このすば!この微笑ましい双子に幸運を   作:先導

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この魔剣の勇者に鬼畜コンビを!

魔王軍の幹部の1人、ベルディアがアクセルの街に現れて1週間がたった日、カズマたちパーティは普段と変わらずに平和に過ごしていた。本日、パーティ全員がギルドに集まった時・・・

 

「もう限界・・・耐えられないわ・・・。借金に追われる生活はもうまっぴらよ!クエストよ!!あのデュラハンのせいでキツイクエストしかないけど、クエストを受けましょう!!私、お金が欲しいの!!」

 

「「「「えー・・・」」」」

 

突然ながらアクアがクエストを受けようと言い始めた。キャベツの報酬でだいたい懐が潤っていることと、高難易度クエストしかないため、受けるのを明らかに渋っているカズマとめぐみんと双子。

 

「わ、私は、高難易度クエストでも、一向に構わんのだが・・・」

 

ダクネスはアクアの案には賛成だが、カズマがOKと言わない限り、クエストには行くことができない。そして4人は明らかにアクアから視線を逸らしている。当然それにはアクアは駄々をこねる。

 

「お、お願いよー!!もう商店街のバイトは嫌なのよ!!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!!頑張るから!!私、今回は全力で頑張るからあああああ!!うわあああああああん!!」

 

(惨めだ・・・この自称女神・・・)

 

泣きながら駄々をこねるその姿はもう女神とはかけ離れているため、カズマはアクアを哀れに思った。

 

「わ、わかったって。いずれ俺の金もなくなるだろうし、よさそうなクエスト、見つけて来いよ」

 

「わかったわ!!」

 

クエストを受けることを承諾すると、アクアは途端に元気になり、クエストボードでクエストを受けに向かった。

 

「・・・アクア、大丈夫でしょうか・・・」

 

「アクアのことだから、とんでもないクエスト持ってきそうな気が・・・」

 

「私は無茶なクエストでもいいが・・・」

 

「アホ。私たちが死ぬわ」

 

「確かに・・・あいつなんか変なの持ってきそうなんだよな・・・」

 

短期間でアクアのことを理解しているパーティメンバーは一部は除いてちょっと嫌な予感が感じ始めている。

 

「・・・ちょっと見てくるわ。ついでに、あいつが変なもん受けようとしたら全力で止めてくる」

 

カズマはアクアが無茶なクエストを持ってこないようにするために同じくクエストボードへと向かっていった。

 

「ま、カズマがいたら無茶なやつは取ってこないでしょう」

 

「ですね。私たちはのんびり待ちましょう」

 

「わ、私は無茶なものでも・・・」

 

「ダクネス、それさっき聞いたよ」

 

残ったパーティメンバーはカズマとアクアがクエストを持ってくるのをゆったりと待つことにした。待つこと数分、カズマとアクアが戻ってきた。

 

「おーい、クエスト持ってきたぞ」

 

「早かったですね。それで、どんなクエストを持ってきたのですか?」

 

「ふふん、これよ」

 

アクアは得意げながらに取ってきたクエストを4人に見せる。依頼は街外れにある湖が汚くなり、ワニのモンスター、ブルータルアリゲーターが住み着いたので湖を浄化してもらいたいという内容だ。報酬は30万エリス。なおこのクエストは湖の浄化が目的としているため、ブルータルアリゲーターは討伐しなくてもよい。

 

「湖の浄化ね・・・確かに、アークプリーストにはお誂え向きのクエストだけど・・・」

 

「規模はその湖を見たことがないからわからないけど・・・浄化にはかなりの時間がかかるんじゃない?最悪、丸1日を使うかも・・・」

 

双子の疑問を聞いて、カズマが問題なさそうに答える。

 

「どうもこいつ、触れてるだけでその水の浄化ができるんだってよ。その性質を使えば、普通の浄化より素早く済ませられるらしい」

 

「へぇ~・・・触れてるだけで・・・」

 

「珍しい体質を持ったものね」

 

「ですが・・・浄化の方は問題ないとしても、ブルータルアリゲーターはどうするんです?きっと群れで襲い掛かってくるはずですよ?」

 

「も、もしもその時が来たら・・・わ、私があのワニの群れの中に・・・」

 

「行くなよ?まぁ、そこも大丈夫だ。アクアが無傷で済み、湖を浄化できる方法がある」

 

めぐみんが言ったブルータルアリゲーター問題もカズマは問題なさそうに答えた。

 

 

ーこのすばー

 

 

湖の浄化クエストを受けたカズマパーティはさっそくその湖に向けて、道中を歩いているのだが、その光景が中々にシュールすぎる。

 

「・・・ねぇ、本当にやるの・・・?」

 

「俺の考えた隙のない作戦の、いったい何が不満なんだ?」

 

「私・・・今から売られていく捕まった希少モンスターの気分なんですけど・・・」

 

そう、カズマたち5人は普段通りに歩いているのだが、アクアは馬車に乗せたモンスター捕獲用の檻の中に入っているのだ。そこに女神の威厳もへったくれもない。そうしているうちに、カズマたちは目的地である湖までやってきた。湖はこれでもかというくらいにまで濁り切っていた。

 

『調査クエスト!!

