この煩わしい下界にさよならを!
季節は春になってきており、積もっていた雪も解けて、花も咲き誇っており、外は清々しい空気で覆っている。そんな中でカズマたちが住む屋敷の中で・・・
「いや~~~~!!!」
「こら!暴れんな!!ダクネス、足をしっかり持ちなさい!」
「ほら、アクア!そろそろ仕事に行くぞ!」
仕事に行きたがらず、駄々をこねているアクア。強硬手段としてアカメとダクネスがアクアの両手、両足を掴んで無理やり行こうとするが、アクアは必死の抵抗をしている。
「嫌よ!!外はまだ寒いんだもの!!どうしてそんなに外に出たがるの!!?」
「定期的に身体を動かさないと鈍るでしょうが。そんなこともわからないのこのバカは?」
「春先になるとモンスターが活発化するからこそ、冒険者の出番だ!」
双子のスパイ疑惑が晴れてからというもの、冬の時期はバニル討伐、及びデストロイヤー討伐報酬で借金をすべて返済し、お釣りとして四千万エリスを手に入れたがため、中々にクエストに出ることがなかったカズマたち一行。春になると同時に、煮えを切らしたダクネスたちがクエストに出ようと言い出したのが、全ての発端である。
「子供なの!!?あんたたち、外で遊びたがる子供と同レベルなの!!?そんなにお外に行きたいのなら、あんたたちだけで行ってきて!!」
「ああん!!?誰が頭の悪いクソガキですって!!?あんた、今すぐにでもここから落としてあげましょうか!!?」
「ひい!!?そこまでは言ってないでしょ!!?ちょ・・・やめて!!今落としたら頭をぶつけちゃう!!!」
アクアの放った言葉にオーバーに捉えて憤怒するアカメ。
「今のアクアの方が子供みたいだぞ!!このままでは・・・」
「「・・・あれみたいになるぞ(わよ)」」
アクアを抑えながら、アカメとダクネスはカズマの方をダメ人間を見るかのような顔で視線を向ける。
「ほらカズマ、クエストに行きますよ。外に出ないと爆裂魔法が撃てないじゃないですか」
「もう一カ月も外に出てないよ?このままだと、本当にデブになっちゃうよ?いいの?」
「・・・・・・」
めぐみんとティアもカズマを何とか説得しようとカズマに声をかけている。カズマは聞く耳を持たず、その場でじっとしている・・・"こたつ"に入った状態で。
「さ・・・さすがに私だってあれみたいになりたくないけど・・・でも!私を説得する前にまずあっちのダメな方をなんとかしてよ!!」
「だからそれはめぐみんとティアがだな・・・」
「おいお前ら・・・いくら温厚な俺でも怒る時は怒るぞ。さっきからなんだ、人の事をあれだとかデブだとかダメな方だとか・・・失礼だろ」
アクアたちの放った言葉に怒ったのかカズマは眉を顰めて文句を言っている・・・こたつに入ったままで。
「・・・文句があるのならまずそこから出てから言ってください」
「・・・・・・」
めぐみんに正論を言われたカズマはこたつから出ることはなく・・・むしろ顔までこたつに入ってその場をやり過ごそうとしている。
「はぁ・・・まさかこのこたつとかいう暖房ができた瞬間に、こんなことになるなんて・・・」
先日、バニルが双子に話していた儲け話とは、カズマのいた世界、日本の商品をこの世界で造り、世界中に大々的に売ることである。そのためにも、カズマの協力が必要だとバニルが言ったのだ。カズマが日本の商品を開発するだけで量産体制と販売ルートはバニルが確保してくれるのだという。その計画の手始めというのが、このこたつである。全ての事情を知ったカズマは迷わずにこれを承諾し、こたつを造り上げて、現在に至るのだ。
「カズマの国の暖房器具が優秀なのは理解できました。でも、そろそろ活動を再開しましょう?」
「そうだよカズマ。このまま引きこもってたらカズマのためにならないよ?ほら、いい加減出て・・・」
「フリーズ」
カズマをなんとか引っ張り上げようとティアがこたつの布団をめくりあげた瞬間、カズマは手を動かし、ティアの首に巻いてるマフラーの隙間を狙ってフリーズをかけた。しかも、後ろ側なので隙間など見えないはずなのに、器用なものである。
「にゃあああああああ!!!???」
フリーズの冷たさを首に感じたティアはそれによって足のバランスを崩してしまい、すっころんでしまう。
「はあああ~・・・」
「なっ!!?この男反撃してきましたよ!!?」
「ちっ・・・何やってんのよ。ダクネス、アクア抑えておきなさい」
「あ、ああ・・・なんだかティアが羨ましいぞ・・・」
ゴチンッ!
「いった!!?今手を放した!頭を打つってわかっておいて放したんですけど!!」
自分の妹の不甲斐なさを見てアカメは舌打ちをしてアクアの手を放してカズマの元まで近づく。その際、手を放されたアクアはそのまま床に頭をごちんとぶつけて痛そうにしている。
「ちょっとヒキニート、いつまでそうしているつもりよ?痛い目にあいたくなかったらさっさとそのこたつから・・・」
「クリエイト・アース&ウィンドブレス」
アカメがこたつをめくった瞬間、カズマはクリエイト・アースで砂を作り、すぐさまウィンドブレスでアカメの顔に砂を当てる。
「ぎゃああああああああ!!!???目が!!目がああああああああ!!!」
砂がアカメの目にも直撃し、床に倒れこんでのたうち回る。
「ちょ・・・カズマいい加減にしてください!これ以上抵抗しないで、大人しく・・・」
「ドレインタッチ」
今度はめぐみんがカズマを引っ張り出そうとした時、めぐみんの手首を即座に掴み上げ、ドレインタッチで魔力を吸いあげるカズマ。
「うああああああああああ!!??」
ゴチンッ!
