リザードランナー討伐クエストから数日後、今日も今日とて、外は快晴の青空が広がっているアクセルの街。そんな青空の下、カズマの屋敷では、いつもとは・・・かなりというか・・・気持ち悪い光景が広がっていた。
「最高級の紅茶が入りましたわよ、カズマさん」
「うむ・・・」
カズマはアクアが入れてきたという紅茶を一口すする。そして、一口飲んで笑顔で一言。
「・・・お湯なんだけど」
「私としたことがうっかりしていたわ♪」
どうやらアクアが紅茶を浄化してしまったようでカップに入っているのは紅茶ではなくお湯である。
「もしかして、紅茶を浄化しちゃったのかな?」
「ごめんなさいね、カズマさん♪」
「入れなおせばいいだけさ♪ありがとう、アクア、これはこれでいただくよ♪」
さっきからカズマとアクアは満面な笑顔で気持ち悪いプチセレブごっこをやっていた。カズマはお湯となった紅茶をもう一口すする。
「・・・うん、お湯!」
「気持ち悪いですうううううううう!!!!」
数日間ゆんゆんの宿に泊まっていためぐみんが戻ってきてこの光景を見たことで顔を青ざめた様子で率直にそう言い放った。確かに気持ち悪いの一言である。
「おや、めぐみん、帰って来たのかい?おかえり♪」
めぐみんはすぐさま気持ち悪いカズマの前に立ち、頭を下げて懇願をする。
「先日のことは謝ります!!だからどうか元のカズマに戻ってください!!」
「先日のこと?」
先日のことと言うのは、どことは絶対に言わないが、めぐみんが書いた落書きの事だろう。それを思い出したカズマはにっこり微笑む。
「ああ、もしかして、あの落書きのことかい?金持ち喧嘩せずってね。それより、めぐみんもお茶を飲むかい?よい茶葉が入ったんだ♪」
気にしてないどころか気持ち悪い笑みを浮かべてお茶を勧めようとするカズマ。あまりに気持ち悪い光景にめぐみんは涙目である。
「私が悪かったのでどうか元のカズマに戻ってください!!今のカズマはすごく気持ち悪いです!!!」
「さっきから何を言っているんだ?俺はいつもこんなじゃないか」
どう見てもいつものカズマでないのは明らかだ。いや・・・いつものといえばカズマだけではない。
「最高級の紅茶がまた入りましたわよ、カズマさん」
そう、ご覧のようにアクアももうすっかりカズマの従者気分になっており、こっちもこっちでセレブを意識していてとても気持ち悪い。アクアが入れなおした紅茶をカズマは一口すする。
「・・・お湯なんだけど。ははは、また浄化しちゃったね♪」
「あらあら、私としたことがうっかりしていたわ♪うふふふふ♪」
「いや、また入れなおせばいいさ♪ありがとう、アクア、これはこれでいただくよ♪」
もうどうしていいかわからないでめぐみんに遠くでいつも通りにしている双子とダクネスがめぐみんを手招きしている。どういうことか説明してもらおうとめぐみんは3人の元へと近づく。
「あれ、めぐみんのせいとかじゃなくてね・・・実はね・・・」
「先日、あのクソ悪魔が来てね・・・」
双子はカズマとアクアがなぜああなったのかという経緯を包み隠さず話すのであった。
ーうん、お湯!ー
事は遡ってリザードランナー討伐クエストの次の日の朝、ソファでティア特製の朝のデザートを食べながらまったりとくつろいでいるダクネスとティアとアクア。アカメは同じくソファでこれまで集めた短剣を1つ1つ丁寧に手入れをしている。
「あんのロリガキがあああああああああ!!!!!!屋敷に帰ってきたら剝いてやる!!!!!絶対に・・・絶対にだあああああああああああ!!!!!!」
そんな中で、落書きの一件で未だに怒り狂っているカズマはめぐみんへの仕返しのことで頭がいっぱいになってきている。
「いつも勝気なあいつでさえ、もう、許してくださいって泣き叫ぶ目に合わせてやる!!!!」
「そ、その、めぐみんですら泣き叫ぶ目とやらに詳しく!!」
カズマの言っためぐみんが泣き叫ぶ目とやらを想像して興奮するダクネス。
「朝っぱらからうっさいわね。武器の手入れでもしたらどうかしら?ほら、ここで風呂以外はずっとそこに動かないでいるダメ人間で試し切りするといいわ」
「!!!???ね、ねぇ・・・アカメさん?なんで私の方を見てそんな物騒なこと言うの?冗談でしょ?そういう冗談はよくないと思うの。まさか、本気?」
アカメはアクアを見ながら砥石などで短剣の切れ味を磨いている。最近アカメの嘘もキレッキレで本気でやりかねない雰囲気をアカメから纏わせている。そのため、アカメの嘘にさっきまで動かなかったアクアが素早くソファから離れる。
「ねぇカズマ、そんな事態になったのはカズマが駄々をこねたからでしょ?自業自得、カズマに怒る権利はないよ」
ティアは全くの正論を言ってカズマを落ち着かせようとする。
「バカお前!!!!お前らは女だから俺たち男のあの苦しみはわかんねぇんだよ!!!!!チクショーーーー!!!!あいつ絶対に許さねぇ!!!今から泣きわめく姿が目に浮かぶようだぜ!!!!」
「その泣きわめくようなことについて詳しく!!!!」
だがそんな正論もカズマの耳には届かない。ダクネスもダクネスで泣きわめくことについてで興奮している。
バタンッ