水源の湖を浄化せよ!!』

 

湖まで到着したカズマたちはまず下準備のためにまず鎖を檻の鉄格子の柱1本と繋げる。そこでさらに、檻が遠くまで流されないように岩に鎖を巻き付けて、ある程度まで固定させる。下準備を終えれば、すぐにアクアが入った檻を湖の中へと移動させる。

 

「アクアー、何かあったら言えよー?檻ごと引き上げてやるからー」

 

「私・・・出汁を取られてる紅茶のティーバッグの気分なんですけど・・・」

 

そう、これがカズマの考えた安全策なのだ。檻の中さえいれば安心して水に触れて湖を浄化できるという算段だ。決して使えない女神を湖に投棄しに来たわけではない。

 

それから、2時間が経過・・・湖が浄化した気配は今のところない。さらに言えば、ブルータルアリゲーターも来る気配もまだない。

 

「モンスターが出てこないな」

 

「そのようですね」

 

「というかそもそも、浄化してる気配がないんだけど」

 

「本当に大丈夫?」

 

いくら湖の浄化と言えども、これほどまで変わってないと、若干不安になってくるパーティメンバー。

 

「にしてもお前、今日はなんか大人しいな、お前」

 

「え?」

 

「いつもだったら中二っぽいことを言って湖ごと吹っ飛ばそうとするだろ?」

 

「「「ああ、確かに」」」

 

「あなたたちは私にどんなイメージを持っているのですか!!?」

 

どうやら4人の解釈はだいぶ間違っているようで、めぐみんはかっこつけながらそれを訂正する。

 

「ふっ・・・我が究極の爆裂魔法は、ワニごときに使うものではないのです」

 

「なるほど・・・使う相手は決めてるってわけだね・・・さすがめぐみん・・・」

 

「あ・・・そうなのね・・・」

 

「こいつ普段は無駄にポンポン撃つくせに・・・」

 

話している間にも、浄化の状況が気になったカズマはアクアに声をかける。

 

「おーいアクアー!湖の浄化の方はどんなもんだー?」

 

「浄化は順調よー」

 

「水に浸かりっぱなしだと、冷えるだろー!トイレ、行きたくなったら言えよー?」

 

「あ、アークプリーストはトイレなんか行かないし!!!」

 

一部余計な会話があったものの、アクアが言うには湖の浄化の方は順調のようだ。

 

「どうやら、順調そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんか行きませんから」

 

「とりあえず、アクアを信じるしかないねー。ちなみに、シーフもトイレなんか行かないよ?」

 

「お前らは昔のアイドルか・・・」

 

「単に見栄を張ってるだけでしょ」

 

「わ、私も・・・クルセイダーだから・・・トイレは・・・トイレは・・・」

 

めぐみんとティアの発言にダクネスはもじもじと顔を赤らめながら変な抵抗心を見せている。やっぱり内容が内容ゆえに、さすがのダクネスも恥ずかし気があるようだ。

 

「ダクネス、無理して対抗するな。トイレに行かないと言い張るめぐみんとティアとアクアには今度日帰りじゃ終わらないクエストを受けて、本当にトイレ行かないか確認してやる」

 

「や、やめてください!紅魔族はトイレなんて行きませんよ!でも、謝るのでやめてください」

 

「私もごめんってー。私もトイレには行かないけど、謝るからそれはやめて」

 

「さすがは私の見込んだ男だ・・・!」

 

カズマの発言に、まだ見栄を張っているが、ちゃんと反省しているようで謝罪している。ダクネスは変な意味でカズマを称賛している。

 

「にしても、本当にワニが出ないわね。このまま何事もなく終わればいいのだけど・・・」

 

「おま・・・っ!フラグとしか言えないようなセリフを・・・」

 

アカメがフラグでしかない発言をした直後・・・

 

「か、カズマーーー!!?な、なんか来た!!なんかいっぱい来たんですけど!!!いやああああああああ!!!!カズマーーーー!!!カズマさーーーん!!!きゃああああああ!!?」

 

湖の中からブルータルアリゲーターが現れ、浄化している最中のアクアに近づいてきた。ブルータルアリゲーターは襲い掛かるようにアクアがいる檻に噛みついてきた。

 

 

ーこのすばーーーー!!!-

 

 

浄化開始から3時間が経過し、ブルータルアリゲーターは未だにアクアを食らおうとして、檻と戯れている。

 

「ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!」

 

アクアはブルータルアリゲーターに食われないようにするのに必死で女神の力だけでなく、アークプリーストの浄化魔法を一心不乱に放った。一方のカズマたちはというと・・・

 

「よーし、野菜の切り具合はこんなもんでいい、かな」

 

ティアが昼食の準備を行っている真っ最中で、アクアの光景を見守りながら昼食ができるのを待っていた。

 

「とりあえず切った野菜を鍋に入れて、蓋をして・・・カズマー、火をちょうだいー」

 

「わかった。ティンダー!」

 

カズマはティアに言われた通り、その辺で集めた木の枝にティンダーを放つ。ティアはその火の上に鍋を置く。

 

「こうしてちょっと蒸せば野菜は動かなくなるから、動かなくなったところにお肉を入れて炒めるんだよ。ちなみに、玉ねぎは飴色にした方が、よりコクが出るんだよ」

 

「ティアは料理に詳しいんだな」

 

「当然よ。何せティアは私よりも料理が得意なのだから。味も絶品よ」

 

「おお!それは出来上がるのが楽しみになってきました!」

 

ティアの料理が絶品と聞き、カズマたちパーティは出来上がるのを楽しみにしていた。

 

「ちなみに、いったい何を作っているんだ?」

 

「カレーライスだよー」

 

「えっ?カレー?カレー、食えるの?」

 

「カズマ、カレーなるものを知っているのですか?聞いたこともない食べ物ですが・・・」

 

ティアが作っているのはカレーだと知り、カズマは少し驚愕する。この世界にはカレーが存在しないのか、めぐみんとダクネスは首を傾げている。

 

「俺の故郷では結構馴染み深い料理なんだよ。けど・・・めぐみんやダクネスも知らないのに、お前らはどうしてカレーを知ってるんだ?」

 

「私たちが前にいたギルドのギルドマスターに教えてもらったんだよ。当時の私たちも、皆と似たような反応だったから懐かしいよ」

 

カズマの問いかけにティアは鍋にカエル肉を入れて、野菜と一緒に炒めながら答える。

 