「いったい頭が・・・あぁ・・・」
魔力を取られためぐみんは床に倒れこみ、その際に頭をぶつけて痛がってのたうち回る。抵抗したカズマは頭だけひょこっと出し、にやりと笑った。
「この俺を甘く見るなよ・・・魔王軍の幹部や数多の大物と渡り合った、カズマさんだぞ。もっとレベルを上げて出直してこい!」
「うわぁ・・・カズマさんがどんどん小技を使いこなして厄介になってるんですけど・・・」
「3人とも・・・楽しそうだな・・・」
そんな調子に乗っているカズマのこずるい抵抗にアクアはドン引きしており、被害にあっている3人を見てダクネスは頬を赤らめながら若干交ざりたそうに興奮している。
「くぅ・・・いくら戦闘能力がなくても、そんな威力弱々な魔法で私をどうにかできるとでも・・・」
「フリーズ」
「にぃいいいいいいいいい!!?」
「この・・・クズ野郎が・・・小賢しい手を使って・・・絶対ぶちのめして・・・」
「クリエイト・アース&ウィンドブレス」
「ああああああ!!!目がああああああ!!!」
「我が魔力を勝手に奪うなど・・・万死に値して・・・」
「ドレインタッチ」
「あああああああああ!!!」
被害にあった3人は諦めずに何度もカズマに向かっていこうとしても、こずるいカズマは先ほどと同じ方法で3人を撃退している。
「ぐっふっふっふっふ・・・今の俺は誰が相手でも負ける気がしない・・・大人しく負けを認めてさっさと・・・」
カズマがゲスな笑みを浮かべながらいやらしく手をくねくねしていると、途端に表情が変わった。心なしか冷や汗もかいている。
「「「?」」」
「おい・・・緊急事態だ・・・虫がいい話だというのはわかってるが、ここは1つ一時休戦しよう。悪いんだが、このままこたつのマットを持ってトイレの前まで運んでくれないか?」
「「「・・・・・・」」」
どうやらカズマは尿が近くなっているのだが、こたつから出たくないがためにそんなことを言いだした。それを聞いた被害者3人はジト目でカズマを見る。するとめぐみんはすっと立ち上がってこたつまで近づき、テーブルの上で寝転がっているちょむすけを持ち上げる。
「ちょむすけ、こっちへ」
「なーう」
ちょむすけを持ち上げた後、めぐみんはそのままこたつから離れ、めぐみんとちょむすけが離れた次は双子が近づき、カズマまで近づき、こたつのマットを持ち上げる。
「あれ?意外と素直だな・・・」
意外に聞きわけがいいとカズマが思った矢先・・・
「この男はこのままこたつごと外に捨ててしまおっか」
「そうしましょう。アクア、ダクネス、窓を開けなさい」
「!!!??や、やめろおおおおお!!!助けてやった恩を仇で返すとか、お前らには人の心がないのかよ!!??」
双子はカズマをこたつごと捨ててしまおうと会話をしている。焦ったカズマはこたつにこもったまま抗議しようとするが双子は聞く耳を持たない。その間にダクネスとアクアは窓を開け、カズマを捨てる準備をしてる。
「お姉ちゃん、せーので投げるよ?」
「お、おい、ちょっと待て!や、やめ、やめろ・・・」
「「せーの!!」」
ぽーい
「いやははーーーーーーーー!!!!!!」
息の合った双子は力いっぱいこたつごとカズマを窓に放り投げ、カズマはこたつと一緒に遥か彼方へと飛ばされてしまった。
ーこのすば!ー
いい加減観念したのかカズマとアクアはクエストを受けに外を出ることになった。春先になったとはいえ、やはり冬の名残が残っているのか、外はまだ冷たい風が吹いている。
「うぅ・・・やっぱりまだ寒い・・・」
「あぁ・・・暖炉・・・ソファ・・・」
「私だって寒いの嫌なんだから言わないでよ・・・」
「寒いのはみんな一緒よ。うだうだ言ってんじゃないわよ」
寒くてぶつぶつと文句を言っているカズマとアクアに双子は若干イラつきを見せる。まるで寒いのを我慢してるから文句言うなという雰囲気である。
「なぁカズマ、なぜこの通りへ?」
「そうですよ。ギルドはこっちじゃないですよ」
すると、自分たちが歩いている道のりがギルドの道のりじゃないのに疑問を抱いていたダクネスがカズマに尋ねてきた。そう、カズマたちが歩いている道のりの先には武器屋があって、ギルドとは違う道のりである。
「ふっ・・・俺がただこたつでぬくぬくしていただけと思うなよ?俺もそれなりの準備はしていたんだよ」
そう、カズマはただこたつで引きこもっていたわけではなかった。実はカズマは事前に鍛冶屋の店主に新しい武器、鎧を作るように依頼をしていたのだ。本当に物は言いようだが、カズマは武器が出来上がるまでの間、英気を養っていたのだ。そう話している間にもカズマたちは鍛冶屋にたどり着き、中に入る。
「ちーっす!」
「らっしゃい!!」
武器屋の中に入り、カズマたちを出迎えたのはこの鍛冶屋の店主だった。
「おっちゃん、できた?俺の刀できた?」
「おう、そのかたな?とかいう剣は一応できてるぞ。お前さんの言われた通りの形にしたんだが・・・ほらよ」
