気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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53話 幸せのパンケーキって、食べてる人が幸せそうだからこそだよね……何言ってるかわかる?

 ドキドキわくわくの電車体験を何とか無事に終えた俺は、駅前にあるカフェで一息ついていた。

 いやあんな電車の中でも、ホームでもドキドキしたのは幼少期以来だよ?

 

「あー疲れた」

 

 まだ目的地にすらついていないのっていうのに、俺の疲労度はすでにマックスに近くなっていた。

 

 それもそのはず。電車の中では途中から極寒の地を思わせるような気温に耐え抜き、電車から降りたかと思えば、ホームからこのカフェまで背中から鉛のような重さのものを引きずっているかのような筋トレ状態を味わい、そしてここにたどり着いた。

 

 さっきまで顔は真っ青だったのに、今は汗だくで真っ赤になっているくらいだ。

 俺は別にボクサーも野球選手でも、ましてや南極調査隊を目指しているわけでもない。

 

 そしてそんなことをする羽目になった元凶でもあるレイさんはといえば、俺の膝の上に乗って、目の前でパンケーキを頬張っている。

 

 俺の苦労など知る由もなく、満面の笑みで頬をぱんぱんにしてそれはそれは幸せそうにもぐもぐと口を動かしている。

 

 そんなレイを横目に俺もレイの動きに合わせて、無造作に手と口を動かしている。

 もちろん俺の口の中には何も入っていない。

 

 でも俺が動かなければパンケーキが勝手に宙に浮いて、どこかに消えていってしまう摩訶不思議な光景が、カフェ店内の一角で繰り広げられることとなる。

 休日の人が多くて、さらには店内の角際で人もあまり通らず目立ちにくい場所とはいえ、だれが見ているかわからない。

 

 俺としてはレイの食事シーンは見慣れたものだが、他の人が見ればホラー映像他ならないだろう。

 それに虚空に向かって俺が死んだ目でにやついていればなおさらだ。

 

 ……正直に言おう。すごくむなしい。

 

 だってそうでしょ。俺は一切パンケーキの味がわからないのに、食べるふりをしないといけない。

 必死に口の中に入れた空気の味をかみしめければいけない。

 

 そして目の前にはさぞかしおいしそうにそれを食べている人がいる。

 俺はそれを眺めることしかできない。

 レイの笑顔と差し引けばプラスマイナスプラスだ。

 

 ……じゃあいっか。

 そもそも二つ頼めばいいんじゃないかと思ったりもしたが、傍から見れば俺はおひとり様だ。

 一人でまあまあの大きさを誇るパンケーキを頼むのは、気が引けてしまった。

 俺にはそんな勇気がなかった。

 

 だから俺ができることといえば、レイがパンケーキを掴んでいない瞬間を見つけて、コーヒーを飲むこと。

 ちなみに俺の目の前のコーヒーカップには、コーヒーがなみなみと注がれていて、一口も口をつけていない。

 

 レイの口と手が止まらないのだ。

 なに、そのパンケーキそんなにおいしいの? ますます気になるんだけど。

 

 もう一個頼もうかなって揺れ動くけど、きっともう一個頼んでも俺は食べられないんだろうね。レイの体の中に入っていってしまうんだろうね。悲しいね。

 

 そういえばコンビニスイーツでパンケーキを買ったことなんてないから、初めての味に感動しているのかもしれないな。

 

 まあそうじゃなくてもレイは一度食べ始めると、その手を食べ終わるまで止めることはないんだけど。そこがまた彼女の可愛いところでもある。

 

 俺がエア食事のパントマイムに慣れ始めたころ、目の前の皿からパンケーキはきれいさっぱりなくなっていた。

 

 そしてそのまま興味深そうに、観察するようにコーヒーを眺めるとそのままカップを手に取る。

 

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