気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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第六章 後輩襲来(お家訪問)
69話 後輩のことはバカにしてるけど、絶対後輩も俺のことをバカだと思ってるよね。


 食堂の窓から外をのぞけば大粒の雨が窓をたたきつけている。そんなどんよりとした気分にならざるを得ない天気。

 

 そんな中でも会社には来て8時間きっちり仕事をしなくてはいけないという悲しきかな社会人の宿命。

 雨の日とかに出社したら『雨天出勤報酬』みたいなさ、臨時ボーナスがあってもいいと思うんだ。

 

雨の中よく来ましたねー。頑張りましたねー。花丸!お金あげちゃう! みたいな。

 まあ実際にそんなことを上司から言われたら、馬鹿にしてんのかと思ってモチベーション下がるから。

 要するにお金だけくれればいい。給料あげてください。おなしゃーす。

 

「先輩!! 聞いてますか!」

 

「あーそうだな。今日もいい天気だよな」

 

「土砂降りの雨ですよ! 雨フェチですか! なんなんですか!」

 

 雨フェチってなんだよ。ていうか自分で言ったことに自分でキレるなよ。反抗期か。

 自分自身に反抗してみたってか。そんなの動画配信者でもやらんわ。

 

「先輩! 私は怒ってるんです!  あっつい!!」

 

 がしゃん! という机に激しく器を置く音と共に、器の中に入っていた紫色をしたスープがこぼれ出る。

 ああ、乱暴に置くからだよ? 物は丁寧に扱いましょうって道徳の時間で習わなかったのか?

 

 ていうかまた地雷メニュー選んでるのかよ。なんだったけな、確か『むらさきいもと紫キャベツのポタージュ』だったけな。

 まあ毒々しい紫色の見た目はさておき、むらさきいもと紫キャベツならまだ食べられそうって思うよね。

 

 でもそれが罠なんだよな。ここの食堂は『お、いけそう』と思っているメニューもどう調理したらそんな味になるのかってくらい、まずいとくそまずいの中間の微妙なものを出してくるのだ。

 

 だから地雷メニュー。

 

 まあそんな地雷メニューにも一定層の購入者がいるから食堂は調子に乗って、また新たなメニューを生み出すんですけど。

 ああいうのは一回目だけで充分。リピーターの気持ちがわからん。

 

 目の前で涙目で手をぶんぶんと振り回しながら、机にこぼれたスープを拭いている後輩を横目に見ながら俺は生姜焼きを頬張る。

 やっぱり無難が一番だよな。悪魔が作ったようなメニューには手を出さない。これ大事。

 

「先輩! どうして既読無視をするんですか!」

 

「別に無視してないだろ。こうやってちゃんと返事してるじゃないか」

 

 ようやくテーブル拭きの作業が終わった後輩はものすごい剣幕で俺の方に身を乗り出しながら、問い詰めてくる。

 

「今現在のリアルの話をしてるんじゃなくて! 私はチャットの話をしているんです!」

 

「リアルに生きようぜ」

 

 現実を見ろ現実を。あまりの大声に周りの人が引いてるぞ。ちゃんと周りを見て俺の身にもなってくれ。

 

「私、結構本気で悩んでるから相談したのに……」

 

「へえ。どの建造物とどの建造物のマッチングで?」

 

「そうですねえ。最近はタージ・マハルのあの大きな丸みを帯びた屋根と聖ワシリイ大聖堂のあの小柄ながらも主張してくるデザインをした丸み。どちらが私にふさわしいのか……そうじゃなくてですね!!」

 

 椅子にもたれかかるようにして座り直し落ち込んでるような表情を見せたかと思うと、うっとりとしたどこかにトリップしているような表情に変わり、そして怒ったようにこちらを睨みつけてくる。

 

 まったく、忙しい奴だな。食事くらい気を落ち着かせてのんびり食べようよ。

 

「とりあえずそのなんとかっていう建造物の方角に向かって、土下座すれば解決するんじゃないか」

 

「どうしてですか!!」

 

 どうしてもなにもどうせどっちも有名な建造物なんだろ? それに対してどちらが私にふさわしいとか、一回本気で怒られた方がいいと思うよ。ほんと。

 

「先輩はそうやって私のこといじめるんですね……」

 

 うわあ、そんな態度取られたら俺が悪いみたいじゃん。

 

 別に痴話げんかでもないし、こんなの会話にすらなっていないのに別れ話を切り出された彼女みたいな雰囲気出すのやめてくれる?

 君見た目はいいんだから、他人から見たら10対0で俺が悪く見えちゃうんだからさ。

 

「……自分の武器を理解してらっしゃるようで」

 

「なんのことですかぁ?」

 

 そうなんだよな。こいつ発言はバカそのものなんだけど、地頭はそこまで悪くないんだよな。

 実際業務はそつなくこなすから、こんなに目立つ発言をしていても上司に目をつけられることはないし。

 

「それで。相談ってなんなんだ?」

 

 あまり後輩をいじりすぎて、本当に悩んでいて相談できなくて恨まれるなんてことは勘弁してほしいので、そろそろ本題に入るとしよう。

 

「え、こんなに人がいるところで相談できないからチャットしたんじゃないですか」

 何言ってるんですか、脳ミソついてますか。

 

 そんなことまで聞こえてきそうなほどに、唐突な真顔と冷ややかな目線でこちらを見つめてくる後輩。

 シンプルに思ったことを言おう。

 

 は・ら・た・つ!!

 

「ごちそうさまでしたー」

 

 こっちが真面目に相談に乗ろうとしたらこれだよ!

 ちょっといい先輩風ふかしてやろうとか考えた俺が間違いだったよ!

 俺はトレーを持ち上げながら席を立つ。

 

「あああああ!! ごめんなさいごめんなさい!! ちょっとした冗談ですよ―――!! 先輩、私を捨てないでください―!! なんでもしますからあああああ!!」

 

 だから言い方を考えろ言い方を!! そしてそこまで悲壮感を出すな!

 そんな大事じゃないだろうが!

 

 俺は周りの冷たい視線に負けて、再び席に戻る。

 机の上に身を乗り出して最早机に腹ばい状態になっていた後輩は、乱れた服装を整えながら席に座り直す。

 

 ちなみにその間の動作は全て真顔である。しかも食事が入った器は全て落とさず、踏まないように綺麗に避けられている。

 

 何この後輩。俺怖い。

 

 それでこいつは人が多い所で相談もできないのに、ここで何を話すつもりなのか。

 

「先輩。単刀直入に言いますね」

 

 そうだな。そろそろ休憩時間も終わるし手短だと助かるな。

 後輩の目の前の器の中にはこぼれたとはいえなみなみと注がれているスープと大量に盛られているご飯が残ってるけど、果たして休憩終了までに食べ終わるのだろうか。

 

「先輩の家に行ってもいいですか」

「はい、却下でーす。お疲れー」

 

 再び立ち上がった俺は、後ろで激しくヘドバンしながら俺のことを引き留めようとしている後輩を尻目に、二度とその席に戻ることなく今度こそ本当に食堂を去った。

 

 ほんと誰かあの後輩、何とかしてあげて。

 

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