屋敷の入り口の扉が閉じたような小さな音が聞こえてきて、めぐみんが帰って来たのだろうと思ったカズマはぎょろりと扉の方へと向ける。
「帰ってきやがったのかああああああああああ!!!!!めぐみんてめええええええええええええ!!!!!!」
めぐみんに一発きついものを食らわせようとカズマは素早く移動し、扉を勢いよく開いた。
「フハハハハハ!!頭のおかしい紅魔の娘かと思ったか?残念!吾輩でした!」
が、扉の先にいたのはめぐみんではなくバニルであった。それにはカズマは怒りの表情ながらも拍子抜けである。
「ポンコツ店主に代わり、目利きに定評のある吾輩が商談に来た!さあ、吾輩の登場に喜びひれ伏し、当店に卸す商品を見せるがいい」
図々しくもずかずかと屋敷に入り込むバニル。そんなバニルを毛嫌いし、屋敷に入ってほしくなかったアクアはバニルの声を聞いて、ふらりふらりと立ち上がり、嫌悪感出しまくりの顔をバニルに向ける。
「・・・ねぇちょっと・・・どうやってこの屋敷に入ったの・・・?この屋敷にはあんたみたいな害虫が侵入できないように神々しくも神聖な結界が張ってあったんですけど・・・」
「ああ、あの半端な奴か。なんと、あれは結界であったか。あまりに弱弱しいものだったので、どこかの駆け出しプリーストが張った失敗作だと思っておった。いやぁ、失敬。超強い吾輩が通っただけで崩壊してしまったようだなぁ、フハハハハハ!!」
あからさまにアクアを挑発する発言にバニルに近づき、一触即発の雰囲気を漂わせている。
「・・・あらあら~、身体のあちこちが崩れかかっててますわよ?超強い悪魔さん?あ、どうしましょう、確か地獄の公爵だとか聞いていましたのに、あんな程度の結界でそんな風になるなんて~」
アクアはわかりやすい挑発をしてバニルに突っかかる。アクアの言うとおり、バニルの身体はところどころがボロボロになっており、ちょっと突いただけでも土塊の土が少しずつ崩れていく。
「フハハハハ!!この身体はただの土塊。身体などいくらでも作れる。屋敷の外を覆っていたあの薄っぺらい紙切れに興味が湧いてなぁ。いやぁ、駆け出しプリーストが張ったにしてはなかなかのものではないかぁ?人間の、それも駆け出しプリーストが張ったにしてはな!フハハハハハ!!」
バニルのさらなる挑発にアクアはもうバニルを浄化しそうな雰囲気たっぷりである。
「バカとクソ悪魔のいがみ合いはいつ見ても滑稽ね。潰しあいになってどっちか潰れればなおいいんだけど」
「吞気に見てないでこいつらを止めろよ!!お前らが持ってきた商談の話が台無しになるだろ!!」
アクアとバニルのいがみ合いを諦観しているアカメ。それにツッコミを入れながら喧嘩の仲裁をするカズマ。
「・・・ねぇアカメ、ティア。カズマがこたつだのなんだの作ってたのって、ひょっとしてこれと商談するためなの?」
「そうだよ。どこぞのバカのせいでもう借金なんて背負いたくないからね」
バカというのは当然ながらアクアのことを指しているのだが、自分が借金を作っているという自覚がないのか残念ながら自分を当てはめてないようだ。
「えー、本当にー?人々の悪い感情をすすってかろうじて存在しているこの害虫とー?」
「あ、自分の事当てはめてないな、これ」
「ティア、あんたも人の事全く言えないけどね」
「お前もな」
「笑えない冗談なんですけどー、プークスクス!」
「笑ってるじゃねぇか・・・」
笑えないと言っているのに人を小ばかにするように笑うアクアにカズマは呆れている。
「我々悪魔は契約にはうるさい。双子共と交わした契約はきちんと果たすので、信頼してもらって結構である。信じるだけで幸せになれるだの、純粋の者の足元を見るだの、胡散臭い甘言で人を集め、寄付と称する金集めをしている詐欺集団とは違うのだ」
「確かに・・・アクシズ教徒のあれは本当に詐欺だよね・・・」
「ちょっとティアさん!!?」
アクシズ教徒を詐欺集団と称するバニルの例えにやられた経験からかティアは激しく同意している。いや、同意しているのはアカメも一緒である。それにはアクアは涙目である。
「うむ・・・奴らの殺し文句は何であったか・・・」
「神はいつもあなたを見守っていますよ、でしょ?バカバカしいったらありゃしないわ」
「おお、そうであった・・・ん?おお、なんということだ!吾輩、それに該当する神とやらを目撃したぞ!先日覗きで捕まった風呂やトイレを生暖かな目で見守っていたあの男は神であったか!!フハハハハハハハ!!」
バニルはアクアをこれでもかっていうくらいに挑発をしながら高笑いをしている。ちなみにバニルの言う神もどきというのは、チンピラ冒険者のダストだったりする。怒りの限界にまで達したアクアは口元をにやりと笑い・・・
「セイクリッド・エクソシズム!!!!」
「華麗に脱皮!!」
バニルに向かってセイクリッド・エクソシズムを放った。バニルは浄化魔法を発動される前に本体の仮面を投げ捨て、見事直撃を回避する。バニルの仮面は地に着いたと同時に新たな身体を生成しようとする。が、それをアクアが見逃すはずもなく、生成する途中で仮面を掴み上げる。
「あははははは!!これね!!これが本体ね!!捕まえたわ!!捕まえたわよ!!どうしてくれようかしら!!これどうしてくれようかしら!!」
