気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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146話 それはね、金縛りっていうんだよ

「つっかれたー」

 

 家まであと数歩。その数歩が無限にも感じる。

 一泊二日の旅行。後輩とは駅で別れすっかり辺りは暗くなってしまっている。

 朝早くから起きて山登りをして、そのあと学生時代以来のダッシュをして……もう目は開いているのか開いていないのかよく分からないレベルで疲労困憊だ。

 

 朝もぐっすり眠ってお化け屋敷で俺の肩に掴まっていただけのレイは、あんまり疲れていないようで俺をおいてさっさと走り去っていってしまった。

 多分先に家に帰ったんだろうけど……なんて薄情な子なんだ。

 

 あー家が遠い。それしか出てこない。

 まあでも不思議な出会いがあったりきれいな景色を見たり、全然したくない怖い思いをしたり、有意義な旅行だったといえばそうなんだろうな。

 

 レイも楽しんでたみたいだし。

 後輩にもついてきてもらえたおかげでいろんなところ回れたんだろうし。

 あいつにもミリ単位くらいには感謝しないとな。

 

 それはそれとして今回の旅行でやっぱり俺には霊感がないってことが分かった。

 最近疑わしくなっていた俺の主張だけど、旅館にいたのであろう何かに関しては一つも見えなかったわけだし、結論俺には霊感がないってことでいいよね。

 だとしたらやっぱりレイは特別なんだろうなぁ……。

 

「おかえり」

 

 そんなことをボーっと回らない頭で考えていると突然玄関の扉を貫通してレイの頭がにゅっと現れる。

 勢いよく前に出すぎたのか少しつんのめってしまっているのか、彼女の顔は長い髪で隠れてしまっている。

 でもその可愛らしさは隠しきれていないのだから大したもんだよ、ほんとに。

 

「やめなさい」

 

 きっと最後に行ったお化け屋敷の影響でも受けたのだろう。

 だから俺はレイの頭をチョップするように頭を振り下ろす。

 

「むー……」

 

 俺の反応がお気に召さなかったのかレイはその長い髪の間から不満げな目でこちらを見つめながら、両手で頭を押さえながら顔を引っ込めた。

 

 恨めし気に俺のこと見てたけど絶対痛みなんてないよね。

 俺に無駄な罪悪感を抱かせるのやめてくれる?

 

 レイの可愛いいたずらにも片手をあげて反応するのが精いっぱい。

 旅行後の疲れって心地いいんだけど尋常じゃないよね。寝れてないから余計に。

 

 重い足を引きずるように家の中に入ると、玄関にはすでにレイの姿はない。

 俺もそのままベッドに直行。

 

 風呂に入りたいとかいろいろ思うことはあるけど、今はとりあえずこの眠気を解消したい。

 倒れるようにベッドに寝転がるとそのまま意識が勝手に遠のいていった。

 

 

「……ぐっ」

 

 自分のうめき声で目が覚める。

 周りの暗さからまだ朝にはなっていないことが分かる。

 中途半端な時間に起きてしまったらしい。

 

 すぐ二度寝するにも妙に目が冴えてしまって寝付けそうにない。

 ……シャワーでも浴びるかあ。

 そう思って体を起こそうとしたがなにか違和感があった。

 

 ……体が動かない。

 

 まるで重力に逆らえなくなったかのように体が持ち上がらない。

 うつ伏せで寝ていたはずが寝がえりをうっていつの間にか仰向けになっていたのか、暗闇に慣れてきた目に映るのは自分の部屋の天井のみ。

 

 声を出そうにもさっきみたいにうめき声すら出せない。

 これはもしかして……。

 自分の頭の中によぎった一つの可能性を必死にかき消す。

 

 あまりにも疲れすぎていて力が入らないだけ。もしかしたらまだ寝ているのかもしれない。

 このままもう一回寝ちまうか……。

 

 そう考え目を閉じようとすると突然目の前に何かが迫ってきていた。

 顔と顔がくっつきそうなほどに迫ってきていたのは他の誰でもないレイだった。

 

「起きてる?」

 

 その表情はいつか見た時のように大人びていて、俺の目をじっと見つめてきていた。

 

 見ての通り。

 そう返したいのに相変わらず声は出ない。俺の体のはずなのに俺の言うことを聞いてくれない。

 

 超至近距離にあったレイの顔はふっと遠のき程よい距離で保たれる。

 しかし今この状況でレイの顔が目の前に見えるってことは、レイが浮いているなんてことがない限り、もしかしてもしかしなくても彼女は今俺にまたがって……?

 まあ重さは全く感じられないんだけど。

 現実逃避ぎみにそんな今起こっているであろう状況を冷静に考える。

 

「私ってさ普通じゃないんだね」

 

 レイは俺の顔を見下ろし、未だにまっすぐに目を合わせながら話し始める。

 

「普通の幽霊は見えないし、目の前に突然幽霊が出てきたら普通はびっくりする」

 

 旅館のこと、お化け屋敷のことを言っているんだろうか。

 そんなに気にすることでもないと思うけど。レイはレイだし。

 

 そう声をかけたいのにこのくそみたいな体はまるでいうことを聞いてくれない。

 頭では声をひねり出そうとしているのに、口すらまともに動こうとしない。

 

「じゃあ悟と話している私は何なのかな。普通じゃないのかな。それともあのおかみさんみたいに悟が特別なのか。私って異常なのかな」

 

 表情を変えずに、泣きもせず、自虐のように笑うこともせず、まるで俺と目は合っているのに、彼女はどこか違う場所を見ているような、そんな表情でまくしたてるように自分の存在意義を話し続ける。

 そんなレイのことを例え触れないと分かっていても、抱きしめてやりたいのに体は動かない。

 

 腕がちぎれてもいい。上半身と下半身が分かれてもいい。

 頭の中ではそこまでイメージしているのに体は全くびくともしない。

 

「私って……なんなんだろうね」

 

 レイはぽつりとそうつぶやくと俺の視界から消えた。

 

 体はいまだに動かない。

 あいつが今どこに向かうとしても、ただ自分の部屋に戻るだけなんだとしても、傍にいてやらないといけないのに、猛烈な睡魔に襲われて抵抗ができない。

 

 徐々に薄れていく意識の中、レイの声だけが俺の頭の中に残り続けていた。

 

 

 その日以降レイはいつかのようにまた一人で外に出ることが多くなった。




本作は次話から最終章となります。
最終章はまとめて執筆したいため、また暫く投稿が止まると思います。
なかなか投稿できていなくて申し訳ないですが、お待ちいただけると幸いです。
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