気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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91話 飲み会の終わりって盛り上がってたのがウソみたいに意外とあっさりしてるよね。

「そろそろ許してやったらどうだ?」

 

 いつの間にか起きていた先輩が、憐みの目を庭のほうに向けながらそうつぶやく。

 別にもう怒っていない。ただタイミングを見失っているだけだ。

 

 確かに冗談で後輩が口走った言葉は、冗談として受け取ることをできなかった。

 でもリビングに戻ってきて俺は思った。

 

 あれ、このさも私は常識人です。みたいな面ぶら下げている先輩が俺にしたことに比べたら、さっき後輩がしてきたことなんてかわいいもんなんじゃないのかと。

 

 そう思ったら途端に熱くなっていた頭はサーっと冷えて、冷静になってきた。

 そして今俺がしている寒空の中、一人庭に追い出していることのほうがやばいのではないかとも思ってきた。

 

 後輩のほうにちらっと視線を向けると、何を考えているのか空を見ながらひたすらに息を吐きだしているように見える。

 あれは単純に暇で遊んでいるのか、それとも何か黄昏ているのか。

 

 俺にはわからない。もう女心ってやつがわからないんだよ!

 すべてがめんどくさくなった俺は、庭へと続く窓に手をかける。

 

「あ……」

 

 窓を開けると後輩は虚ろな瞳でこちらを見上げる。

 あれ、結構反省してるっぽい? それとも俺がやりすぎたか?

 

「……よし」

 

 まるでペットに命令するような言葉をかけてしまったが、後輩にそれを気にしている様子はなく瞳に光を取り戻しながら先輩のほうへとかけていって、そのまま先輩の自由奔放な胸の中にダイブした。

 

「寒かったですぅ」

 

「よしよし。つらかったな」

 

 あれ、なんか流れ的に俺が悪いみたいになってない?

 あれだよね。これは後輩がさすがに悪いよね。俺は何も悪くないですよね?

 

「もういい時間だ。そろそろ帰ろうと思うんだが」

 

「えー、もう帰るんですか? 今からもう一度飲みなおすんじゃないんですかー?」

 

 すっかりいつもの調子を取り戻してるところ悪いが後輩よ。

 今から飲みなおすと明日になっちゃうでしょ?

 

 深夜にバカ騒ぎして壁ドン食らって気まずくなるの俺だからね。

 壁ドンの被害を受けるのは俺だけなんだからね。わかってる?

 

「今から飲んでたら朝になってしまうぞ。さすがに夜通しはまずいだろ?」

 

 出た先輩の常識人ムーブ。普段は何皮かぶってるんだって思ったりもしなくもないけど、今日ばかりは頼もしいと感じてしまう。

 

 なるほどこのギャップがあるから、部長は先輩が暴走してもあんまりきつくは言わないのか。

 

 やるときはやる女って感じで認められてるのかな。

 できるなら暴走もしてほしくはないんですけど。

 

「私はお泊りも辞さない覚悟です」

 

 ぐっとこぶしを握ってこちらに笑いかけてくる後輩。

 

 いやそこは辞せよ。

 さっきまでとのテンションの差はなんだ。さっきまで黄昏ムードでなんか知らんけどどんよりしてたじゃん。

 何そのテンションの持ち直し。もはや怖くなるわ。

 

「まあ後輩がどうしてもというのであれば……」

 

 あれ、これもしかして本当にお泊りコースになるパターン?

 俺普通に寝たいんですけど。

 

「私は先に失礼しようかな。二人で楽しんでくれ」

 

 先輩はさっさと帰り支度を始めながら立ち上がった。

 

「え、先輩私を置いていくんですか」

 

「しょうがないだろう。まあ二人でも大丈夫だろ」

 

 あれ、今日先輩が俺の家来たのって、女性一人で一人暮らしの男の家に行くのは危ないからとかそんな理由じゃなかったっけ。

 結局先輩が先に帰っちゃったら先輩が来た意味なくなりますよね。

 

「すまないな。家で待っている者がいるんだ。怒られてしまう」

 

「……あー。なるほどぉ」 

 

 後輩は先輩の言葉を聞いて納得したように先輩を引き留めるのをやめる。

 

 うん、猫ね。猫の話。

 

 先輩大事なところぼかすからみんなに勘違いされるんですよ。

 後輩も絶対勘違いしてるからね。

 

「おいしいごはん作ってあげるんですか?」

 

 俺は後輩が誤解しないように話を広げてあげる。

 これで先輩がうまく返してくれれば誤解は解けるはず。

 俺ファインプレーじゃない?