「おおおおおお!!」
鍛冶屋の店主が取り出した剣はカズマのいた日本でいうところの日本刀だった。さすがに本物とは異なるが、見た目も刀だし、何よりこの世界にはない刀を手に入れられてカズマは十分満足である。
「へぇ・・・面白い形の剣じゃない。切れ味もよさそうね」
「いいだろう?俺の生まれ故郷では、刀って言うんだぜ」
「か、かたな?また難しいものを・・・」
「焼き入れだのなんだのと技術のことはさーっぱりわからなかったが、まぁ、それなりにおもしろい仕事だったよ」
みんなはカズマの手に入れた刀を興味津々な眼差しで見つめている。鍛冶屋の店主も苦戦はしたが、楽しい仕事だったようでいい笑みを浮かべている。
「ほう・・・それがお前さんの、新しい相棒か・・・」
「新しい相棒・・・(イケボ)」
たまたま鍛冶屋に居合わせた荒くれ者の言葉にカズマは無駄にかっこつけて反応する。
「カズマ、いつの間にそのかたな?という剣を?」
「前にこのおっちゃんに鍛冶スキルを習得させてもらったことがあってさ・・・」
「ああ、例の儲け話に必要だって言ってたあれかしら?」
「そうそう。そのついでに俺の装備も一式新しくしようと思って、依頼しておいたんだよ」
「へぇー・・・ただぐうたらしてたわけじゃなかったんだ」
一応は冒険者としての稼業を忘れていないカズマはちゃんと用意くらいはしてるみたいなことを言っている。さっきまでこたつでのんびりしてた人間が言っても、あまり信憑性はないが。
「後はこの札に銘を付けて貼れば完成だ。精々立派な名前を付けてやんな。それと・・・例のあれも完成してるぜ」
鍛冶屋の店主は武器に名前を付けるための札をカズマに渡した後、メインとなるものの置き場所に案内する。メインなるものには布が被せられてある。店主が布を外すと、そこには緑色が結構目立っている立派な鎧があった。
「おおおおおおおおおお!!!!」
「こっちがフルブレートメイルの装備だ。この街の冒険者にしては、かなり上等の部類の装備になる。大事に着ろよ?」
「おおお、これだよこれ!!俺が本当に欲しかったのは!!」
フルブレートメイルの鎧を目の当たりにして、カズマは本当に心躍るようにテンションが上がっている。
「ふっ・・・俺は今、新たな勇者の誕生に、立ち会ってるのかもしれないな・・・」
荒くれ者はカズマを見てふっと笑みを浮かべて鍛冶屋を後にしたのであった。
ーこのすば・・・(イケボ)ー
カズマはさっそく手に入れたフルブレートメイルの鎧を着込んで、それをアクアたちにお披露目をした。
「「「「「おおおお!」」」」」
鎧姿のカズマは意外にも似合っており、まるで本物の騎士なのではないかと見間違うくらいにかっこよさが纏っていた。このカズマの姿にアクアたちは感心の声を上げる。
「ふむ・・・馬子にも衣裳って奴ですね」
「これほどの鎧は我々クルセイダーでもなかなか装備できないぞ」
「カズマ、ちょっと剣を構えてみてよ」
アクアがそんな注文をすると、カズマはそれに応えるべく、動こうとするが・・・
「・・・ふん!!!!」
ガシャガシャガシャガシャ!!!
「・・・カズマ?何やってるの?早く剣を構えてよ」
「ふんぬ!!!!」
ガシャガシャガシャガシャ!!!
さっきからガシャガシャ音がするだけで、カズマ自身は全く動けていなかった。
「・・・ふっ・・・一流の戦士は、無理に技を見せたりしないもんさ・・・」
「何格好つけてんのよ。ただ重くて動けないだけでしょ?」
「・・・はい、そうです・・・」
どうやら重さ的には鎧の方が何倍も勝っており、非力なカズマでは動くことはおろか、持ち上げることすら叶わないようなのである。
ー誰か背中の金具を外して・・・ー
みんなの協力もあって、ようやく鎧を外すことに成功したカズマ。持ち運ぶことができない鎧はここに置いていって、持って行けるのは手に入れた刀だけ。
「ま、まぁ・・・無理に高望みせず、身体に馴染んだ装備が1番だよ・・・」
「・・・まぁ・・・武器を新調できただけでもよしとするか・・・」
思っていたのと違う展開だったが、武器を手に入れただけでもプラスと考えたカズマは気を取り直して刀を腰に装備して、緑のマントをなびかせる。
「よろしく頼むぜ、相棒!」
カズマはどことなくかっこいい雰囲気を纏わせて、意気揚々と鍛冶屋の外を出ようとする・・・
カツーン・・・
ガッシャ――――ン!!!!
刀の鞘が大剣に当たってしまい、数多くの大剣が雪崩のように崩れてきた。
「!!?あああ!!?すみませんすみませんすみません!!!」
カズマは慌てて謝罪しながら、剣を元あった位置に戻していく。時間をかけて、ようやく初期の状態に戻した。
「じゃ・・・じゃあ・・・ありがとなー・・・」
気を取り直して、カズマにかっこいい雰囲気を纏わせて、意気揚々と鍛冶屋の出口の扉を開ける。そして、かっこよく外に出ようとする・・・
ガコンッ!
