってた方がまだましと思っているインドア派だ。しかもただの完全なインドアではなく、たまにキャンプとかアウトドアなこともしてみたくなるめんどくさいタイプのインドア派だ。

 

 そんな陰キャな俺がこの勝負において妹に勝てる要素は正直ない。

 そんなことはこの戦が始まった開始5分くらいで早々に気づいた。

 

 俺が放った水が一切妹に当たらない時点でこうなることは悟っていた。

 だがそれでも俺には譲れなかった。

 

 なぜならここで勝負を断りでもしたら、多分少なくとも10年くらいはそのことでバカにされる。

 

 今までだってそうだった。

 そんなことになるくらいなら、負けるとわかっている勝負でも、断るよりは受けた方が後々のことを考えると楽なのだ。

 

 そして勝負が始まれば俺は元来の負けず嫌い。

 ただ単純にそのまま降参するなんて真似はできない。全力でぶつかって全力で砕かれなければならない。

 

 まあ負けるつもりは毛頭ないんだけど。

 さあいよいよ疲れで考えていることも支離滅裂になってきたぞ。

 

 今自分が何を目的としてこんなハードなバトルを繰り広げているのか、すでに理由は見失っている。

 

「さと兄へとへとのべたべたのびしょびしょじゃん。気持ち悪いの三拍子が勢ぞろいだよ。もう諦めたら?」

 

「なんだ、降参か?」

 

「今のこの状況をどれだけポジティブに捉えたらそういう返事ができるのよ……」

 

 はっ! 隙を見せたな!

 ため息をつきあからさまに俺から視線を外し下を向いた瞬間に、すでに海水をなみなみと注いでいるバケツを妹に向かって振りかぶる。

 

「ほんとわっかりやすいなあ」

 

 しかしいとも簡単によけられてしまい、そして反撃を食らう。

 いくら俺の身体から水分がなくなりそうになっても、すぐに妹に追加されて俺は再びびしょびしょになる。

 どうして俺が水をかけようとしているタイミングがばれているんだろう。

 

「教えてあげよっか? さと兄が何かしようとするときは、目が一瞬こうクイって吊り上がるの。すっごくわかりやすいくらいに悪人面になるの。だからタイミングなんてさと兄が教えてくれてるようなもんだよ?」

 

 なんだそりゃ。そんな癖あれば自分でも気づきそうなもんだけど。

 それにこれまでそんなこと誰にも指摘されたことがない。

 

 ただ現実問題、今まで妹にすべて攻撃のタイミングを見切られよけられているということは、妹の言う通りそういう癖があるのだろう。

 

 ……今までみんなそんな分かりやすい癖をスルーしてくれてたってこと?

 なんかすごい恥ずかしいんですけど。

 くっ。精神攻撃とはなかなかにやりおるな!

 

「さとる! 見てー」

 

 俺のことをなめくさり、もはやバケツに海水を注ごうともしない妹の目の前で、再びバケツに水を入れる。

 そんなとき背後から引っ張られるような感覚とかわいらしい声をかけられる。

 

 レイに呼びかけられたら一時休戦だ。

 俺はかがめていた腰をあげてレイの方に向く。

 

 そして渾身のどや顔を披露しながら彼女が指を指している方へそのまま視線を動かす。

 そこには砂でできたアイス棒タワーがどでかく俺の目の前にそびえたっていた。

 

 ……えーなにこれ。なんでお城とかそういうのじゃなくて、このアイス棒タワーなの。

 

 しかもなにこの大きさ。2メートルくらいはあるんじゃないの。

 確かにこんなの作ったらどや顔もしたくなるわ。

 

「す、すごいな……」

 

「ふふーん」

 

「どうやって作ったんだ?」

 

「うーん……イメージの勝利?」

 

 俺と妹が見にくい争いをしている後ろでまさか一人完全勝利を収めているものがいるとは。

 またレイのトンデモパワーを使ったんだろうな。

 

 じゃないとレイが自分よりの身長よりも高いこんな器用なもの作れるはずがないもんな。

 絶対途中で崩れて、その瞬間に俺は冷気に襲われて即死しているはずだもん。

 

 いやでも本当に見れば見るほどすごいな。

 単純なアイス棒を砂で表現して見事にそれを積み上げている。

 どうして崩れないのか不思議なくらいのバランスだ。

 これ以上近づくのすら俺の足音で崩れてしまいそうで怖い。

 

「へえーすごーい!」

 

 背後から感心するような高い声が降りかかってくる。

 

 そうだよな。お前もすごいと思うよな!!

 なんかよくわかんないけどすごいよな!

 

 俺はこの謎の感動を妹と共有したく勢いよく妹の方へと振り返った。

 それはもう手元のバケツを振り上げるくらいの勢いで振り返った。

 

 バケツを振り上げた直後、バケツの中になみなみと注がれていた海水が遠心力を失い我先にとバケツから飛び出し、そして妹の顔面に向かって真っすぐと向かっていく。

 

 妹はこちらに顔を向けて、驚いたような呆けているようなそんなあほ面をさらしていた。

 そんなあほ面を見て俺はようやくバケツを持っていたことを思い出し、今の状況を理解する。

 

 しかしいまさら状況を理解してももう遅い。

 時は止まってはくれないんだから。

 

 水は迷うことなく妹の顔面を直撃するとそのまま見事に妹の顔と髪を盛大に濡らし、地面の中へと姿を消した。

 

 妹の髪からぽたぽたと水滴が絶え間なく落ちている。

 うつむいているから彼女がどういう表情をしているのかわからない。

 

 レイに助けを求めようにも、彼女はなぜか俺と妹から離れるように、自らが作成したアイス棒タワーに向かって走っている。

 

 ……この状況で俺は妹になんて声をかければいいんだろう。

 

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