気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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123話 人がいくら悩んでいようが、後輩と食堂は相も変わらず平常運転です。

「ああーーーー、んーーーー……」

 

 かれこれ三日間ぐらい悩んでいるけど、結論が出ない。

 そもそも三日悩んでも完売にならないってのがやっぱり怪しいんだよなあ。

 

 なんかいろいろと視線を感じるけど、そんなこと気にしてられるほど余裕もない。

 スマホの画面にくぎ付けだ。

 

「珍しく先輩がいかにもかまってほしいみたいな声あげてますね。こんな誰がいるかわからない食堂でよくそんなこっ恥ずかしいことできますよね。前失礼しまーす」

 

 誰がいるかわからないって、個々の食堂は社員食堂なんだからうちの社員しかいないでしょうよ。

 むしろだれかわからない一般人が紛れ込んでいたらそれはただの部外者だし、不審者じゃん?

 

 俺のそんな突っ込みを込めた目線を受けてもそれを気にする様子もなく、わが後輩は俺の了承を得る前に前の席に座ってしまった。

 

 しかし今日はそんな後輩にも構っていられない。

 俺は再びスマホの画面へと目線を戻す。

 

「それで、どうしたんですか? そんな悩んで。顔色も悪いし。生理ですか?」 

 

 女の子が大衆の面前で何を堂々と口にしてるんだよ。

 しかもご飯をもぐもぐしながらそんなことを言うんじゃないよ。食欲なくなるわ。

 そもそも俺男だし。女性のつらさなんてわかる体に産まれてないんですよ。

 

 一度に怒涛な突っ込みをしないといけないほど、ボケないでもらっていいですか?

 いまそっちにリソースを割いている余裕がないって俺言ったばかりですよね?

 

「ちなみそれなんだと思う?」

 

「え、また唐突な……。私が食べてるやつですか? ビーフシチューですよね?」

 

「メニュー表記上は。実際は?」

 

「んーー、シーフードカレー?」

 

 だよなあ。

 俺は後輩が食べているビーフシチューもどきに目をやりながら再度うなだれる。

 

 ここの食堂は個性が強い。

 でもたまに個性が強いだけじゃすまされないこともあるんだよね。 

 

 というのもこの食堂カレーと名の付くものはもちろんのこと、カレーっぽいものは全てシーフードカレー味になってしまうのだ。

 

 どうしてビーフシチューと名の付くものからほのかな魚介類の味がするのか甚だ疑問ではあるが、実際にそういう味付けになっているんだから仕方がない。

 

 しかもほんのりとかではなくしっかりとシーフードなのだ。

 シーフードカレーを作った鍋をそのまま洗わずに流用していろんなカレーを作ってます。っていう理由では説明がつかないほどにしっかりと魚魚している。

 

「でも先輩も同じもの食べてるじゃないですか」

 

 だってうまいんだもん。

 悔しいことにカレーにバリエーション、ビーフシチューと名の付くシーフードカレー、普通にうまいのである。

 

 嘘偽りさえなければ食堂の人気メニュートップスリーには入るであろううまさをしている。

 だからこそメニューを偽るのがもったいなさすぎる!

 どうせなら素直にシーフードカレーですって堂々と書いておいて!

 

 そんな文句を抱えながらもシーフードカレー味のビーフシチューを頬張りながら、思考を元に戻す。

 そうだよ。同じ感覚を共有できてつい盛り上がっちゃったけど、それどころじゃないんだよ、俺は。

 

「はああああ。どうするかなあ」

 

「またかまってちゃんに戻ってる」

 

 うるせえよ。

 こんなの見たら誰だって同じ反応になるって。

 そう思いながら俺はうなだれたまま、スマホ画面を後輩の方へと突き出す。

 

「何ですか? これ? 旅館サイト? へえ、旅行行くんですか。いいですね」

 

 まあね。せっかくの正月休みという名の有給消化というありがたい冬休みがあるから、旅行の一つでも行こうかと思ったわけですよ。

 

「え、まさか私誘われてます!?」

 

 馬鹿野郎。そんなわけあるか。俺一人で行くんだよ。

 いやレイがいいっていうのであれば、レイと一緒に行きたいけどそもそもレイって県外まで出れるのかわからないし、家からどれだけ離れても大丈夫なのか測ったこともないしなあ。

 

「ごめんなさい。私正月前と正月は帰省してニートするって決めてるんです。だから一緒にはいけません」

 

 だから誘ってないって。無駄に俺が振られた雰囲気出すのやめてくれる?

 そんな頭深く下げなくていいから。別に誘ってないから。

 だから周りもひそひそと「振られてる」とか話さないで! 誘ってないから!

 

「意外だな。てっきり海外にでも行くのかと思ってた」

 

「え? ああ、確かにそれも魅力的ですけど。確かに本物より勝るものはないんですけど。でも海外に行っちゃうと一人にしか会えないじゃないですか? でも実家に帰るとコレクションがいっぱいあるんですよ。のんびりしながらたくさんの彼氏と一緒に過ごせるって思った方が幸せじゃありません?」

 

 わかったからまくしたてるな。

 お前の気持ちは十分伝わったから。俺が悪かったよ。

 というか一人とか彼氏とか紛らわしいからそういう言い方やめてくれる?

 そもそも相手人間じゃないじゃん。

 

 コレクションって何。建造物のフィギュアとか写真とか実家に飾ってるの?

 まあ確かにレイのフィギュアとか写真とかあれば俺もその部屋から出ないだろうけど。

 

 まあ? 俺の場合きっとその部屋に本物のレイがいるから結局両方楽しめちゃうんですけどね?

 

 ていうかレイって写真に映るんだろうか。

 ああ、ダメだ。また思考が脱線してる。

 今は旅館の話をしてたんだった。

 

 こいつと話してるとついつい思考がわけわからない方向に発展しがちで困る。

 ほんと反省してほしい。

 

「この旅館の値段、どう思う?」

 

「……あれ、私もしかして誘われてるわけじゃなかった? まあいいや。えーっと……一拍千円? この和風で立派そうな旅館で?」

 

 そう、俺の悩みの種。それはこの旅館が安すぎることだった。

 

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