気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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83話 完全に先輩は酔っぱらっている。

 それにしても今日はレイのやつやけに静かだな。

 いや部屋に突撃してきたときこそ、今まで聞いたことないくらいの大音量で声をあげてたわけだけど、今は置物のようにおとなしく俺の膝の上に座っている。

 

 結構レイも気まぐれだからな。

 俺が頭をなでるそぶりを見せて、嫌な時ははっきりと拒否反応を示してくるわけだし。

 今日はそんなこともないから別に嫌がってるってわけでもないと思うんだけど。

 

 まあ一番うるさかった後輩がリビングを出ていき、今この部屋にいるのは爆睡中の先輩と、静かなレイと、彼女の頭をなでる俺。

 

 うるさくなりようがないんだよな。

 俺が一人でぺらぺらとしゃべるわけでもないし。

 

「九条……」

 

 そんなことを考えていたら、どこからともなく声が聞こえてくる。

 一瞬寝言かと思ったけど、そんなことはなかったようで先輩が目をこすりながらもそもそと起き上がっていた。

 

 いやまあ寝言で俺の名前呼ばれても困るんですけど。

 夢の中で何されてるか不安になって、俺の方が眠れなくなるんですけど。

 

「九条……」

 

 はい、九条ですがなにか?

 名前を呼びながらこっちを睨みつけないでほしいんですけど。

 

 いや別に睨んでるわけじゃなくて、視界がぼやけて見えづらいだけなのかもしれないけど、それでも見られてるこっちは気が気じゃないから。

 

「うわ、何の音だ?」

 

 あ、ほら。レイが怖がって、リビングから飛び出していってしまったじゃないですか。

 

 先輩からしたらテーブルの上の物が勝手に動き出したように見えてるのかもしれないけど、俺の目にはしっかりとテーブルの上を走り去るレイの姿が映っていた。

 

 しかしそれが功を奏したのか先輩は目が覚めたご様子。

 にもかかわらずいまだに俺の顔の方をじっと見てくる。

 

 俺何かした? え、何もしてないよね。

 ちょっとお口に合わないカレーを提供しただけだよね。

 

「えっと……いい天気ですね?」

 

「カーテンに隠れていて、外は見えないけどな」

 

 ええ、おっしゃる通りで。

 いやこの状況で他に何を言えと?

 

「建持はどうした」

 

「トイレに行きました」

 

「そうか……」

 

 先輩は何かを考えているのかしきりに周りを見渡しながら、首をかしげている。

 いやもしかして先輩もなんか病みルートに突入するわけじゃないですよね?

 最近先輩わりかしまともだから、信用してるんですからね。

 

「それにしても、うまく隠したな」

 

 先輩は生暖かい目をしながら俺にほほえみを向けてくる。

 なんでだろう。言っている意味が全く分からないのに、憐みの目を向けられているような気分になるのはどうしてだろう。

 

「ほら、この間休日に会っただろう?」

 

 ……おう。

 ここでその話題を出してくるのか。

 

 以前俺はデパートでレイの服を買うときに、やむを得ない事情があり女装をしている。

 その女装をしている知り合いには一番見られてはいけない最悪のタイミングで、先輩と鉢合わせている。

 

 やけに突っ込んでこないなと思ったら今このタイミングで放り込んでくるのかー。

 いや確かに後輩も戻ってこないし、周りには俺と先輩以外誰もいないから配慮してくれてるといえば、してくれてるんだろうけど。

 てっきりもう蒸し返してこないものだと思っていた……。

 

「いや、私は別にいいと思うんだ。どんな趣味があってもいいと思うし、それは個人の自由だ。私が口出しする筋合いはないと思う。それは当然だ」

 

 いや別にいいんですよ? 否定しても。

 だって俺にそんな趣味趣向はないんだから。

 

 むしろ全力で否定してくれた方が、俺もそんな趣味はありませんでしたーっていう話に持って行きやすいんだけど。

 

「ただ一つどうしても忘れられないことがあってだな……」

 

 まあそうでしょうね。

 あんな恰好した職場の後輩に出会ってしまったらそれはもう忘れられない一日になるでしょうね。

 

「わかります」

 

「そうか、分かってくれるか! そうだよな! 君自身も気づいていたんだな!」

 

 俺の返事をどういう意味で受け取ったのか急に先輩のテンションが高くなり、俺の方へと顔を近づけてくる。

 

 だからみんな無防備なんだよ。

 気軽に四つん這いとか前かがみとかならない方がいいと思うの。

 視線を逸らさなきゃいけない俺の気持ちも、ちょっとは考えてくれるとありがたいんですけど。

 

「あれはさすがにないよな。ださすぎる!」

 

 ……もう隠そうともしないんだね。

 ああ、もしかして俺が自分の服のセンスの無さを自覚している返事だと思ったの?

 それでオブラートのかけらもなくして、ドストレートに直球ぶち込んできたんですね。

 

 いや、そりゃ俺だってあの時の女装の格好がダサすぎることくらい自覚はしてるし、普段あんな恰好しないよ!?

 なに、先輩の中で俺って圧倒的ファッションセンスがないのに、女装しているイタい奴みたいになってる?

 

「そこで私は考えたんだ」

 

 ああ、もう嫌な予感しかしない。

 だって先輩の目がきらきらしてんだもん。めちゃくちゃ考えてるんだもん。

 

 まるでいたずらする前の少年のような純度なんですもん。

 会社でもこんな先輩の姿見たことない。

 

「私は君をコーディネートしようと思う!」

 

 …………。

 うん、そんなびしーってこっちに指さしてきてドヤ顔されても、俺全く理解できてないからね?

 いったい何を言っているのか俺にも分かるように説明してくれないでしょうか。

 

「何ボーっとしてるんだ。さっさと脱げ。そして隠してある服を持ってくるんだ」

 

 なにこれ、俺の貞操の危機!?

 純粋に誰か、ほんとに助けて!

 

 カムバック後輩!!

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