気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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137話 空気を読まないやつもたまには役に立つ。

 俺は部屋に案内された後もおかみさんに言われたことがぐるぐると頭の中で繰り返されていた。

 

「憑かれてる……?」

 

 俺が? 誰に。

 いやそんなこと考えるまでもなくわかっていることではあるが、分かりたくない。

 

「部屋にお札とか貼ってなくてよかったー」

 

 突然の歯の抜けたような声に思考を遮られる。

 一度は部屋が別だから分かれた後輩が合流してきたのだ。

 

 いや、お前は自分の部屋にいろよ。何当たり前みたいに俺の部屋に入ってきてるんだよ。

 

 まあ確かに部屋に入ってすぐ机の裏とか壁にお札が貼られてないか確かに確認したけどさ。

 

 でもこの部屋、恐らく後輩のところも同じだろうが、外見が一般的な民家だったにしてはちゃんとしている。

 

 なんというかちゃんとした民宿の畳部屋って感じだ。

 テーブルが真ん中に置かれてその上にはちゃんと茶菓子まで用意されている。

 

 ほんとに忘れていたのか? と疑うレベルで部屋は清潔さがある。

 まあ部屋に入った瞬間、温度が何度も下がった気はしたけど。

 

 それは季節のせいというよりも最近の俺にとってはもっと近しい感覚。

 そうだ、レイに冷気を浴びせられた時の感覚に近かった。

 

 ……いやいやまさか、たまたまでしょ。何せ俺には霊感がないんだから。

 

 そんなことを考えている間にも後輩は部屋の中を勝手に物色し、レイも部屋を見渡しながらそわそわしている。

 

 見慣れない部屋だから落ち着かないんだろうか。

 それとも何かほかに理由があるのだろうか。

 

 ……いや深く考えるのはやめよう。レイは落ち着かないんだな。きっと。

 

 部屋の中を一通り物色して満足したのか、後輩はふらふらと部屋から出ていく。

 多分自分の部屋に戻っていったのだろう。

 

「さとるー」

 

 ずっときょろきょろと周りを見渡していたレイは、後輩が出ていくのと同時くらいのタイミングで立ち上がると、のそのそとこっちに近づいてきてそのまま俺の胸の中にダイブしてきた。

 

 ほんとだったら頭があごに激突している角度での大分だが、あいにく俺とレイの間でそんなアクシデントは起こりえない。

 

 レイはそのままぐでっと俺に埋もれるように体勢を崩すと顔を擦り付けてきた。

 

 ここまで甘えてくるのは珍しい。

 初めての遠出だしレイも疲れてるんだろう。

 レイが近くに来たからか俺もようやく緊張感みたいなのが取れて、リラックスできたような気がした。

 

 

 しばらく放置していると入口の扉をノックする音が聞こえる。

 

「どうぞー」

 

 後輩ならノックせずに入ってくるだろうし、おかみさんだろうか。

 案の定部屋に入ってきたのはおかみさんだった。

 

 特に表情を浮かべていなかった彼女だが、俺の様子を見て途端ににこにこし始める。

 

「二人は仲がいいのね」 

 

 ……この人やっぱりレイのことが普通に見えてるんだな。

 さっきは聞かなかったことにもできたけど、おかみさんは別にレイが見えていることを隠すつもりもないらしい。

 

 まあ俺にとっても後輩が近くにいないし、別に何を言ってくれても構わないが。

 

「そんなに睨まなくても、別に何もしないわよ。安心して」

 

 諭すように優しい声色でそういうおかみさん。

 そうは言われても今まで身内以外にレイのことが見えていた人がいないからな。

 

 警戒してしまうのは人間的本能というか俺の弱さ故というか、まあ当の本人であるレイは俺にもたれかかったまま首をかしげながらおかみさんを眺めてるだけなんだけど。

 冷気も出てないから怖がってもないみたいだし。

 

 そんなことを考えながらレイからおかみさんへ視線を戻すと、彼女は初めてレイを見た時のように鋭い眼光をこちらに向けていた。

 ……この短時間で俺なんかしましたっけ?

 

「この子とコミュニケーションが取れているということは、他の子も見えてるんですか?」

 

 ……ん? 他の子? 他の子って誰のことだ?

 でもここは正直に答えておく方が何となくわが身の安全を守れる気がする。

 

「俺、霊感ないんで」

 

 簡潔にそう答えるとおかみさんは補足していた目を丸くして、ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返す。

 

「ふふふ、冗談がお上手で」

 

 あれ……? 信じてもらえてない? これ信じてもらえてないよね。

 俺は冗談なんかじゃなくて本気で言ってるんですけども。

 

「せんぱーい、ご飯はどうなるんです……あ、すいません」

 

 俺とおかみさんが変な空気の中見つめ合っていると、その空気を破るように後輩が入ってきた。

 

 今だけは後輩の空気の読めなさが功を奏した形だろう。

 

「あらあら、私としたことが話しすぎちゃったみたいね。そう、ご飯はいつごろお出ししようかと思ったのだけれど。お二人の様子からしたら一緒にこの部屋に並べちゃっていいかしら」

 

「私はいいですよ」

 

 まあ俺も別に困らない……よな。

 

「私としてもいっぺんに出させてもらった方が片付けも楽ですし。じゃあさっそく用意しますね」

 

「やったーご飯だ!」

 

 かくしておかみさんが言っている真意を聞くことができないまま、話は流れていった。

 

 あの空気のままこの部屋にいることは耐えがたかったから後輩ナイスと言いたいところだが、おかみさんは一体何のことを言っていたのか。それだけは気になるな。

 

 他の子っていったいどういうことなんだろうか。

 

 そしてレイはどうしてずっと虚空を指さしてるんですかね。

 

 そこに何かいるんですか? 霊感0の俺には全く見えないんだから、そういうことやめようね! そんなことしたって怖がらないんだからね?

 

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