00Pをご存じでない??   作:天澄

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00Pはいいぞ

「00Pの商品展開ありましたか??」

 

「あ? ぶっ殺すぞお前」

 

 それが、俺と友人のお決まりのやり取りだった。

 

 ――機動戦士ガンダム00P、という作品がある。

 

 機動戦士ガンダム00の外伝にあたる作品だ。

 電撃ホビーマガジンで連載されていた作品で、内容としては00本編の前日譚になる。

 簡単にまとめるなら前半が第二世代マイスターたちの、ガンダム開発を軸にしたお話。後半がスカウトや諜報担当の第三世代マイスターが、本格活動に向けて準備するお話だ。

 

 俺はこの00Pという作品が大好きだった。

 残念ながら連載をリアルタイムで追っていたわけではなく、単行本で後から読んだだけなのだが。

 それでも当時中学生だった俺は、夢中でそれを読んでいた。多分、最低でも三、四週はしたと思う。

 

 どこが好きか、というと少し難しい。好きなところが多過ぎて絞り込めない。

 まず最初に挙げるとしたら、マイスター同士の関係性だろうか。前半も後半も、マイスターたちの関係性が好きだ。

 第二世代のマイスターたちの恋愛模様が好きだし、寡黙なグラーベと陽気なヒクサーという組み合わせもいい。

 もちろん、物語も好きである。前日譚というのもあって悲劇的な結末でこそあるが、俺はそれが嫌いじゃない。

 ああ、あとは機体デザインも無論好きである。いや、まぁ00系列の機体のデザインはいいよねやっぱ。

 

 まぁそんな風に、語ろうと思えばいくらでも語れる00Pなのだが。

 ……如何せん、この作品は知名度が低いのだ。

 

 知名度、というと些か語弊があるかもしれない。

 そもそも知らない。あるいは知ってはいるが、読んだことはないという人が多いのだ。

 ホビー雑誌掲載であったこと、作品形式が小説であったことなどが原因なのだろうか。

 他のFやVの外伝系と比べて、00Pはあまり話題に出ることがない作品だった。

 少なくとも、俺は俺以外に00Pを読んだことがあるという人間に会ったことがなかった。

 

 だからまぁ、友人からの煽りは実際正しかった。

 事実、商品展開がないことでぶつかった問題があるのだ。

 

 ガンプラバトル・ネクサスオンライン。通称GBN。

 所謂VRゲームというやつで、ガンプラを読み込み、電脳空間でそのガンプラを自らの手で動かすことのできるゲームだ。

 ここで問題になるのが、ガンプラを読み込むのだから当然リアルでガンプラを用意する必要があることだ。

 自分で操作できるのだから、もちろん好きな機体を動かしたい。

 

 ……が! 00Pのキットは実に数が少ない!

 

 一般販売で存在するのはアストレアのみ! 他はプルトーネがプレバン販売! ラジエルは雑誌付録限定!

 サダルスードとアブルホールはキット化すらされちゃいねぇ!

 

 必然、俺のGBNデビューはアストレアとなった。

 

 ちなみに、同様の理由でGPDという、GBNの前に存在していたゲームはプレイしなかった。

 GPDはVRゲームではなく、実際のガンプラを動かして戦うゲームだ。そのためダメージを受ければ、実際のガンプラが破壊される。

 それを直して、また戦って。壊れたら直して、と繰り返してくのがGPDだ。

 限定キットではパーツを調達するのが難しく、何度も壊れるGPDをやるのはハードルが高過ぎた。

 ……あとは単純に、当時は学生だったので資金的に厳しかったのもある。

 

 そんな中、ガンプラが壊れることはないVRゲームの登場。そして俺が社会人になって資金的な余裕ができたこと。

 その二点から、俺は友人と共にGBNを始めた。まぁ代わりに時間を確保するのが大変だが。

 

 そうしてアストレアを相棒としてGBNを始めた俺は……現実に直面した。

 

「あ、アストレアだ。フォン仕様になる前ですか? 00F、面白いですよね」

 

「アストレア、私も好きなんですよ。フォンのキャラが強いから、結構印象に残ってます」

 

 GBNで俺のアストレアを見た人が言うのは、いつもいつも00Fのことばかり。

 偶に00Pのことを知っていて、正しく認識してくれる人はいても、語り合えるほど00Pにハマっている人にはやはり出会えない。

 

俺のアストレアは!

