このすば!この微笑ましい双子に幸運を   作:先導

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この弱小冒険者に救いの手を!

砂漠都市アヌビスの記念祭の手伝いのためにアヌビスを目指すカズマたち。そんな彼らは現在・・・

 

「うううぅぅぅ・・・暑いよぅ・・・暑いよぅ・・・」

 

「言うな・・・余計暑くなる・・・」

 

「はあ・・・はあ・・・暑さで熱した鎧が体にじりじりと・・・///これは・・・これでいいな・・・///」

 

砂漠の炎天下にさらされながら・・・歩きでアヌビスに向かっていくのであった。ただでさえ暑さで体力も気力も限界なのにさらに歩かされてカズマたちには余裕がひとかけらも感じられない。それとは対照的に双子はまだまだ元気である。アカメにいたってはめぐみんを背負った状態でも余裕そうだ。余裕そうだがかなりイラついた様子である。

 

「たく・・・あんたが爆裂魔法さえ撃たなければこんなことにはならなかったのに・・・クソが・・・」

 

「何を言うのです。あの場で爆裂魔法を放たずしてどこで放てと言うのですか?」

 

「うっさい黙ってて。さもないとその口を空気が吸えないくらいにまでロープで巻き付けてやる」

 

「うっ・・・そこまで怒りますか・・・あ、降ろそうとしないでください。ごめんなさい、謝りますから置いていこうとしないでください」

 

双子の怒りの矛先はめぐみんに向けられている。腹黒ではあるが、普段温厚のティアでさえこの有様である。そもそもなぜカズマたちが歩いてアヌビスに向かっているのかは、やはり砂魚に向けての爆裂魔法が原因である。

 

 

ーこのすば・・・ー

 

 

時はほんの数十分前、砂漠の休憩所に現れた砂魚の襲撃で漁師と冒険者たちが漁を勤しんでいた時、めぐみんが唐突に爆裂魔法発動後。爆発が収まった頃には、休憩所の前に巨大なクレーターが出来上がっており、砂魚たちは爆裂魔法によってバラバラに打ち上げられ、焦げ焦げの状態になったり、砂に潜れず、びちびちとはねている。その状況下の中、カズマたちは爆裂魔法の反動で少しだけ吹っ飛ばされ、地面に倒れている。その中でダクネスは未だに砂マグロに食われており、アクアは上半身が砂に埋もれている。

 

「・・・カズマ・・・今日の爆裂は何点ですか・・・?あ・・・地面熱いです・・・」

 

呑気に倒れているめぐみんはカズマに今日の爆裂は何点か尋ねてる。

 

「・・・0点」

 

「はあ!!?どこから見積もっても100点ですよ!!」

 

「どこから見積もっても0点なんだよ!!俺、あれほどダメだっつったよな!!?見てみろ周りを!!大惨事だよ!!」

 

周りを見回してみると、集まっている冒険者たちは丸焼けになった砂魚やこれから来るであろう砂魚たちが逃げて行ったのを見て涙を流しているのが多数いた。

 

『お、おおおお・・・俺の・・・俺たちの金儲けがぁ~・・・』

 

「/(^o^)\ナンテコッタイ」

 

「ううううう・・・おい!!!そこのお前!!!!」

 

「は、はいいいいい!!!」

 

すると冒険者の1人がカズマに怒鳴りながら近づいてきた。見た目的にも屈強そうな大男、それも強そうな装備をした大男の怒鳴り声にビクッとなった。大男の怒鳴り声で周りの冒険者もカズマに詰め寄ってきた。

 

「今の爆裂魔法だったよなぁ?まさかそいつがやったのか?何てことしやがる!!!」

 

「第3波まであったのに、今の爆裂魔法で逃げちまったじゃねぇかよ!!!」

 

「第2波と第3波の砂魚を捕まえられる罠ができたのに・・・台無しじゃない!!!」

 

「そうだ!!それがあればなんとかなるのに・・・おかげで大赤字だ!!!ふざけんな!!!」

 

「すいませんすいませんすいません!!!うちのバカがほんっとーーーーにすいません!!!!」

 

怒り爆発の冒険者たちに囲まれてカズマは必死の土下座で謝罪する。熱いのどうのとはお構いなしに。めぐみんは巻き込まれんようにずっと気絶してるふりをしている。

 

「謝って済むかバカ!!それだけじゃねぇんだよ!!見ろあれを!!!」

 

「さっきの爆裂魔法で吹っ飛んだでかい砂魚が馬車にぶつかって壊れちまったじゃねーか!!!」

 

「えっ!!!???」

 

冒険者たちの指摘に焦ったカズマは馬車の駐車場を見る。そこには確かに砂マグロよりも巨大な砂魚が何匹も壊れた馬車の残骸の上でびちびちと動いている。馬車の残骸の近くには運転手が何人も泣いていた。しかも、カズマたちが乗っていた馬車まで壊れてしまっていた。

 

「ああああああああああああ!!!???」

 

「これでわかったか!!そいつがやったことの重大さが!!」

 

「俺大事な荷物を馬車に預けたままなんだぞ!!ああ・・・上司に怒られる・・・」

 

「俺なんてこの砂漠で野宿するしかなくなったんだぞ!!」

 

(や、やばい!!予想以上の被害で言い逃れができない!!)

 

めぐみんがやってしまった事態が思っていた以上に被害が大きく、どうすればよいかと思い、仲間たちに視線を向ける。アクアは砂に深く埋もれていたのかじたばたしてるし、ダクネスはようやく砂マグロから脱出できたが、未だに悶えている。双子は・・・どこを探しても見当たらなかった。おそらくは潜伏スキルで逃げているのだろう。そしてめぐみんは今もなお気絶したふりを続けている。役立たず、そして責任逃れをしようとしている仲間たちにカズマは心の中で憤る。

 

(こ、こいつらぁ!!!)