「あ・・・」
ガコンッ、ガコンッ、ガコンッ・・・
刀が長すぎて、鞘が扉に何度も何度も当たってしまい、外に出ることができなかった。みんなの力を合わせて、ようやく外に出ることができて、カズマが一言・・・
「・・・思ってたのとちがーーーーう!!!!!」
思い通りの展開にならなくて、カズマは思わず刀を地面に叩きつけてしまう。
ーこのすばーーーー!!!!(怒)ー
カズマの武器を手に入れ、ようやくギルドにたどり着いた。ここでクエストを受ける前に昼食をとろうとしたが、カズマは不貞腐れた状態で、食にはありつけていない。
「・・・ずいぶん小さくなりましたね、相棒・・・」
「うるさいなぁ!!!」
そう、武器を手に入れたはいいが、刀が長いため、急遽カズマでも扱えるくらいのサイズにまで調整したのだ。そのため、現在刀は忍者刀みたいに小さくなったのだ。
「うぅ・・・せめて名前くらいかっこいいものをつけてやりたいとこだが・・・」
カズマは刀に付ける名前を首を捻りながら真剣に考える。その様子をアスパラを素早く噛んで食べながら見つめるめぐみん。
「おーい、カズマー!めぐみーん!」
「いいクエストが見つかったわよ。早く来なさい」
そこへ手ごろなクエストを見つけた双子たちがクエストボートの前で2人を待っていた。一旦食事を中断させ、カズマたちはアクアたちと合流し、今回受けるクエストの内容を聞きに受付まで足を運ぶ。今回双子たちが選んだクエストは討伐クエスト。討伐対象はリザードランナー。
「リザードランナーと呼ばれるモンスターなのですが、繁殖期に入り、姫様ランナーにオスたちが集まり、多大な群れを形成し、姫様ランナーを賭けて勝負を始めているのです」
「勝負って?」
「走るんです。大群で進路上の何もかもを巻き込んで走り回り、1番早いオスが王様ランナーとして姫様ランナーとつがいになるのです」
「それはまた・・・はた迷惑な・・・」
姫様ランナーとつがいになるためにオスのリザードランナーが何もかもを巻き込んでまで走りで勝負を繰り広げようとする習性にモンスターについて何も知らないカズマは若干引いている。
「今回のクエストはこのリザードランナーの討伐です。何せ数が多いので、大変かと思いますが・・・」
ルナが言葉を紡ごうとした時、カズマがかっこつけて人差し指でルナの唇を触れる形でそれを止める。顔もそれとなくかっこつけている。
「大丈夫。どんな敵であろうと、俺とこいつの敵じゃありませんよ。そうだろう?えーっと・・・菊一文字にしようか・・・小烏丸・・・」
「ちゅんちゅん丸」
カズマが刀の名前を何にしようかと悩んでいると、突然めぐみんが意味不明な単語を出した。意味不明な単語にティア以外のメンバーは冷めた顔つきになっている。
「・・・今なんて?」
「ちゅんちゅん丸と言いました。その剣の名前はちゅんちゅん丸です」
どうやら刀の名前を言っていたようだが、当然ながらカズマはそれには断固反対である。
「そんな奇妙奇天烈な名前つけられるか!俺の相棒として、ここはぜひとかっこよく、俺の納得のいく名前を・・・」
反対していたカズマが刀を見てみると、すでに刀の房には例の札が張られており、札にはこの世界の文字でちゅんちゅん丸と書かれている。そして、札は房の一部となり、ちゅんちゅん丸の文字が房に刻まれた。
「ああああああああああああああ!!!????」
「今日からその剣の名前はちゅんちゅん丸です」
「お前何してくれてんだああああああああああああ!!!!!!!」
刀に不名誉な名前を勝手につけられてしまったカズマはその張本人であるめぐみんの両頬をつねっておしおきをした。
ーこのすばぁ!!!!(怒)ー
準備を終えたカズマたちはリザードランナーが現れるという草原までやってきた。双子たちはリザードランナー出現に備えて、事前に準備運動をしている。そんな中で、ちゅんちゅん丸と名付けられた刀を持ったカズマはわかりやすいくらいに落ち込んでいる。
「あのなぁ・・・万一この刀で魔王を倒そうもんなら、伝説の勇者の聖剣、ちゅんちゅん丸とかプレートに書かれて博物館に展示されちゃうんだぞ・・・勘弁してくれ・・・」
「せっかくかっこいい名前を付けてあげたのに何が不満なのですか?」
「はいはい、そういうのは後々。カズマも急いで準備してよ」
「うーい・・・はぁ・・・テンション下がるわー・・・」
ティアに急かされてカズマも準備を行うが、いまいち覇気がなかった。よほどにショックだったのだろう。
『討伐クエスト!!
リザードランナーの群れを討伐せよ!!』
木の上に待機しているカズマはいつまでも落ち込んでいてはと思い、気を引き締め直す。
「みんな!用意はいいな?」
「こっちはいつでも大丈夫よ!」
「こっちもトラップはオッケーだよ!いつでも発動できる!」
「アクアに支援魔法をかけてもらったし、これなら何匹だろうが耐えられる!」
「撃ち漏らした時は私に任せてください。皆まとめて吹き飛ばしてあげますよ」
「それでも逃したのなら私に任せなさい。1匹ずつ、根絶やしにしてやるわ」
アクアたちも準備万端のようで、気合が入っている。
「よし!作戦のおさらいをするぞ!まず、俺が王様ランナーと姫様ランナーを狙撃(イケボ)する。その2匹さえいなくなれば、リザードランナーの群れは解散するそうだから残された雑魚は放っておく。狙撃(イケボ)に失敗してこっちに襲ってきたらダクネスが耐えてる間にアカメが姫様ランナーを大技で仕留め、俺が王様ランナーを狙撃(イケボ)する。それさえ失敗したなら囲まれる前にティアが事前に仕掛けたトラップを発動させて、動けなくなったところをめぐみんの爆裂魔法でまとめてぶっ飛ばし、撃ち漏らした奴をアカメと俺がまとめてそれを撃破。アクアは全体の援護を頼む」
今回の作戦を十分に理解したメンバーは首を縦にうなづいた。
「じゃあ、行くぞ!」
カズマが弓を構えて待機していると、草原の奥地で何かが走っているのが見えてきた。その何かとは、エリマキトカゲが直立して走っている姿であった。このモンスターこそが、今回の討伐対象のリザードランナーだ。そのリザードランナーの中で1匹だけ色が違うのもいるため、これを見ただけで色違いが姫様ランナーであることがすぐにわかる。