アストレアであって!

TYPE-FとかF2じゃない!

 

 ……そう声を大にして叫んだところで何の意味があるのか。

 所詮GBNで出会った人間など他人。はいそうですか、と返されて終わりだ。

 

 だけどそこで諦めてしまうことも俺にはできなかった。

 どうにもならないという諦めと、自分の好きな作品を広めたいという欲望。

 そんな中途半端な状態で、惰性で一年ほどGBNを続けていた俺は……チャンピオンに出会った。

 

 出会ったと言っても本人にではない。生放送で、その戦いを見ただけだ。

 今まで情報としてしか知らなかったチャンピオンを、俺はGBN内の生放送で見て、そしてその戦いの熱気を知った。

 チョロいことに、俺はそれでチャンピオンのファンになってしまったのだ。

 

 そうしてチャンピオンのことを追ううちに気づいた。

 彼がリーダーを務めるフォース、他のオンゲでいうギルドやチームのようなものでは、チャンピオンと同じAGE系ベースの機体を使う人が多いのだ。

 チャンピオンがAGE系列が好きで、布教しているのかはわからない。しかし事実としてチャンピオンのフォースはそういう状態になっている。

 

 つまり、もし俺が人々を熱狂させられるような戦いをし、人が集まるようになれば00Pも有名になる?

 

 そうとわかれば、行動は早かった。

 アストレアを作り込み、ガンプラ製作の腕が上がったら作ると積んでいたプルトーネを組み上げる。

 高くはあったがネットに出回っているラジエルのキットを買い、可動域などを現在のキットのレベルにまで調整した。

 それからサダルスードは、デュナメスをベースに改造して作った。

 最後にアブルホール。なんかもう、こいつはキュリオスベースでどうこうとかいう領域の話じゃないので、一番制作が地獄だった。

 

 純粋な作り込み、FGからの改造。既存キットからの改造に、ほぼほぼフルスクラッチみたいな改造。

 もう全部プレバンでキット化してくれないかなと思いつつも、どうにか俺は第二世代ガンダムとラジエルを組み上げることに成功した。

 

 社会人には時間もなく、GBNのIN率は下がるし、製作期間も一年近くかかった。

 それでも、俺はこうしてガンプラを揃えることに成功した。あとは、こいつらを使ってGBNでトップを目指すだけだ。

 

 ……勝ちたい。俺が作った、こいつらで。

 手間暇かけたからだろうか。そんな純粋な思いが、俺を支配していた。

 

 

 

 

 スラスターを噴かす。赤い粒子の残滓を追いかけ、空を翔る。

 

 今回のミッションのターゲットであるスローネツヴァイは、こちらを振り返ると、GNハンドガンを連射してくる。

 それを小刻みに機体をズラすことで避けつつ接近。右腕にマウントされたプロトGNソードを展開して、スローネツヴァイへと斬りかかる。

 かち合うプロトGNソードとGNバスターソード。追撃をかけようと、左手でビームサーベルを抜き放つ――

 

「――くッ」

 

 それを咄嗟に中断し、プロトGNソードを押し込んだ反動で機体を離す。直後、先ほどまで俺がいた位置を奔る粒子ビーム。

 レーダーを確認すれば、複数の反応が周囲を飛び交っている。恐らくGNファング――だがいつ?

 射出された反応はなかった。あの至近距離で見落とすほど耄碌しちゃいない。

 だとしたら……事前に射出されていたのか。恐らく接敵前……こちらが発見するより前に射出し、隠してあったと考えれば納得がいく。

 

「なるほどね、これが高難易度ミッションか……!」

 

 呟きながら回避運動を行うが、計六機のGNファングとGNハンドガンからの弾幕は厚い。被弾ゼロで再度接近するのは難しいだろう。

 加えて常に二機スカートアーマー内に待機させ、定期的に入れ替えることで粒子の補充を行っている。時間をかければこちらのジリ貧なのは見えている。

 