「フハハハハハ!!この仮面を破壊したとしても・・・て、こ、こら!しゃべってる途中で仮面を剥がそうとするな!体が崩れる!せめてセリフを言い終わってからに・・・」
傍から見ればただじゃれ合っているようにしか見えないが、このままでは商談がいつまでたっても始まらないので、そろそろ止めに入るカズマと双子であった。
ーこのすば!ー
カズマの説得、ティアのバインドによる身動き封じ、さらにはアカメの何とも言えないドスの利いた圧でなんとかアクアを黙らせることに成功したカズマたちはバニルとの商談を開始する。
「一応カズマにこれらを作らせてもらったけど、どうかな?」
「つーか、こんな使用用途がわからないもんが本当に売れるのかしら?」
「ご心配には及ばぬ。吾輩の小僧の見立ては間違っておらぬ。これは確実に売れるぞ。このこたつとかやらの暖房器具はそれはもうダントツの売り上げになるだろう」
この世界の住人からすれば使用用途がわからない代物が売れるのかいささか不安な双子だが、見通す悪魔バニルは確実に売れると判断している。
「では双子共、商談といこうか。取り決めでは、売れた利益の一割が支払われることになっているが・・・どうだ、これらの知的財産権を作り上げた小僧よ。この知的財産権自体を売る気はないか?これら全てをひっくるめ、3億エリスで買ってやろう」
「「「「「3億!!!???」」」」」
まさかの3億という大金で買うと聞き、カズマ、双子だけでなくアクアやダクネスも驚愕の顔つきになる。
「そ、それって・・・贅沢さえしなければ、働かなくても生きていける額じゃあ・・・」
「我々としては月々の利益還元の方でも構わんぞ?販売ルートさえ確保できれば、毎月100万エリスはくだらない」
「「「「「月100万!!!???」」」」」
まさかの売り上げ予想額にカズマたちはさらに驚く。驚きの連発だが、それだけの大金が入るとなると、ウェーブ盗賊団として、1つだけ懸念材料がある。実は双子はバニルと契約をする際、ちゃんとしたルートで販売することと言うのも追加で頼んでいる。悪魔が契約を破るとは思えないが、一応念のために確認をする。
「あのさ・・・それって不正のルートで売ったりとかはしないの?」
「そういえば貴様らは義賊であったな。ならば安心するがよい。これも契約の一部だ。ちゃんと正規のルートで販売する」
「そう・・・悪魔はそういうのはうるさいし、信じてあげるわ」
バニルの言葉によって、とりあえずは不安材料は消えた。で、残るはこのまま知的財産権を買い取るか、それとも月々の利益にするかの2択の問題である。
「カズマ、先に言っておくけど、この商談を持ってきたのは私たちよ。余計な口出しはしないでちょうだい」
「はいはい、わかったわかった。その代わり、分け前はちゃんともらう約束、忘れんなよ」
「わかってるって。カズマは疑り深いなぁ、もう」
それでも双子は商談自体が初めてだし、わからないことがあるならゲームで培ってきた商談技術でアドバイスくらいはしてやろうとカズマが思った矢先・・・
「私としては今後売り続けられるとも限らないと思うんで、3億もらう方がいいわね、ええそうすべきだわ」
「お姉ちゃん何言ってるの?ここは貯金の目減りを気にしないためにも月々100万の方がいいって」
「はあ?売れる保証がどこにあんのよ?こんな使用用途がわからないもんで。今貰えるなら貰った方がいいに決まっているでしょ」
「バニルが確実に売れるって言ってなかったっけ?こいつは性格は腐りきってるけど、一応は見通す悪魔。絶対の保証付きだよ」
「いや3億よ」
「いや月々100万」
「ああ、もう!!なんでお前らはそうやって意見が合わないとすぐ喧嘩するんだよ!!」
意見が食い違ってしまい、いつもの喧嘩が始まってしまう。気持ちはわからなくもないと思いながらも喧嘩を止めようとするカズマだが、ふと疑問に思ったことを口にする。
「なあバニル、街中をその姿でウロウロして大丈夫なのか?一応は魔王軍の幹部だったわけだし、襲われたりは・・・」
カズマの疑問は尤もだ。仮面にはⅡという文字がついているが、今のバニルの肉体は初めて会った時と同じだ。今では二代目だが、なんちゃって幹部だが一応は元魔王軍。その見た目で襲われたりなんてこともありうるかもしれない。カズマの疑問にバニルは首を傾げる。
「何を言っておるのだ?我が仮面は以前と違うのは説明したろう。この額に輝くⅡの字が見えぬか?」
「それがどうしたよ」
意味がわからんといった様子のカズマにダクネスがバニルの現状について説明する。
「カズマ、あの悪魔は性格は破綻しているが、人を殺害したりということは本当にしないようなのだ。魔王城の結界の維持もしていないみたいだし、冒険者ギルドの上の方で要観察ということになったらしい。いざとなればウィズが止めてくれるだろうと」
「なるほど。それになら安心か」
ひとまずは要観察として冒険者に襲われることはまずないだろうと安心するカズマ。
「3億」
「月々100万」
「お前らはいつまで喧嘩してるんだ!!もういい加減やめろ!!」
「「うるさい!!」」
ドゴォ!!