 

「おい!!聞いてんのか!!」

 

「はい!!すいません!!!!」

 

「とにかくだ!!この一帯の修繕費、俺たちの詫び、そして馬車の修理代をお前らが払いやがれぇ!!!」

 

「う・・・うっそだろおおおおおおおおおおおおおお!!!????」

 

アヌビスへ行く道中でまさかの借金を背負わされる羽目になったカズマの絶望の叫びが砂漠に響き渡ったのであった。

 

 

ーこのすばあああああ!!(泣)ー

 

 

というわけで、思わぬ借金を背負ってしまったカズマは被害者たちから1人1人から弁償費用の書類を受け取り、後日配達で弁償金を払うことになったのだ。そして、カズマたちが乗る馬車が壊れてしまい、おかけに馬車移動の停止令が出されてしまい、アヌビスへの道のりは徒歩で行くしかなくなったのだ。そして現在、ある程度まで歩いて・・・というかアクアが熱さで駄々をこねてしまい、仕方なく現在地と近くにあるオアシスに寄り、休憩を行っている。

 

「はぁ・・・まさかハンスの討伐報酬が全部借金に充てる羽目になるなんて夢にも思わなかった・・・。しかも、それでも足りないと来た・・・」

 

「ねぇ!!また借金ができちゃったんですけど!!どうすんのよ!!私、もうバイトは嫌なの!!うえええええ!!」

 

またできてしまった借金にカズマは頭を抱え、アクアはもうバイトは嫌だからとカズマにえんえんと泣きついてきた。

 

「金を稼ぐどころか全てがパーとか笑えなさすぎ。それもこれも、全部爆裂クズのせいで」

 

「爆裂クズ!!?それは私のことですか!!?私をバカに・・・」

 

「ああ?」

 

「いえ、何でもないです、ごめんなさい」

 

アカメの言い分にめぐみんは物申そうとしたが怒りが頂点に達しかけているアカメのひと睨みですぐに静まった。

 

「ま、まぁまぁ・・・めぐみんにも悪気があったわけではないのだ。そろそろ機嫌を・・・」

 

「あんた、生臭いのよ。とっととオアシスで匂い落とせ、この【ピーーーーーーッ】の生ゴミメス豚」

 

「んなっ・・・あふぅ・・・///」

 

機嫌が悪いアカメをなだめようとしたダクネスだが、容赦のないアカメの罵声で興奮して、悶えながら静まった。

 

「お姉ちゃんが怒るのは無理ないよ。私でも怒ってるもの。あそこに被害が出ただけでなく、私たちの残りの借金を盗賊団で肩代わりにするんだもの。まったくこのへっぽこ紅魔族」

 

「何をぅ!!確かにやらかしたのは私ですが双子はあの場から逃げ出したじゃないですか!!」

 

「てかそうだ!!お前らここの地元民だろ⁉多少の顔は利いてるはずなのになんでなだめようとすらしなかったんだよ!!」

 

「無理無理。あいつらただの飲み仲間。名前も顔も知らないよ。それは相手も同じ。そいつらを説得してどうにかなると思う?」

 

「・・・・・・ま、まぁ、あの場は不可抗力です。私たちではどうにもならなかったんです」

 

(だからと言って責任逃れはおかしいだろ・・・)

 

あの場は結局どうにもならなかったとはいえ、責任を逃れようとしている仲間たちにカズマは頭を抱える。

 

「まぁ借金は記念祭終了後に何とかするとして・・・馬車移動が停止された今、歩きで行くしかないよ。ここからアヌビスだと、何回もの休憩をはさんで徒歩3日でつくよ。この砂漠地帯のモンスターは結構凶暴だから私たちについてくるようにしてね。敵感知でモンスターを回避するから」

 

「ま、でも遭遇しても大丈夫だ。あの走り鷹鳶の群れを何体か倒したおかげでレベルが1つ上がってスキルポイントが上がったんだ。それで逃走っていうスキルを手に入れたからいつでも逃げられるぞ」

 

「ねぇ、それってカズマにしか効果がないスキルなんじゃないの?そのスキルでいつでも1人で逃げられるって言ってるわけじゃないわよね?」

 

カズマの考えに妙に鋭いアクアは置いておいて、レベルが1しか上がらなかったことに対し、めぐみんが口を開く。

 

「先日あれだけの激戦を繰り広げたというのに、上がったのはたったの1ですか。私は先ほどのマグロも合わせて一気に33になりましたよ!」

 

「おい、カードを見せびらかして自慢すんな。破って投げ捨てるぞ」

 

「カズマの方がまだマシじゃん。私なんてレベル1個も上がらないんだから」

 

「攻撃手段がないからだろ」

 

上がったレベルの差で自慢をするめぐみんにカズマとティアはムッとなっている。

 

「何くだらない話してんのよ。もう休憩は終わり。さっさとアヌビスに行くわよ」

 

「え~~~・・・」

 

「え~、じゃないわよ。このオアシスでずーっと1人いるってのなら、止めないけどね」

 

「わー!!わかったわよ!!行くから!!こんな砂漠で1人にしないでよ!!」

 

休憩終わりと聞いて、アクアは嫌そうな顔をしたが、置いていかれることを危惧し、やけくそ気味に立ち上がった。

 

「むっ?待て。あの木の陰に誰かいるぞ」

 

オアシスから離れようとすると、数少ない木の陰に誰かを発見したダクネス。木の方に近づいて見てみると、そこには足首、腕、額に血の滲んだ包帯を巻いている少女がいた。

 

「女の子・・・ですね・・・」

 

「へぇ・・・こいつは珍しいわね・・・」

 

「ねぇ、この子怪我してるじゃない。ねぇあなた、大丈夫?」

 

「アクア、そいつは人の姿をしてるけど、モンスターの一種だよ」

 

「「「え?」」」

 

「本当だ。俺の敵感知スキルにも反応してる」

 

アクアが少女に駆け寄ろうとしたが、ティアが少女がモンスターだと聞いて、アクア、めぐみん、ダクネスは驚く。

 

「なんなんだこいつ?双子、こいつ知ってるか?」

 

「ええ、知ってるわよ。こいつは安楽少女っていって、植物が少ない砂漠ではかなり珍しい希少モンスターよ」

 

「ねぇ、この子もの凄く悲しそうな目でカズマを見てるわよ。私、この子にヒールをかけてあげたい気分なんですけど」

 

今にも目の前の人型モンスター、安楽少女にヒールをかけに向かいに行きそうなアクアをカズマが肩を掴んで止める。

 

「この子はね、物理的に危害を加えるわけじゃないんだけど・・・めちゃくちゃ狡猾でね。今みたいに泣きそうな顔したりしてるでしょ?これ、庇護欲を抱かせる行動でこれ以外にも近くにいたらひどく安心した笑顔を見せるし、離れると泣き顔になるから、一度情が移っちゃうと死ぬまで庇護欲に囚われちゃうんだよね。そうなった場合、跳ね除けるのはすごく難しいの」

 

「か、カズマ、あの子が泣きそうなのを必死に堪えるような笑顔で手を振っているのですが・・・ちょっと抱きしめてきていいでしょうか?」

 

「待て。危険な奴だって言ってるだろ」

 

今度はめぐみんまで庇護欲にやられかけており、安楽少女に駆け寄ろうとしている。それをカズマはもう片方の手で止める。

 

「そして、この子が1番危険なところは空腹に飢えてる人に自分の生えてる実をあげちゃうところなんだ。実自体はすごくおいしくて満腹感が得られるらしいんだけど、盗賊団の研究者の話によると実には栄養素がないからどれだけ多く食べても痩せ細くなっちゃって、最後には栄養不足で死んじゃうんだ」

