気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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135話 見た目が派手だから何がどうなっても綺麗に見えるね

 はー、タクシーサイコー。

 俺は今涼しいクーラーが聞いている車内で完全にだらけていた。

 

 あれから八坂神社と平安神宮と下鴨神社を周ったのだが、さすがにバス移動はギブアップした。

 

 そしてその三つを周ったときの詳細については後輩の人間らしい威厳を保つためにも明言しないでおこうと思う。

 

 俺も隣で顔面崩壊していた後輩のことはもう思い出したくもない。早く記憶から消えてほしい。

 もうあんなの彼氏にべたぼれの彼女どころの話じゃないから。

 なんかもう別次元の存在になってたから。

 

 顔面崩壊後輩のことはもう記憶の片隅に封印して、今はこのタクシーの涼しさを甘んじて受け入れようではないか。

 

「もう少しでつきますよー」

 

 涼しさを堪能しようとした瞬間にかけられる運転手からの無慈悲な一撃。

 

 バスで移動している時はあんなにも時間を無限に感じたのに、快適になった瞬間どうしてこんなにも時が過ぎるのが早くなってしまうのだろう。

 

「先輩の顔、溶けきったり急に蒼白になったり気持ち悪いですね」

 

「そんなに見つめるなよ。照れるだろ」

 

「……はあ」

 

 ため息をつくな。

 それに顔に関しては今のお前だけには言われたくない。

 

 いくら美人だろうと、それを台無しにできる才能があるあなたは素晴らしい人材だと思いますよ。

 

 俺は後輩に気づかれないように、いつの間にか膝の上で眠りこけているレイの頭をたたく。

 

 ……一向に起きる気配がない。

 

 初めての遠出だし、一生人とおしくらまんじゅうしてたし、彼女もきっと疲れているのだろう。

 

 でもこのままタクシーの中に残していくわけにはいかない。

 そんなことをすれば危険が伴う。運転手さんに。

 

 目が覚めて一人だとわかったレイが何をするか分からない。

 運転手さんを凍え死なせてしまうかもしれない。

 うん、情景がありありと目の裏に浮かぶ。危険だな。

 

 そんなことを考えながらもレイの頭をポンポンと叩く。

 リズムよくたたいてたら楽しくなってきたな。感触はないけど。

 こういうのは気分が大事だ。

 

「テンション上がりすぎて行動バグってますよ」

 

 後輩に白い目を向けられるがそんなことは気にしたことではない。

 俺はレイを起こすことに必死なのだ。

 

「……いたい」

 

 おっと我が姫はようやくお目覚めのご様子。

 

 猛烈な冷気を受け、さらにはレイと後輩両方から白い目を向けられながら俺はタクシー代を支払いタクシーから降りた。

 

 運転手さんまで苦笑いしてんじゃないよ。

 別に涼しさと旅行テンションで頭がおかしくなってたわけじゃないんだから。

 

 

「すごーい」 

 

 今まで何を見ても特に反応を示さなかったレイが金閣寺が視界に入った途端、目を丸くしてそれを見上げていた。

 

 確かにすごい。

 昔の人はどういった気持ちで作り上げたのだろうか。

 金ぴかにして周りを威嚇でもしようと思ったのかな。

 

「すごーい!!」 

 

 金閣寺を見てテンションがマックスになったのか途端に走り出すレイ。

 

 当然見失うわけにはいかないので俺も追いかけて走りだすことになる。

 

「ちょっと先輩どうしたんですか!」

 

 後輩が何か言っているがそれどころではない。

 レイを見失ったらおしまいだからな。

 

 幽霊の迷子とかどうやって案内してもらえばいいんだよ。

 

「幽霊と迷子になっちゃったんですけど」なんて迷子センターに言ってもただの変人扱いだからね。

 

 そもそもここに迷子センターがあるのかどうかすら分からないけど。

 仮に案内してくれたとしても俺しか見つけられないわけですけど。

 

 結局レイが立ち止まるまで俺と後輩が追いかけっこをしているような状態がしばらく続いた。

 

 運動不足の一般社会人を走らせるんじゃありません。

 息絶え絶えで金閣寺見てる余裕なんてないからね。

 

「何やってるんですか、もう……」

 

「俺が聞きたいよ」

 

「はあ?」

 

 奇行に走る原因になった張本人はちょっと落ち着いたのか、ぼーっと金閣寺を眺めてるし。

 

 これまでの様子からして寺とか神社には興味ないのかと思ったけど、そういうわけじゃなかったのね。

 

 ただレイの琴線に引っかからなかっただけなのだろう。

 

「私思うことがあるんですけど」 

 

 後輩が口を開く。

 どうせろくでもないことしか言わないんだろうけど、とりあえず話くらいは聞いてやろう。

 

「建造物って天候によって表情が変わると思うんです」

 

 ほら一般人には理解できないことを言い出したよ。 

 唐突もなく理解できないことをさも当然のように語りだしてるんじゃないよ。

 

「数ある建造物の中でも金閣寺はそれが顕著に出てると思うんですよ」

 

「……例えば?」

 

「おお、先輩も興味あります!?」

 

 やめろ急にテンションを上げるな。同族扱いするんじゃない。

 

 興味はないけど聞かないと一生言ってそうだから、今聞いてるだけだから。

 全然興味はないから。

 

「しょうがないですねえ。教えてあげますよ。まず晴れの時は陽キャ。これがデフォルトですね」

 

 陽キャ。なんだそれは。

 

「曇りの時は外見イケメンなのに、実は内面では闇を抱えてる系の陰キャ」

 

 金閣寺は曇ってても闇は抱えてないだろ。

 そもそも空は見えるんだから内面も外見もないだろ。

 

「そして雨の時は傘もささずに外で待ってくれている系のイケメンですね! いわゆる水も滴る良い男ってやつです」

 

 もはや性格ですらなくなったじゃん。それはただのシチュエーションじゃん。

 お前が男にやって欲しいことの間違いじゃないのか。

 

「雪が積もりでもしたらそれは完璧超人、もはや人じゃありません。最強です」

 

 もはやというかそもそも人ではないからな。金閣寺は。

 

 人と同じような感覚でとらえてるのはたぶん君くらいだからね。

 

 それに最強ってなんだよ。じゃあ他の天気どうでもよくなっちゃうじゃん。

 

「……あっそ」

 

「先輩にはまだ早かったですかね」

 

 そんな残念そうに見られても、お前の感性は一生俺には理解できそうにないし、理解する必要性が感じられないよ。

 

 だめだ、これ以上ここにいると三人中二人が意味の分からない思考にトリップしそうだ。

 早々にここを離れた方がいい気がする。

 

 そう判断した俺は地面に根が生えたかのようにそこを離れようとしないレイを、なんとか地面から引きはがさせ金閣寺を離れることにした。

 

 無理やり連れて行くときの冷気はこれまでで一番大きかったような気がするけど、どれだけ気に入ったんだよ……。

 

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