「あいつが姫様ランナーなのはわかったが・・・どれが王様なんだ?」
一番の難題はやはり王様ランナーである。リザードランナーは姫様ランナー以外はみんな同じなのでどれが王様なのかが見分けにくいのだ。
「なあベテランの双子、どれが本物の王様なんだ?」
「そうだなぁ・・・王様ランナーって言ってもどれも同じだし・・・」
「やっぱり見分けられる方法って言ったらメストカゲのすぐ後ろにいる1番早い奴じゃないかしら?」
「さすが双子、長くやってきた経験は裏切らないな!そうなると・・・」
双子の王様の見分け方を聞いたカズマは姫様ランナーの後ろにいる王様はどれかと見分けようとした時、アクアが余計なことを言いだした。
「あ!いいこと思いついた!群れで1番早いのが王様なら、モンスター寄せの魔法であいつらを呼んで1番に着いたのが王様よ!!」
「は?おい、アクア!!お前いったい何を言って・・・」
「フォルスファイアー!!」
アクアは余計なことを思いつき、モンスター寄せの魔法、フォルスファイアで小さくてよく光る火の玉を上空に放った。別の方向を走っていたリザードランナーは立ち止まってじっとその火の玉を見つめる。すると・・・
『キシャーーーーーーーー!!!!!』
急に怒りだしてすぐさまカズマたちの方へと走ってきた。そのスピードはさっきまでとは比べ物にならないくらいに速くなっている。
「「「「速っ!!!!????」」」」
リザードランナーの急なスピードアップにめぐみんたちは驚き、この原因を作ったアクアにカズマは怒鳴る。
「このクソバカ!!!!毎度毎度問題を起こさないと気が済まないのかお前は!!!王様と姫様さえこっそり討ち取れれば、無力化できるのに、なんでわざわざ呼び寄せるんだぁ!!?」
「!!!な、何よいきなり!!私だって役に立とうと思ってやってることなんだから怒んないでよ!!どうせこの後の展開なんていつものことでしょ!!?きっとあのランナーたちにひどい目に合わされて泣かされるんでしょ!!?わかってるわよ!!!いっつものことよ!!!さあ!!殺すなら殺しぇえええええええ!!!!!」
自分の失態に言われて気づいたアクアは逆ギレをして寝転がって地団太を踏んで泣きわめいている。この姿もいつものことである。
「そんなところで寝るな!!本当に踏まれて死ぬぞ!!」
カズマはリザードランナーの中にいる1番早い王様ランナーを見つけ出して狙撃で狙い撃った。矢は1番早いリザードランナーにヒットした。
「やったか!」
・・・が、リザードランナーたちの勢いは止まらない。というか、より凶暴化している。
「!!?お、おい!どうなってんだ!!?王様っぽいの倒したのに、より凶暴になってるんだけど!!?」
「言い忘れてたけど、王様を先に倒したって他のオストカゲ共が次の王様になろうと躍起になるから、潰すなら先に姫様を潰さないと意味ないわよ」
「先に言えよ!!!」
どうやらいくら王様ランナーを倒したところで姫様ランナーを倒さない限り、また新しい王様ランナーが誕生するらしい。
「大丈夫!あいつらはもうすぐで私が仕掛けたアーストラップの領域に入るよ!それであいつらの動きを封じられる!」
「よ、よし!それならまとめて爆裂魔法で吹っ飛ばせそうだし、アクアの失敗だって取り戻せ・・・」
そう話している間にもリザードランナーたちはティアが仕掛けた設置型スキル、アーストラップがある個所を踏んだ。それと同時にリザードランナーたちの両サイドに巨大な網が出現する。網がリザードランナーたちを覆いかぶそうとした。
『キシャ―――――!!!!』
が、アクアのフォルスファイアーでそうとう気が立って速くなってるのか、リザードランナーたちは覆いかぶさる前に通り抜けていき、罠にかかったのは真後ろにいた一部のリザードランナーたちだ。残ったリザードランナーたちは予想よりもかなり多く残っていた。
「も、漏れてるじゃねーか!!!!」
「ちょっとあんた何やってんのよ!!あんだけの数が残ってたら私が攻撃できる余地なんてないじゃない!!」
「な、何さ!!仕方ないじゃん!!アクアが余計なことしたせいであいつら速くなってるんだもん!残ってたってしょうがないじゃん!!!」
「開き直るなこのバカ妹!!!」
「後ろ見たってしょうがないじゃんこのダメ姉!!!」
「ああ、もう!!!お前らこんな時にまで喧嘩するなぁ!!!!」
リザードランナーを何十匹も取り逃がしてしまい、それが原因でいつもの双子の喧嘩が始まってしまう。こんな時まで喧嘩をする双子に頭を抱えるカズマ。
「ふっふっふ、あれだけの数が何です!私の前では無力と化す!!」
「おお、めぐみん!!」
かなりの数が残っていてもめぐみんは堂々としている。それには頼もしさを感じるカズマ。
「わっはっはっはっは!!我が爆裂魔法を食らうがいい!!エクスプロージョン!!!」
めぐみんは向かってくるリザードランナーたちに向けてエクスプロージョンを放とうとする。
・・・しーーん・・・
が、いくら待てどもめぐみんから爆裂魔法が放たれることはなかった。
「!!??魔力があ!!!???カズマ、爆裂魔法を発動するための魔力が足りません!!!」
「はあ!!??なんでこんな時に・・・」
「・・・あ、そういえばカズマがこたつに引きこもってた時・・・」
「・・・あ、あんた確かめぐみんにドレインタッチしてたわよね?」
「!!!!俺のせいかあああああああああああ!!!!!」
めぐみんの魔力切れの原因は今朝の引きこもり騒動でカズマがドレインタッチで魔力を吸収し、それを返却してなかったことにあった。爆裂魔法が撃てない無力なめぐみんはすぐさま近づいてくるリザードランナーから逃げていく。
「はははははは!!!来い!!!!」
「おお、ダクネス!!」
そんなリザードランナーたちに立ちふさがるようにダクネスが前に出る。近づいてきたリザードランナーたちを受け止めようとするが・・・
ドドドドドドド!!!!