 

「そ、それって・・・食うのをやめるって選択肢はないのか・・・?」

 

「極悪人か噓つき、良心がない奴でないと難しいわね。自分の実を分け与えてるって時点で良心の呵責から食事する気も失せてくるらしいのよ。研究者の話だと実には神経を壊す成分があるのか食べ続けると空腹や眠気、痛みとかの感覚がなくなるみたいよ。寄り添う少女と共に夢見心地で衰弱死する、ジジィ共ババァ共が安楽死を求めてこいつのいるところに向かうところから安楽少女と呼ばれてるみたいね。で、惨いのが死んだ奴の上に乗って根を張ってその養分を・・・」

 

「もうやめて!!それ以上聞きたくない!!俺のライフはとっくにゼロよ!!」

 

見た目に反して恐ろしい習性を持つ安楽少女にカズマは恐怖する。

 

「くっ・・・たとえモンスターといえど、怪我をしてる相手を放っておくわけには・・・だがしかし・・・」

 

「どうやら物理的な危害は加えてこないらしいぞ。保護欲で足止めして餓死させてそこに根を張るって言ってたけど」

 

カズマの言葉に安心した3人は安心して安楽少女の元へ駆けつけた。

 

「こいつら、餓死ってところ聞いてなかったのかしら?」

 

「あんまり深入りしないようにねー」

 

「今傷を治してあげるから・・・て、あれ?これって怪我じゃないわね。これ包帯じゃなくてそんな感じに見えるよう擬態してるんだわ」

 

傷を見ようとしたアクアが安楽少女の怪我は擬態してるというのに気が付いた。カズマがじっと安楽少女を見てみると、木の根が安楽少女に引っ付いているのに気が付いた。どうやらこの木も安楽少女の体の一部なのだろう。そして、木になってる小さな実こそが例の安楽少女の実なのだろう。

 

「・・・こいつ、違う意味で凶暴なモンスターじゃないのか?怪我で動けない少女を装うとかタチが悪いんだが」

 

「こいつが狡猾なのはこれでわかったでしょ?単なる演技・・・つまり嘘つきなのよこいつ」

 

「でもアクアたちはそれに気づいてないみたいだけど・・・」

 

カズマと双子たちが話している間にもアクア、めぐみん、ダクネスの3人は安楽少女をちやほやしている。しかも、安楽少女が手をさし伸ばした手をめぐみんが握ると安楽少女は嬉しそうな顔になり、3人には庇護欲が芽生えてしまう。

 

「・・・お前らは大丈夫なのか?」

 

「あー・・・うん、まぁ・・・お姉ちゃんがいるし・・・」

 

「嘘つきの私があんなのに騙されると思う?」

 

「・・・ちっとも思わん。それよりこいつ、一応人の命を奪う系のモンスターだろ?放っておいたらまずいような・・・」

 

安楽少女があれでも人の命を奪うモンスターであると覚えていたカズマは駆除しようかと思い、ちゅんちゅん丸を抜こうとする。

 

「ちょっと何する気よカズマ!まさか、この子を経験値の足しにするんじゃないでしょうね!」

 

「安楽少女は紅魔の里の近くにもいますし、名前も知っています。でもこんな女の子の姿をしたモンスターを傷つけるわけないですよね・・・?そんなこと、しません・・・よね・・・?」

 

安楽少女の庇護欲にやられたアクアとめぐみんは庇うような行動を出し始めた。かくいう、カズマも良心のせいで非常に葛藤している。

 

「何葛藤してるの?まさか、安楽少女に情が移ったとかじゃないよね?」

 

「うっ・・・けど・・・けどよぉ・・・!!」

 

「ま、別に放っておいてもいいけどね。さっきも言ったけど、こいつはこの地帯じゃ滅多に姿を現さないからアヌビスでは価値が非常に高いのよ。しかも、アヌビスの専門家にこいつの根を売れば高く買い取ってくれるわ。だからこいつを縛り付けて動けなくすれば根が取り放題でがっぽり金儲けし放題じゃない」

 

「それってこの子を永遠に苦しめる行為じゃねーか!!お前の考え方が1番ひどいわ!!」

 

アカメの非道といえる考えにカズマはツッコミを入れる。安楽少女を金儲けの道具にしか考えていないアカメにティアとアクアとめぐみん、安楽少女でさえも顔を青ざめている。

 

「はっ・・・!あ、アカメの考えはともかく、カズマが駆除すべきと判断したならそうすべきだ。怪我をしてると思って寄ってみれば、怪我なんてなかった。このような狡猾なモンスターを放置すれば、余計な被害が出かねない」

 

安楽少女が一応危険なモンスターだと思い出したのかダクネスは大剣を抜いて身構えた。

 

「・・・コロス・・・ノ・・・?」

 

安楽少女はめぐみんの手を両手でか細く握り、涙目にフルフルと震えて喋りだした。その行為にダクネスは安楽少女と同じような顔をしだし、これが演技だと知っているティアでさえも、葛藤し始めている。

 

「う・・・うぅ・・・やっぱり演技だとわかっていてもこれは・・・きつすぎるぅ・・・!か、カズマ・・・代わりにやっちゃって・・・」

 

「おいやめろよ。俺でさえこれは悪い行為なんじゃないかって思ってるのに変なプレッシャーを与えないでくれ」

 

「・・・コロス・・・ノ・・・?」

 

「うっ・・・」

 

葛藤し続けるカズマに追い打ちをかけるように安楽少女がさらに不安そうにしゃべりだした。安楽少女が人の命を奪うのはわかっているのに、安楽少女の習性がカズマの決意を鈍らせる。深い、深い葛藤を続けるカズマにアカメはそっと肩に手を置く。

 

「生かしたいなら迷う必要なんてないわ。さあ、嘘つき化け物を縛り付けて荒稼ぎしましょう」

 

「誰がやるかそんなゲス行為!!お前は悪魔か何かか!!?て、おい待てお前ら。なぜ俺たちから距離をとる」

 

アカメは金稼ぎがしたい欲求が強くてカズマをゲスの道へ引きずり込もうとしている。ゲスな発想にアクアたちは安楽少女と共に距離を置こうとする。

 

「・・・ね、ねぇ・・・本当にどうするの?これ・・・?」

 

「う・・・うぅ・・・こ、こいつを・・・こいつを倒さないと他に被害が・・・」

 

「金稼ぎ」

 

「しないって」

 

「ちょっとお姉ちゃんは黙ってて」

 

カズマが安楽少女を駆除すべきかしないべきかと葛藤を続けると、安楽少女がつぶやいた。

 