「ならば――!」

 

 スラスターを全開。回避を切り捨てスローネツヴァイへと直進する。

 それに追い付いてくるGNファングたち。こちらが待ちをやめたと見るや否や、何機かはビーム刃を展開し、突撃の姿勢を見せる。

 それを無視し、スローネツヴァイへ突貫。もちろん、そんな無防備な姿にGNファングからの攻撃が飛んでくる。

 

「上手く動いてくれよ!」

 

 GNファングからのビームをプロトGNシールドが弾く。そして別方向からのGNファングの刺突を、()()()()()()()()G()N()()()()()()同じく弾く。

 アームが稼働。別方向からのGNファングからの射撃と、スローネツヴァイのGNハンドガンからの射撃をプロトGNシールドが弾く。

 それを都度繰り返し、全ての攻撃を防ぎながらスローネツヴァイへと向かっていく。

 

「よっしゃ、稼働問題なし!」

 

 プロトGNシールド運用試験タイプ。

 METAL BUILDで立体化された、アストレアの装備形態の一つ。そいつを自作によって再現したのが今のアストレアの姿だった。

 この姿は計六枚のプロトGNシールドを、三枚ずつ背中と腰に接続されたアームに懸架した姿だ。

 アームにはある程度の可動域を設けてあり、任意で位置を調整できるようにしてある。

 そして今回はそれが正しく動作するか確認するため、こうして俺はオールレンジ攻撃を持つスローネツヴァイが出るミッションに挑戦していた。

 

「オオォォォォ!!」

 

 逃げるスローネツヴァイを追って、突貫。プロトGNシールドの一部を前面に構え、勢いを殺すことなく体当たりする。そのまま押さえつけるように岩壁へ叩きつけ、拘束。

 暴れるスローネツヴァイをプロトGNシールドの合計面積と、推力で完全に抑え込み、左手で先ほど抜き放ったままのビームサーベルの発振口を向け――

 

「落ちろォ!!」

 

 コクピットへ向けて、プロトGNシールドの合間を縫ってビームサーベルを起動。そのまま左へ振り抜き離脱。スローネツヴァイが爆散するのを確認する。

 

『――おーい、終わったかー?』

 

「おう、終わったぞ」

 

 飛んできた通信にそう返し、カメラでこちらに寄ってきた機体を捉える。

 黒と白からなる機体色に、Vアンテナの存在しないガンダムフェイス。V2ガンダムのようなバックパックを持つ機体――ファントムガンダム、そのX1カラーだ。

 エクバ仕様で作った結果装備しているムラマサブラスターを肩に担ぎつつ、こちらのアストレアに並んだファントムガンダムから、続いて通信が飛んでくる。

 

『んで、新装備の調子はどうよ?』

 

「問題なし、充分稼働するよ」

 

 00Pの知名度で煽ってくる友人ではあるが、彼も彼で好きな作品にはあまり恵まれていない。

 クロスボーンガンダムシリーズ。長いことシリーズの続いているガンダムの漫画で、ゲームへの参戦やキット化率など、アニメ化していない割には中々恵まれているように思えるシリーズだ。

 しかし、じゃあクロスボーンシリーズの漫画、ちゃんと読んだことがある? という話になると途端に人々の反応は悪くなる。

 少なくとも、俺は友人以外でクロスボーンシリーズをちゃんと追いかけている人間を知らない。精々SNSで見かけたことがあるくらいだ。

 好きな作品が知名度の割に、原作を追いかけている人間が少ないという、俺とは別ベクトルの悲しみを背負っているのが、俺の友人だった。

 

『ふーん、じゃあ近々また有名ダイバーと勝負するのか?』

 

「それは……」

 

 俺が友人との悲しい共通点に想いを馳せていると、その友人からそんな問いが飛んでくる。

 俺はそれに、咄嗟に答えられなかった。

 