「ぎゃあああああああああ!!!!」
リザードランナーの数が多すぎて受け止めるどころか逆に群れたちにもみくちゃにされている。
「わあああああ!!??カズマさん!!?カズマさ・・・」
ドドドドドドド!!!!
ついでといわんばかりに未だに寝転がっていたアクアも巻き込まれ、走るリザードランナーたちに何度も何度も踏まれた。
「だ、ダクネス!もうちょい耐えてくれ!今こいつらの親玉を仕留めるから!」
「お、お構いなく!!ゆ、ゆっくりでいいぞ・・・あふん♡」
正常運転なダクネスは置いておいて、カズマは周りを走っているリザードランナーたちの群れの先頭にいる姫様ランナーに狙いを定めて弓を構える。
バッ!!
だがカズマが自分を狙っているのに気が付いたのか姫様ランナーは持ち前の脚力で空高くジャンプし、カズマに向けて跳び蹴りを放とうとする。それを確認したカズマはすぐに姫様ランナーに狙いを再び定めて狙撃を放った。
「狙撃!!」
放たれた矢は見事に姫様ランナーの額に直撃。これによって討ち取られた姫様ランナーは体制を崩し、重力に従って落ちてゆく。
「・・・ふっ、紙一重だったな・・・ん?」
だが姫様ランナーが落ちていく先は、カズマがいる木の上だ。
ドシー――ンッ!!
姫様ランナーは木の上に落ちていき、直撃したその振動によって木は強い揺れを起こした。
「おわぁああああ!!?」
ズリッ!!
「あ・・・」
この揺れによってカズマは足のバランスを崩して地へと落ちていく。そして・・・
ズシャッ!!グキリッ!!!!
頭から着地してしまったカズマは案の定、首が変な方向に曲がり、嫌な音がカズマの首から出てきてしまった。
「か、カズマ!!?大丈夫ですか!!?」
「ちょ・・・しっかりしなさい!!傷はきっと浅いわよ!!」
「あ、アクア!!カズマが変な体勢で落ちちゃった!!回復魔法を!!」
めぐみんたちはすぐさまカズマの安否を確認しようとするが、カズマの視界はもう真っ暗になっていた。
ーこのすば・・・(泣)ー
カズマが目を開けてみると、そこに広がる光景は以前見たことがある神殿らしき場所だ。そして、カズマの目の前には、以前カズマを現世への扉を開かせ、蘇生させた女神エリスと自称死者の世界の住人、マサヒロこと伊藤勝広がいた。これを表す意味は、カズマは首の骨が折れて、再び死んでしまったのだ。
「・・・あそこで死んだ日本人がまたここに来るのも驚きだけど、今回の死に方は本当にマヌケだったな・・・」
「・・・あの、カズマさん、気を付けて生きてくださいね?以前規約を曲げて生き返らせたとき、すごく苦労したのに・・・」
「・・・すいません、今回に関しては両方とも、何も言えません」
マサヒロはカズマに同情的な視線を向けており、エリスは困ったような表情をしている。2人の言っていることは両方事実なので何も言えないカズマ。
「はぁ・・・冒険者というお仕事をしてらっしゃるのですから、危険が付きまとうのはわかりますが、今回は油断しすぎですよ」
「えっと・・・俺が死んだ後、みんな大丈夫でしたか?」
「ああ、お前ら確かリザードランナーたちの討伐してたんだっけか」
カズマは死んでもなお仲間たちが心配なのか気になってエリスに仲間たちの安否を確認する。
「ええ。あんなところに寝ころんでいた先輩はトカゲたちに踏まれたり蹴られたりして途中で泣いていましたが、ダクネスが耐えている間に姫様ランナーを倒された群れは解散してしまいました。めぐみんさんもダクネスが守っていたおかげで無事です。アカメさんもティアさんも、持ち前の速さで逃げ切れていたので同じく無事です。今は先輩があなたの体を修復してくれています」
「そうですか・・・よかったぁ・・・」
アクアたちの安否を確認できたカズマはほっと安心する。
「まぁ、そういうことならこのまましばらく待たせてもらっていいですかね?」
「構いませんけど・・・ずいぶん落ち着いていますね」
「まぁ・・・この展開もいい加減何度か経験してますし・・・」
「わかる・・・すごくわかる・・・」
これまで何度も理不尽な展開やお約束の展開に相まみえて慣れてきたカズマは苦笑を浮かべている。マサヒロはあの世界の苦労人としてか、深く同意している。するとカズマは何もないこの場所に逆にそわそわしている。
「そ、それにしても、こんな何もない部屋でずっといて退屈なんじゃ・・・」
「前までの冒険者稼業が、いろいろトラブルの連発だったからな。むしろ、何もなくて逆に落ち着くんだよ・・・」
「さいですか・・・」
生きていた際に、マサヒロはやたらと苦労していたのか、彼の目はどことなく遠くを見るような目をしていた。よほど大変な目にあったのだろう。
「え、エリス様は?」
「私が退屈しているということは、それだけ皆さんが元気でいるということ・・・暇に越したことはありませんからね」
エリスの微笑を見て、カズマは胸がきゅんときた。ここ最近、カズマは異世界生活に何かが足りないと思っていたのだ。正直な話、アクアや双子、めぐみんもダクネスも見てくれは悪くない。それこそ、美人とか、かわいい子とかいえるほどに。ただ、中身が残念すぎて、それをぶち壊してしまっているのだ。カズマが求めているのは、色物ではなく、優しくて常識のある女子、それだけなのだ。
「実はですね、私はずっとここにいるわけではないのですよ。たまに地上にこっそりと遊びに行ったりもしているんです。このことは・・・内緒ですよ?」
以前エリスが見せてくれた茶目っ気たっぷりの笑みにカズマは本当に心の奥底からエリスにたいしてきゅんきゅんしている。
(おお・・・かなりそそられる・・・!俺が求めているのはこれだよ・・・。・・・それゆえに・・・)
カズマは自分とエリスの間にいるマサヒロに視線を向ける。
「どした?」
(羨ましすぎる!!!!まぁ、こいつは奥さんがいたらしいから?エリス様をヒロインとして見てないかもしれない。けど・・・けど・・・あのろくでもない世界でいい女と結婚できてなお!!!!16年間もエリス様と同じ空間を共有しているこいつが羨ましすぎる!!!!ちくしょう!!!なんでダメ人間のこいつばっかりいい思いをしてるんだ!!!俺と変われよそこ!!!!)