「クルシソウ・・・ゴメンネ・・・ワタシガ、イキテル、カラダネ・・・」

 

「うっ・・・」

 

「ワタシハ、モンスター、ダカラ・・・。イキテイルト・・・メイワク、カケルカラ・・・」

 

安楽少女は涙を浮かべて、そして・・・

 

「ウマレテハジメテ・・・コウシテニンゲント、ハナスコトガデキタケド・・・サイショデサイゴニアエタノガ、アナタデヨカッタ。・・・モシ、ウマレカワレルナラ・・・ツギハ、モンスタージャナイト・・・イイナァ・・・」

 

祈るように両手を胸の前に組み、観念するかのように目を閉じた。

 

「・・・殺せるわけねぇだろおおおおお!!!」

 

安楽少女に対する罪悪感が勝ってしまい、カズマは手をかけることができなかった。

 

 

ーこのしゅばぁ!!ー

 

 

結局安楽少女はそのまま放置をして、カズマたちはそのままアヌビスへと向かっていく。みんなこれでよかったのだと思っているのだが、アカメだけは納得していない。

 

「ちょっとなんであいつをそのまま放置なのよ。どうせなら・・・」

 

「うるさいわ!!もうそのくだりはいいんだよ!!」

 

「お姉ちゃんは血も涙もないからあんなことができるんだよ。その点私は清廉潔白。黒い部分なんて何1つとしてない」

 

「あ?何自分を棚に上げてんのよ。経験値のために弱ってるモンスターを容赦なしにつぶす癖に」

 

「は~?そんなことやってないです~」

 

「もうお前ら喧嘩やめろって!なんでいっつもいっつも・・・」

 

いつものように双子を喧嘩を始めていると、ふとダクネスが口を開く。

 

「あれ?アレクサンダーがいないようなのだが・・・」

 

「え?・・・あ、本当ですね。いませんね」

 

「え?まさか置いてきちゃった?」

 

「まぁ、あそこに置いてきたなら心配ないでしょ。魚でも食ったらすぐ追いつくわよ。目印はあるし」

 

「おい、なぜ私を見るのだ」

 

アレクサンダーがいないことに対し、双子はオアシスに置いてきたと考えた。そこでカズマはふと疑問に思った。

 

「なぁ、あの安楽少女ってさ・・・動物にもよってきたりするものなのか?」

 

「え?うーん・・・どうだろう?そんな事例聞いたことないんだけど・・・」

 

「まさか動物さえも養分すると言い出すわけ?ありえないわ」

 

ありえない。それはカズマも考えていることだ。だが万が一、動物にさえもそれが適応されているのならば、アレクサンダーはどうなると考えている。アレクサンダーは双子がかわいがっているペットとなっている。もし何かあったとすれば双子に何されるかわかったものではない。そう考えるとカズマは冷や汗が止まらなかった。

 

「どうしたの?お腹でも痛くなったの?ちょうどあそこに岩があるわよ。離れててあげるから行ってきなさい」

 

「違うわ!!おい、お前らちょっと待っててくれ。今アレクサンダーを迎えに行ってくる!ついでに安楽少女と話をしてくる!」

 

「ちょ、ちょっとカズマ⁉」

 

カズマは急いでオアシスに戻り、安楽少女と話をし、アレクサンダーを迎えに行くのであった。

 

 

ーこのすば!ー

 

 

オアシスの場所はそんなに距離が遠くなかったため、歩いて数分で戻ることができたカズマ。まずはアレクサンダーはどこだと思ってカズマは辺りを見回す。そのおかげでアレクサンダーを見つけることができた。アレクサンダーはオアシスの魚をくわえて木がなっている場所へと向かっていっている。それを見てカズマはすぐにまずいと思った。なぜならそこはさっきの安楽少女がいた場所だからである。

 

「アレクサンダー!!そっちに行っちゃ、ダメだあああああああ!!」

 

カズマは急いでアレクサンダーを止めようと足を進めた。カズマが安楽少女のいる木まで近づくと・・・

 

「あああああ!!くっそ!!なんなんだあの赤髪の女!!あたしのこと金儲けの道具としか見てねぇし、泣き寝入りも全然通用しねぇじゃねぇかよぉ!!」

 

何やら怒っている声が聞こえてきた。しかもこの声は聞き覚えがある。この声はさっきの安楽少女から発せられている。つまりはさっきの片言のような言葉は嘘で、こっちの方が安楽少女の本性であったのだ。むしゃくしゃしている安楽少女にアレクサンダーはくわえていた魚を差し出した。

 

「ピィーヒョロロロ」

 

「ああ、あたしにくれるのか?ありがとな・・・でもごめんな。あたし、魚は食えねぇんだ・・・。てかお前も大変だな。あんな奴のペットになっちまうなんて・・・」

 

「ピィーヒョロ」

 

「はっ、楽しそうで何よりだな・・・。それに比べてあたしは・・・全然餌も来ねぇし、来ても逃げられるし、くそあちぃし、光合成しても下手をすれば枯れちまいそうでいいことなんか1個もねぇ。はぁ・・・ついてねぇ・・・なんでこんな砂漠で生まれちまったんだろう・・・」

 

安楽少女が落ち込んでいると、ふとカズマの存在に気が付いた。カズマが安楽少女に向けている眼はまるで無機質なものであった。この後の展開が予想したアレクサンダーはそそくさとその場から去り、アクアたちの元へと向かって走っていった。そして、この場にいるのは安楽少女とカズマのみ。

 

「・・・イマノハ、ナカッタコトニ、デキマセンカ・・・?」

 

 

ーお前流暢に喋ってただろうがボケがああああああああ!!!!ー

 

 

やるべきことを終えたカズマはアクアたちの元へと戻ってきた。アクアたちは言われた通りにきちんと待っていてくれたらしい。アクアたちのそばにはちゃんとアレクサンダーもいた。

 

「遅かったわね。アレクサンダーならもう帰ってきてるわよ」

 

「ねぇ、安楽少女と何を話してたの?実とかもらってないよね?」

 

ティアの問いかけにカズマは自分の冒険者カードを取り出した。

 

「見ろよこれを!一気にレベルが3つも上がった!これで俺も少しは役に立てるぞ!」

 

カズマの言葉に5人は凍り付いた。モンスターを倒すことで得られる経験値。それでレベルアップするのは当たり前。ということは・・・カズマは・・・安楽少女を・・・。

 

「わ・・・わあああああああー!!カズマの外道!鬼畜外道!あんたはバニルがかわいく見えるぐらいの悪魔だわ!!」

 

「あんた何してくれてんのよ!!?貴重な存在つったわよね!!?せっかくの金づるをあんたはああああああ!!!」

 