「ま、て言ってもカレーのレシピはギルドマスターの知り合いから教わってもらったって聞いたことがあるわ」

 

「へぇ、そうなのか・・・」

 

アカメの補足を聞いて、カズマはそのギルドマスターの知り合いという人物について考えている。

 

(どうもこの世界にはカレーがないらしいから・・・もしかしたら、そのギルドマスターの知り合いって・・・俺より先に来た異世界転生者なのかもしれないな・・・)

 

自分より先に来た異世界転生者がいるという可能性を考えて、もし会えるならカズマは会ってみたいと考えた。ちなみに、そのギルドマスターというのは言うまでもなく、ウェーブ盗賊団の団長であるネクサスである。

 

「はぁ・・・いい匂いです・・・」

 

「よーし、炒め具合はこんなものかな・・・。カズマー、お鍋にお水ちょうだいー」

 

「お、おう。クリエイト・ウォーター!!」

 

十分に炒め終えて、ティアの指示でカズマはクリエイト・ウォーターで鍋の中に水を入れる。

 

「こうやって水が温かくなるまで煮込んで・・・その後に、アヌビスにしか取れない唐辛子とうまみととろみを引き出すスパイスを入れて、じっくり長く煮込めば、カレーライスの出来・・・」

 

「み、皆ーーー!!?私のこと、忘れてない!!?さっきから檻が変な音を立てているんですけど!!?なっちゃいけない音がみしみしと聞こえるんですけど!!?お願いだから、私の話を聞いてえええええ!!!」

 

ティアがカレーに必要なスパイスを取り出そうとした時、未だにブルータルアリゲーターと戯れているアクアの悲痛な声が上がってきた。

 

「忘れてないってー!それよりアクアー!ギブアップするなら言えよー!鎖引っ張って、カレーと一緒に檻ごと逃げるからー!」

 

「いやよ!!ここで諦めたら、報酬がもらえないじゃない!!って、きゃああああああ!!?ワニがあ!!?ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!ピュリヒケーション!!!」

 

カズマはギブアップするかと尋ねると、アクアはどうしても報酬が欲しいのか諦めないと言い張った。そして、アクアはブルータルアリゲーターの恐怖心と共に湖にピュリヒケーションを放ち続けた。

 

そして浄化が始まってから5時間が経過。湖はまだ浄化できておらず、未だにブルータルアリゲーターと檻の中のアクアとの戯れは続いていた。一方のカズマたちは・・・

 

「おお・・・このカレーという料理、中々においしいな」

 

「ガツガツガツガツ・・・!私・・・こんなにおいしい料理、生まれて初めて食べました!!おいしすぎます~!!」

 

2時間かけて煮込んだティア特製のカレーが完成し、遅めの昼食にありついている。みんなティアのカレーに絶賛しており、めぐみんなんかはもうがっつく勢いで食べ続けている。

 

「ティア、また腕を上げたわね。中辛とはいえ、私好みのピリ辛さだわ」

 

「ははは、そんなに褒めてもらえると、嬉しいなぁー。多めに作ってあるから、じゃんじゃんおかわりしてねー」

 

「おかわりです!!!」

 

パーティメンバー全員がカレーをおいしく味わっている中、カズマはカレーを食べながら泣いていた。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

「ど、どうしたのカズマ⁉おいしくなかった⁉」

 

「違う・・・違うんだティア・・・。この味はまさしく俺の故郷のカレーそのもの・・・。ここに来て、馴染み深い料理が食えて・・・それがうれしくて・・・俺・・・俺・・・」

 

どうやらこの世界で再びカレーを食べることができたことに対するうれし涙のようだ。

 

「み、みんなーーーー!!?呑気にカレーなんか食べてないで、ワニ!!ワニどうにかしてよ!!ワニが、もう檻を壊そうとしている勢いなんですけど!!!いやああああああああ!!!!」

 

カズマたちが食事を楽しんでいると、ブルータルアリゲーターと戯れているアクアの悲痛な叫びをあげながら必死にピュリヒケーションを唱えている。

 

「アクアー!多分湖がきれいになってるからもう少しの辛抱だー!それともそろそろギブアップするかー?こっちはいつでも逃げれるようにしとくからなー!」

 

「な、何言ってるの⁉もう報酬が目の前ってところまできているのよ!!?ここまで来て、今更引き返せるわけないじゃない!!」

 

これだけひどい目に合っているのに、それでもあきらめようとしないアクアの姿勢に、カズマを含めた全員はひどく感心する。

 

「・・・あの檻の中・・・ちょっとだけ・・・楽しそうだな・・・」

 

「もう1度言うが、行くなよ?」

 

ほんのちょっぴり行きたがっているダクネスを念入りを込めてカズマが注意を入れる。

 

メキィッ!!!

 

「きゃあああああああああああ!!?メキィっていった!!!今、檻からなっちゃいけない音が鳴ったぁ!!!!」

 

どうもブルータルアリゲーターは知恵をつけ始めたようで、檻の鉄格子を食い破ろうとしている。それを見たアクアはさっきよりもさらに素早いスピードでピュリヒケーションを放ち続けた。

 

そして、浄化を始めてから、7時間が経過。あれほどまでに汚かった湖は、本来の美しさを取り戻したかのように、輝いていた。ブルータルアリゲーターも、どこか汚い水を求めてどこかへ行ったようだ。アクアもちゃんと生きている。

 

「浄化は完了したみたいですね」

 

「ワニたちも全部どっか行ったから、一安心だね」

 

カズマたちはボロボロになった檻を引き上げて、アクアの元まで駆け寄る。

 

「アクアー、無事かー?」

 

カズマがアクアの無事を確認するが、アクアは生気を失ったかのように、目が死んでいた。意識も上の空という感じだ。

 

「・・・アクア?」

 

「はぁ・・・アクア、どうしたのよ?」

 

