気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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25話 ドMとドSを使い分ける俺は、ハイスペックである。……知らんけど

「俺が悪かったって。だから機嫌なおしてくれよ」

 

 俺はレイの目の前にプリンを置きながら話しかける。

 

 あの後レイを追いかけると、レイはいつものようにリビングの机の上で体育座りをしていたものの、どこか不貞腐れた表情でうつむいていた。

 

 確かに実際にレイがもし本当におかえりといってくれたのであれば、俺はそんなビッグイベントをフル無視してスルーしてしまったことになる。

 それは悪いとは思うし、俺ももったいないことをしたとは思うけど、俺だって心の準備ってものがある。

 

 だってあの時靴脱ぐので忙しかったし? 別に紙切れなんて待ってなかったし?

 結局今日は襲い掛かってきた紙切れ、俺が全部片づけたし?

 

 そんな言い訳を重ねてもレイさんは相当ご立腹のようで、頬をぷくーとふくらましながらこちらをちらちら見てくる。

 

 まあ口がもぐもぐと動いているので、怒ってほっぺが膨らんでいるのではなくて、目の前からなくなったプリンをほおばってるだけなんですけどね。

 

「なあ、さっきしゃべった?」

 

 そんな俺の問いかけに意地になっているのか、首を振って否定するレイ。

 

 いやこれまでも笑い声とか悲鳴とか、レイっぽい声が家の中から聞こえたことはあったが、何か意味を持った言葉を発したことはない。

 

 これまでのコミュニケーションは最近確立したばかりの紙切れによる会話くらいである。 

 しかし本当に言葉をしゃべったとなると話は別だ。

 

 正直に言おう。俺は後悔している。貴重なレイの初発言を聞き逃したということに対して、激しく後悔している。

 

 どうでもいいけど初発言って日本語あってる? あってたとしても言いにくい言葉だな。

 

 ともかくレイがしゃべれるようになったのであれば、ぜひとも彼女と会話がしたいのだ。

 

 もしかしたら俺に話し相手ができるかもしれない。この寂しい寂しい一人暮らし生活、メモ用紙を見て話すよりももっとテンポがいい会話ができるかもしれない。

 

 幽霊と会話をすることを楽しみにしている時点で俺ってやばいのかもしれないけど、そもそもメモ用紙での会話でもそこそこ楽しんでいる俺ってどうなんだろう。

 

「おいしかったか?」

 

 俺の問いかけにこくこくと首を縦に振るレイ。

 違う、そうじゃないんだよ。いや反応が返ってくるのは嬉しいんだけど、俺が求めているのはそうじゃない。

 

「もっと食べるか?」

 

 レイはうつむいていた顔をばっと勢いよくあげて、きらきらした瞳でこちらを見つめてくる。

 

 非常にわかりやすい表情である。

 さすがにここ数週間一緒にいるのだ。レイが何を考えているのか手に取るようにわかる。

 

「そうか、別にいらないか」

 

 今日の俺は意地悪である。

 あえて俺は逆の意味としてとらえて、プリンの空き容器と皿を片付けようとする。

 

 レイの絶望したような顔を見ていると心が痛むし、ただならぬ量の寒気が襲ってきているけど、これくらいなら俺にも耐性がついている。

 これくらいの寒気であればまだ耐えられる。

 

 ただレイの目がすごいうるうるしているんだよ。正直今すぐやめたい。冷蔵庫にダッシュして二つ目のプリンを早く渡してあげたい。

 二つ目どころか三個入りプリンをそのままレイの前においてあげたい。

 

 ……だめだ! ここはぐっと我慢だ! 彼女の声を聴くためなんだ。今日の俺は強いんだ! 

 

 でも顔は見てられないからごみ捨てという言い訳を作り出して、レイの顔を見なくて済むように彼女に背中を向ける。

 

 ん? ふと服を引っ張られるような違和感を覚える。

 

 違和感がある方に目を向けると小さな手がきゅっと俺の服を掴んでいた。 

 

 いや実際には距離感を誤ったのか俺の内臓を掴む勢いで、手がめり込んできているんだが俺にかかればこれくらいの補正は楽勝である。

 

「……食べる」

 

 振り返ろうとした瞬間に耳に飛び込んできた小さくか細い、隙間風が吹いたような、でも高く可愛らしい声色。

 

 やっぱり喋った! 俺は今レイと会話をした!!

 

 俺は勢いのままレイの方に振り返る。レイは顔を真っ赤にしながらも腕を伸ばして俺の服を掴んだままだ。

 

 そんなレイを見て俺も一度冷静になる。

 このままだとどんなテンションで話しかけてしまうかわからない。

 このまま話しかけると何を口走るか俺でもわからない。

 さすがのレイでも、このまま発言するとひかれるかもしれない。

 

 よし、冷静にだ。クールにだ。きわめて気にしていない感じで対応しろ俺。

 

「おおおおう。ど、どれくらい食べる?」

 

「あるだけ」

 

 めっちゃ動揺したし、めちゃくちゃ口元ゆるゆるなんだが。

 正直にやけが止まらない。俺の顔今きっと誰にも見せられない形になってる。

 

 でもそんなことはどうでもいい!!

 レイの口が動いていた! そしてそこから音が、俺にもわかる日本語が発せられていた!!

 

 すごい!レイがしゃべっている!あの言霊紙吹雪攻撃を仕掛けていたレイが、俺に向かってしゃべっている!

 

 この子最近成長が著しくない? 俺はどうすればいい? 俺はずっと立ち止まったままなんだけど、何なら一緒に成長したいのにどうすればいいんだろう。

 アラビア語でも覚えればいいのだろうか。

 

 変なテンションと感動で俺がその場で立ち止まっていると、俺の服から手を離したレイがポケットからメモ帳を取り出す。

 

 あれ、どうしてメモ帳? なんでみょんみょんしてるの?

 

『はやくちょうだい』

 

 レイは少し不満げな表情で、でも頬を赤らめながら見慣れた血文字で書かれた紙をこちらに見せつけてきた。

 

 まだこっちの方が抵抗がないって感じか?

 

「喜んで」 

 

 俺はわけのわからない返事をしながら冷蔵庫へと向かう。

 

 結局最後は紙でのやり取りになってしまったが、レイがしゃべれるようになったことは事実である。

 

 まだ恥じらいはあるようだが、これから会話を重ねればもっと喋ってくれるかもしれない。

 

 俺のコミュニケーション能力次第ってとこかな。

 ……あれ、急激に自信がなくなってきたんだけど、今後一生レイの声が聞けない可能性すら浮上してきたんだけどどうしよう。

 

 

 結局テンションが上がってしまった俺は野菜室に隠し持っていたへそくりクレープまでレイにあげてしまい、うちのスイーツストックは本日もレイにきれいにすべて食べつくされてしまった。

 

 まあちょっと意地悪もしたし、最後は幸せそうにクレープ食べていたから、結果オーライである。

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