気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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125話 突然のご褒美は心臓に悪いし止めてほしいけど、やっぱりやめないでほしい。

「はああ、疲れたあ」

 

 特大なため息をつきながら、玄関の扉を開ける。

 今日は特に仕事の内容で疲れたとかそういうのじゃなくて、バカでどうしようもない後輩を追いかけまわすので疲れた気がする。

 

 あんなに廊下を全力疾走したのとか学生時代以来だよ。

 なんか周りから白い目で見られていたような気がしなくもないけど、そんなことより俺を死地に送り込んだかもしれない悪党を懲らしめることで精いっぱいだった。

 

 まあ結局捕まらなかったんですけど。

 無駄に運動神経いいんだよな。

 

「おかえりなさいませ。ご主人様」

 

 唐突に聞きなれない言葉が耳に飛び込んでくる。

 反射的に顔をあげて玄関に目を向けると、なぜかメイド服を着たレイが俺に向かって頭を下げていた。

 

 ……いやなにごと?

 

 一瞬パニックになりながらもなんとか正気を保つ。

 あぶねえ。あまりのメイド服姿のレイの可愛さと破壊的な一言に天に召されそうになった。

 

 あれ、そもそも幽霊がメイドになってるってそれは本当にメイドカフェじゃなくて冥土に連れていかれるのでは?

 

「ご主人様?」

 

 あまりにその場から動こうとしない俺を見て不思議に思ったのか小首をかしげながら、俺の方を見つめてくる。

 

 正直そんな格好でそんな可愛い顔でこっちを見ないでほしい。

 俺の正気が保てないから!

 

「た、ただいま」

 

 とりあえず動揺しながらもいつも通りを装い、廊下へと歩き進める。

 しかしレイの隣を通り過ぎた直後、カバンを持っていた方の腕が何か強い力に引っ張られ、足を止める羽目になってしまった。

 

 振り返るとレイがしかめっ面でカバンを見つめている。

 なんだろう。カバンにうらみでもあるのだろうか。

 

「お荷物、お持ちいたします」

 

「え、ああ……いや……」

 

 どうして今日のレイはこんな感じなのか。

 何かの役に入り込んでいるのは間違いないと思うんだけど、どうしてメイドをしているときはそんなに流ちょうにしゃべれるの?

 

 いつもはしたったらずな子供みたいな感じなのに。

 そのギャップはずるくない?

 

「大丈夫」

 

「……お荷物お持ちします」

 

 どうやら俺が持ってるかばんを片付けたいようだが、別に中身に何か重たいものが入ってるわけでもないし、いつも俺自身が片付けているわけだから別にそんな必要性は感じない。

 

 だから大丈夫だよって意味で断ったんだけど、なぜかレイさんはふくれっ面をして同じ言葉を繰り返している。

 

 どうしてそんなに俺のカバンをにらみつけてるの!

 俺のカバンが一体何をしたというのか。

 

 こうなっては俺が意地を張っても仕方ない。

 別にレイに渡したところでカバンが粉々になるわけでもないし、拒み続ける理由も特にないしな。

 ……さすがに粉々にはならないよね?

 

 カバンの行く末を若干気にしながらカバンを持つ手の力を緩め、そのまま手から離す。

 するとレイは嬉しそうにはにかみながらカバンを抱えながら、俺の後ろに立った。

 

 そんなレイを横目に見ながら自分の部屋に入ると、なぜか会社に行く前は落としていたはずのパソコンの電源がついていた。

 

 スリープモードになっていた画面を立ち上げパソコンを開くと、そこには配信されている海外ドラマのワンシーンがフルスクリーンで映っていた。

 パソコンいっぱいにメイドさんがずらりと並んでいる。

 

 さてはこれに影響されたんだな。

 どうして主人公やヒロインではなくてモブキャラのメイドに影響されたのかは謎だけど、レイの突発的な行動の意味は分かった。

 

 というかメイド服まで着れるって妹は一体何をやってるんだ。

 後でメッセージで説教しておくか。

 

 レイの行動の意味は分かったが、今日レイに聞きたいのはそのことではない。

 もっと大事なことを聞かないといけない。

 

 そう思いレイの方に再度顔を向けると、いつの間にか手に持っていたカバンをどこかにやってふわっと広がっているスカートをつまんでくるくるとその場で回っていた。

 

 メイドってそんな感じで遊んだりしないと思うんですけど……レイさん、もしかして飽きてらっしゃいます?

 

「なあレイ」

 

「な~に~?」

 

 間の抜けた声で返事をするレイ。

 うん、これは完全にメイドをするのに飽きてるね。もしかしたらすでにそんなことをやってたことすら、どうでもよくなってるのかもしれない。

 

「この旅館に見覚えは?」

 

 まあ気にしても仕方ないから、俺はスマホに表示されている例の旅館のページをレイの方へと突きつける。

 目は悪くないから見えてるはずなのに、彼女はなぜか顔をしかめながらスマホに超至近距離まで顔を近づけると、そのまましばらく眺めていた。

 

 その距離だと逆に何も見えなくなってると思うんだけど、もうそれは突っ込まない方がいいんだろうね。

 

「知らない」

 

 まあ返ってきた答えは予想通りだから別に驚かない。

 やっぱりこの旅館は別にレイが惹かれたからとか何か関係があるから、選んだというわけではないらしい。

 

 たまたま……強いていうのであれば旅館の方がレイを引き付けて選ばせたというべきだろうか。

 そんな考えをすればするほど行くのが嫌になってくる。

 

 でもせっかくの旅行だから、あいつにも責任取ってもらって完ぺきな計画を立てよう。

 ……とりあえず明日後輩を捕まえて連行しよう。

 

 旅館サイトのページでもう一室部屋の予約をしながら、固く心に誓い、レイのメイド服姿を堪能することにした。

 

 

 

 

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