「ぐほぉ!!?これもずいぶん久しぶりだ・・・」
「ああ!カズマばかりずるいぞ!私にも殴れ!!」
未だに喧嘩をする双子を止めようとしたが、逆に腹パンをされて仲裁に失敗したカズマ。ダクネスは殴られたカズマを見て、ドMとして羨ましがってる。
「商品販売までにはまだ時間がかかる。支払方法はその時に決めるもよいぞ。まあいがみ合いながらゆっくりと考えるがよい」
「いや、いがみ合っちゃダメだろ」
「では、吾輩は店が心配なので帰るとしよう」
「それがいいと思うわ。私の神聖な家に悪臭が染みついちゃうもの。出てって!!ほら早く出てって!!!」
アクアの態度に歯ぎしりをしながらバニルは忌々し気に屋敷から出ていき、ウィズの店へと戻っていく。大金が入り込んでくると考えると、カズマのめぐみんへの怒りはもうどこへやらといった感じになって、ニコニコと笑っている。
ー3億か月々100万、かぁ・・・ー
「・・・それからずっと、こんな調子でな・・・」
「お湯だね、お湯」
「あらー、私ったらー・・・おほほほほ」
未だに似非セレブごっこをやっているカズマとアクアを見て、すっかり呆れているダクネスと双子。3人の説明によって事の状況が理解できためぐみん。
「似非セレブな理由がわかりました・・・。まぁでも、お金があるのは素晴らしいです。さて、そろそろ討伐にでも行きますか」
めぐみんが討伐クエストに出かけようと提案した時、カズマはにこにこしながら反対をしている。
「え?嫌だよ。何言ってんの?大金が入ってくるっていうのに、なんでわざわざ働かなくちゃいけないんだよ?」
「は?」
「だいたい、装備整えて作戦だって立てたっていうのに、俺また死んだんだぞ?決めた。俺はこれから商売で食っていく。冒険者稼業なんて危険なことはしないで、ぬるい人生を送って行くよー」
カズマの冒険者をやめるみたいな発言にさすがのアクアもにこやかながらも異を唱える。
「ねぇカズマさん。それはさすがに困るんですけどー。魔王を倒してくれないと、いろいろ困るんですけどー」
「なら、もっと大金を得て凄腕の冒険者をたくさん雇おう!!そして、そいつらに魔王討伐を手伝ってもらえばいい!!冒険者の大群を率いて魔王の城を攻略するんだ!!どうだ?現実味が出てきたんじゃないか?」
「それだわ!さっすがカズマさん!冒険者たちのほっぺをお札で叩いてこき使い、魔王を弱らせたところで最後のとどめは持って行くわけね!」
「そういうことだ。伊達に長い付き合いじゃないなー」
「「あはははははは!」」
ところがカズマの出した案に大いに賛同し、カズマと共に笑いあうアクアであった。だがカズマの案が気に入らないめぐみんはカズマに異を唱える。
「お金の力で魔王を倒すとか、そんなものは認めません・・・認めませんよ!!魔王を何だと思っているのですか!!魔王っていう存在は、秘められた力に目覚めたりなんかして、最終決戦の末に倒すのです!!それが何ですか!!?凄腕冒険者を雇って倒すだとか!!」
「そうだよカズマ、そんなお金なんか頼らなくても、私たちがいるじゃん。私たちがいれば、魔王の結界を破った後に、すぐさま魔王の寝込みを襲って暗殺できるんだよ」
「いやいや、それじゃあ瞬殺して苦しむ姿を見ることができないじゃない。まずは寝てる所を逃げられないように手や足をめった刺しにして、その後に何度も何度も切り刻み、苦痛に歪んだ後にとどめを・・・」
「あー、それいいね。苦しめられたみんなのお返しってやつでしょ?」
「そういうことよ」
「なんですかそのむごすぎる戦法は!!?ダメですダメです!!認めませんよ!!だいたいその戦法は魔王軍よりじゃないですか!!そんなんで盗賊団が認められるわけないじゃないですか!!」
双子も異を唱えたことでめぐみんは頬を一瞬緩めたが、あまりにも残虐かつ卑劣な案を出されて一瞬でも期待した自分が馬鹿だったと言わんばかりに頭を抱える。
「あー、もう!!この2人は全く使えません!!ダクネスから何か言ってやってください!!この2人は日に日にダメ人間に・・・て、あれ?ダクネス?」
ダクネスにも何か言ってもらおうと視線を向けるが、当のダクネスはこたつに入って何か思案している。
「あ、い、いや・・・日に日にダメ人間になっていくカズマを見ていくうちに・・・将来、どんなクズ人間になるのだろうかと・・・」
もうダクネスもダメな方向に思考が回っており、全く使いものにならない。
「あーもう!!どうしたら・・・」
「おい、あの残虐姉妹とそこの変態と一緒にするな。というか、俺は首がぽっきりいって死んだばかりなんだぞ?せめてこの古傷が癒えるまでは安静にさせてくれ」
カズマの放った癒しという言葉に反応して、何かを閃いた。
「わかりました。カズマの傷を癒しに行きましょう」
「いや、別にごろごろ昼寝でもしていれば自然と治るから・・」
「湯治に行きましょう!水と温泉の都、アルカンレティアに!」
「俺のことは気にせず・・・今温泉といったか?」
「ねぇ、アルカンレティアって言った⁉水と温泉の都アルカンレティアに行くって言った⁉」
温泉という単語に嫌というほどの興味反応を示しているカズマ。だがそれ以上にアルカンレティアという街に反応したのはアクアであった。
「お、温泉かー。俺たちも強敵との連戦で、疲れてることだし、たまには贅沢して温泉に行くのも悪くないなー(棒読み)」
「カズマさんったら、どうしてそんなに棒読みなのかしら?」
アクアに茶化されて、恥ずかし気に顔を赤くするカズマだったが、とりあえずは行くことには賛成のようだ。アクアは当然ながら賛成。
「温泉か・・・。いいね、行こうよ!温泉には美容効果が期待できるってあったもの!」
