気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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56話 自分のことを天才だと錯覚することは、人生において自分を幸せにする近道だと思う。いいこと言った!

 ということで、レイに目隠しをすることにした。

 

 ……は? って感じだよね。わかる。その気持ちはよくわかる。でもちょっと待ってほしい。俺もまさかこれが成功すると思っていなかったんだから。

 

 そもそもダメもとでやってみたら案外うまくいって俺自身びっくりしてるんだから。

 自分の気持ちを落ち着かせるために、客観的な自分の思考に言い訳をしてみる。

 

 よし現実に戻ろう。

 このままでは誰かに通報されると予測した頭のいい俺は、本気で対応策を考えることにした。

 

「レイ、ちょっとおいで」

 

 ドラッグストアを見つけて、トイレットペーパーをボーっと眺めているレイに声をかける。

 

 超至近距離で。さすがに虚空に向かって誰かを呼びかけていたらアウトだからね。

 尿検査とかされちゃうからね。

 

 邪魔されたことにちょっと怒っているのか、少し不満げな顔をしながらもレイは、トイレットペーパーから視線を外し、俺の方に振り向く。

 いやそんなに真剣にトイレットペーパー眺めている子なんてなかなかいないから。

 

 いったい何を考えていたのか。

 まさか突然袋破って店内のトイレまでくるくる紙を伸ばすとかやめてね。

 怒られるの間違いなく一緒に目の前に立っている俺だから。

 

 それにしても駅前ってドラッグストアが、よく標準装備されているイメージあるよな。

 

 需要があるのかね。俺はあんまり使ったことないけど。

 電車酔いした人とかに酔い止めが売れるとか? あれ? 酔った後に酔い止め飲んでも意味なくね?

 

 ……いかん、思考がどうでもいい方向に偏り始めている。

 俺の悪い癖だな。

 

 気を取り直して改めてレイの方に顔を向ける。

 呼ばれたにもかかわらずずっと放置されているレイは、きょとんと不思議そうに俺の首をかしげながら俺の顔を見上げていた。

 

 何その不意打ち。不満顔からのきょとん顔とかギャップ可愛いなんだが。

 俺死んじゃうよ?

 

「なに?」

 

「あ、すまん。えっと、俺の前に立ってくれるか」

 

「……? 分かった」

 

 トイレットペーパーはもういいのか、意外にも素直に俺の前に移動するレイ。

 俺はそのまま彼女の視線がふさがるようにレイの顔の前に両手を持っていった。

 

「よし、このまま俺に合わせて歩くんだぞ。行くぞー」

 

「みえない」

 

「がんば」

 

 もうやってしまった勢いのまま足を一歩踏み出してドラッグストアから離れる。

 最初は視界がふさがれていることへの不快感からか、冷気を漂わせていたレイだが、何歩か進むと新しい遊びだと勘違いしたのか腕を振りながら俺の歩調に合わせるようになった。

 

 どうだ。この完璧な俺の計画。

 周りを見させないと思わせず、新しい遊びだと錯覚させることでレイに楽しい思いをさせたままスムーズにショッピングモールへ向かう。

 

 まさに計画通り。……ほんとだよ?

 

 しかし一つ問題点があるとすれば、周りからの視線。

 どうして先ほどにもまして、周りから注目を集めているのだろう。

 

 もう店の前で仁王立ちをしたり変な動きはしていないはずなのに。

 ちょっと客観的になって考えてみようか。

 

 俺は今レイに目隠しをしている。

 まず大前提としてレイの姿は俺以外には見えていない。

 

 だから野外で変なプレイをしているバカップルには見えないはずだ。

 バカップルって……そもそもカップルじゃないしな! 今はまだ!!

 

 周りから見たら意外とそうとも見えるのか?

 いや周りには俺しか見えてないんだからそもそもそういう発想にならないでしょうが!

 

 ……落ち着け俺。考えすぎてむなしくなるんじゃない。

 ともかくそういう路線はないと考えた方がいい。

 

 俺は一度レイの方に顔を向け、それと同時に自分の手の位置を把握する。

 結構レイは身長が低い。

 俺とレイの身長差的に彼女の頭はちょうど俺の胸のあたりに来るくらいだ。

 

 そして俺は今レイに目隠しをするため、両手が自分の胸のあたりに位置している。

 自分の胸を両手で押さえているように見えなくもない……。

 

 ……もしかして俺変態だと思われている!?

 いや、突然路上で胸を押さえ始めるとか変態以外の何物でもないじゃねえか!

 

 片手ならまだ胸が痛いのかなで済むかもしれない。でも両手はダメだ。

 なに、ちょっとチャイナ風のコサックダンスでも始めるんか?

 なんだよ、チャイナ風のコサックダンスって。意味わかんねえよ。

 

 その事実に気づいた瞬間、真有の恥ずかしさに思わず両手を下ろしてしまう。

 

「もうおわり?」

 

 レイは少し寂し気に俺の顔を見上げてくる。

 そんなに楽しかった? そんな顔されるとやめられないじゃん。

 

 レイのために俺頑張るしかないじゃん。

 あれ、そもそもこういう状況になってるのって誰のせいだったっけ?

 

 でもこのままではまたレイはふらふらとどこかに行ってしまう。

 それを避けるためには俺の脳みそではベストアンサーである目隠し以外に方法が思いつかない。

 

 だがしかし、また両手をあげるのは俺にとって羞恥プレイ以外の何物でもない。

 さすがにもう一度同じ過ちを繰り返す勇気は俺にはない。他人の目を気にしない度量もあるはずがない。

 

 何かいい方法はないものか……。

 こうやって考えているうちに早くもレイは周りをきょろきょろし始めた。

 このままではまずい。

 

 そんなとき、ズボンのポケットに入れていたスマホのバイブが鳴る。

 なんだ、こんな忙しい時に。俺は今スマホにかまってやっている時間はないんだ!

 ん? 待てよ? スマホ……。

 

 そして俺に天啓が舞い降りる。

 

 スマホを取り出し、そのまま耳にセット。

 

「あ、もしもしー? どしたー?」

 

 そして俺は適当にひとり言を言いながら、もう片方の手でスマホを持っている方の腕をつかむ。

 

 そう。何も手で隠すことはないのだ。

 レイに実際に触れているわけではないのだから。

 

 ようは何であれレイの視界をふさげればいいのだ。

 自分の体と腕の間がちょっと空いていたり、位置的におかしかったりもするかもしれないが、さっきに比べれば全然ましだ。

 

 やはり文明の利器は素晴らしい。誰ともつながっていないのに通話している悲しい現実を受け入れなければ完璧な作戦だ。

 

「よし、じゃあ気を取り直して今度こそ……レッツラゴー」

 

「おー、れっつらごー」

 

 レイも先ほどよりもノリノリで両手をグーにして腕を振り上げる。

 こうしてようやく俺はまともに、まっ直ぐショッピングモールに向かい始めることができた。

 

 

 ショッピングモールにつく頃には俺の両腕がぷるぷるのがったガタになっていたけど、レイがちゃんと楽しそうだったので気になりません。

 

 明日は全身筋肉痛かなあ……。

 

 

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