さすがに心配になったのか全員アクアの様子をうかがう。少しすると、アクアはめそめそと泣き始める。

 

「・・・う・・・うぅ・・・うぇっぐ・・・ううぅぅ・・・」

 

「あ、アクア⁉ごめんね!私たちが悪かったよ!ほら、カレーだよ!食べるでしょ⁉」

 

「はぁ・・・そんなめそめそと泣くくらいならさっさとリタイアすればよかったのに・・・」

 

「全くだ・・・。ほらアクア、もう帰るぞ」

 

泣いている姿を見て、さすがにやっちゃったと思ったのかティアがアクアを慰める。その様子にはアカメもカズマもあきれている。

 

「なぁ、アクア、5人で話し合ったんだけど、今回の報酬、俺たちはいらないから」

 

「そうだぞアクア!30万エリスは全部アクアのものだ!」

 

「そうですね!今回は全てアクアの働きですから!」

 

「ほら、みんなもこう言ってるんだし、もう檻から出よう?ね?」

 

みんなアクアを檻から出そうと説得するが、当のアクアは体育座りをしたまま一歩も動かない。

 

「・・・ちょっと、いい加減檻から出なさいよ。もうワニはいないわよ?」

 

「・・・このまま連れてって」

 

「・・・なんだって?」

 

「檻の外の世界・・・怖い・・・。このまま街まで連れてって・・・」

 

どうやら今回のクエストは、アクアにブルータルアリゲーターというトラウマを植え付けてしまったようだ。

 

『調査クエスト!!

水源の湖を浄化せよ!!

湖の浄化に成功!!』

 

 

ーこのすば・・・-

 

 

クエストを終えてアクセルに戻ってきたころにはもう夕方ごろであった。生気を失ってしまったアクアはというと・・・

 

「ドナドナド―ナード―ナー・・・」

 

未だに檻に入ったままでドナドナの歌を歌いながらティア特製のカレーを黙々と食べている。その光景には当然、街の人たちはカズマたちパーティを生暖かく注目している。

 

「なぁアクア、街中でその歌はやめてくれ。ボロボロの檻に入って膝を抱えてカレー食ってる女を運んでる時点で人の注目集めてんだからな?というかいい加減出て来いよ!!」

 

「いや・・・この中こそが私の聖域よ・・・外の世界は怖いから、しばらく出ないわ・・・。あ、カレー、おいし・・・」

 

「もう、すっかり引きこもっちゃったね・・・」

 

「以前の俺みたいだな・・・」

 

「「「「?」」」」

 

「いや、何でもない・・・」

 

どれだけ言っても檻から出ようとしないアクアを見て、カズマは自身の引きこもり生活を思い出す。すると・・・

 

「女神様⁉女神様じゃないですか!!」

 

突然青い鎧を着こんだ青年がカズマたちパーティの前に現れ、アクアが入っている檻の鉄格子を両手で無理やりこじ開けた。

 

「えええ!!?」

 

「マジですか⁉」

 

「と、とんだバカ力ね・・・」

 

ブルータルアリゲーターでもこじ開けることができなかった檻をこじ開けた青年の力にカズマたちは驚きを隠せなかった。

 

「いったい何をしているのですか女神様!!こんなところで!!」

 

「おい、私の仲間に馴れ馴れしく触れるな。貴様、何者だ?」

 

アクアに触れようとした鎧の青年をダクネスが睨みをきかせながら止めに入った。明らかにアクアと無関係でなさそうな人物にカズマが声をかける。

 

「おいアクア、あれお前の知り合いだろ?女神とか言ってたし、何とかしてくれよ」

 

「・・・女神?」

 

「そうだよ」

 

カズマの放った女神発言にアクアは反応し、ほんの数秒してから・・・

 

「そうよ!女神よ私は!!さあ、女神の私に、いったい何の用かしら!!」

 

すっかり元気を取り戻したアクアは檻から出てきて、カレーを食べながら鎧の青年を見る。

 

「・・・あんた誰?」もぐもぐ・・・

 

アクアはどうも目の前にいる鎧の青年のことを忘れているようだ。

 

「何を言っているんですか!!?僕ですよ!!御剣響夜ですよ!!あなたにこの魔剣グラムをいただき、この世界に転生した御剣響夜です!!」

 

「・・・・・・?」もぐもぐ・・・

 

鎧の青年がそう言うと、アクアは今もカレーを食べながら頭を捻らせると、思い出したような声を上げる。

 

「あ・・・ああ!いたわねそんな人も!いやー、ごめんごめん、すっかり忘れてたー!結構な数の人を送ったわけだから、忘れたってしょうがないと思わない?」

 

「え?ええ・・・そうですね・・・」

 

アクアに忘れられた青年、御剣響夜こと、ミツルギは若干引きつった顔をしたが、気を取り直してからアクアと面と向かう。

 

「ええ・・・こほん、お久しぶりです、女神アクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っています。職業はソードマスター、レベルは37まで上がりました。・・・ところで、アクア様はなぜこちらにいらっしゃるのですか?それに、なぜ檻の中に閉じ込められていたのですか?」

 

「・・・まぁ、簡単に説明するとだな・・・」

 

ミツルギの疑問にアクアの代わりにカズマがこれまでの経緯と、なぜ檻の中に入っていた理由を包み隠さず話す。

 

「はああああああ!!!???女神様をこの世界に引きずり込んで!!??しかも檻の中に閉じ込めて湖の水の中に漬けたぁ!!??君はいったい何を考えてるんですかぁ!!?」

 

事情を全て聞いたミツルギは憤慨してカズマに突っかかって胸倉を掴んできた。

 

