気づいたら幽霊が家に住み着いていたけど、ホラーは苦手なので全力でラブコメしたいと思います。   作:葵 悠静

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95話 大人になるほど間違ったことしても誰も怒ってくれなくなるっていうけど、それでも妹に説教されるのは何か違うと思う。

 まさかこの歳になって人前で正座をする日が来るとは思わなかった。

 学生時代の全校集会の時に話を聞く態勢って体育座り派かあぐら派で別れると思うんだけど、俺はもちろん正座派だった。

 

 正座が一番しゃべってる人の顔がよく見えるからね。

 校長の顔とか先生の顔を見てても意味ないんだけど。むしろ寝てたから顔なんて見えてないんだけど。

 

 でもほら、なんというか正座って真面目な印象あるでしょ?

 寝てると不真面目だけど、正座してるから真面目。

 

 ほらプラスマイナスゼロ。なんて利己的!

 まあ集会が終わって解散するとき、大抵足がしびれて次の授業に遅れてたんだけど。

 あれ、そうすると結局プラスマイナスマイナス?

 

「ちょっとバカ兄貴! 話聞いてるの!? 聞いてないんでしょ! 知ってる!」

 

 さすが血のつながった家族だ。俺のことをよくわかっている。

 そう、俺は実の妹の前で正座をしている。というかさせられている。

 

 どうして俺は今説教されているんだろう。

 助けてもらった後に、自殺しようとしているわけではないって言った気がするんだけど。

 

 あれ、言ったっけな? 仮に言ってなかったとしても、わが妹ならわかってくれるはずだ。

 

「それで? 何があったの? なんかつらいことでもあったの?」

 

 割とまじめな感じで妹が問いかけてくる。

 お、これはそろそろ正座を解除してもいいんじゃないだろうか。

 

 説教が始まって10分くらい経過したころからすでに足の感覚がない。

 俺の足はちゃんと機能しているか確認したいから、もう足崩してもいいかな。

 いいよね?

 

「ステイ。何勝手に足崩そうとしてるの。ダメに決まってるでしょ」

 

 シリアスな雰囲気にかこつけて、足を崩そうとしたらしっかりと怒られて。

 しかしステイって。俺は犬じゃないんだから。

 

 仮にもあなたの兄だぞ。

 妹にすべてが劣っているとしても、俺のほうが兄だというそのただ一点だけは変わらない。

 

「かわいい妹が来てあげたんだから、全部話してみなさい。相談くらい乗ってあげる」

 

 妹が優しい笑みを浮かべて俺を見下ろしている。

 あれ何この包容力。もしかして妹って姉だったのでは?

 

 しかしそんな妹の発言を顧みて、俺も一つ思うことがある。

 妹から家に行くといわれたのはさっきのチャットが初耳だ。

 

 それなのにどうして今妹はすでに俺の家の中にいて、俺に説教をしているのか。

 今度行くからと言って、その直後に来るなんてそんなのあり?

 

「何しに来たの?」

 

 だから素直に疑問に思ったことを聞いた。

 それなのに妹の顔がどんどん変わっていく。

 

 まるでその顔は般若の仮面のように……まあ般若をあんまりよく見たことがないんだけど。とにかくそれはもう恐ろしい顔になっていた。

 

 美人が台無しだぞ。

 

「私が珍しくバカの心配してあげてるっていうのに、何その言い草!」

 

 自分で珍しくとか言っちゃうんだ。自覚あるんだな。

 多分自分でも優しいお姉さんムーブしてて、途中で恥ずかしくなったんだな。

 

 あとバカってもうただの悪口だからね。お兄さんでも家族でもなくなってるから。

 お兄ちゃん悲しいなあ。

 

「はあ。心配して損した。お風呂入る」

 

 そういって妹は俺に背を向けると、リビングから出ていこうとする。

 あれ、まだ話し終わってなくない?

 

「そもそもどうやって俺の家に?」

 

 妹に家の住所を教えた記憶はない。というかお互い一人暮らしを始めてから連絡すら取ってないんだから、教える機会がない。

 

 それなのに妹は今俺の家にいる。

 もうなんか当たり前のように風呂に行こうとしているけど、いったいどうやってこの場所にたどり着いたんだろうか。

 

 別に俺特定されるようなことしてないよ? SNSもやってないし。

 もしかして俺が住んでいるところの、あらゆる場所のピンポンを鳴らしまくったんだろうか。

 俺はそんな非常識な妹に育てた覚えはないぞ!

 

「そんなの、お母さんに聞けば一発でしょ」

 

 あー、うちの親経由か。

 どうやらご近所さんの家を片っ端からピンポン無断訪問をしてきたわけではないようだ。

 

 確かに引っ越した当初教えたような気がするな。

 そんなこと忘れてたけど。

 

「あれ、俺お前の家の住所親から聞いてないけど」

 

「はあ? そんなの当たり前でしょ。高尚なレディーの住所をそう簡単に特定させるわけがないじゃない」

 

 はい! 意義あり! 俺だって高尚なボーイだと思います!

 そこは男女平等で俺にも公平に妹が住んでいる場所を公開するべきだと思います!

 

「それに別にさと兄は私が住んでる所教えたって来ないでしょ」

 

 さすが妹、よくわかっている。

 もちろんいくつもりなんてない。

 

 だって妹が住んでいるところ都会だよ? 都会って夜歩いているとおやじ狩りと出くわすんでしょ?

 おやじじゃないのに狩られちゃうんでしょ? そんな世紀末な場所に足を踏み入れたくない

 

「あのね。さと兄が思ってるほど、都会は怖いところじゃないから」

 

 顔だけこちらに向けてそう言い残した妹はため息をつきながら、今度こそリビングから出ていく。

 妹よ。それはもうお前が都会に染まってしまっているからそう思うだけだぞ。

 

 トカイコワイ。

 

 

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