「ああ・・・あああ・・・ああああ・・・私がたくさん上がったレベルをカズマが自慢をしたから・・・私が調子に乗ってあんなことしたから・・・」

 

安楽少女に手をかけたカズマに対し、安楽少女に保護欲を抱いていたアクアとめぐみんは泣きわめき、金としか見ていないアカメは憤慨している。

 

「いいんだよ・・・カズマ・・・私はあなたを責めない・・・。あのまま放置してたら他に被害が出てたかもだし・・・でも・・・うぅ・・・」

 

「辛かっただろう?お前は冒険者としての義務を果たしたんだ・・・。すまない・・・お前にだけ嫌な役割を押し付けて・・・」

 

「いやちょっと待って⁉まず俺の話を聞いて⁉」

 

真面目ながらも辛そうな顔をしているダクネスとティア。そうしてカズマは1時間も使ってちゃんと説明をして、安楽少女がどれほど危険な存在かをアクアたちに理解させたのであった。

 

 

ー・・・このすば・・・ー

 

 

無駄な1時間を浪費し、カズマたちは双子の案内によって、アヌビスへと目指して歩いていく。しかし・・・何度も言うが砂漠は炎天下、その中を徒歩で歩く。砂漠の環境に慣れている双子はともかく、カズマたちはちょっと歩いただけでも体力が消耗してしまう。しかも先ほどの無駄な1時間で余計に体力が削ってしまっている。

 

「熱い~・・・熱い~・・・」

 

「熱い熱いうっさいのよ。それ以上言うならあんたを砂に埋めて置いていくわよ」

 

「いや~~!!それだけは嫌~~!!」

 

「でもアクアの言い分は尤もです。こんなに熱いと体がもちませんよ・・・」

 

「わ、私は別に、このままでも・・・」

 

「お前は相変わらずだな・・・」

 

アクアが熱い熱いとぶつぶつ文句を言っているが、めぐみんたちもさすがにこればかりはアクアに同意している。ダクネスは相変わらずだが。

 

「仕方ないでしょ。本来は1日で着く予定だったのに、めぐみんがやらかしてくれたから・・・」

 

「・・・些末なことなど忘れました」

 

「お前、実は反省してないだろ」

 

めぐみんの放った一言にカズマはジト目で彼女を見つめる。

 

「・・・なぁ。移動は夜にしないか?こうも熱すぎると体力が・・・」

 

「何言ってるのよ。夜は寒くなるから逆に私たちが体力消耗するわ」

 

「それに夜にはミイラっていうアンデッドがわくし、移動時間も限られるから3日じゃつかないよ。それこそ、記念祭に間に合わない」

 

「マジか・・・」

 

カズマは夜だけの移動を提案したが、双子は寒さで体力消耗、ミイラの出現、移動時間の大幅ロストで記念祭に間に合わない。ミイラの件はウィズの店で買ったアンデッド除けで何とかなるが、寒さ、移動時間ロストはさすがにどうしようもないので提案は却下された。

 

「何とかなりませんか?」

 

「だから方法は休憩をとる以外は・・・」

 

「ねぇ!あそこに洞窟を見つけたわ!あそこなら砂漠の日に当たらずに済むんじゃない?」

 

これ以上の砂漠の中を歩くのを避けたいめぐみんたちが何とかならないかと尋ねていると、アクアが地下洞窟のようなものを発見した。

 

「え?あそこは私たちもよく使う近道だけど・・・」

 

「でも今回は洞窟には入らな・・・」

 

「近道⁉何よ近道あるじゃない!行きましょ行きましょ!」

 

「お、おいアクア!」

 

あの洞窟が近道と聞いて、アクアは嬉々とした表情で洞窟へと向かっていった。カズマは止めようとしたが、全てを聞く前にアクアは洞窟に入っていった。

 

「たく・・・何があるかわからないってのに!」

 

「ちょ・・・カズマは入っちゃ・・・」

 

「なんにせよ、これで熱さは凌げそうです・・・」

 

「お、おい待ってくれ!」

 

カズマはアクアを止めるために、めぐみんは熱さを凌ぐために洞窟に入っていく。ダクネスは3人を追いかけていく。

 

「ああ、もう!!今回は入っちゃまずいんだって!!」

 

「たく・・・人の話を聞かずに・・・!」

 

双子たちは中に入っていったアクアたちを連れ戻すために洞窟へと入っていった。この選択が、カズマにとって地獄になるとも知らずに。

 

 

ーこのすばー

 

 

洞窟の中に入ってみると、中は砂漠の熱さは届かず、かなり快適な空間となっている。辺りには珍しそうな鉱石がいくつもあった。

 

「はぁ~・・・涼しい~・・・生き返る~・・・」

 

「アカメもティアも人が悪いですね。こんないい近道を黙ってたなんて・・・」

 

洞窟の快適さにアクアとめぐみんはかなりご満悦である。

 

「2人とも、油断するな。ここでは何が起こるかわからんからな」

 

「ダクネスの言うとおりだ。それに・・・なんか千里眼で見てみると、地面の下になんか変なのがちらほらと見えるんだが・・・」

 

それとは対照的にダクネスとカズマはかなり慎重だ。ただし、ダクネスは出てくるかもしれない存在に若干ながら興奮しているのだが。カズマは千里眼を使って地面の下を見てみると何かが何体かいるのに気が付いた。

 

「悪いことは言わないから早くここから出ようよ。それ以上進むとまずいんだって、カズマが」

 

「え?俺?」

 

「大丈夫大丈夫ー。今のところ何も起こってないし、何か出てくれば逃げればいいじゃない」

 

ティアは早いところ戻ろうと提案しているが、熱いところに戻りたくないアクアは聞く耳を持たない。カズマは自分がまずいことになるというのが聞き捨てならなかった。

 

「バッカ、そういう問題じゃないのよ!!」

 

「な、なぁ・・・さっき俺がいたらまずいみたいなこと言ってたけど、それってどういう・・・」

 

「いい?この洞窟はね・・・」

 

ティアがこの洞窟について説明を入れようとしたとき・・・

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

「おわっ・・・地震⁉」

 

「な、何⁉なになになになに⁉」

 

「じ、地面が揺れてますぅ!!」

 

「みんな、私の後ろに下がっていろ」

 

突如として地面が揺れ始めた。

 

「これは・・・まずいわ!奴が来る!!」

 

「や、奴って何⁉」

 

「そんなことはいいから早く逃げ・・・」

 

「ウホホホホ、もう遅いでござんす」

 

「「「「!!」」」」

 

双子たちが逃げるように言い放とうとしたとき、地面から第3者の声が聞こえてきた。それと同時に地面にヒビが入り始めて、何かが出てこようとしている。そして・・・

 