「ちょ、ちょっと⁉私としては結構楽しい日々を送ってるし、ここに一緒に連れてこられたことはもう気にしてないし!それに魔王を倒せば帰れるわけだし!今日のクエストだって怖かったけど、結果的には誰も怪我せず、無事完了したし!それにクエスト報酬30万よ30万!それを全部くれるっていうのよ?」

 

カズマに突かかってくるミツルギをアクアは止めるが、彼は未だにカズマにたいして怒っている。

 

「アクア様!こんな男にどう丸め込まれたかは知りませんが、あなたは女神なのですよ!!?それがこんな・・・!それに、そんな不当な扱いを受けておきながら、たった30万エリス・・・嘆かわしい・・・!・・・ちなみに、今はどこで寝泊まりしているんですか?」

 

「えっと・・・今、馬小屋で寝てるけど・・・」

 

「は!!??」

 

アクアが馬小屋で寝ていると聞いて、ミツルギはさらに怒り、カズマの胸倉を掴む手の力が強まる。そこでダクネスが止めに入る。

 

「おい!いい加減その手を放せ!礼儀知らずにもほどがあるだろ!」

 

「だいたい、あんた誰よ?カズマと初対面のはずでしょ?」

 

「なんかこの人、お姉ちゃん以上にウザいしぶち殺したい・・・」

 

「撃っていいですか?この礼儀知らずな男に1発ぶちかましてもいいですか?」

 

「めぐみん、それはやめろ、俺も死ぬ。ティア、そのナイフをしまえ、物騒だぞ」

 

一部物騒な雰囲気を晒しだしているが、ダクネスに止められたミツルギはカズマのパーティメンバーに視線を向ける。

 

「君たちは・・・クルセイダーにアークウィザード・・・それに双子のシーフか。なるほど・・・パーティメンバーには恵まれているんだね。君はこんな優秀そうな人たちがいるのに、アクア様を馬小屋に寝泊まりさせておいて、恥ずかしいと思わないのかい?それに、君も見たところ、職業は最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

ミツルギの説教を聞きながら、カズマはこめかみをひくひくさせながら、アクアに問いかける。

 

「・・・なぁ、この世界の冒険者って馬小屋で寝泊まりなんて当たり前だろ?こいつなんでこんなにキレてんの?」

 

「あれよ、彼には異世界への移住特典であの魔剣グラムをあげたから、そのおかげで最初から高難易度のクエストをバンバンこなしたりして、今までお金に困らなかったんだと思うわ。ま、だいたい特典をあげた転生者なんてそんなもんよ。特典で成果を上げて、この世界で大規模の盗賊団を創りあげた人もいたみたいだし」

 

アクアの説明を聞いたカズマは、このミツルギという男にさらに怒りがこみ上げる。

 

(何の苦労も知らない奴に、なぜ一から頑張ってきた俺が上から目線で説教されなきゃいけないんだ?だいたい、こいつらが優秀?それは能力面だけだ。それ以外の、活躍なんて、片鱗、1度も!見たことが!!ないんだが!!!)

 

カズマが怒りをこみ上げている間に、ミツルギはめぐみんたち4人に優しく声をかける。

 

「君たち、今まで苦労したみたいだね。これからは、ソードマスターの僕のところに来るといい。高級な装備品を買いそろえてあげよう」

 

ミツルギの身勝手な提案に女性陣全員は引きつった顔をしている。

 

「ちょっと、やばいんですけど。あの人本気で引くくらいやばいんですけど。ナルシスト系入ってるみたいで怖いんですけど」

 

「どうしよう・・・あの男は生理的に受け付けられない・・・攻めるより受ける方が好きな私だが・・・あいつだけは無性に殴りたいのだが・・・」

 

「殴ればいいじゃない。というか私はこいつを【ピーッ】して【ピーッ】して【チュドオオオオオン!!】して切り刻んで捨てたいんだけど・・・」

 

「お姉ちゃん、今だけはそれを許すよ。思いっきりやっちゃって。正直、お姉ちゃん以外でこんなにムカつく奴は初めてなんだけど・・・」

 

「撃っていいですか?本当に撃っちゃっても問題ないですよね?」

 

「おい、お前ら本当にやめろ。グロイ光景になるだろ」

 

どうもアクアを含めた女性陣全員はミツルギのことは不評化のようだ。

 

「えー、聞いての通り、俺のパーティの仲間たちは満場一致であなたのパーティに入りたくないようです。じゃ、これで」

 

カズマたちはミツルギに別れを述べてからその場から離れようとするが、ミツルギはカズマたちの前に立ちはだかる。

 

「・・・どいてくれます?」

 

「悪いが、魔剣グラムという力を与えてくださったアクア様をこんな境遇に置いてはいけない。君はこの世界に持ってこられるものとして、アクア様を選んだということだよね?」

 

「そーだけど?」

 

「なら、僕と勝負をしないか?あまりに失礼なことだが、君はアクア様を持ってこられる者として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様をこちらに引き渡してくれ。君が勝ったら、何でも1つ言うことを聞こうじゃないか」

 

ミツルギが突然アクアを賭けてカズマに勝負を仕掛けてきた。展開を読んでいたカズマはため息をつく。

 

「はぁ・・・ちょっとタイム。おい双子、ちょっと耳貸せ」

 

「「?」」

 

カズマに呼ばれた双子は首を傾げる。カズマはミツルギに聞こえないように双子の耳元にごにょごにょと何かを伝えている。それを聞いた双子はお互いに首を縦にうなずき、了承を示している。話を終えるとカズマはミツルギに視線を戻す。

 

「先に言っておくが、お前は高レベルのソードマスターで俺は最弱職の冒険者だ。正攻法でやったって負けるわけだから、ハンデとして俺なりのやり方でやらせてもらってもいいか?呑むんだったら勝負を受けてもいい」

 

「もちろん、どんな方法で来たって構わない。どんな手段で来ようと僕は・・・」

 

「よしOK。じゃあ行くぞぉ!!!」

 

「えっ!!?ちょっ、まっ・・・!!」

 

カズマの問いかけにミツルギが了承すると、話の途中でカズマがいきなりミツルギに剣で切りかかってきた。突然のことだが、ミツルギはとっさにその剣を躱す。そして、転生特典である剣、魔剣グラムを構える。

 

「スティ―――ル!!」

 

そしてカズマはすかさずスティールを発動させる。光が晴れるとカズマの手にはミツルギの武器、魔剣グラムが握られていた。

 

ゴチーンッ!!