「美容効果・・・また私のこの美しい美貌が高まるのね」
「美貌って・・・お姉ちゃん、自意識過剰w」
「あ?何笑ってんのよクソ妹」
双子も温泉の美容効果の方に目を付けて、アルカンレティアに行くことは賛成のようだ。
「・・・あ、でもアルカンレティアってお頭がヤバイ街だって言ってなかったっけ?」
「そういえばそんなこと言ったような言ってなかったような・・・」
「みんな名前以外の情報も極力避けてたのも気になるし・・・」
「・・・まぁ、行ってみればわかることよ。案外大したことないかもしれないわ」
「まぁ、それもそうか」
前にネクサスが話してたアルカンレティアはヤバイという話を思い出し、ひそひそと話す双子だったが、行けばわかると判断していくことを決めた。これがアルカンレティアに着いた時、後悔することになるとは知らずに。
「ではダクネスは・・・」
「そしてとうとう堕ちるところまで堕ちた私はこう言うのだ!お願いですから見捨てないでくださいご主人様あああああああ!!」
ダクネスは未だに妄想で喜び悶えている。
「・・・こいつは留守番でもいいんじゃないかしら?」
「いやいや・・・ダクネスがいないと道中不安になるし・・・連れてった方がいいんじゃないかな?」
「道中?」
道中が不安という単語に若干気になったカズマだったが、ひとまずはダクネスも連れていくということで、全員がアルカンレティアに行くと決定したのであった。
ーこ!のすば!!ー
翌日のアルカンレティア旅行の出発日、双子はすでに楽しみに外で待っていたカズマとアクアに寄りたいところに行ってくると言ってウィズの店までやってきた。
「ウィズー、いるかな?」
「もしくはクソ悪魔、いるかしら?」
店に入る双子を出迎えたのはやはりバニルであった。
「へいらっしゃい!・・・おや、こんな朝早くからどうした?」
「これからちょっと温泉旅行に行くんだよ。それで、例の商売なんだけど、帰ってくるまで待っててくれないかな?」
「なんだそんなことか。未だ生産ラインは調っておらぬのでな。何ら問題はない。ゆっくりと羽を伸ばしてくるがよい」
「ええ、そうさせてもらうわ。・・・それより、さっきから気になっているのだけど、あんたのその後ろにあるガラクタの箱は何よ?それになんでウィズはそこで焦げてるのよ?」
アカメの言うとおり、バニルの後ろには何かしらの魔道具が大量にあり、その傍では店主であるウィズが焼かれたように焦げ焦げの状態になっていた。
「・・・はぁ・・・」
ウィズの状態を問われたバニルはため息をこぼした。
ー回想ー
『なん・・・だと・・・』
『これはとても素晴らしいものですよ。売れます!これは絶対に売れるんです!』
『・・・・・・』
『だから、バニルさん?殺人光線の構えでじりじりとにじり寄って来ないでください!』
『バニル式殺人光線!!!!』
『あああああああああああああ!!!!!』
ー回想終了ー
「・・・というわけなので、こんなガラクタは返品しようと箱詰めをしているのだが・・・買うか?」
事の経緯を説明しながらバニルは1つの魔道具を双子に見せた。
「何それ?なんの魔道具なの?」
「旅のトイレ事情が解決することができる簡易トイレである。用を足す際にプライバシーを守るため音まで出る水洗式仕様だ」
「ふーん。で、欠点は?」
「欠点は消音用の音がでかすぎてモンスターを呼び寄せることと水を生成する機構が強力すぎて周囲が大惨事になることだ」
「だと思ったわ。それでよく売れると思ったわね、このポンコツは」
「このお店にはちゃんとした魔道具は存在しないの?」
魔道具の説明を聞いて、カズマたちの中で1番付き合いが長い双子でもウィズが仕入れる魔道具のバリエーションにはほとほとまいっている様子だ。
「汝らも知っての通り、当店のポンコツ店主は使えないものを仕入れてくることに関しては類まれなる才能を持っておってな、吾輩がちょっと目を離すとよくわからぬものを勝手に仕入れて・・・」
「居候中でもそんなことあったわね」
「処分するための作業が大変だったね」
居候していた時のことを思い出し、双子はかなり苦い顔つきになっている。
「・・・そういえば双子共、貴様ら温泉に行くと言ったな?」
「そうだけど・・・どうしたの?」
「このポンコツ店主を持って行ってはくれまいか?あの小僧が作った商品を量産するために近々まとまった金がいるのだが、これが店にいるとまたガラクタを仕入れて散財してしまうのだ。この店主はリッチーの力だけは強くてな。吾輩と拮抗する相手は未来が見ることができぬのだ」
「要はお守りをしてくれってことかしら?」
「うむ」
バニルから金が散財しないようにウィズも温泉に連れていってほしいと頼まれた双子はお互いに顔を見合わせる。
「ま、別にいいわよ。1人増えようがそんな変わらないし」
「私もいいよ。その代わり、商談がまとまったら支払いに追加料金も足して・・・とか・・・」
「ふむ・・・まぁよいだろう。しばらくそのポンコツ店主さえ店から遠ざければ、金の用意はいくらでもできる。せいぜいどれほどの追加料金が出るか期待しているがよい」
「これは否応にもやる気が出るね、お姉ちゃん」
「ええそうね。これでまた金が増えるわね」
商談の際に追加料金を掛け合ってみると、意外にもバニルはそれを承諾してくれた。それによって双子は若干ににやけており、ウィズのお守りにやる気が出てきたのであった。
ーこのすば!ー
馬車の待合上では、旅行に行こうとしたり、クエストに行くために馬車に乗ろうとしている人々が集まっており、その予約のために並んでいる者が多かった。カズマたちは弁当を買いながら双子が来るのを待っている。どれにしようかと悩んでると、ようやく双子が待合上に到着した。
