気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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94話 ハイスペックな妹とロースペックな兄……どこのラノベですか?

 俺には妹がいる。

 確か今年20歳とかそのくらいだったと思う。

 

 高校卒業と同時に専門学校のために一人で都会へと向かったチャレンジャー。

 何の専門学校だったか忘れたけど、実家を出てからはほとんど連絡を取っていなかった。

 

 いや別に仲が悪いとかそういうわけじゃない。

 うちの家族感的にそう頻繁に連絡を取る感じじゃないから、自然と妹とも連絡を取っていなかっただけの話だ。

 

 しかし妹が絡んでくるときはたいていろくなことがない。

 俺はこんなにも普通な人間で、いたって普通に幽霊との生活を楽しんでいるというのに、あいつは普通を逸脱しすぎているのだ。

 

 類まれなる美貌を持ち、モデルのようなスタイルをしている。

 そして一度熱中したことに全力で、確か専門学校に行ったときにはその分野の知識はあらかた調べつくしたみたいなことを言っていた気がする。

 

 別に俺の両親が超絶イケメンと超絶美人で、美人が生まれて当然。みたいな環境ではない。

 

 それだったら俺がガチャのはずれ枠引いたみたいになるからね?

 逆に平平凡凡な家庭から、SSR、UR級の人間が生まれてきてしまったのだ。

 

 その美貌から学生時代はあらぬ噂をよくたてられた。

 そもそも俺と似なさ過ぎて兄妹に思われないのだ。

 

 街中を歩いていても「不釣り合い」だの「なんであんな男と」だの、いわれのない誹謗中傷。

 いや妹とお似合いだって言われてもそれはそれで嫌なんだけど!

 

 しかも妹はそれを楽しむがごとく、そういう声が耳に入ると恋人のような振る舞いをし始める。

 その演技力の高さに周りの人はみんな騙される。

 

 俺ですら一時「あれ、俺たちって兄妹じゃなくてカップルだっけ?」と思ったことがあるくらいだ。

 まあそれを妹に言ったらガチで引かれて、一か月ほど晩御飯が犬のえさになった。

 

 そんな超ハイスペックトラブルメーカー妹が家に来るらしい。

 

 ……いい予感がしない。

 まあレイに関してはこの間の会社相談会もとい飲めないやつらの飲み会で、俺以外には見えないことが判明しているから安心してもいいけど、それはそれだ。

 

「外には出れないなあ」

 

 妹には申し訳ないが、俺の家にいる間は外出禁止令を発令しよう。

 俺の家から妹が出てくるだけでも噂になるし、一緒に外に出ようものなら学生時代にいやというほど味わった誹謗中傷をまた味わう羽目になってしまう。

 

 恨むなら兄貴のイケメン要素をすべて奪って生まれてきた自分を恨むんだな妹よ。

 しかし今度っていつだろう。

 

 家に来るんならそれくらい伝えておいてほしいものだが。

 このチャットの中には全くそれが書かれていない。

 

 報連相大事だよ? おもてなしって言われたって、いつ来るのかわからなければ俺は何も準備できないんだから。

 お兄ちゃんをいたわってほしいものだよ。まったく。

 

「さとるー。つづき」

 

 お、過去を振り返っていたらレイが洗い物の続きをやる気になったらしい。

 俺の袖を引っ張ってシンクへと連れて行こうとしている。

 そのやる気が殺る気じゃなければいいのだが。

 

「よろしくおねがいします!」

 

 レイはシンクに向かって深々と礼をしている。

 なんだろう、この試合前の緊迫感は。

 

 よし、俺も気合入れるか。

 妹のことは後回しだ。妹のことよりレイのほうが大事なんだ。それは間違いない。

 

 俺はシンクに突き刺さっている包丁を力任せに引き抜くと、ゆっくりとレイに渡す。

 

「やり方は覚えてるよな?」

 

 レイはスポンジと包丁を片手ずつに持ったままコクコクとうなずいている。

 返事だけはいいんだよなあ。

 もうすでに包丁の刃先がこっちに向いてるから怖くて仕方ないんだけど。

 

「しゅっ!」

 

 ほら、なんか包丁振り上げてるし。

 

「ぱっ!」

 

 勢い良く振り上げられた包丁はレイの手のもとを早々に離れて宙を舞う。

 その行先は庭へと続く窓だ。

 やばいこのままだと窓を突き破りそう!!

 

 放物線を描いて窓に一直線に向かう包丁を呆けた表情で見つめているレイの隣を走り抜けると、落ちてきた包丁が手に届く位置にスタンバイする。

 

「おらこいやー!!」

 

「がんばってー!」

 

 いや、応援してくれるのはいいけどさ。こんなことになってるのはレイさんのせいですからね?

 いつの間に両手にスポンジ持ってるの?

 

 そして洗剤がついた状態でポンポンみたいに振り回さないでね。

 床がすごいことになってるから。

 

 レイの謎の応援を受けながら、俺は包丁を向き合う。

 あ、意外と近い。当たるかも。

 一か八か俺は真剣白刃取りの要領で、包丁に向かって両手を突き出す。

 

 …………。

 

「おー」

 

 一瞬の静寂の後にレイの感心したような声とラップ音のような拍手の音が部屋に響く。

 包丁は俺の両手に綺麗にとらえられていた。俺の顔の目の前で。

 

 あと一寸でも反応が遅ければ、俺は大けがをしていたに違いない。

 心臓の鼓動が早まっていく。

 

 一回、感心しているレイに怒ってもいいかな? いいと思うんだよね。一回くらいなら。

 態勢も背中をのけぞっているせいで不安定だ。

 しかしここで倒れようにも、その反動で手が動けば俺の顔に傷ができる。

 

 なんとかない筋力を使って己の体を持ち上げなければならない。

 この態勢もまあまあきついし。

 

ぴんぽーん。

 

 そんな緊迫した状況の中、気の抜けるようなインターホンの音が鳴り響く。

 だれ!? こんな生死がかかってるときに!

 

 レイはピンポンの音にびっくりしたのか、脱兎のごとくリビングから去って行ってしまった。

 

 こんな状態で出れるわけがない。

 そんなことを思っていると扉が開く音がする。

 

「あれ、開いてるじゃん。いくら田舎だからって不用心じゃない?」

 

 待って。この聞き覚えのある声は……。

 

「さと兄? きたよー? 元気してるー?」

 

 インターホンを鳴らした相手はそのままリビングの扉をあけ放ち、今まさに包丁と向かい合っている俺と目が合う。

 

「やあ妹よ。兄は元気だよ」

 

「…………」

 

 口をポカーンと開けたまま、立ち止まりこちらを見つめてくる妹。

 ああ、気持ちはよくわかる。俺も逆の立場だったら混乱して、そっと家から出てるかもしれない。

 

「ちょっと、さと兄なにしてるの?! いくら不細工だからって早まらないで!!」

 

 妹は目をひん剥きながらダッシュで俺に近づくと、俺の手から包丁を奪い取った。

 もしかして俺自殺しようとしてると思われた?

 

 ……というか俺は不細工じゃねえ! フツメンだよ!!

 

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