気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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お久しぶりです。
たいあっぷ様がサービス終了するということで、そちらのサイトで載せていた特典話を載せます。
時系列的にはレイが紙を使って会話するようになったころの1幕です。



小話

『うらめしや』

 

 それは突然のことだった。

 両手で小さな紙をもって、それを俺に見えるように眼前に突き出してくる女の子。

 その紙には赤い文字でうらめしやと書かれている。

 

「……レイ? どういうこと?」

 

 俺は一人休みという日を満喫するために、ベッドの上で惰眠をむさぼっていた。

 最近俺に懐いてくれているように見えるレイも、今日も定位置である空き部屋から出てくる様子はなかった。

 

 それなのに、突然のこれである。

 

 レイの突拍子のない行動にも慣れてきたと思っているのに、俺はまだまだ彼女のことを理解できていなかったようだ。

 

 突然目の前に現れたレイに戸惑っていると、彼女はそんな俺にはお構いなく突き出していた紙から手を離し、ポケットから取り出した新しい紙に何かを念じ始めた。

 

 もちろん手を離した紙は重力に逆らうことなく、そのまま地面へと落ちていく。

 俺はそんな見捨てられてしまった紙をボーっと眺めていた。

 

 さっきまで思考停止状態でスマホを眺めていたのだ。

 むしろ半分寝ていたんだ。

 頭が回っていないのも仕方がない。

 

 地面に落ちた紙をボーっと眺めていると、頭を小突かれるような感覚があり顔をあげる。

 するとそこには再び紙を手に持ったレイが、俺の顔を覗き込むようにして立っていた。

 

 ……可愛い。

 

 そんな彼女と目が合っていたのもつかの間。

 レイは再び俺の目の前に紙を突き出してきた。

 

『うらめしや~』

 

 ……伸ばし棒が増えた。

 でも意味的にはさっきと何も変わっていない。

 

 徐々に頭が回り始めてきた。

 レイはあの部屋に置いている漫画や小説を読んでいるようなことを言っていた気がする。

 

「もしかして何かに影響受けた?」

『本に書いてあった』

 

 やっぱりか。

 しかしそんな幽霊がいうには定番すぎる『うらめしや』なんて言葉が書かれた本を俺は持っていただろうか。

 

 それにそれをやるなら、もっと幽霊っぽくやるべきだ。

 正直休日の昼間に目の前で紙を突き出されながら『うらめしや』なんて言われても、全く怖くない。

 というか言ってないし。俺が読んでるだけだし。

 

 ……しょうがない。ここは俺がレイに幽霊らしさというものを教えてやるしかないか。

 幽霊に幽霊らしさを教えるっていうのがもう意味わかんないけど。

 

「レイ。そんなんじゃだめだ。まずは形から始めないと」

 

 まあ休みの日にベッドの上でごろごろしているよりは、こうしてレイと話している方が健康的な休日の過ごし方なのかもしれない。

 レイは俺の言ったことが理解できていないのか、自分で書いた紙を眺めながらしきりに首をかしげているけど。

 

「いいかレイ。そもそも棒立ちで『うらめしや』なんていう幽霊はこのご時世どこにもいないんだよ。最近の幽霊はもっとバリエーション豊かに襲ってくる」

 

 まあ幽霊なんてレイ以外に見たことがないから、本当かどうかは知らないけど。

 しかし最近の幽霊事情としては、ネットやテレビが普及したおかげで色々な幽霊の東條パターンが網羅されており、登場するだけでも苦労しているはずだ。

 きっとそうに違いない。そういうことにしよう。

 

「しかし俺はここであえて逆説を唱えたい」

 

 聞いているのか聞いていないのかわからないレイに向かって持論を展開する。

 要するに様々なバリエーションの登場シーンが発掘された結果、古きよき幽霊の立ちポーズをした方が、逆に驚くかもしれない。

 まあその驚きは『今時そんなべたべたなポーズで登場するの!?』といったこわさ的な驚きとは異なるかもしれないが。

 

 細かいことは気にしない方が人生はうまくいくんだよ。じっちゃんがそう言ってた気がする。

 俺のじっちゃん、俺が生まれる前に死んでるけど。

 

「ということで、レイ。まずはその立ち方から変えよう」

『たちかた?』

 

 どうやらちゃんと話を聞いていたレイは、血文字を見せながらやはり首をかしげて俺の方をじっと見つめてくる。

 一般的な幽霊の立ち方とはどういったものか。

 

「レイ、ちょっと前かがみ……猫背になってくれるか』

 

 レイの立ち方は意外と背筋が伸びていて、きれいだ。

 一般的な人としては素晴らしい立ち振る舞いなのだが、これではあまりにも幽霊らしくない。

 そう思ってレイにオーダーを出してみると、意外にもレイはすんなりと少し背を曲げてくれた。

 

 ……うーん、何か違う。

 俺はレイの周りをぐるぐると周りながら考える。

 このままだとただのちょっと姿勢の悪い女の子だ。

 

「やっぱり手か。レイ、次は手をこうして」

 

 そういって俺は自分の手を体の前に持ってきて、手首をブランブランとさせる。

 やはり幽霊といえばこの形の手の位置が最も定番だろう。

 

『こう?』

 

 起用に指の隙間に紙をはさみながら、俺と同じポーズをしてくれるレイ。

 手もちゃんとプラプラと左右に揺らしている。

 

「おーそれっぽいかも!」

 