 

「そうなんだ。本当に私のご飯が好きな仕方ないやつなんだよ」

 

 あ、失敗した。

 もっとややこしくなった。

 

「あーー、のろけはいいでーす」

 

 ほら、やっぱり後輩はますます勘違いしてしまっている。

 そういいながらも後輩も帰り支度を始めている。

 

「あれ、結局帰るのか?」

 

「はい。さすがに先輩と二人きりだとどうなるかわからないので帰ります」

 

 いや、別に何もしないけどね?

 それに二人きりじゃなくて家にはかわいいかわいい幽霊がいるんだけどね。

 

「じゃあ今日はこのあたりでお開きだな」

 

 先輩がまとめに入ろうとしている。

 いやあ、俺の大事な何かが失われそうになったり、後輩に怒っちゃったり、レイに心わしづかみにされたりしたけど、なんやかんやいい一日だったな。

 

「先輩。今日は本当にありがとうございました。それといろいろとすいませんでした」

 

 ふざける様子ではなく、後輩はしっかりと俺のほうに頭を下げてきた。

 まあほんと今更って感じだけど、誠意は受け取っておこう。

 

 どういたしまして。

 ひらひらと手を振って礼を返す。

 

「ふふ、先輩らしいですね」

 

 今のどこら辺が俺らしいというのか。

 俺だってちゃんとお礼されたら返事くらいするよ。

 あれ、俺今どういたしましてって口にだしていったっけ?

 

「ところで九条。最後に一つだけいいか?」

 

 先輩がリビングの扉の前に止まって俺に尋ねてくる。

 後輩も先輩が何を聞こうとしているのか見当がついていないのか、首をひねっている。

 もちろん俺も見当つかない。

 

「ぶしつけな質問で悪いが、この捨てなくてい」「後輩よ、これを進呈しよう!!」

 

 俺は先輩がそこまでしゃべった瞬間、猛ダッシュで机の上にあったカレーもどきが入った鍋をひっつかみ後輩へと渡す。

 後輩は勢いのままそれを手に取る。

 

 忘れてた! もう当たり前になりすぎてリビングに貼ってた『捨てなくていいものリスト』を隠すのを忘れてた!

 しっかりとレイの血文字も書かれているし、これ以上追及されるわけにはいかない。

 

 俺は後輩に鍋を押し付けたまま、二人を玄関へと誘導する。

 

「え。いいんですか? というか、先輩何聞こうとしたんですか。気になるんですけど。扉に何かあるんですか」

 

「なんか……すまなかった。余計なことを聞いてしまったな」

 

 そう思うなら早くお靴を履いて、外に出ましょう!

 

「外は冷えますから、気を付けてくださいね」

 

「そんな外にさっきまで放り出されていたんですけどね……。それと先輩。くれるっていうならこのカレーありがたく頂戴しますけど、食べ終わった後鍋はどうすればいいですか?」

 

 それはお前が悪いから弁解の余地なし。

 

 あと鍋なんて後でどうでもなるでしょ。焼くなり煮るなりして好きにしてもらっていいよ。

 後で返ってくるんなら、俺は気にしない。というかいまはそれどころじゃない。

 

 おい後輩。俺の合間を縫ってリビングに戻ろうとするな。そういうところだぞ。

 

「ほら、帰るぞ。デリカシーが足りないのはお前の悪いところだぞ」

 

「えー、先輩だけずるいですよー」

 

 先輩は後輩の首根っこをつかみ引きずるように外へと連れ出していく。

 あれはたぶん後輩本気で抵抗してないんだろうな。本気で抵抗したら多分先輩の肩外れるだろうから。

 

「邪魔したな」

 

「お邪魔しました。あ、これで先輩の家に来ても安全だと証明できたんでこれからいつでも好きな時に遊びに来れますね!」

「本当に勘弁してください許してくださいごめんなさい」

 

 後輩の無邪気な一言に俺は即座に反応して、土下座をする。

 プライドなんてものは母親のおなかの中に置いてきたからな。

 

 土下座くらい軽いもんよ。

 だからそんなたまり場みたいな感覚で来ないでいただきたい。

 

「え……冗談ですよ。そんなに本気で引かれるとさすがの私も傷つくんですからね?」

 

 後輩はドン引きしている視線を俺に向けながら、土下座姿を眺めながら歩き始めた。

 先輩も俺の様子を見て苦笑いを浮かべながら、歩き始めた。

 

 ……なんかいろいろとダメージは負った気がするが、無事に終わってよかった。

 

 

 無事に! 終わってよかったな!!

 

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