16年もこの場所におり、エリスと同じ空間にいるマサヒロを非常に妬ましく思っているカズマ。心なしか歯ぎしりがぎりぎりとしている。そこまで考えるとカズマはイライラが溜まってきた。
『カズマー。カズマ聞こえるー?リザレクションかけたから、もうこっちに帰ってこられるわよー?エリスに門を開けてもらいなさーい』
「・・・ちっ!」
マサヒロのせいでイライラが溜まったからエリスと話してストレス解消しようと思った矢先にアクアの声が聞こえてきて、カズマは舌打ちをする。
「もうちょっと後でいいよー。エリス様といろいろ話とかしたいし、俺の体を大事にとっといてくれー」
どうせすぐ別れるならせめてエリスともうちょっと話がしたいと考えているカズマはアクアにそう言った瞬間、アクアはすぐに反論した。
『はああああ!!?ちょっとバカなこと言ってないで早くこっちに帰ってきなさいよ!!さっさとレベル上げして私を天界に返すために魔王をしばいてきてちょうだい!!!』
「うるさ・・・女神とは思えないやかましさ・・・さすがクズのアクシズ教徒の女神様だ・・・」
『ちょ・・・今誰か私の宗教をクズって言ったの感じたんですけど!!?まさかそこに他に誰かいるの!!?ねぇちょっと、カズマ!!!エリス!!!そこに他の奴がいるの!!?ちょっとそいつ出しなさいよ!!!今私がしばいてやるわよ!!!」
「なんつー直感だ・・・俺の声は聞こえてないはずでしょ?」
「そのはずなんですが・・・」
マサヒロの言葉は聞こえてないが、直感で悪口を感じ取ったのかアクアはかなり怒っている。そんなアクアにマサヒロはかなり引き気味だ。
「・・・魔王、か・・・」
アクアがマサヒロの存在に注目している間にもカズマはアクアが言った魔王という単語に急に目のハイライトが消えた。生き返ってもアクアたちと苦労しながら魔王退治と無茶な課題をさせられるのだろうかと考える。このまま外に出たってカズマが不思議な力に目覚め、都合よく魔王を倒せるかなんてそんな都合のいいことは世知辛い世界には甘くない。生き返ってもこれからも何度も何度も死ぬのだろう。それと同じように得られる物は何がある?いや、ないだろうとカズマは考える。もう魔王討伐は無理だろうという考えさえ出てきているカズマ。
「なぁカズマ、あれなんとかしてくれ。さっきから俺を出せ出せってお前んとこのアホがうるさいんだ。まぁ、生き返られるんならそれでもいいけど」
「ですから、マサヒロさんは復活は不可能だって何度も・・・」
『アホ!!??今あんたアホって言った!!??』
「だからなんで俺の悪口がわかるんだよ・・・」
さっきから喚いているアクアに向かって、意を決したのかカズマはこんなとんでもない事を言い出した。
「おいアクアー!俺もう人生疲れたし、生まれ変わって赤子からやり直すことにするわー。皆によろしく言っといてくれー」
「えええ!!??」
「うわー・・・お前それさすがに引くわー・・・」
生まれ変わることを選んだカズマの発言にエリスは驚き、マサヒロはせっかく復活魔法をかけてくれたのにといわんばかりにカズマに引いている。
『あ、あんた何バカ言ってんの!!??ちょ、ちょっと、待ってなさいよ!!!』
当然これにはアクアは焦りだす声が聞こえてきた。おそらくはめぐみんたちにも知らせに行ったのだろう。
「それじゃ、1つお願いします。あまりわがままは言いませんが、次も男の子として生まれたいです。後、きれいな義理の姉とかわいい義理の妹がいる家庭に生まれたいです」
「だからカズマさ、そういう高望みは早死にするって・・・」
「うるさい勝ち組!!!いい奥様までもらって、エリス様と一緒にいられて・・・俺にだってそういう権利くらいもらってもいいだろうが!!!!」
「なんで逆ギレするんだよ・・・」
自分より好待遇だと思っているカズマはマサヒロに理不尽といわんばかりの逆ギレをする。
『カズマ!早く戻ってこないとアカメがあんたの顔や体に落書きするって言ってるんですけど!それはもう人目には見せられないくらいの落書きしそうで危ないんですけどー!というか、もうペンを構えてじりじり寄ってきてるんですけどー!』
「・・・っ!」
アクアの言葉にカズマは若干ながら動揺している。が、どうせ死んでるんだと思って何とか持ち直した。
『・・・え?めぐみん、何してるの?カズマの服をどうするの?・・・え!!?めぐみん!!?ちょっとめぐみん!!?』
「おいやめろよ!!!俺の体に何してんだ!!仏さんにイタズラすんな!!!バチ当たるぞ!!!」
アクアの声からして、何やら外でめぐみんがカズマの体に何かしているようで、得体のしれないものだったらさすがに耐えられないカズマは声を荒げる。
『めぐみん!!めぐみん!!?ちょっとカズマさん!!早く来て!!早く来てーーー!!!』
「おいやめろ!!!アクア!!!めぐみんを止めろ!!!エリス様、お願いします!!門を開けてください!!!!」
ハチャメチャな展開が起こっているようでそれの想像がつくエリスとマサヒロは本当に面白そうに笑っている。エリスはすぐに指を鳴らして、現世に繋がる扉を開いた。
「それではカズマさん、もうここには来ないことを、陰ながら祈っています」
「エリス様!俺は・・・」
「では、いってらっしゃい」
