気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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16話 可愛さで訴えかけてくるのは、卑怯だと思います。

「レイ、入るぞー」

 

 自分の家のはずである一室に対して、ノックをして声までかけて中をうかがいながら恐る恐る扉を開けなければならないこの理不尽さや否や……。

 

 扉の向こうは真っ暗で一瞬生暖かい空気が流れてきたかと思ったが、直後にそれは冷気に変わる。

 

 部屋に入られるっていうのはまだ慣れてないのか?

 まあ家主権限で容赦なく邪魔させてもらうけどな!

 

 電気をつけると、レイの姿が目に入る。

 部屋の隅っこの角になっている部分に小さく納まるように、体育座りでこちらを見つめてきていた。

 

「なんか、自動掃除機みたいだな」

 

 ぼそりとつぶやいた俺の言葉が気に食わなかったのか、むすっとした表情を見せたレイは、突然立ち上がりそのまま部屋の中にある丸机の上に再び体育座りをした。

 

 いや、思わず言っちゃったけど、幽霊の待機モードってあんな感じなの?

 こうなんか役目を終えた自動掃除機が充電するために角に納まっているように見えたんだけど。

 

 まあうちの子に関しては洗い物はできないし、おそらく掃除もできないだろうけどね。

 

 まあそんなことはどうでもいい。

 これ以上レイの機嫌を損ねてもいいことは何一つない。俺が凍え死んでしまうだけだ。

 

「これ書いたのってレイか?」

 

 俺は持ってきていた紙切れをレイの前に広げて、見せる。

 レイはじーっとそれを見つめていたが、一回コクっと頷くとまっすぐな瞳で俺の顔を見つめてきていた。

 

 えーっと……これは何を求められているんだ?

 

「よ、よくかけてると思うけど、貧血にならなかったか?」

 

 少量の血で血文字を書くっていうのはなかなかに難しい。

 少年時代、指を切ったときとかドラマとかアニメのまねをしてその血でダイイングメッセージを書こうとしたりしたけど、先生とか親に止められるから成功したことはなかった。

 あれ、俺の思い出だと血の量関係ないじゃん。

 

 レイは俺の顔を見ながらも首をかしげている。パッと見る感じどこも怪我をしている様子はないし、貧血にもなっていないらしい。

 

「この前ボールペン持っていっただろう?それで書けばいいんじゃないか?わざわざ血文字にしなくても」

 

 そこまで言うと、突然寒気が襲ってくると同時にレイは胸の前で両手に何かを握りしめていた。

 

 よくよく見てみると、それはこの前取られたボールペンのようだ。

 そんなに敵を見るような目でこっちを睨まなくても、別にもう取らないから。

 新しいの買ったからそれはレイにあげたつもりだし。

 

 俺はそんな意思を示すために、両手をあげながら机の前に座る。

 案外俺の意思が伝わったのかレイから放たれる冷気はなりをひそめ、素直にボールペンを握りしめてこちらに向けてきた。

 

「まずボールペンの持ち方からだな……。ボールペンはこうやって……」

 

 こうして俺によるレイのためのボールペン講座が始まった。

 

 

 5分後、俺は机に顔面を押し付けていた。

 

 何も知らない相手に文字の書き方を教えるのがむずすぎる!!

 ペンの持ち方だけでめっちゃ時間かかるし、なんか頭をぺしぺしとたたかれているんだけど……?

 

 顔を傾けてレイの方に向こうとすると、頭に当たっていた感触が頬に移動する。

 どうやらレイがボールペンを使って俺の頭に、頬に向かって攻撃しているようだ。

 

 レイは物理攻撃を覚えた!

 

「じゃなくてレイ、ボールペンはそうやって使うもんじゃないだろう?じゃあ文字書く練習するか……」

 

 俺は両手を机につけるとなんとか頭を起き上がらせる。

 レイは即座にたたくのをやめると、紙切れとペンをもってきらきらした瞳でこちらを見つめてきていた。

 

 レイって意外と好奇心旺盛というか、新しいものには目がないんだよな。

 見たことないものを見ると、怖がりながらも自分もやろうとするし、デザートに関しては新作のものは必ず消費しているしな。

 

「よーし、最初は何がいいかな……。『わたしレイは、こんごデザートをたべません』よし、これで行こう」

 

 俺はレイが必死にペンの持ち方を実践しているときに持ってきていた新しいボールペンを使って、割かし丁寧にメモ帳に文字を書く。

 

 しかしレイはなかなか書こうとしない。

 おかしいなと思ってみてみたら、すっごい勢いでこちらをにらんでいた。

 まあ冷気が来てたし、気づいてはいたんだけど勢いで行けるかなって。

 

 ちゃんと意味を理解しているのかこれを書いてしまったら自分に不都合が起きると本能的に悟ったのか、レイは全く書こうとしなかった。

 

 ……ちっ。このまま書かせて書類を盾に俺だけがスイーツを楽しもうと思ったのに。

 このままではらちが明かない。仕方ないか。

 

「じゃあこれはどうだ?『わたしのなまえはレイです』」

 

 新しく俺が文字を書くと、今度はすんなりとレイはメモ帳に向かって文字を書き始めた。

 

 おお初めてにしてはなかなかのスピード。やっぱり血文字はかけるから案外文字を書くのはいけるのかもしれない。

 そんなことを考えているとレイは突如ばっと顔をあげてメモ帳を俺の方に差し出してくる。

 

 どうやら書き終わったようだな。どれどれ……。

 

 …………うん。全く読めない。というか文字になってないよね、これ。

 

 レイがボールペンで書いたものは文字ではなく最早ただの線だ。ミミズ文字ですらない。本当になんて書いてあるのかわからない。

 

「レイ、そんな期待した目で見られても困るんだけど……読めないよ?」

 

 時には真実を伝えることも大切だからな!馬鹿正直に本当のことを言ったらレイはしょぼんとした顔をしてそのまま曲げている膝に顔を突っ伏してしまった。

 頬がつぶれている顔でこちらをじっと見つめてくるレイ……。

 

 そんな顔されたら教えきるしかないじゃんね!しっかりとした文字が書けるまでやりきるしかないだろ!

 明日も仕事だけどそんなの知ったことか!

 

 こうして俺とレイのボールペンで文字を書こう講座が始まった。

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