気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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124話 怪しすぎて諦めようとしてたのに、どうしてそういうことするの?

 この旅館の情報を見つけたのは家で観光地を調べてあらかた行きたい場所が決まって、さて旅館でも調べようかと思ってまとめサイトを開いていた時だった。

 

 確かその時はレイも一緒で、それまでは俺のスマホの画面をのぞき込んでいただけだったのに、旅館サイトを開いたとたんに勝手にスマホをスクロールしたかと思うと、タッチしてとあるページを開いた。

 

 覗き込まれている時とかって、特に悪いことをしているわけでもないのに謎にむずむずしちゃったりするよね。

 

 なんだろうねあの感覚。ほんとにやましいこととかは一切調べてないのに、あのプライベートをガン見されている感覚。 

 ……ほんとに何もやましいことはしてないからね?

 

 それはさておきその開いたページに出ていた旅館情報が問題だった。

 パッと見古民家風の小ぢんまりとしているけど、歴史を感じさせるようないい雰囲気の旅館の画像があった。

 

 そしてまあまあ広い温泉。しかも部屋にも露天風呂付ときた。 

 まあなんというか俺の好みにはドンピシャの外装と内装をしていたんだよね。

 俺はフローリングよりも畳の部屋の方が好きだし。

 

 で、ほとんどひとめぼれで、しかもレイが偶然かもしれないけど選んでくれたっていう補正もかかって、多少高くても俺はここにしようと思っていたわけ。

 別に何か金を使う趣味があるわけじゃないし、最近もレイの食費がプラスされるくらいで、多少高い旅館に泊まれるくらいの余裕はあったし。

 

 そう思いながら金額を確認したら「千円」って、本当にそれだけ書いてあった。

 俺はそこで思った。

 あれ、この旅館もしかしてやばい?

 

 だって普通に考えたら一拍一人一万円以上は取れそうな旅館だ。

 それなのに千円って。

 いくらなんでも怪しすぎるでしょ。

 

 ここの画面を選んだレイはもう飽きてしまったのかどっかに行ってしまっていたし。

 しかもさらに不安になることがその下に書いてあった。

 

『予約確定後取り消し不可』 

 

 ……えぇ。何このあからさまな逃げるなよ宣言。というのが初見の反応。

 それから何度見ても怪しさしか感じなくて予約を躊躇している。

 

 いや確かに別のところにすればいいとは思うんだけど。

 こうなんというかこの旅館には謎に惹かれる魅力があるんだよね。

 

 もちろんほかの旅館の情報も確認したけど、どうしてもこの旅館の魅力を超えるようなものが現れない。

 だから妥協するかこのまま予約してしまうか迷っているのだ。

 

 そしてこの旅館を見つけてしまった張本人であるレイになど聞いてみても、首をかしげるだけで何も言ってくれないし。

 

 そうしてかれこれ一週間ぐらいこのサイトと見つめ合って過ごしている。

 今の最大の悩みの種である。

 

 

「へー、いかにもって感じですねえ」

 

 後輩の間延びした声で現実に引き戻される。

 そうだよね。こんなの誰が見たって怪しいって思うだろうし、多分これを見つけてもよっぽどの変人じゃない限り予約しようなんてことは思わないだろうね。

 そこまでわかっているのにどうして俺はこんなに悩んでるんだろうな。

 

「実は写真を加工しまくってボロボロなのを隠してるとか? んーそれにしては自然なんですよねえ。空間がゆがんでそうな加工もしてなさそうだし」

 

 珍しく真剣な表情を見せながら俺のスマホ画面を見つめて、ぶつぶつとつぶやいている後輩。

 確かに俺もその線は考えたし、俺には写真加工の技術がどれほど進んでるのかわからないから判別つかないんだよね。

 

 ただ建造物に対して目が肥えすぎている後輩がいうのであれば、加工の類はないのだろう。多分。

 そこに関しては信じてもいいような気がする。

 

「事故物件とか? やっぱり定番だと幽霊が住み着いてるとか、実は存在しない旅館だとかそんなところですかねえ」

 

 定番な展開にはなってほしくないものだけど、やっぱり思い当たるところといえばそのくらいだよね。

 今となってはレイが選んだっていうのも怪しいところだもんな。

 

 いや別にレイを疑うわけじゃないけどさ。

 霊的な何かで惹かれあって選んだだけなのかもしれないし。

 

「うーん……えいっ」

 

 考えれば考えるほど答えなんて出ないなんてわかってるのに、どんどん思考の渦に飲まれそうになっていく。

 そんなとき突き出した片手が少し押されるような感覚があり、後輩の方へ意識を戻した。

 

 すると後輩は俺のスマホへ指を突き出し、何かをタッチしていた。

 ……え、もしかしてお前。

 

「レビュー待ってますね」

 

 ニコッと笑いながらそんなことを言い放ち、自分のスマホを触りだす後輩。

 慌ててスマホの画面を確認するとそこには『ご予約ありがとうございました。心よりお待ちしております』というメッセージが画面いっぱいに表示されていた。

 

「おま!!」

 

 なにやってんの!?

 誰も俺の代わりに予約してなんて頼んでないよね!?

 どうして勝手に予約しちゃったの? お金払ってくれるの?

 

 え、どういうつもり?

 ねえスマホ見てないで、こっち見て説明してくれよ。

 

 後輩を睨みつける勢いで見つめ続けるが、後輩は険しい表情をしながらスマホを見ていて、全く俺の方を見る様子がない。

 

 おい、何とか言えよ。

 やっと俺の念が伝わったのか後輩は顔をあげる。

 しかしその様子がどこかおかしかった。

 

「あの先輩……」

 

 恐る恐るといった様子で俺に話しかけてくる後輩。

 なぜかその先は聞きたくなかった。

 

 聞いたらもうなんか、どうにかなっちゃうんじゃないかって感じがした。

 すごい嫌な予感がした。

 

「今私も同じサイトで旅館があるか確認してたんですけど」

 

 やめて。それ以上は言わないで。

 そうだとしても冗談だといって。

 今なら許してあげるから。

 

「その旅館情報全く出てこないんです」

 

 後輩の静かな声がすんなり頭に入ってくると同時に手に持っているスマホが短く震える。

 

 画面を確認すると、それは『予約完了』のメールの通知だった。

 

 

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