気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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136話 お前がみているものは幻だし、別に俺は疲れてないんだからね!

「……とる、さとる、起きて」

 

 頬が痛い、寒い、柔らかい。 

 やめい、頬をつまむな、引っ張るな、ムニムニするな。

 俺の頬はおもちゃじゃない。

 

 分かった、起きるから……起きればいいんでしょ……。

 

 夢心地から目覚め、目を開けると目の前には美少女のドアップが映り込む。

 

「うわあ!!」

 

 思わずのけぞってしまい、目の前の美少女、我が愛しの幽霊レイさんは不満げに頬を膨らませる。両手は俺の頬に置いたままだけど。

 

 びっくりした。目覚めたのに夢かと思った。

 あまりのドアップに心臓止まるかと思った。

 

 のけぞるくらい許してほしい。心停止しなかった俺をむしろ褒めてほしい。

 

「すいません、お客さん。なかなか起きないんで声掛けしてたんですけど、まさかそこまで驚かれるとは……」

 

 運転席から申し訳なさそうな顔をしながら覗き込んでくる運転手さん。

 

 いやいやあなたは全然悪くないんですよ。むしろあなたの声は全く聞こえてなかったですから。

 

 声掛けしてもらってたのにすいません。うちの子があまりにもサービス精神なことに驚いてただけですよ。

 

「良かったらお連れさんも起こしてもらってもいいですか……?」

 

 相変わらず申し訳なさそうな顔をしながら俺の隣を見る運転手さん。

 

 隣にはよだれを垂らしてあほ面を晒しながら爆睡している我が後輩のご尊顔があった。

 いびきをかいていないことがせめてもの救いだろう。

 

「おい、起きろ」

 

 ……反応なし。見れば見るほど美人なのがもったいないあほ面だ。

 

 まあさっき隣で大暴れして大声出したのに、未だにこんなに爆睡してるんだからこの程度で起きるとは思ってなかったけどさ。

 

 どれくらい待たせているのか分からないがこれ以上運転手さんを待たせるのは精神的にもお財布的にも痛い。

 

 かくなる上は……。

 俺は後輩の鼻をつまむとそのまましばらくつまみ続ける。

 

「……ふが!! ばああ!!」

 

「おはよう」

 

「殺す気ですか!! なんか死んだおばあちゃんが今一瞬見えましたよ! 超笑顔で手を振ってましたよ! そっちに行けなくてごめんね、おばあちゃん!」

 

 大丈夫だ、しょせんそれは幻、もしくはお前の脳が見せたただの夢だ。だから気にするな。

 それにそんな大声を出すんじゃありません。人前だぞ。

 

 なんとか起きた二人は運転手さんにぺこぺこしながらタクシーから降りた。

 

 その間もレイは元気に俺の頬をぺちぺちと叩いていた。

 気に入ったのね。それ。意識向けないようにするの地味に大変なんだからね。

 

 しかしレイはずっと起きてたんだろうか。意外とタフだな。

 

 

「せんぱーい、本当にここであってるんですよね?」

 

 あってるだろ。普通に住宅街ぽいし目の前にある家は宿というよりは古民家って感じだけど、タクシーの運転手が何も言わなかったってことは正解なんだろ。

 

 なんか降りた後運転手さん首傾げながら苦笑いしてたけど、きっと気のせいだよ。

 

「いくぞー」

 

「おー」

 

「えー」

 

 レイが元気な返事をしてくれるから後輩の返事は聞かなかったことにした。

 

 そして俺は元気よく手を挙げて歩き出したものの、なんか他人の家に勝手に入るような感覚がして、恐る恐る玄関の扉に手をかける。

 

 ……ええい、ままよ! もし怒られたら全力で謝って逃げよう。そうしよう。

 

 ガラガラ……。

 

 ゆっくりとしかし滑らかに動いた扉は俺の拒否する意思とは反するようにスムーズに開く。

 こんなに音を立ててしまったら仕方がない。もう後には引けない。

 

 玄関にゆっくり入るとその後ろをきょろきょろしながらレイと後輩も遅れて入ってくる。

 誰かが迎えに来る様子もなければ玄関の先は真っ暗だ。

 

 確かに日暮れとはいえまだ外には日差しがさしている。

 なのにこの暗さはいったいなんだ……?