 

「ぐっはぁ!!?」

 

そして魔剣グラムを振り下ろして、ミツルギの頭部を思い切り強打する。

 

「くっ・・・だが・・・世界を救う勇者として・・・この程度では・・・」

 

だが、さすがは勇者を名乗るだけのことはある。この程度ではミツルギは倒れない。それはカズマの狙い通りだった。

 

ガシッ

 

「へっ?」

 

「死ね!!!!!この【ピーー―――――――――――――ッ!】野郎がぁ!!!!」

 

ドゴォ!!!!

 

「ごっはあああああ!!??」

 

ティアの潜伏スキルでミツルギの後ろまで近づいていたアカメはミツルギの頭を思いっきり掴み上げ、その勢いに任せて地面に叩きつけた。それによってミツルギは気絶をした。

 

「ふん、偉そうなことを言って、たいしたことないじゃない」

 

「あー、スッキリしたぁ!気分がスカッとしたよー」

 

「お前ら、よくやった」

 

先ほどカズマが双子に耳打ちしていたのはミツルギをはっ倒すための作戦をだったようで、作戦が成功してカズマと双子はグッドサインを送っている。

 

「ひ・・・卑怯者卑怯者卑怯者ーーーー!!!」

 

「この最低男!!正々堂々と勝負しなさいよ!!」

 

するとそこへミツルギの仲間らしき女性2人がカズマを罵倒している。

 

「卑怯って、高レベルの奴が低レベルの奴に勝負を仕掛けてくる方がよっぽど卑怯ってもんだよ。それこそ正々堂々も何もあるか。それに、俺なりのやり方でやっていいかって問いに了承したのはこいつだぞ?俺はルールに則っただけだ。だいたい、1対1なんてルールを誰が決めたんだ?決めてないんだったら文句の言いようがないだろ」

 

カズマの屁理屈ともいえる対処にミツルギの仲間であるクレメアとフィオは納得できておらず、カズマを睨みつける。

 

「ま、結果として俺の勝ちなのは変わりない。負けたら何でも言うことを聞くって言ったんだから、この魔剣をもらっていくぞ」

 

「なっ!!?バカ言ってんじゃないわよ!!それにその魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ!」

 

「え?マジで?この戦利品、俺には使えないのか?」

 

「マジです。残念だけど、魔剣グラムはあの痛い人専用よ。装備すると人の限界を超えた膂力が手に入り、岩だろうが鋼だろうがさっくり斬れる魔剣だけど、カズマが使ったって、普通の剣よ」

 

戦利品としてもらおうとした魔剣グラムがミツルギしか使えないという、アクアのお墨付きの説明に、カズマは少し落胆する。

 

「カズマ、あんたが装備できないってんなら私にくれないかしら?もちろん、シーフだから私も装備できないけど、他に使い道はあるから」

 

「俺が持ってても仕方ないし、戦利品はお前に譲るって約束だったしな・・・いいよ、やるよ」

 

カズマはミツルギから分捕った魔剣グラムをアカメに渡した。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 

「こんな勝ち方、私たちは認めないわ!そこのあんた!魔剣をキョウヤに還しなさいよ!!」

 

「はぁ・・・めんど・・・カズマ、対処よろしく」

 

「へいへい・・・」

 

未だ文句を言っているクレメアとフィオの対処をカズマに任せるアカメ。

 

「真の男女平等主義者の俺は女の子相手でもドロップキックを食らわせられる男だ。それ以上いちゃもんつけようってんなら・・・手加減してもらえるなんて思うなよ?公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ・・・」

 

「君たち、早く逃げないとこの男にパンツ、盗られるよ。何せパンツ脱がせ魔だから」

 

「「ええぇ!!??」」

 

カズマは2人に向かって、非常に悪党らしいゲスい笑みを浮かべながらスティールの態勢を取る。その姿勢とティアの説明にクレメアとフィオは後ずさる。

 

「ぐぅえっへへへへへ・・・さぁ・・・どうする・・・?ぬぅあっはっはっはっはぁ・・・ほぉれ・・・ほぉーれ・・・」

 

カズマはゲスく笑いながらスティールの手をいやらしくくねくねとくねらせる。

 

「「いやああああああああ!!!!」」

 

その姿勢に恐怖したクレメアとフィオはミツルギを置いて逃げ出していく。

 

「「「うわぁ・・・」」」

 

この光景は仲間であるアクアとめぐみんも引いている。ダクネスは若干興奮しているが。

 

「はい、対処ご苦労さん、変態」

 

「こうなるってわかっててカズマに任せるあたり、お姉ちゃんも相当クズだよ・・・」

 

「もういいだろ・・・行こうぜ」

 

これ以上他の人の注目を浴びないようにカズマはそう言って帰宅路を歩いていく。すると、アカメは魔剣グラム、そして気絶しているミツルギを交互に見る。それで何かを思いついたアカメはアクアに声をかける。

 

「ちょっとアクア、頼みがあんだけど」

 

 

ーこのすば!ー

 

 

湖浄化クエストから翌日の冒険者ギルド・・・

 

「なぁんでよーーーーーーーー!!!???」

 

クエストの報酬を受け取りに来たアクアが涙を流しながらルナに突っかかっている。

 

「アクアの声だったな」

 

「本当、いつもやかましいわね」

 