カズマは現世へと向かって、以前と同じように宙へと浮いた。エリスはにっこりと微笑んでカズマを見送る。
「パッドも好きですよーー!!!」
カズマは最後エリスにとって余計なことを言いながら現世へと戻っていった。
「・・・あいつ、最後なんて言ったんすかね?」
「さあ?なんでしょう?」
幸いにも、カズマの最後の一言はエリスには届かなかったようだ。
ーこのすば!ー
カズマが目を覚まし、視界に真っ先に映ったのはめぐみんの顔だった。めぐみんの目には涙が溢れており、現在カズマの服を着せ直している最中であった。戻ってきたはいいが、めぐみんが何をやらかしたのか気になるので、あまり喜べないカズマ。
「・・・おい、何やってんだ?お前は爆裂狂なところと名前を除けば唯一常識のある奴だと思ってたのに。俺が死んでた間にいったい何をしてくれたんだ?」
「おい、私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか。帰らないとか・・・バカな冗談を言ってるからですよ。次にそんなバカな駄々をこねたら、もっとすごいことをしますからね」
めぐみんはずっとカズマのことを心配したがゆえに、帰らないと聞いて怒っているのだ。だからなのだろう。カズマの体に何かをしたのは。めぐみんの様子も気になるが・・・それよりも自分の身に何が起こったのか気になるカズマは他のメンバーに事情を聞こうとするが・・・
「//////」
「あんた・・・神聖な女神様の口から何言わせる気?」
「変態・・・」
「聞いたら殺すわよ」
「・・・俺、本当に何されたの・・・?」
ダクネスは顔を蹲っていて話すら聞けず、アクアと双子は軽蔑な視線を送るだけで何も話そうとしない。軽蔑な顔をされただけで、とんでもない目に合わされたのは間違いない。聞きたいような聞きたくないような・・・そんな感情を抱いたカズマ。
ー本当に、何されたの・・・?ー
クエストを終えて、ギルドに報告を済ませたカズマたちは屋敷に戻ってきた。若干気になったのは、めぐみんだけはゆんゆんの宿に泊まると言っていたことだ。夕飯を食べ終えてソファの前にある暖房でアクア、アカメ、ダクネスの3人はそこで温まっており、ティアは厨房でデザートを作っている最中だ。
「・・・狭い。アクア、もうちょっと詰めなさい」
ゴチンッ!
「痛い!!ちょっと⁉なんで殴るの⁉」
アカメはアクアに向かってげんこつをした。アカメが殴った理由はクエストで余計なことをした罰なのだろう。アクアは文句を言っているが、アカメは聞く耳持たない。むしろ、それで済ませてやってるんだから文句言うなと言いたげだ。すると・・・
「めぐみーーーーーーん!!!!!!めぐみんはどこだああああああああああ!!!!!!」
風呂に入ろうとしていたカズマがバスタオル一丁の姿で怒り狂い、めぐみんを探しにリビングにやってきた。
「めぐみんなら、何日かゆんゆんの宿に泊まると言っていたがあああああああああ!!???」
「うるさああああああああい!!!!!!」
ダクネスはそんなカズマの姿を見て、赤面して再び顔を両手で覆い隠す。
「どうしたの?何があったきゃああああああああああ!!!!???」
「黙らんかあああああああああい!!!!!!」
デザートを作っていた最中のティアが叫びに駆け付け、リビングに入ってきた。が、カズマの姿を見て顔を真っ赤にしてすぐにリビングから出ていった。
「カズマ」
「なんだぁ!!!???」
「自分に自信があるのはいいけど、そういう自己主張は嫌われる元だからやめた方がいいわよ」
「ば、バカ!!!!!お前ら、めぐみんがこれを書いてる時、一緒にいたんだろうが!!!!!ち・・・チクショーーーーーーー!!!!!!」
カズマは自分の体に書かれている落書きを見て怒り狂っているのだった。その場所がどこかとは絶対に言わないが。
「何が・・・聖剣エクスカリバーだああああああああああああ!!!!!」
紅魔の里のふにふらさん、どどんこさん、お元気ですか?私は元気です。
私は今、アクセルの街で仲間と一緒に冒険者をしています。
メンバーは駆け出し冒険者の男の子、アークプリーストの女の子、クルセイダーの女の子、シーフの双子の女の子2人です。
本当ですよ?後、めぐみんがぼっちしていました。
ああはなりたくないです。
ゆんゆん
実際のところ・・・
ティア「みんな、今日は何が食べたい?」
アクア「私、お鍋がいいわ!」
めぐみん「いいですね、冬には持ってこいです」
アカメ「ならキムチ鍋にする?トウガラシならいくらでもあるわよ」
カズマ「じゃあさっさと食材でも買っておくか」
ダクネス「荷物持ちなら私に任せろ」
めぐみんはカズマたちとわいわいとご飯の話をしている。
ゆんゆん「・・・・・・」
ゆんゆんは相も変わらずぼっちをしていた。
ミミィ(ああ・・・あの子が困ってる・・・。でも私みたいなウジ虫にできることなんてたかが知れてる!どうせ・・・あんた、超ウザいんですけどみたいなノリで返される!)
ミミィはゆんゆんが気になって隠れて様子を見ていた。
ゆんゆん「・・・お手紙、どうしよう・・・」
ミミィ「やっぱり私はダメな子・・・」
この2人は未だ、真の意味での顔合わせはできていないのだった。
次回、このふてぶてしい鈍らに招待を!