気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

123 / 147
122話 レイは別に何ともないけど、相も変わらずホラーと名の付くものはすべて苦手です。

 夜は静かなものである。一般的に言うのであれば。

 しかし俺の家は一般的ではない。なぜならレイがいるから。

 

 深い眠りに落ちていたと思ったのに、今なぜか無性に体が重くなっているような気がして目が覚めた。

 目を開けても周りはまだ真っ暗で深夜に目覚めてしまったんだなとぼんやりとした頭で自覚する。

 

 少し体でも動かそうと思い、身をよじったがどうにも体が動かない。

 特に機能とかは運動とかそういうのはしてないから筋肉痛で動かせないってこともないと思うけど。

 

 体が動けないと思えば思うほど不思議なもので、顔がかゆくなってきているような気がしてくる。

 これになんか名前を付けてほしいものだけど、なんかあったりするのかな。

 

 顔の方へ手を持っていこうと右腕を動かそうとするけど、やっぱり動かない。

 なんか押さえつけられているような感じがするな。

 

 ……これはもしかして金縛りなのでは?

 

 そんなオカルト的な発想が思い浮かび、全身に鳥肌が立つ。

 いや確かにレイがいるのにいまさら何を怖がるんだって自分でも思わなくはないけど、それとこれとは話が別。

 

 俺はホラーが苦手なんだ。

 

 レイの超パワー、血文字とかそういうのに驚かないのは、あくまで彼女がそれをやっているというのが分かり切っているから怖くないのであって、その他で起こる超常的現象は普通に怖いに決まっている。

 

 首とか顔は何とか動かせるようで、恐る恐る頭だけを持ち上げて体の方に目を向ける。

 視線の先には俺に覆いかぶさるようにしてすやすやと眠っているレイの姿があった。

 

 ……なんだ、レイか~。

 レイのせいで体が動かないとわかって一気に全身の力が抜ける。 

 

 いやちょっと待って。

 なんでレイが俺の身体の上にいるわけ?

 それになんでこんな気持ちよさそうに寝てるわけ?

 

「あのーレイさん?」

 

「……えへへ~」

 

 俺の言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、いや多分聞こえてないんだろうけど、俺の問いかけに対して反応することなくにやにやしながらひたすら自分の頬を俺が被っている布団に擦り付けていた。

 

 布団をどかしてその感覚を味わいたいものだが、残念なことに体が動かない俺にはどうすることもできない。

 確かに最近レイは自分の部屋に閉じこもる時間が極端に減った。

 

 寝るときもよく俺のベッドにもぐりこんできて眠ることが増えていた。

 俺としてはそれには何の問題もないし、むしろウェルカムなんですけど今日は寝る前にレイの姿が見えなかったから、油断していた。

 

 いや隣で寝てるとかだったら別にここまで困惑してないんだろうけど、身体の上となると話は別だ。

 それにこの金縛りみたいなのも無意識なんだろうし。

 

 あまりの幸せな光景に目がさえてしまった俺はここ最近のレイの行動を思い返す。

 そういえばこの間もなんか変なことやってたな。

 

 

 

「さとるー」

 

 とある日の夕方。仕事が終わり帰ってのんびりと過ごしていると、どこからともなく俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ただ声の主であるレイの姿はどこにも見えず、代わりにリビングの入り口に小さな紙切れが置かれてあった。

 

 この感覚も久しぶりだなあって思いながら紙を開くとそこには一本の長い黒髪と『こっち』と一言だけ赤い字で書かれてあった。

 いやこっちって言われてもどっちなのかわからないんだけどね。

 

 その後とりあえずリビングの中をうろうろして特に何もなかったから、リビングの外の廊下に出るとまた紙が落ちてあった。

 そして内容はやっぱり一緒で『こっち』とだけ書かれている。

 

 そして紙に挟まるようにして二本の長い黒髪が置かれてある。

 さすがにレイの仕業だとわかっているから別に怖くはなかったけど、彼女が何をしたいのかは全くわからなかった。

 

 ただここでリビングに戻ってしまうと結局後々怒ったレイの冷気を大量に浴びて死にかけるんだろうし、それなら付き合った方がいい。

 命大事に。いやレイが俺が死ぬようなことはさすがにしないと思ってるけど、冷気はそうじゃないかもしれないじゃん?