「何があったのでしょう?」

 

「何か問題を起こしたんじゃない?」

 

「あいつはとにかく騒ぎを起こさないと気が済まないのか?」

 

カズマたちはカウンター席でシュワシュワを飲んだり、料理を食べたりしていた。数分後、アクアがかなり落ち込んだ様子でカズマの隣の席に座り込む。

 

「・・・今回の報酬・・・壊した檻のお金を引いて10万エリスだって・・・。檻の修理代が20万エリス・・・私が壊したんじゃないのに・・・檻を捻じ曲げたのはあのミツルギって奴なのに・・・」

 

どうやら借りてきた檻が壊れたことによってその修理費を報酬から差っ引かれたようだ。報酬を減らされてアクアはめそめそと泣きだす。

 

「あの男・・・!今度会ったら絶対ゴッドブローをくらわしてやるんだから!!」

 

アクアがミツルギにたいして怒りを燃やしていると・・・

 

「探したぞ!!佐藤和真!!」

 

噂をすればなんとやら、カズマに勝負を挑んで負けたミツルギがクレメアとフィオを連れてカズマに近づいてきた。

 

「君のことは、ある盗賊の少女から教えてもらったよ・・・パンツ脱がせ魔だってね!!他にも女の子を粘液塗れにするのが趣味だとか、色々な人の噂になっていたよ・・・鬼畜のカズマだってね!!!」

 

「おい待て!!?誰がそんな噂を広めたのか詳しく!!!」

 

不名誉というか自業自得というか、変な噂を流された人物にたいして非常に怒っているカズマ。するとアカメはカズマの肩に手を置く。

 

「安心しなさい・・・あんたの魅力は・・・包み隠さず、話してあげたからね♡」

 

「お前かあああああああああああ!!!???」

 

どうやらカズマの不名誉な噂はアカメが流したものらしい。いや、ほとんど事実なのだが。

 

「お前何してくれてんだ!!?どおりで何か街の人から冷たい目で見られてると思ったら!!」

 

噂を流した本人であるアカメの肩を掴み上げ、ぐわんぐわんと揺らしていくカズマ。

 

「アクア様!僕が必ず魔王を倒すと誓います!ですから、僕と同じパー・・・」

 

「ゴッドブローーーーーー!!!!」

 

「ごっぱああああああ!!??」

 

「キョウヤ!!?」

 

ミツルギがアクアに話しかけた途端、アクアはミツルギにゴッドブローをくらわされた。文字通り、宣言通りの行動だ。

 

「ちょっとあんた!!!壊した檻の修理代を払いなさいよ!!元じゃ全然足りないわ!!元の5倍よ5倍!!30万の5倍の150万エリス払いなさいよ!!」

 

「え?あ、はい・・・」

 

ちゃっかりと修理代・・・というより、クエストの報酬分の5倍の値段の支払いというアクアの要求にミツルギは特にお金に困ってなかったのと、アクアの言うこともあって、すんなりと150万エリスを支払った。

 

「すみませーん!シュワシュワとカエルのから揚げ山盛りくださーい!」

 

150万エリスを受け取ってすっかり元気になったアクアは料理とシュワシュワを注文する。話はそれたが、ミツルギはカズマに視線を戻し、本題に入る。

 

「・・・あんなやり方でも、それを了承したのは僕だ。自分の負けをとやかく言うつもりはない。負けは負けだ。何でも言うことを聞くといった手前で虫がいいのはわかっている。だが頼む!魔剣は返してくれないか?この2人から話は聞いたんだろう?あれは君が持っていても、そこらの剣より斬れる程度の威力しかない。剣が欲しいなら代わりに1番いい剣を買ってあげるから頼む!!」

 

どうもミツルギは魔剣グラムを返してほしいがためにわざわざカズマたちの元までやってきたようだ。

 

「返してほしいならアカメに言えよ。魔剣ならこいつにやったからな」

 

カズマの言葉を聞いてミツルギはアカメに視線を切り替える。

 

「君はシーフだろう?君では魔剣を扱う以前に、大剣を装備できないのは理解しているはずだ。頼む!1番高級な短剣を買ってあげるから、魔剣を返して・・・」

 

「いいわよ」

 

「くれないか・・・て、え?」

 

あっさりと魔剣を返してくれる発言にミツルギは目を丸くさせている。

 

「え?いや・・・頼んでおいてなんだけど・・・本当に返してくれるのかい?」

 

「いいわよ。元々そのつもりで待っていたのだから。ほら・・・もう手放すんじゃないわよ」

 

「あ・・・ありがとう・・・ありがとう!!」

 

アカメは背中に背負った魔剣グラムを取り、それをミツルギに返した。ミツルギは喜びを隠しきれないような表情で魔剣を受け取ると、手に持った瞬間、違和感を覚える。

 

「・・・?軽い・・・?僕が持った時はもうちょっと重かったような・・・どうしてだ?」

 

「気になるなら、試してみるといいわ。ちょうど街の外に、ジャイアント・トードがいたはずよ。そいつで試し切りをしてみなさい。さあ、早く行きなさい。さあ・・・さあ・・・」

 

「わ、わかった・・・試してくる・・・」

 

明らかに試し切りを誘導しているような言動にミツルギは困惑しながらクレメアとフィオを連れて、冒険者ギルドから出る。

 

「・・・お姉ちゃん・・・もしかしなくてもまさか・・・」

 

「まぁ、もう少し待ちなさい。面白いのが見れるわよ」

 

アカメがそう口にして、待つこと数分後・・・息が絶え絶えな状態のミツルギが戻ってきた。

 

「き、君!!これは魔剣じゃなくて、牛乳パックの剣じゃないかぁ!!!」

 