 有名ダイバーとの勝負。それは、正式な大会以外でGBN内での知名度を上げる方法の一つだ。

 フォースに所属していない俺は、フォースのランキングに載ることはない。そのため、俺が有名になるには個人で結果を残すしかない。

 個人勢として有名になるにあたって、わかりやすいのはダイバーポイントを集め、ランクを上げることだ。

 しかしこれは積み重ねが大事で、時間がかかるし鮮烈さに欠ける。00Pの布教目的としては、少々手段がそぐわない。

 布教目的で鮮烈さを求めるなら、大きな大会などでの成績を残すのが妥当だろう。

 だがそれはそれで一定定期でしか開催されないし、GBNトップを決めるチャンピオンシップとなると年に一回だ。タイミングよく、有名な大会があるとは限らない。

 

 そこで俺が取った方針が、大会等で有名になったり、ランクが高いダイバーに勝負を挑み勝つことだ。

 これは時期を選ばず、そして有名ダイバーに勝った謎の人物ということで知名度も稼げる。かつ、単純に対人戦勝利によるダイバーポイント集めもできる。

 もちろん、有名ダイバーに挑むにはそもそも伝手やそれ相応の知名度が必要だ。断れることもあり、自分と同じくダイバーポイントを求めている相手や、興味を持ってくれる相手を探すという手間はあった。

 それでもこの方法は他に比べ、最も時間効率がいい。別に焦る必要はないが、できるなら早い方がいい、とは思ってしまう。

 

 けれどそれも結局、勝てればの話だ。

 

「……正直、この装備を使ったところで勝てるイメージがない」

 

 俺は、本音を言えば行き詰っていた。

 最初のうちは良かった。相手に合わせて機体を切り替え、有利を取りつつ技量で押し切る。

 GBN稼働開始時からの古参なのもあって、それができるだけの技量はあった。けれど上位陣と当たり始めるようになるとそうはいかない。

 弱点の対策をしていないわけもなく、技量、機体の完成度、どこをとっても俺より上の相手にそれで勝てるわけもない。

 加えて00Pの第二世代ガンダムは第三世代機の試験機であり、唯一の第三世代のラジエルも戦闘用ではない。

 純戦力で負け、それを覆すだけの技量もない。勝つには、今の自分では足りないのだ。

 

 ……ただ、それだけだったら俺が頑張って解決することだった。

 一番の問題は、その俺が頑張る気力を失ってきていることだった。

 

 ――どれだけ強くなって、有名になっても00Pを知っている人間が増えなかったのだ。

 

 俺が強くなって色んなプレイヤーと戦えるようになっても、相手からすれば良く知らない機体止まり。

 例え話すことがあっても大体が00F出典だと思っていて、それを一応告げても、そうなんだで大抵の人は終わり。わざわざ作品に手を出してみようという人は少ない。

 GBN内じゃ小説も貸すことはできないし、そもそも押し付けるようで気が引ける。

 直接相対した人間以外はもっと酷い。動画などで俺の戦いを見たとしても、それは00Fのイメージで止まってしまう。00Pの布教には繋がらないのだ。

 

 そういうのもあって、俺は戦う理由を見失っていた。どれだけ頑張っても、目的には全く近づけない。

 ああ、ここまでやって頑張る意味は、あるのだろうか。

 

 

 

 

『しょーじき気乗りしないよなー』

 

「……どういう意味だ?」

 

 俺が乗るプルトーネに、機体を操作して肩を組んできながら友人はそんなことを言う。

 

 フォースAVALON、チャンピオンのフォース。その拠点たるフォースネスト。

 そこを舞台とした変則フラッグ戦に俺たちは参加していた。

 ELダイバーなる、バグを引き起こす原因となる電子生命体の少女。それを削除しようとする運営と、妨害しようとする一部ユーザーの戦い……らしい。

 なんならGBNの存亡がかかっているらしく、俺たちも何度かバグに巻き込まれたこともあり、その脅威はわかっている。

 まだまだ上位陣とは言えない俺たちに声がかかったあたり、それだけ大ごとなのだろう、とも思う。

 

『お前も見ただろ、ELダイバーだっけか? あんな女の子一人犠牲にしなきゃいけないって考えるとなー』

 

「まぁ、ね」

 

