気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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46話 今日も今日とてレイは笑う

 それからはその人といろんなことで関わるようになった。

 私も姿を見せることがどんどん怖くなくなっていった。

 

 それにその人は私が触る、口に入れるということしか知らないのに、それ以上に楽しいことをいろいろと知っていた。

 

 そしていろいろと甘くておいしいものを家に連れてきてくれた。

 

 そのどれもがおいしくて、最近食べたアイスというものも衝撃的だった。

 口の中が冷たくて、一気に食べると頭が痛いってなるのに、美味しさはそんなことも気にならないくらい口の中いっぱいに広がっていた。

 むしろ慣れるとその冷たさでさえおいしく感じる。

 

 ほかにもお風呂や、遊び、ゲームを一緒にしていろんなことを覚えた。

 

 文字を書くこととしゃべることは教えてもらったものの中でも特に難しかった。

 文字を教えてもらって、それを紙に書く。最初は全然まったくうまく書けなくて、自分の意思が反映される謎の赤い文字を生み出してしまったりもした。

 

 それでもそれで会話するのはなんか悔しくてひたすらに練習をした。

 ボールペンで書いた初めての文字は赤文字に比べて格段に読みにくくてなんて書いているのかわからなかったけど、その人はとても喜んでくれた。

 

 それがうれしくてもっと意思疎通がしたくて、結局ボールペンを使うことは減ってしまって、楽な赤文字を選んでいるけど、いまでもペンで書いた文字を読み取れるレベルで書くために、たまに練習をしたりしている。

 

 しゃべることを覚えるのは文字を書くことよりも簡単だった。というのもあの人がしゃべっているときが、楽しそうでその人のしゃべっている様子ばかり見ていたのだ。

 

 そして真似するように私も口とのどを動かしていたらいつの間にかしゃべれるようになっていた。

 

 しゃべれるようになってからというものその人とのコミュニケーションは格段に増えた。

 

 私はもっとその人のことを知りたくて、自分がどういう存在なのか知りたくてその人にいろいろと触れたり、乗ったりしてみた。

 

 そのころから私は気付いたら外に出ていることがあった。

 何の意味があるのか自分でもわからないけど、外に出ては寝転んでボーっとしていることが増えていた。

 

 そこにいるときはなぜか胸がざわざわして、でもどこか落ちついて、きっとこうなる前の私に関係あることなんだろうけど、私にはこの行動の真意がわからない。

 

 でもここにずっといるとどこにも行けないような、このままここから動けなくなりそうなそんな気すらしていた。

 だから私がここにいることがその人にばれて「帰るぞ」と言われたときはとてもうれしかった。

 

 私にはこの道端ではなくてちゃんと帰る場所があるんだと実感することができた。

 そのことがとんでもなくうれしかった。

 その嬉しいという気持ちがその人にはなんでか気づかれたくなくてついごまかしてしまったけれど。

 

 最近やった花火というのも楽しかった。

 

 突然家の中にいたら大きな音が何度も何度も響いたときはびっくりして怖くて、その人を頼っても相手にしてくれなくてムカついたりしたけど、外で花火を持って、それを見たときにはそんな気持ちはどこかに消えていた。

 

 花火の前にその人が迎えに来てくれた時点でそんな気持ちはもうほとんどなかったんだけど。

 

 特にわたしは線香花火というものが好きだった。

 ぱちぱちしてて、ちょっとでも揺らしたりするとすぐに火が落ちて消えてしまう。

 丁寧に持っていれば最後まで激しくきれいに燃えあがって、そして消えていく。

 そんなはかなさが好きだった。

 

 花火も楽しかったけれど、その時にその人に言われた言葉がなぜか頭の中に残っていた。

 

「俺、レイのこと結構好きみたい」

 

 その言葉がわたしの胸の中にすっとはまるのを感じた。

 顔を赤くしながらそう言うこの人のことを考えた。

 

 この人は私の知らないことをいっぱい知っている。

 

 この人は私にいろんなことを教えてくれて、この人に姿を見られてからというもの毎日が楽しかった。

 

 楽しいとか悲しいとかむかつくとかいろんな感情を私が持っているということを教えてくれたのもこの人だ。

 そして何よりこの人と一緒に何かしていると安心する。私は誰かに見られている。ここに存在していると確信できて、ものすごく楽しくてそして安心するのだ。

 

「私も好き」

 

 そう答えたけれど、その人は気が抜けたように笑っていた。

 私は何か間違えたのかな?