疲れ切っているミツルギの魔剣は昨日までの輝きはなく、もうボロボロ、空くはずのない穴まで開いていた。その穴の隙間を見てみれば、牛乳パックのパッケージが見えている。そう、アカメが渡したのは牛乳パックで作った偽物の魔剣グラムだったのだ。

 

「やっぱりね・・・前にアクアが自作した造花を運んでたんだけど、それがかなりの出来だったから・・・。それを思い出したお姉ちゃんが昨日、魔剣と同じ形の剣を何かで作れないかって言ってて・・・」

 

「ぷはー!どう?中々の出来だったでしょ?あの剣を似せるくらい、朝飯前よ!」

 

「よくやったわ。後で報酬の10万エリスを払ってあげる」

 

「夜中にこそこそしてると思ったら・・・。しかし、マジですげー出来だな・・・」

 

どうやら、本物と見間違えるくらいの偽魔剣グラムはアクアが牛乳パックで作り上げたものらしい。

 

「僕が返してほしいのはこんな偽物じゃなくて!!!本物の魔剣グラムだよ!!!本当にお願いだ!!!君には何の意味もない代物のはずだろう!!?今なら、短剣だけじゃなく、高級な装備品も・・・」

 

くいっくいっ

 

ミツルギが本物の魔剣を返してほしいと懇願すると、めぐみんが彼のマントをくいくいと引っ張る。

 

「まず、この人が偽魔剣しか持ってなかった件について」

 

「・・・えっ!!?」

 

めぐみんの言葉にミツルギは改めてアカメの姿を確認する。確かに今のアカメには魔剣を持っているどころか、大剣らしいものがどこにもなかった。それにはミツルギはかなり顔を引きつりながら焦っている。

 

「き・・・君・・・ま、魔剣は・・・?ぼ、ぼ、僕の魔剣はどこへ・・・?」

 

「ああ・・・それなら・・・安心しなさい」

 

アカメは右手に持っていた銭袋をミツルギに見せながら、悪党らしいゲスい笑みを浮かべている。

 

「あんたの魔剣は・・・私のお財布事情に役立ってくれたわ♪」

 

この言葉からアカメは本物の魔剣グラムをこの街の鍛冶屋に売り払ったというのがわかる。

 

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

それに気づいたミツルギは魔剣を取り戻すために悲痛な叫びを上げながら鍛冶屋へと向かっていった。

 

「「キョウヤー!」」

 

急いで去っていくミツルギをクレメアとフィオは追いかけていく。

 

「ふぅ・・・いい愉悦だったわ」

 

「お姉ちゃんはえぐいね・・・希望から絶望を与えるなんて・・・」

 

「お前・・・本当、容赦なさすぎだろ・・・」

 

愉悦のためならどんな手でも使うアカメを見て、ティアとカズマは若干引いている。

 

「いったい何だったのだあいつは?・・・ところで、先ほどからアクアが女神だとか呼ばれていたが・・・何の話だ?」

 

「それを言ったら昨日も、その前も言ってたよ。自分は女神だって」

 

ダクネスの疑問にカズマはアクアにアイコンタクトをとる。自分は女神だとしゃべっていいという知らせだ。その意図に気付いたアクアは本当のことを4人に話す。

 

「・・・今まで黙っていたけど、あなたたちには言っておくわ。私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神・・・そう!私こそがあの女神、アクアなのよ!!」

 

自信満々に真実を打ち明けたアクアであったが・・・

 

「「「「ていう、夢を見たのか」」」」

 

「ちっがうわよ!!」

 

当然の反応というか、全く信じてもらえてなかった。

 

「まぁ、仮に女神アクアだったなら、私たちはその存在を許さなかったね」

 

「へ?」

 

「ええ。この際、ハッキリ言っておくけど・・・私たちは・・・大大大のアクシズ教徒嫌いなのよ。だからそいつらが崇拝しているアクアって女神は、そいつらと同じくらい嫌いなのよ」

 

「だからね、いくら女神アクアと同じ名前だからって、軽々しく自分のことを女神って言わないでほしいな。不機嫌になる人だって、たくさんいるんだからね」

 

「「うんうん」」

 

「な・・・なぁーんでよーー!!?なんで誰も信じてくれないの!!?どうして双子はそんなに私の信者たちを嫌うの!!?本当にいい子たちなのよ!!だからそんなに嫌わないであげてよーーー!!!」

 

自分を女神と信じていないどころか、双子が自分の信者を嫌っているという事実にアクアは泣きかけている。その姿を見てカズマはアクアを哀れに思った。

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門まで集まってください!』

 

そんな話をしていると、またも緊急の放送がアクセルの街に響いた。

 

『繰り返します!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門まで集まってください!特に、冒険者サトウカズマさんとそのご一行は大至急でお願いします!!」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

まさか自分たちがご指名にあったことにたいして、カズマたちパーティはきょとんとしたのであった。




次回予告的なもの

女神アクアです。経過報告です。

佐藤カズマ氏はぐんぐんと力をつけ、明日にも魔王を倒す勢いです。
これもひとえに私の監督力があってのことです♪
母のように優しく、父のように厳しく、私の的確なコーチングに引きこもりニートだったカズマ氏も感心するばかりのようです。
つきましては、早急に、大至急に帰還の許可をいただきますよう・・・
え?ダメ?だからさ!!なんでなんですかーーー!!?

カズマのお言葉

カズマ「・・・お前さ、的確なコーチングとか監督力とか抜かしてるけど・・・俺、お前に教えられたことなんて1度もないけど?あ、もしかして今から教えてくれるのか?だったら教えてくれよ、お前の取り柄である回復魔法をさ。なぁ?女神、アクア様ー?」

アクア「いやーーーーー!!!回復魔法だけは!!回復魔法だけは嫌よーーー!!調子に乗った私が悪かったから!!謝るから!!それだけはやめてーーーー!!!」

次回、このろくでもない戦いに決着を!
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