 

「す、すいませーん」

 

 お、後輩が声を出した。

 俺なんて雰囲気にのまれてレイの後ろに隠れることしかできなかったのに、たまにはやるやつだ。

 

 まあレイの後ろに隠れたところで何も意味はないんだけど。

 むしろ中腰になっている変な奴になっているだけなんだけど。細かいことは気にしない。

 

 しかし後輩が勇気を振り絞り声をかけても誰かが出てくる様子はない。

 

 むしろこの家からは人の気配がしない。

 これは騙されたか……?

 

「……帰るか」

 

「そう、ですね。どうしましょう」

 

 まあ泊りに関してはどこか別の場所を探すしかないだろう。

 まあこの冬休みシーズンどこか空いているとは思わないが、最悪ネットカフェでもしょうがない。

 

「ごめんなさい、気づかなくて」

 

 俺と後輩がその家から立ち去ろうとしたとき突如奥から清廉な声が聞こえてくる。

 

「人、いたんだ……」

 

 それは同感だ。

 しかし人が出てきたならここから勝手に立ち去るわけにはいかない。

 二人して足を止めて声の主が出てくるのを待つ。

 

「夜ご飯を作っていて全く気が付かなくて。ごめんなさいね」

 

 割烹着を着て前に下げている手拭きで手を拭きながら現れた女性は、俺よりは年上だろうがそれでも若く見えるいかにもおかみさんといった雰囲気の方だった。

 

 なんで若く見えるんだろう。肌が真っ白だからだろうか。

 いくら冬になっているからとはいえ、ここまで真っ白な肌を保ち続けることはできるのだろうか。

 

「どういった御用?」

 

「あ、えっと、予約していたものなんですけど」

 

「…………ああ、そういうこと」

 

 一瞬目を丸くしたおかみさんは何かを理解したのか目を細めて軽く頷いて見せる。

 何、今の間? 俺たちはその間をどう受け取ればいいの?

 

「三名でよかったかしら?」

 

「え?」

 

 後輩は首をかしげているがおかみさんの発言を聞いた俺は瞬時にレイの前に飛び出し彼女を背中で隠す。

 

「二人です」

 

「先輩?」

「二人です」

 

 冷や汗が止まらない。

 今目の前に座るこの女は絶対に、間違いなくレイに視線を向けていた。

 

 また目を細くしたおかみさんは何かを考えるように首をかしげる。

 

「……そういうこと」 

 

 そして何かを納得したのか俺を見て一度頷くと、また出てきた時の笑顔に戻る。

 

「ごめんなさいね。私ったらうっかりしちゃって忘れちゃってたみたい。大丈夫、ご飯の準備はあるから。二人ね。大丈夫よ。お部屋に案内しますね。さ、どうぞどうぞ」

 

 急に普通に対応しだしたおかみさんだが、逆にそれが怖い。

 

 さっきまでの対応から温度差がありすぎて怖い。

 

 しかしここまで来たのだ。

 もう引き返せるような雰囲気ではない。

 

 後輩も首をかしげながらもちゃんと予約で来ていたことに安心しているのかほっと息を吐きながら家の中に入っていく。

 

 俺もそれについて行くしかない。

 なるべくおかみさんの視界にレイを入れないようにしながら俺は家に上がった。

 

「あなた、憑かれてるのね」

 

 俺の後ろに立ったおかみさんが放った言葉に、全身に鳥肌が立った。

 




楽しくなってまいりました。
(この話書くまで冬休みだということを完全に忘れてました……怖い、自分の記憶力)
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