「2人とも遅い!!寄り道っていったいいつまでかかってるのよ!!」
「ん?アカメが背負ってるのってウィズじゃないか?」
カズマはアカメがウィズを背負っているのに気づいた。双子はバニルとの話をカズマたちに伝える。
「ウィズのお守りか・・・俺は別にいいけど・・・アンデッド嫌いのアクアはなんて言うか・・・」
「・・・まぁ、私も別にいいけど」
アルカンレティアに行くためよほど機嫌がいいのかウィズも連れていくことに意外に寛容的である。
「でもその子、なんだか薄くなってるんですけど」
「うわっ!!?本当だ!!だんだんと薄くなっていってる!!」
「うおおおおお!!??お、おいこれ大丈夫なのかよ!!?回復魔法は・・・」
「回復魔法はアンデッドには逆効果でしょ」
「はっ!!そうだった!!それならドレインタッチで・・・でも誰に・・・」
徐々に体が薄れていき、今にも浄化しそうな勢いのウィズに慌ててるカズマは誰にドレインタッチで体力を分け与えるか悩んでいると、馬車を見てうっとりしているダクネスに目を付ける。
「旅か・・・子供の頃お父様に王都へとずあああああああああああああ!!!???」
カズマはすぐさまダクネスの首根っこを掴み、ドレインたちで魔力を吸収し、ウィズに分け与える。それによって、ウィズはだんだん元通りになり、すぐに目が覚ました。
「・・・あ、あら?カズマさんじゃないですか」
ウィズがカズマに気付いた時には、カズマはダクネスに首を絞められてる最中であった。
「お、お前という奴は!!せっかく昔の記憶に想い馳せていたのに・・・!!」
「ぐえええええ!!き、緊急事態だ!!この中で1番生命力に溢れてるのはお前なんだからしょうがないだろ!!」
ダクネスとカズマが揉め合っている間にアクアたちはどの馬車に乗るかを悩んでいる。馬車を選んでいると、よさそうなものを発見する。
「ねぇ、カズマー!この馬車にしましょうよ!私の目利きによれば、1番乗り心地がよさそうよ!ちなみに私は窓際ね!景色が1番いい席を予約するわ!ほらカズマ、切符買ってきて!他のお客に馬車取られないように切符買ってきて!」
「席なんてどれでもいいでしょ。どうせどれも一緒よ。決まったならさっさと乗・・・げっ・・・」
アクアがカズマに切符を買うように急かすと、アカメが真っ先に選んだ馬車の御者台に乗ろうとする・・・が、そこで止まった。席の方を見てみると、そこには籠に入った小さな赤い竜と同じく籠に入った小さな青い竜がいた。小動物嫌いのアカメからすれば、まさに地獄のような馬車である。
「あのー、おじさん。これどう見てもレッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんですよね?うちのお姉ちゃん、小動物嫌いなんでこれどけてもらっていいですか?」
「お客さん、それは困りますよ。飼い主さんは別の馬車にいますが、その2体のドラゴン分の値段はちゃんといただいてますから。お客さんはどなたかお2人、座り心地は悪いですが、後ろに荷台に移っていただかないと・・・」
「だって。どうするの?」
「ぐぐぐ・・・」
レッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんをどけてもらうように運転手に頼んだが、すでにお代をもらっているので今さら変更はできないとのことだ。アカメは荷台に乗るのもベビードラゴンズと一緒なのも嫌なアカメはどうするか悩んでいると、馬車の御者台の屋根に目を付ける。
「ねえ、この御者台の屋根でもオッケーかしら?私、そこでいいわ」
「えっ!!?いや・・・まぁ・・・お客さんがそれでいいのならいいですけど・・・」
「決まりね」
まさか御者台の屋根の上に乗るとは思わなかった運転手が驚いている間にもアカメは御者台の屋根にすぐに乗り込む。
「どういうことだ?」
「アカメは小動物が大の苦手なのですよ。ティアの話だと、近づけたら小動物がとんでもない目に合わされるらしいのですよ」
「ティア!そのとんでもないことについて詳しく!!!」
「嫌だよおぞましい。ていうか、お姉ちゃんがちょむすけ避けてるのを見て何となく察しがつくでしょ?なんで気づいてないの?」
アカメが小動物嫌いだと初めて知ったダクネスはとんでもない目について興味津々でティアに尋ねたが、当然ながら却下される。
「なんにしても、アカメはあれでいいとして、問題は誰が荷台に移るかだ」
アカメの問題は解決したとして、後1人誰が荷台に移るかという本題に戻るカズマ。
「じゃんけんで!こういう時は公平でじゃんけんで決めた方がいいと思うの!!」
アクアは公平にじゃんけんで決めるべきだと主張している。
「あの・・・それでしたら私が荷台に・・・」
「いやウィズ、アクアの言うとおり、ここは公平にいこう。いいぞ、アクア。じゃんけんだな」
ティアの説明を受けて事情を理解できたウィズが荷台に行こうと言い出すが、なぜか自信たっぷりのカズマが公平にということでアクアのじゃんけんの案を採用した。
「それじゃあ行くわよ!!じゃーんけーんぽん!!」
6人でじゃんけんした結果、カズマの出したグーによって、残り全員がチョキなのでカズマの1人勝ちとなった。
「一抜けだな」
「待って!!誰が勝ち抜き戦だなんて言ったのよ?6人でじゃんけんして1人の敗者を決めるまで続けるルールよ!」
「舐めてんの?」
結果に不服があるのかアクアが後付けのルールを言い出した。それによってティアは明らかに嫌悪感丸出しの顔つきになるが、カズマはいたって冷静だ。
