気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。 作:葵 悠静
時系列はレイが紙を使って会話をするようになったあたりです。
「にゃー」
……重い。
妙に体が重たい。
まるで何かに乗られているような重さ。
「にゃー」
俺はベッドの中ですやすやと眠っていただけなのに。
どうしてこんなに体が重たいのだろうか。
まあ最近は仕事も忙しかったし、思っている以上に肉体的にも疲れていたのかもしれない。
「にゃー」
でもこの声は何だ。
明らかに人が猫の鳴き声をまねているような、絶対に猫ではない声がさっきから耳に入ってくる。
うっ……。何かが布団の上で動いている。
「にゃー」
声が近い。
俺は眠気眼で閉じていた目をゆっくりと開く。
すると目の前に、もう顔がくっつきそうなほどに接近したレイの顔が目の前にあった。
「うわああ!!」
「にゃー」
思わず飛び起きようとするが、体が動かない。
上に乗っているレイのせいか?
もしかしてこれがかの有名な金縛りってやつか……?
「な、なにやってんの?」
「……にゃー」
首をかしげてこちらを見つめるレイ。
レイ……だよな?
よく見るといつもかぶっているフードの形がおかしい。
まるで猫の耳が生えているような形をしている。
……まさかレイが猫化?
いやいやそんなまさか。
今更レイが実が猫娘でしたなんて言われても、驚かないというか……いやそれはだいぶ意外かもしれない。めちゃくちゃ驚いてるかもしれない。
「にゃー」
そんな俺の考えをよそに、レイは自由気ままに俺の体の上を移動して顔を胸に摺り寄せてくる。
……なんだ、これ超かわいいんですけど。
正直このまま一生金縛りのままでも俺は悔いがないかもしれない。
あ、でもトイレとか食事とかどうしよう。
レイに食べさせてもらうわけにもいかないし。というかそもそも今のレイにそんな芸当ができるとは思えない。
普段のレイでもできるかどうか怪しいのに。
そもそも単純にレイにトイレのお世話をしてもらうとか想像しただけで、恥ずかしいので却下で。
「あのー、レイさん……?」
なんとか体を動かそうとしてよじったりしてみるが、体はまるで俺の意思から離れたように微動だにしない。
いや……手が動く!
なぜか手首から先は動くようだ。
かといって手だけ動いてもこの状況をどうにかできるような何かができるとは思えない。
とりあえず手を布団にこすりつけるようにして動かしてみる。
すると左手に何か温かいモフモフとした感触に襲われた。
……なんだ?
とりあえず感じるままに手を返し、そのモフモフしたものを触ってみる。
あれ、意外と細いな。握ってみるか。
「にゃ!?」
なんだこれ。長いし柔らかいしそれにあったかい。まるでしっぽみたいな……しっぽ?
ある推測にたどり着いた瞬間、俺の全身の体温が一気に下がる。
血の気が引くとはまさに今の俺の状態のことだろう。
ゆっくりと目線を移動させると、そこには顔を真っ赤にしてこちらをにらみつけるレイさんのお顔が……。
「いやレイさん? ちょっと冷静になって聞いてほしいんですけれども。これは不可抗力というかなというか」
猫になったレイも冷気は健在のようで、すでに下がっている俺の体温をさらに下げてくるかのような鋭い冷気が体中を支配する。
布団の中に入っているのに、俺の体は動かないはずなのに小刻みに俺の体は震えていた。
「シャー!!」
「ちょっとま……ヴッ!!」
俺の言い訳もむなしく問答無用でレイに襲い掛かられた俺は、猛烈な猫パンチを顔面に食らいそのまま目の前が真っ暗になった。
「ちょっとまって!!」
布団から飛び起きて、座る。
外はすっかり明るくなっており、体が動かないなんてこともない。
顔に引っかき傷もついていない。
「……なんだ夢か」
どうやらとんだ悪夢……いや考え方によっては幸福な夢を見てしまっていたようだ。
しかし夢でもレイが現れるって、どれだけ俺はレイに生活を侵食されているんだか。
それが嬉しいような悲しいようななんとも複雑な気持ちだ。
朝からこんな気持ちを抱かせるなんてなんて罪づくりな子なんだ。
「というか、レイ喋んないじゃん」
しゃべれるかどうかも分からないが、そもそも喋っているのを聞いたことがない彼女が突然俺の前で「にゃー」なんて言い始めるわけがない。
つまりあれは俺が生み出した妄想であり夢であり……え、俺深層心理でレイが猫になればいいと思ってるの? 無意識化でレイに襲われたいって思ってるってこと?
そんなことないよね? 妄想っていうのはやっぱり却下で。
あれはただ単純に何の因果かわからないけど、たまたま見てしまったなんてことない夢ってことでお願いします。
……誰にお願いしているんだ。俺は。
「顔洗って起きよう」
朝からフル回転している頭を冷やす必要がある。
俺はのそのそと布団から這い出てリビングへと向かう。
全くとんでもない夢を見てしまったな。
「……は?」
リビングの扉を開けるとそこには四つん這いでこちらを見上げるレイの姿があった。
それだけならまだいい。また変なことしてるなーくらいで済むんだけど。
なぜかそのレイの姿にはフードの形が猫耳になっており、後ろの方からは長く銀色の細い尻尾が見えていた。
俺は無表情のまま一度開いたリビングの扉を閉める。
…………いやいやいやいや!?
ありえないでしょ! あれは夢だったんだよね?
もう俺の妄想でも何でもいいから、深夜に起こったこと、今俺が見ているものはただのまやかし、妄想だって言ってほしい!
誰か俺を助けてくれ!
思わずしゃがみ込んで頭を抱えてしまったが、いろいろと考えているうちに逆に冷静になってきた。
もしかしたら俺は夢の内容を引っ張りすぎてレイの姿がたまたま猫のように見えてしまったのかもしれない。
あの尻尾ももしかしたらただの見間違いかもしれないじゃん。
俺は扉の前で大きく深呼吸を繰り返す。
「よし、開けるぞ」
俺はなぜかリビングの扉を二度ノックして再び扉を開ける。
『どうしたの?』
そこにはさっき見た猫になったレイの姿はなく、ちょこんと体育座りをしながら首をかしげているいつものレイの姿があった。
『おはよう』
レイはいつもと変わらず俺に挨拶をしてくれている。
俺はその挨拶に対しただ首を縦に振り、返事をするともう一度リビングの扉をゆっくりと閉めて、そのままその場に座り込んだ。
「……よかったー」
いや別にレイが猫化したらなんだって話ではあるんだけどさ。
むしろ超絶的に可愛かったのは認めるんだけどさ。
それでも昨日まで二足歩行で普通に歩いてたレイが、ある日突然四足歩行になって俺に甘えだしたりしたらそれはそれで怖いじゃん?
そういう意味でのよかったってことというか。
結局俺が見たのはただの夢で、さっきのもただの妄想の延長、案外寝ぼけていただけなのかもしれない。
そういうことだろう。それにしてはやけに姿がはっきりしていたような気がするけど。
……ほんとに夢だったんだよな?
……いやいやいやいやこれ以上考えるのはやめよう。
俺は思考を放棄して、洗面所へと向かい顔を洗うことにした。
その後リビングに戻ったら二度も無視されたレイが盛大に不貞腐れていて、なだめるのに一時間ほどかかってしまった。
無事会社には間に合ったが、すごいぎりぎりだった。
まあ朝からいろいろと散々だったけど、やっぱり猫になったレイはなんというか……いろんな意味で俺得だったのかもしれない。
今回の話は素晴らしすぎる口絵イラストによって作成されています。
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