 

 ついうっかりで死なないためにもそういうのは大事だと思うんだよね。

 そして俺はまた廊下をぐるぐるすることになる。

 

 また紙が落ちてるんだろうなあとか思いながらいろんな部屋を見て回ったけど、それ以上紙が見つかることがなかった。

 何分かそうやってただうろうろしていると、待つのが嫌になったのか玄関の扉が開く音が聞こえてきて、そこから真っ白な手が顔を出した。

 

「さとるー、こっちこっち」

 

 レイの声が聞こえるとともに白い手が手招きするように俺を呼んでいる。

 それに呼応するように玄関の方に近づくと、手が引っ込みそれと同時に玄関もすごい勢いで閉められてしまった。

 

「えぇ……」

 

 困惑しながら開けていいかもわからないから玄関の前で立ち尽くしていると、急にカタ……カタ……という音が家の中に響き始めた。

 

 なんてことはない。玄関に設置されている郵便受けの扉がゆっくりと開いたり閉じたりしていただけ。

 

 犯人なんてわかり切っている。

 わかり切っているのに当の犯人はそんなこと気にしていないのか、それとも俺が誰がやっているかわからないと思っているのか、徐々にスピードを速めながらひたすらに郵便受けをカタカタと動かしていた。

 

 ……レイがやってるってわからなかったら多少はビビったかもしれないけど、そういうのは自分がやってるってわからないようにやるもんだと思うんだよね。

 さっき自ら玄関に誘導してたし、俺レイの声をすぐに忘れるほど物覚えが悪いわけでもないからね?

 

 とりあえず玄関の扉を開ける。

 そこには郵便受けを触っていたのがまるわかりの手の形をして両手を突き出しながらしゃがんでいるレイがいた。

 

 ちなみにその時のレイはびっくりするわけでもなく、きょとんとした顔でこちらを見上げていたので普通にめちゃくちゃ可愛かった。

 そんな姿が見れて満足したけど、そのまま放置するわけにもいかないのでとりあえず家の中に引き戻す。

 

「近所迷惑になるからやめてね?」

 

 一応そうやって注意したけど、そんなつまらない話をレイが聞いているわけもなく「あれれ?」って言いながら首をかしげていた。

 

 ちなみにその時の顔も普通に可愛かった。

 とぼけてるのか俺が驚かなかったことを不思議に思っているのかはわからなかったけど、とにかく可愛かったので俺は満足です。

 

 そんな典型的なオカルト行為を最近やたらと試してくるレイ。

 理由は何となくわかっている。

 

 テレビをつけた時にたまたまやっていたホラー番組をレイと一緒に見てしまったからだ。

 

 いや、俺は全く見たくなかったんだけど、テレビつけてチャンネルを変えようとした瞬間にレイにリモコンを取られたから、俺に拒否権はなかったんだよ。 

 テレビから離れようとするとレイが強制的に俺の顔をテレビの方に戻すし。

 

 もう俺涙目だからね? レイは楽しそうに見てたけど。

 要するにレイにはホラー番組が多分お笑い番組とかバラエティとかそういう楽しいものに見えてしまったんだろう。 

 

 レイって知らないことを知ったときは基本的に楽しいって思ってそうだし。

 そんな楽しそうなことを彼女が試さないわけがない。

 結果、最近のオカルト行為につながるんだろうな。

 

 相変わらず俺の胸の上ですやすやと眠りこけているレイの姿を見ながらそんな考察をする。

 

 まあレイが楽しければいいんだけど、俺もうまく驚いてあげたりできないからね?

 だって全部レイがやっているってわかったら、結局怖いよりも可愛いが勝っちゃうもん。

 

 驚けるはずがない。むしろその状況でレイに抱きつかず理性を保っている俺をほめてほしい。

 

 

 ……ホラー番組見せるのなしにしようかな。これ以上過激なものを見せると彼女が何をし始めるかわからない。

 危険はないのかもしれないけど危ないことはさせたくないし。

 

 ただそういうオカルト行為にはまってるって言ってもこの間の精神統一という名の突っ立ってるだけのやつとか、今のこの状況とかはよくわからないんだけど。

 

 レイは一体俺にどうしろというのか。

 男心はもてあそばずに大事に丁重に扱ってほしいものだね。

 結局俺は体を動かすことをあきらめて、顔がムズムズしたまま二度寝した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。