 

 そんな楽しい事ばかりしている毎日だったけれど、一番うれしかったのは『名前』というものをもらった時だった。

 

 それはいつものようにその人が一人でしゃべっていることがたまたま耳に入ってきただけだった。

 なんとなしにそれを聞いていて何してるんだろうと考えているとふいに『レイ』という言葉が耳に入った。

 

 その瞬間私も気づかないうちに体を動かしていて、気づいたらその人の前に座っていた。

 その人はびっくりしていたけれど、言葉一つでここまで反応していた私自身が一番びっくりしていた。

 

 なんでかわからないけど、その『レイ』という言葉がすごく気になったのだ。

 

 シュークリームの誘惑に一瞬流されそうになったけど、今はこっちの方が大事だとそう思った。

 デザートよりも大事なものがあると思ったのはそれが初めてのことだった。

 

 その人が再び『レイ』と呼んだ時、何か体の内側ですとんと落ちつくような気がした。

 うまく説明はできないけれどなにかとてもしっくりきたのだ。

 

 

 そして私はその日から『レイ』になった。

 

 

 その人が名前を呼んでくるたびに胸の内がくすぐったくなるような、でもどこか嬉しい気持ちになる。

 

 それは初めてプリンを口の中に入れたときのあの幸福感に近いものがあった。

 

 そういえば私はあの人の名前を知らない。

 あの人は私の名前を呼んでくれるけれど、私はあの人が名乗っているのを聞いたことが無かった。

 

 あの人の名前がなんなのか知りたかった。読んでみたらどんな反応をするのか、そして私はどんな気持ちになるのか知りたかった。

 

 思い立った私はあの人がいる部屋に飛び出す。

 でもあの人はまだ帰ってきていなかった。

 いてもたってもいられなかった私はそのままベッドの上で座って、あの人の帰りを待ち続けた。

 

「ほえ……?どうした?」

 

 帰ってきて部屋へとやってきたその人は私の姿を確認するなり、変な声を出してぽかんとした表情を見せている。

 

 私の姿を見るだけでそんな声を出すのはちょっと失礼だと思う。

 

「名前」

「……レイ?」

「違う」

 

 私の名前は私が一番よく知っている。どんな時でも呼ばれればやっぱりほっこりした気持ちになるが、今はそっちではない。

 私は自分の意思を伝えるべく、その人の方に指をさす。

 

「え、なに……あ、もしかして俺の名前ってこと?」

 伝わったことがうれしくて首をぶんぶんと縦に振る。

「そういえば言ったことなかったっけ……聡だよ。九条聡」

 

 くじょうさとる……。それがこの人の名前。

 

「……さとる」

「……お、おう」

「さとる」

「な、なんじゃい」

 

 私が名前を呼ぶとさとるは少しうろたえるように苦笑いを浮かべながら、そして顔を赤くしながら反応してくれる。

 

 それが楽しくて私は何度もさとるの名前を呼んでみたりした。

 

 呼んだらさとるが反応してくれる。

 それを見て私も自分の名前が呼ばれたかのように体が温かくなるようなそんな感覚に包まれる。

 

 後半はさとるは慣れてしまったのかあんまり反応を返さなくなっていたけれど、それでも私はなんだか楽しくなっていて、彼の名前を呼び続けていた。

 

 さとると過ごす日々は私にとって楽しくて仕方がなかった。

 

 これからもこんな日が続けばいいと、素直にそう思った。

 

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