「ドウイイイイイイン!!」

 

「おわあ!!?」

 

「ひいいいいいいい!!?」

 

第3者の声の者が地面から飛び出してきた。何かが出現し、カズマはびっくりし、アクアはしりもちをついてびっくりする。出てきたそれはゆっくりと回転し、見事に着地した。出てきたそれの姿は・・・

 

「皆様、お待たせしました。皆様の大好き、そう!!マッチョモグラ!!!デス!!!!」

 

「「「「う、うわぁ・・・」」」」

 

いかにも筋肉ムキムキでボディビルダーの肉体を持ったスポーツパンツを履いているモグラであった。突如出てきた筋肉モグラのその姿にカズマたちはドン引きしている。

 

「ん~~、すんすん、すんすん・・・臭う、臭いますなぁ・・・あっしの大好物の豊潤な香しい匂いが・・・いったいどこに・・・」

 

筋肉モグラは匂いをすんすんと嗅ぎながら辺りを見回すと、カズマの姿を確認した。すると途端に目がハートマークになりだす筋肉モグラ。そして一言。

 

「ウホ♡いい男♡やらないか?」

 

「お断りします」

 

筋肉モグラの妙な誘いにカズマは意味が理解しているのかきっぱりと断った。

 

「ほいほいとついてきたっていいんだぜ?極上の快楽で楽しませてやるから」

 

「本当にいりません。ていうかそこをどいてくれるか?俺たちはその先にある街に用があるんだよ」

 

この筋肉モグラはモンスターのようだが一応は会話できるということで、カズマは説得を試みようとする。カズマの説得に筋肉モグラは愉快そうに笑う。

 

「ウホホホ。どうやら状況を理解できてないとみた。ここはあっしらマッチョモグラの縄張りでござんす。ここに入ってきた男たちは全員あっしらの獲物でござんす。最近は女ばっかり通るからなかなか土の中から出る気が失せてたが・・・ウホホ、そろそろ多種族の男が恋しいと思っていたところでござんす」

 

筋肉モグラ・・・正式名称マッチョモグラはじゅるりとよだれを垂らしている。そんなマッチョモグラにカズマは寒気を感じた。カズマはアクアたちに視線を向ける。アクアたちは必死で思いでカズマにジェスチャーを送っている。早く逃げろと。ダクネスはマッチョモグラが何を言っているのかよくわかっていないようだが。

 

「ん~?そこにいる5人は・・・ちっ、女かよ。あっしは女なんぞに興味はないわい。そ・れ・よ・り・も・・・さあ・・・こっちに来るんだ・・・今なら貴重な思いを・・・」

 

「クリエイト・アース!!&ウィンドブレス!!」

 

「!!!???」

 

カズマは防衛本能からクリエイト・アースで砂を出し、その砂をウィンドブレスの風でマッチョモグラの目まで運ぶ。それによって悶えているマッチョモグラにカズマはドレインタッチで体力を吸った。

 

「こ・・・これは・・・この感覚は・・・んぎもぢいいいいいいいいいい!!!!」

 

変な声を上げながらマッチョモグラは白目をむいて気絶してしまう。それを見た双子たちは顔をものすごく青ざめている。

 

「か、カズマ!あんた何やってんのよ!!マッチョモグラを倒すってことは、このマッチョモグラの洞窟を抜けるまであんたはマッチョモグラに狙われることを意味してんのよ!!?」

 

「はあ!!?」

 

このマッチョモグラに狙われ続けると聞いてカズマはひどく顔を青ざめている。

 

「いい?よく聞いて。ここの洞窟の名前はマッチョモグラ洞窟。この洞窟の地面の下にはマッチョモグラがたくさんいて、男がここを通るたびにマッチョモグラは姿を現すの」

 

「マッチョモグラが出てくる条件は1人でも男が洞窟に入ること。逆に女だけの構成だったらマッチョモグラは一切その姿を現さないのよ。つまり・・・マッチョモグラは・・・」

 

「「ボーイズラブ・・・つまり、ホモなのよ(なんだよ)!!!!」」

 

「きゃあああああああああ!!!!」

 

マッチョモグラの衝撃的な事実にノーマルなカズマは悲鳴を上げた。

 

「マッチョモグラに捕まったら、地面の下に引きずり込まれて、それはもうあられもないことをされてホモになってしまったりするという・・・男性冒険者にとって天敵なのよ!!」

 

「実際にうちの盗賊団の仲間たちの中にマッチョモグラに捕まって・・・それは人には言えないことをされて・・・そして・・・モグラと同類になれなくて・・・嫌悪感で・・・その命を・・・うぅ・・・」ガクガク・・・

 

「「「ひいいいいいいいい!!!!」」」

 

双子たちは自分たちの仲間がマッチョモグラに捕まった末路を思い出し、顔をひどく青ざめている。マッチョモグラの説明を聞いたカズマたちは恐怖する。

 

「その人には言えないことについて詳しく!」

 

ダクネスはドM心で何をされるかというのに興味津々だが・・・

 

「い、言えるわけないでしょ!!バカじゃないのあんた!!?」

 

「てゆーかマッチョモグラは女には興味がないからダクネスの望むようなことは一切しないって!!」

 

「!!!」ガーン!!

 

が、女には危害を加えないことに対して、ダクネスは相当なショックを受け、ひどく落ち込んでいる。

 

「そ、そうか!それでここには入るなって・・・」

 

「な、何よ!私のせいだっていうの⁉だってしょうがないじゃない!ここがそんな危険な場所だったなんて知らなかったんだもの!!」

 

「ま、待ってください!こんなところで話していたら・・・」

 

『ビーーーーーッグマグナーム!!!!』

 

「「「「「ひいいいいいいいい!!!!」」」」」

 

頑なに双子が入るなと言っていた理由に気が付いたカズマたちの前にもう複数体のマッチョモグラが地面から出てきた。マッチョモグラたちはカズマを見た瞬間・・・

 

『ウホ♡いい男♡やらないか?』

 

「お断りしまああああああああああす!!!!!!」

 

マッチョモグラの危険な誘いにカズマは一目散に出口に向かって逃げ出した。それを見たマッチョモグラは目を光らせる。しかも・・・

 

「ウホホ・・・今のはとっても気持ちよかったぜ・・・けどそれ以上の快楽を・・・お前に捧げよう!!!」

 

気絶していたマッチョモグラが復活。そしてマッチョモグラの集団はそれを筆頭にして逃げているカズマをものすごいスピードで追いかける。

 

「いやあああああああああああ!!!!助けてええええええええええええ!!!!」

 

「カズマ、早く逃げて!!捕まったら掘られちゃうよ!!!」

 

「掘る!!?掘るって、何をおおおおお!!??」

 

カズマは必死な思いでマッチョモグラの集団から逃げる。しかし・・・

 

「ビッグダイビーーング!!!!」

 

ガシイィ!!!!