 やはり手が大事だったんだな。

 一気にそれっぽさが増した。

 しかし何かが足りない気がする……。

 

 その後もレイを中腰にさせてみたり、手の位置を調整させたりしたがどうにもしっくりこない。

 そして調整を繰り返すうちに俺はあることに気づいてしまった。

 

「そうか。わかったぞ。……レイ、お前は可愛すぎるんだ」

 

 あまりにも幽霊らしくない容姿。そして整いすぎている美形。

 それらのレイ自身が持っている要素が、レイを幽霊らしくさせないのだ。

 そうだよな。幽霊って基本的に顔見せないイメージあるもんな。

 

 むしろいきなり目の前にこんな子が現れて『うらめしや』とか言ってきても新手の逆ナンか何かかと思って、違う意味で驚く気がする。

 しかしこのレイの美貌を隠してしまうのはあまりにももったいない。

 最早目的が何だったのか、そもそも最初からこの行いに目的があったのかどうかすらわからないが、俺はレイに完璧な幽霊らしさを演出させてあげたいのだ。

 ……ここは心を鬼にするしかないか。

 

「レイ、フードを目深にかぶって顔を隠すんだ」

 

 もともとレイは前髪が長く、目がほとんど隠れている。

 だからフードをかぶせて、髪を少し垂らしてあげれば彼女の顔は簡単に隠れてしまうのだ。

 どこまでも素直なレイはフードを引っ張り顔を隠す。

 長時間中腰だからか、さっきからレイの足がプルプルしているような気がするけど、気のせいだろうか。

 

「よし。じゃあそのまま手をさっきの形にして……おー!」

 

 名付けて幽霊ポーズをとったレイ。

 顔は完全に見えなくなり、一気にそれっぽさが出ている。

 俺はすかさず部屋のカーテンを閉め、なるべく光が入らないようにした。

 

 ……おー、なんかそれっぽいかも。

 なんか冷気も漂っている気がするし、雰囲気も出てる。

 ん? 冷気? そういえばなんで冷気が出ているんだろう。 

 

 俺が感動に浸っているとレイが上目遣いでこちらを見つめてくる。

 顔をあげたことで隠れていた顔が見え、まっすぐとこちらを見つめてくる彼女に瞳に俺はつい見とれてしまった。

 

 お互いの時間が止まったかのようなゆったりとした時間が流れる。

 しかしレイの無表情がだんだんと苦痛にゆがんだ表情へと変化していき、俺はレイの異変に気が付いた。

 

「どうした!?」

 

 俺が近づくと同時にレイは足の力が抜けたかのように、そのまま後ろに倒れる。

 すぐに支えようとしたが俺の腕を当然のようにすり抜けた彼女の体は、そのまま地面へと激突した。

 

「大丈夫か?!」

『まえみえない。あしいたい。うでしんどい』

 

 腕をプルプルさせながら、こちらに決死の訴えを書いた紙を見せてくるレイ。

 その直後に最後の力を失ったのか腕をばたりと地面に力なく落とし、そのまま目を瞑ってしまった。

 おい、まさか……。

 

「レイ……? おい、レイ……? レーイ!!」

『うるさい』

 

 あ、単純に力尽きて動けないだけか。

 てっきり気を失ってしまったのかと思った。

 しかしレアなレイの姿も見れたし、いい休日を過ごせたな。

 

 まあ彼女には多少無茶を射せたみたいだが。

 最近の幽霊は運動不足らしい。これもネットやテレビという情報伝達手段が発達した弊害なのかもしれない。

 知らんけど。




内容は素敵すぎる表紙絵に合わせた内容になってますので、レイの幽霊ポーズが気になる方はぜひたいあっぷを見に行ってください。

本編でこういうこというのはあれなので、この場をお借りして……。
まずもし続きをお待ちいただいていた方がいたら、申し訳ありません。
最近読み始めてくださった方はよくぞここまで辿りつきました。本当にありがとうございます。ここから先は読まずに次のお話も楽しんでいただけると幸いです!!

最終章を投稿すると言って3年が経ちました。本当にびっくりです。
言い訳をさせてください。
この作品のことは3年間片時も忘れたことがありません。片時もは嘘です。盛りました。
ただ間違いなく3年間彼らは私の頭の中で生き続け、動き続けていました。

そんな中最終章のプロットというか最終話がどうしても固まらず納得のいく物ができず、書いては消して書いては消してを繰り返していました。

そして最近ようやく自分でも納得のいくプロットが出来ました。
はい、できたのはプロットです。最終章はこれから書きます。

今回この話を掲載したのは覚悟を決めるためです。
なにか投稿しなければ一生投稿できないような気がしたので、過去に執筆した内容ではありますが、ハーメルン様のみに投稿させていただくこととしました。

他のサイトには投稿しません。
理由はこの作品に頂いている感想に救われたからです。
先週くらいに本サイトにて頂いた感想を全て読み直しました。そして決心しました。
私の作品をここまで考えて、楽しんで読んでくれている人がいるんだと実感出来て、とても嬉しかったです。
もう今は読んでくれないかもしれませんが、当時読んでくれていた人のためにも完結させようと思いました。
私はこの作品が好きです。だから終わらせたくなかったのかもしれません。
でもこの物語を終わらせた方が美しいと思いましたので、これから最終章執筆します。
そして投稿して皆様にお届けします。
もうしばらく楽しみにお待ちいただけると幸いです。
次の話もたいあっぷ様に掲載していた小話です。
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