 友人の気持ちも分からなくもない。俺も見たが、ELダイバーだという子は年端もいかない少女だった。

 あれを見てしまうと、それを犠牲にしてまでゲームの世界を守らなければならないのか? なんて思ってしまう。

 加えて、最近はもうGBNをやっている意味も見いだせなくなってきていた。正直、この戦いも友人に誘われなければ参加する気もなかったのだ。

 

 ……しかし同時に、運営の方針に逆らうだけの理由もない。結局はモチベーションが低くなる程度にしか、影響はなかった。

 

「でも、そう言いつつお前新機体使ってるんだな」

 

『ん? ああ、そりゃここまで安全が保証されたミッションもないからな。試運転だよ試運転』

 

 こいつもまぁ、随分と他人事であると思わず呆れの溜息を漏らす。

 

 機体色の一部は、X1カラー。しかしそれ以外は青や白で構成されたX3カラーになっている。

 それに合わせてか胴体もファントム従来のデザインではなく、スカルハートやX3のような髑髏のレリーフとなっている。

 登録された機体名を確認すれば、ファントムガンダムパッチワークの文字が表示される。どうやら、X1パッチワークがモチーフらしい。

 以前にパッチワークが好きだという話は聞いていた。納得ではあるが、同時にこいつも筋金入りだよな、とは思ってしまう。

 

 まぁ、そういう俺もパッチワークいいよね、好き。としか返せないわけだが。

 

『っと、来たみたいだな』

 

「作戦開始だな」

 

 シャトルが三機、上空から突入してきたという報告が来る。同時、詳細な座標の情報が届く。

 場所は……かなり遠い。そもそも俺たちが主戦場に配置されていないのもあって、接敵するか怪しい位置だ。

 

 俺たちは所詮、上位ランカーではない。それどころかチャンピオンと面識すらないのだ。

 ここに呼ばれたのだって、チャンピオン自身が呼んだのではなく、このミッションのメインメンバーのロンメルさん。そのフォースの人と面識があったからだ。

 実力が高いわけではない。信頼されているわけでもない。必然、配置されたのは相手が裏をかいてきた場合通る可能性がある場所、念の為の配置だった。

 

 ……だったはず、なんだが。

 

『ぬおおおおぉぉぉぉ!? 聞いてない聞いてない!! 浮島が落ちてくるとか聞いてなーい!!』

 

「こんなの作戦になかったぞぉ!?」

 

 どうやら本当に相手は裏をかいてきたようで。見事に俺たちが配置されていた辺りにドンピシャ。

 それだけだったら俺たちの仕事だったのだが、来たのは相手のリーダー。相手の最大戦力が来てしまったために、チャンピオンがその相手のリーダーと戦い始めてしまったのだ。

 

「ビームが! ビームが降ってくる!!」

 

『うおおおお! 俺たちだけ別ゲーやってねぇ!?』

 

 悲しいかな、いくらやる気がなくても、愛機が落ちるのは悲しいもの。加えて、流れ弾でなんて納得いくわけがない。

 そのため必死で戦いの余波を避けながら、別の戦闘区域へと向かうという、よくわからないことを俺たちはする羽目になっていた。

 

『アテネゲートより、所属不明の部隊が強襲!』

 

『増援だってぇ!?』

 

「嘘だろ……って、おぎゃー!? こっち撃ってきてるー!?」

 

 流れ弾に加えて、追加で来た敵がこちらに向けて射撃をしてくる。

 本格的に聞いてた作戦と違ってきている。本当はやる気もなかったのに、それでも抗ってしまうのはGBNプレイヤーの宿命か。

 

「こな……くそッーーー!!」

 

 プルトーネの向きを調整し、ライフルを向ける。照準を合わせ、トリガーを引く。

 ――ヒット。設定的にはプルトーネは第二世代機であるために飛び抜けた性能を持たないが、GBNでは作り込みがものを言う。

 設定以上の火力を発揮した一撃は、当たり所もあって相手の機体を撃破する。

 

 しかしそれに喜んでいる時間はない。相手の援軍はどうやら、それなりに数はいるらしい。

 こちら側に比べれば雀の涙程度だが、それでも奇襲だったのもあって数機が奥まで入り込んでいるようだった。

 俺たちもちょっと真面目に戦わなければならないか。

 

『……まだ立ち上がるのか』

 