 

「あっ・・・」

 

「「「「カズマーーーーーーーーー!!!!!」」」」

 

あっさりとマッチョモグラの1体に捕まってしまう。それを見たアクアたちは悲痛な叫びをあげる。

 

「ふふふ、捕まえたぜ、あっしのかわいい子猫ちゃん。じたばた暴れたってどうにもならないぜ?」

 

「た、助けてめぐみん!!!今こそ、今こそ爆裂魔法をおおおおおお!!!!」

 

「こんな場所で撃ったら私たちまで巻き添えを食らっちゃいますよ!!それに今日はもう撃ったので爆裂魔法は使えません!!」

 

「ごめんカズマ・・・数が多すぎて助けられない・・・無力でごめん・・・ごめんなさい・・・」

 

「せめて・・・せめてやすらかに眠りなさい・・・なむー・・・」

 

「あ、諦めないでえええええええ!!!」

 

カズマは仲間に助けを求めているが、爆裂魔法は無理、1体ずつでは間に合わないのであっさりとカズマを諦めるめぐみんたち。

 

「ああ・・・ああ・・・よく見ると、なんて逞しい筋肉なんだ・・・。もうね・・・あっしはむらむらしてたまらんですよ・・・はぁはぁ・・・」

 

「待って!!話をしよう!!話をしよう!!!」

 

「話?いいぜ・・・いくらでも話そう・・・ただし、体と体でな!!」

 

「や、やーめーてええええええええ!!!!」

 

カズマは必死で話をしようとしたり、抵抗したりしているが、マッチョモグラは見た目通り力が強くてピクリとも動けないし、話も聞く耳持たない。

 

「ああ、ああ!!もう我慢できん!!今すぐ帰ろう!!そしてあっしらとで、素敵なエデンへと目指そう!!」

 

「ああ!!ちょ、ちょっと!!潜ろうとしないで!!た、助けてええ!!!地面に引きずり込まれちゃう!!!嫌だああああああ!!俺はノーマルなんです!!普通の女の子と恋愛したいんです!!!ホモになんかなりたくねえええええええ!!!」

 

マッチョモグラはカズマを連れて地面に入り、集落へ連れ込もうとする。カズマはよりいっそうの抵抗をするが、やはりびくともしない。マッチョモグラが地面に入ったその時・・・

 

「ロックタワー!!!!」

 

ボコォ!!!ボコォ!!!

 

『うおおおおおおおおお!!?』

 

「ウホっ⁉何事ぞ⁉」

 

突如として地面から岩が出てきて、その岩がマッチョモグラを持ち上げて洞窟の天井にたたきつけた。しかも、潜れないように両手両足を防いだ状態で。岩の上級魔法、ロックタワーの出現にマッチョモグラは驚きを隠せなかった。アヌビスへ続く道を見てみると・・・

 

「おい、クソモグラども。そいつはオレのダチだ。そのダチに手を出したらどうなるか・・・思い知らせてやろうか?」

 

「ま、マホ!!マホじゃないか!!!うええええええええん!!!」

 

アクセルの街のモンスターショップの店主、マホがいたのだ。まさかの救世主にカズマは涙を流して喜んでいる。

 

「ぬ・・・ぬ・・・こいつは強そうだ・・・!束になっても勝てん・・・!ビッグ退却ーーーー!!!」

 

『退却ーーーー!!!』

 

マホの強さを肌で感じ取ったのかマッチョモグラはカズマを放し、そのまま地面へと戻っていく。他のマッチョモグラも何とかロックタワーから脱出して地面へ戻っていく。

 

「ふぅ・・・でもちともったいないことしちまったかなぁ・・・」

 

「ま、マホーーーー!!!モグラが、モグラが俺の・・・うわああああああん!!!」

 

「うお・・・ちょ・・・おま・・・やめ・・・」

 

カズマは涙と鼻水を出しながらマホへと迫ってきている。その様子に引いたマホはカズマから距離を取ろうとする。そして、近くまで寄ると・・・

 

 

ー離れろぉ!!!!

ぎゃあああああああああ!!!ー

 

 

「・・・いや、本当に助かったよ。あと少し遅かったら今頃俺は・・・俺は・・・」

 

汚い顔でマホに迫ったカズマはマホに顔面をぼこぼこに殴られて顔が腫れている。後でアクアにヒールで治してもらえるのと、マッチョモグラに襲われるよりかはまだマシなので殴られたことは気にせずお礼を言う。

 

「はぁ・・・お前ら、こんなところで何してやがる?ここはモグラどもの縄張り、男どもは近づかねぇの。まぁ、知らないで入ったんだろうが・・・」

 

「うぅ・・・私のせいじゃないはずなのにぃ~・・・」

 

あきれているマホをよそにアクアはマホにげんこつを食らわされ、涙を流している。

 

「わ、私たちは止めたんだよ?」

 

「それを人の話を聞かないで・・・」

 

「どっちにしてもモグラどもに襲われたらどうなるか、身をもって味わっただろ?これに懲りたら、もう二度男を連れてこの洞窟に入るんじゃねぇぞ」

 

「はい、気を付けます・・・」

 

マホから注意を受けて、もう二度とこの洞窟には入らないと心の奥底から誓うカズマであった。

 

「わかったならもういい。ところで、お前らはモンスター調査・・・に、来たわけじゃねぇよな。こんな何もねぇ砂漠、ましてや危険な洞窟に何しに来た?」

 

「俺たちはアヌビスの記念祭の準備をしに来たんだよ。ここを通れば近道だって言ってたから・・・」

 

「記念祭だぁ?」

 

マホは記念祭と聞いて首を傾げ、すぐに納得した表情になる。

 

「あー、どおりで街の連中が浮かれてるわけだ。・・・たく、しょうがねぇなぁ・・・。オレがテレポートでアヌビスまで送ってやるよ」

 

マホがアヌビスに送ると言い出し、カズマたちは目を見開く。

 

「い、いいのか?」

 

「どうせアヌビスに戻る予定だったしな。ついでだついで」

 

予定外の連続であったが、テレポートならたった1日でつく。もうあんな広い砂漠を歩かずに済んだことにカズマたちは内心ほっとしている。

 

「んじゃ、とっととこんなとこおさらばするか。いくぜ・・・テレポート!」

 

マホは転移魔法、テレポートを発動した。カズマたちは魔法の力によってこの洞窟からその姿を消した。

 

 

ーこのすばー

 

 

テレポートによってカズマたちは洞窟から抜け出し、広い場所に出現した。辺りを見回してみると、ところどころにレンガの建物がたっており、人々が賑わいを見せている。そう、カズマたちが今立っているこの場所こそが、灼熱都市アヌビスなのだ。