「そういうなら俺と勝負するか?5回じゃんけんしてお前が1度でも俺に勝ったら、俺が荷台に座ってやるよ」
カズマの出した案にこの場の全員唖然となる。それはアクアも同じだが、後に余裕そうな顔つきになる。
「マジですか。ねぇ、確率の計算って知ってる?カズマが5回連続で勝つなんて無茶ぶりなんですけどー!」
アクアがカズマを小ばかにするような発言でもカズマはいたって冷静な様子でじゃんけんの用意をする。
「・・・俺、じゃんけんで負けたことねーから」
・・・じゃんけん5回勝負の結果はというと・・・
「おかしいわおかしいわよ!!ズルしたわね!!お願いもう1回!!もう1回だけ!!これで負けたら荷台に座るから!!」
カズマの5回連続の勝利によってアクアは敗北。納得がいってないのか半泣き状態で再戦を申し込んでいる。
「本当だな?これが正真正銘、最後のチャンスだからな?」
カズマはうんざりしたような顔つきでアクアの再戦を受けた。それによってアクアは途端に元気になる。
「受けたわね!受けたわねカズマ!あんたがどんなズルをしたのか知らないけれど、そっちがその気ならこっちにだって考えがあるわよ!!ブレッシング!」
アクアは運向上の魔法、ブレッシングを自分自身にかけて自分の運をあげた。
「あっ!!こいつ汚ねぇ!!魔法で運をあげやがった!!」
「運も実力のうちっていうんだし、魔法の実力も運のうちよね!さあ行くわよ!!じゃーんけーんぽん!!」
再戦でアクアが出したのはパー、カズマが出したのはチョキでまたもカズマの勝利で終わった。敗北したアクアはまたも泣き喚く。
「なぁんでよーーーーーーー!!!???」
「俺、ガキの頃からじゃんけんで負けたことないんだよなー」
「卑怯者!!何それずるい!!そんなのチートよ!!チート能力じゃない!!あんた生まれながらの特殊能力持ちだったの!!?なら私という素晴らしい恩恵を授かったことは無効よ無効!!帰してよ!!私を天界に帰してよこのクソチート!!」
アクアの放った言葉にいい加減我慢の限界が来たのかカズマがキレる。
「てめぇこのクソビッチが!!!!俺の特殊能力がじゃーんけんで勝てる能力だってか!!?お前はバカか!!?こんなもんでどうやってモンスターと渡り合えってんだ!!!」
「だってだって!!!」
「俺が1番腹が立ったところはお前が自分のことを授かった恩恵だとか言い張ってることだよ!!!お前ふざけんなよ!!!何が恩恵だ!!!お前を返品して特殊能力をもらえるもんなら、とっとと返品してやるところだあ!!!!!」
「わああああああああああ!!!カズマが言っちゃいけないこと言った!!ひゃめて!!頬をひっはらないれ!!!」
いがみ合いはあったものの、結局はアクアが荷台に乗ることに決まった。
ーこのすばぁ(泣き)ー
「アルカンレティア行き、発車します」
カズマたち及び他の冒険者たちを乗せた複数の馬車はアルカンレティアへ向かって出発する。馬車は待合上を離れ、街の出口に向かって馬車はゆったりと進む。中には旅の者たちを見送る者が何人かいる。カズマたち側にも見送る人間はいた。ミミィたちウェーブ盗賊団アクセル支部の団員、モンスターショップの店主マホ、そしてカズマをやけに評価している荒くれ者がそうだ。街の人間に見守られながら、馬車は街を出て、そのままアルカンレティアへと向かっていく。
街の外はどこに行っても綺麗な景色ばかりであった。特にダクネスのような貴族のお嬢様にとっては目新しいものばかりで、目を輝かせていた。馬車が揺れ動く中、ウィズはちょむすけを撫でてかわいがったり、めぐみんとティアはレッドドラゴンとブルードラゴンの赤ちゃんにやたら強い興味を持っていて、籠越しでじゃれ合っている。アカメは御者台の屋根の上で本当に気持ちよさそうに昼寝をしている。外の景色、仲間たちの普段見られない光景を見て、カズマはこういうのも悪くないと思った。
「ちょっとカズマさーん。お尻超痛いんですけどー。そろそろ誰か変わってほしいんですけどー」
「休憩になったら場所変わってやるから、それまでは我慢しろよー」
「そんな~~・・・」
アクアは不服そうに文句を言っている。次の休憩にはカズマが変わると言ってもすぐに変われないから落胆するアクア。揺れ動く馬車は荒野へと突入し、進路は順調のように思えた。
「・・・ん?なんだあれ?」
カズマが荒野の景色を見ていると、荒野の景色にふと違和感に気付いた。気になったカズマは千里眼スキルで遠くを見つめる。ずっと奥には何やら土煙が立っており、それが馬車に近づいてきている。
「すんません、なんかこっちに土煙が向かってきてるんですが・・・あれ何かわかりません?」
「ん?さてね、あっしにはわかりませんが、ここらで土煙立てるっつったら、リザードランナーの群れですかね?ですがこの前、姫様ランナーが倒されたって話ですから、きっと砂クジラが砂を吹き荒れてるんじゃないですかね?後は走り鷹鳶くらいですかね?」
「走り高飛び?」
「おっとお客さん、ダジャレじゃないですよ?鷹と鳶の異種間交配の末に生まれた鳥類種のモンスターです。こいつが危険なモンスターでしてね、繁殖期にメスの気を引くため、オス同士で勇敢さを競うチキンレースっつう求愛行動をとるんですよ。固い獲物にかっ飛んでいき、ギリギリで回避躱すって奴でね。まぁでも、その辺の岩にでも突っ込んでくんで大丈夫ですよ」
「なら安心だ!」
運転手の説明でカズマは大丈夫だと思い、笑う・・・が、進むたびに土煙が馬車に近づいてきているのに気が付いて、若干不安になる。
「やっぱり、すごい勢いで向かってきているんですけど・・・」