 

「ここがそのアヌビスか・・・」

 

「おお・・・なんて美しい街なんだ」

 

「あ、紅魔族もいますよ」

 

「うぅ・・・熱いの変わってない・・・」

 

カズマたちは初めて来たアヌビスに深く冒険者として探検したい気持ちがくすぐられていた。アクアだけは砂漠の熱さに参っているようだ。

 

「本当に帰ってきたんだ・・・」

 

「ここも変わってないわね・・・」

 

生まれ故郷に帰還した双子は半年ぶりの街の光景に懐かしさをこみあげてきた。

 

「ふわ・・・んじゃ、オレはもう宿に戻るわ。しばらくはここに滞在する予定だから、お前ら、また後でな」

 

そう言ってマホはあくびをかみしめながらカズマたちに別れを告げ、宿へと向かっていく。

 

「とりあえずこの街の冒険者ギルドに向かうわよ。あそこは私たち盗賊団の仮拠点なのよ」

 

「拠点が改装中の今、多分みんなそこにいると思うからね」

 

カズマたちは双子に案内されながらアヌビスの冒険者ギルドへと向かっていく。向かっていく最中に周りを見回してみると、紅魔族やドワーフ、様々な種族が目に映る。

 

「ここにはいろんな種族がいますね。あそこにはエルフもいますよ」

 

「当然でしょ。ここは自由都市でもあるんだから」

 

「ここの活気良さが気に入ってここに移住してくる人が後を絶たなくてね、気が付けばこんな風になっちゃったんだ」

 

「へぇ~・・・」

 

双子たちの説明を聞いていると、大広間についた。大広間では大勢の人がいて、祭りの屋台を作ったり、飲食店で記念祭で出す料理の試食を作ったりして大忙しの様子である。

 

「これらは全て記念祭の準備をしているのか?」

 

「すっげぇ・・・本格的すぎだろ・・・」

 

「10年に1回の祭りだからね。みんな思うところがあるんだよ」

 

祭りがあまりにも大規模であるため、カズマたちは驚きを隠せないでいた。

 

「他人事と思わないでよ。あんたらも手伝ってもらうんだから」

 

「えぇ~~~!!」

 

「え~じゃねぇだろ。1度引き受けておいて。まぁ、やるのはやるよ。その代わり、報酬の件・・・」

 

「うっさいわね。わかってるっての」

 

この本格的なものを手伝うことにアクアは今更嫌そうにしており、カズマは報酬の件で逆にやる気を引き出させようとする。

 

「と、着いたよ。ここ私たち盗賊団の仮拠点、冒険者ギルドだよ」

 

そうこう言っていると、カズマたちは目的地であるアヌビスの冒険者ギルドにたどり着いた。建物はアクセルのものと比べるとかなり大きい。双子たちは冒険者ギルドの門を開けて中に入る。中に入ると、アヌビスの冒険者たちが記念祭の準備があるにも関わらず飲んだくれている。

 

「アクセルとあまり変わらない光景ですね」

 

「ここにいる全員が、盗賊団のメンバーなのか?」

 

「しっ、ここにはメンバー以外の冒険者もいるから、大きな声で名前を出さないで」

 

「す、すまない・・・」

 

めぐみんたちが話をしていると、飲んだくれている冒険者たちはカズマたちの存在に気が付いた。そして、双子たちがここにいることに対し、冒険者たちは目を見開かせる。

 

「なっ・・・お前ら・・・マジ・・・か・・・?」

 

「お前ら・・・アカメとティア・・・なのか・・・?」

 

「か・・・帰って・・・来たのか・・・?」

 

「相変わらず不細工な面ね、【ピーーッ】共」

 

「みんな、ただいま」

 

双子を見て驚いている冒険者たちにアカメは暴言を吐き、ティアはきちんとあいさつで返す。そして・・・

 

『おおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

「うおっ⁉」

 

「な、何⁉」

 

冒険者たちの大歓声が上がってきた。それにはカズマたちは驚きを隠せない。

 

「帰ってきた!双子が帰って来たぞーーー!!」

 

「隣にいるのってもしかして・・・?」

 

「おお、こりゃめでたい!!」

 

「こうしてはいられないわ!!急いで知らせないと!!」

 

双子が帰ってきた途端にこの浮かれ具合。これを見てカズマたちはよほど仲間たちに愛されて育ってきたんだなって思う。双子たちは冒険者たちが自分たちの帰還を祝ってくれてお互いに顔を合わせて笑っている。が・・・

 

「ちょっとマスターーー!!マスター!!大変よ大変!!!」

 

「双子が、双子が・・・彼氏連れて帰って来たぞおおおおお!!!」

 

「「はああ!!?」」

 

「おいちょっと待て!!誰がこいつらの彼氏だって!!?」

 

カズマを双子のどっちかの彼氏だと勘違いして、ネクサスの元へと向かっていく。それには双子はありえないといわんばかりの顔をし、カズマは誤解を解きたい気持ちでいっぱいになった。

 

 

ーこのすばーーー!!!ー

 

 

双子が帰ってきたのと双子がカズマたちを連れてきたとの知らせの後、カズマたちはすぐにギルドマスターの部屋へと案内される。双子たちは広間に残って冒険者たちと飲んだくれている。そして、部屋に案内されたアクアたちは・・・

 

「おお!これおいしいですね!」

 

「でしょー?まだまだあるから、どんどん食べちゃって」

 

「ふふん、あなたわかってるじゃない。それじゃ、お言葉に甘えて・・・」

 

「い、いや・・・私はだな・・・」

 

「いいから食べちゃって?エリス教の人もサービスサービス♡」

 

「ふごっ⁉」

 

部屋にいたバーバラからおいしいお茶菓子をもらっていた。ダクネスの場合はバーバラにモンスターの骨を口に押し込まれているが。もちろんそれで興奮しているダクネス。

 

(・・・どうしよう・・・)

 

一方のカズマは1人だけ、応接側の椅子に座り込み、ネクサスとカテジナと対面し、話をする・・・のだが・・・。

 

「ネクサス様、気持ちがお顔に出ておられます」

 

「・・・・・・」ゴゴゴゴゴ・・・ッ

 

(こ、怖い!!怖すぎる!!)

 

どうにもネクサスの雰囲気がものを言わせないようなどす黒いオーラを放っている。顔もカズマを警戒しているような顔つきで、心なしか背後に般若の面が出ているような気がした。カズマにとって盗賊団団長との初めての対面は、恐怖でしかなかったという。今日は踏んだり蹴ったりなカズマであった。




次回、この暑苦しい都市で癒しを!

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