「ん?・・・あー、ありゃ走り鷹鳶ですね。でも、向かってくるにしてもおかしな話ですよ。もしかしたらキャラバンの中に、アダマンタイトみたいな凄まじく固い鉱石を積んでる馬車があるかもしれませんなぁ。ははは」
「・・・アダマンタイトみたいな凄まじい硬度・・・?」
アダマンタイトのような固い鉱石というものに嫌に反応して、カズマは冷や汗をかいている。それもそのはず、心当たりがものすごくあったからだ。
「・・・ん?なんかこっちに・・・というかこの馬車に・・・」
「カズマカズマ!なんかものすごく速い生き物が真っすぐこちらに向かってきている!!というか連中がこちらを凝視しているように見えるぞ!!なんという熱視線!!」
「ん?・・・ああ、あれ走り鷹鳶だね。アヌビスじゃ珍しくもなんともないモンスターだよ。この時期って確か繁殖期だったから、ダクネスみたいな固いものに突撃して・・・」
「やっぱりお前かーーーーーーー!!!!!」
嫌な予感的中。走り鷹鳶が馬車に向かってきている原因はダクネスの固さだったようだ。
「お客さん、馬車留めますよ!!荒野の冒険者たちが馬車とお客様を守ってくれますから!!」
この走り鷹鳶が向かってきている原因が自分の仲間のせいであると気づいたカズマは心の中でダクネスが固くてすみませんと謝罪する。
「おいダクネス!!あいつらの狙いはお前だ!!ティアが言ったように、あいつら固いものを好んで突撃するんだぞ!連中の狙いはお前の固い筋肉だ!!」
「おいカズマ、私だってこれでも乙女の端くれ、固い筋肉などと言ってくれるな。あれだ、私の鎧はアダマンタイトも含んだ特注品だ。きっとそれでこちらに来ているのだろう」
「・・・走り鷹鳶は、少量くらいじゃ突撃しないんだけど・・・」
「!!!???」
「・・・・・・」じー
カズマの発言にダクネスは冷静に返すが、ティアが突きつけた現実に激しくショックを受ける。ティアの訂正でカズマはダクネスをじーっと見る。
「な、なんだその目は!!?私の言った事が真実だ!!真に受けるな!!私の体はそこまで固くない!!!」
ダクネスの涙目の必死な訴えを無視し、カズマはダクネスを無理に引っ張り上げて馬車から降りる。
「みんな、出番だぞ!!本来俺たちは戦わなくていいが、今回は俺たちが招いた敵みたいだ!自分たちの尻拭いは自分でやるぞ!」
カズマの呼びかけでめぐみんたちも馬車から降り、アカメも昼寝から目を覚ます。
「私もお手伝います!」
「ウィズは馬車の中で御者台のおっちゃんを守ってやってくれ!」
「はい!」
「お客さん!!お客さんは金払ってるんですから、安全なところに!!」
(すいません、原因はうちの仲間なんです・・・)
運転手に呼び止められるも、カズマは原因を作ったことに心から謝罪しながら戦線に出る。
「冒険者の先生方、お願いします!!」
荒野を拠点としている冒険者たちは戦線に出て、鷹と鳶が合わさったダチョウのような姿をしたモンスター、走り鷹鳶の群れを迎え撃つ。
「俺とアカメ、ダクネスが前に出る!ティアは全体の援護、めぐみんは爆裂魔法の準備を!」
「わかった!」
「承知しました!」
カズマがメンバーに指示を出している間に、ダクネスが真っ先に前線に立ち、走り鷹鳶を迎え撃つ。
「!そこのクルセイダー!あんた護衛とは関係ないんだから下がってろよ!」
「おい!あのクルセイダーめがけてモンスターが真っすぐ向かっているぞ!」
「あれはデコイだ!クルセイダーはデコイという囮になるスキルを使う!」
「あのクルセイダー!護衛でもないのに敵を引き付けてるんだ!!」
(すいません、そんなスキル使ってません)
ダクネスがデコイを使っていると勘違いしている冒険者をよそに、カズマは冒険者たちに心の中で謝罪する。
「あれだけの数の敵を前にして、一歩も引かない気よ!!なんて勇敢なの!!?」
(すいません、多分全然違う理由だと思います)
「ただの客で護衛料ももらっていない冒険者を危険な目に合わせられるか!!援護は任せろ!!バインド!!」
ダクネスに危険な目を合わせられないようにするためか、盗賊系の冒険者は走り鷹鳶にバインドを放った。
「はああ!!!」
が、何を思ったのかダクネスはそのバインドを自分から向かって、そのバインドを自分で食らって拘束される。
「まさか・・・俺のバインドを食らわせることにより、モンスターの群れが俺をターゲットにするのを案じて、身代わりになったのか!!?すまねぇ!!援護のつもりが、却って邪魔しちまった!!許してくれ!!許してくれええええええ!!!」
「・・・すいまっせん!!!!!うちの仲間がすいません!!!!!!本当に、うちの変態がすいまっせんんんんん!!!!!!!」
ダクネスの奇行ぶりにさすがの我慢の限界が来たカズマは涙目で冒険者たちに土下座で謝罪をした。当のダクネスは縛られて、向かってくる走り鷹鳶を見て興奮するのであった。
親愛なるふにふらさん、どどんこさん、お返事ありがとうございます。私は元気です。
先の手紙に書いた仲間たちですが、実在します。本当です。
なので、コミュ障に友達作りは無理、本当のことを言え、等の言いがかりはやめてほしいです。心に深く刺さります。
ゆんゆん
ゆんゆんの現状・・・
今日も今日とてぼっちのゆんゆん。常に1人でおり、めぐみんにも例外の時以外ではあまり構ってもらえないがために・・・
ゆんゆん「た、たのもー!!さあ、今日こそ決着をつけるわよめぐみん!覚悟なさい!!」
・・・しーん・・・
ゆんゆん「??も、もしもーし?」
わざわざ屋敷に来たのに、カズマたちが旅行に行っているということにも全く気付いていない・・・というか、ゆんゆんにだけ旅行に行くという知らせが届いていなかったのだった。
次回、この痛々しい街で観光を!