 そんな中、突然全体通信でチャンピオンの声が響く。続いて、それに答える声も。

 この声は……フォース百鬼のオーガか? それに、相手のフォース、ビルドダイバーズのリーダーの声か。

 俺でも知っている、最近名を上げている百鬼が相手の援軍だったのか。

 

『……俺、あなたに憧れてガンプラバトルを始めました』

 

 百鬼のメンバーを相手に戦っている中、全体通信にされた会話が俺の耳へと入ってくる。

 チャンピオンへの憧れ。ガンプラやガンプラバトルへの想い。GBNが好きだという気持ち。そしてELダイバーの少女との思い出。

 

 ……少年たちの、心からの叫び。

 

『だから諦めたくない!!』

 

 強く、彼らの言葉が俺の胸に響く。ELダイバーの少女のことも知らないのに。その子から教えてもらったと叫ぶ言葉が、俺の心の内の何かに響く。

 

『自分たちの好きを、自分たちで否定したくないから』

 

 自分の好きを、普通じゃないと否定してきたのは誰だった。

 どうせ伝わらないからと、押し付けたくないからと諦めてきたのは誰だったのか。

 

『だから……! 俺たちは!』

 

『俺たちの好きを、諦めないッ!!』

 

 その言葉がスッと、俺の心の中にある……大切な何かに届いた。

 

「……ははっ」

 

 そうか。俺は、自分の好きを諦めなくていいのか。

 そんなにも高らかに、俺たちは自分の好きを叫んでいいのか。

 

 ――自分の大好きに、胸を張っていいのか!

 

「先に謝っておく! 悪いな!」

 

『あっ、おい!?』

 

 驚く友人を置いて、プルトーネを飛翔させる。ビームサーベルを抜き放ち――

 

『なっ、お前! 味方じゃ――』

 

「悪いとは思ってるぜ!」

 

 ビームサーベルで一閃。追撃でビームライフルを二連射。そうして撃墜したのは……本来味方であるはずの機体だ。

 

『ハッ、そういうことかよ!!』

 

 そんな俺を見て、友人はシザー・アンカーで近くにいた機体を掴み、別の機体にぶつけて撃墜する。それもまた、二機とも本来味方のはずの機体だ。

 

『触発でもされたか?』

 

「俺はチョロいんでね、ああいうのにすぐ影響受けちゃう」

 

 本当に、我ながらチョロいことだ。たった数人の、意図されたかのように全体に流れた通信なんかで影響されてしまうなんて。

 

 "好きを諦めない"

 

 だけどこの言葉は、あまりにも俺の胸に響いたのだ。

 きっと俺が好きな00Pのキャラは、シャルやルイードたちはこの状況を許容できない。

 俺の好きは、一人の少女を犠牲にするなど許容できなかったのだ。

 

「見せてやるよ――」

 

 プルトーネが戦場を翔る。ここじゃない。もっと、もっと効果的な場所へ。あのダブルオーの手助けができる場所へと。

 

「高濃度圧縮粒子、全面開放!!」

 

 戦闘が激しくない、ダブルオーへ攻撃を仕掛けられそうな機体が多くいる場所。そこに飛び込むようにして、俺はプルトーネを飛ばす。

 

「付き合ってくれよ、プルトーネ! こいつが俺の!!」

 

 誰もが突然飛び込んできたプルトーネに注目している。ああ、そうだろう。お前たちは00Pを知らない。

 たとえ今から俺がやろうとしていることの名前を知っていても、詳細を知ってる人間は少ないだろう。だから咄嗟に対応できない!

 

「プルトーネの惨劇だァァァァ!!」

 

 プルトーネのGNコンデンサーが暴走。辺りにGN粒子が広がっていく。

 

 俺のプルトーネは、こだわって、こだわり抜いて作った機体だ。だからその精度に応じて、正しくそれは再現される。

 プルトーネの惨劇。それは悲しい事件だったけれど。だけどそれも含めて、俺は00Pという物語が好きだから。

 

 だから俺は、こうして俺の好きを全力で叫ぶ!

 

 周囲の機体が停止していく。それと同時、俺の視界が暗くなっていく。

 第二世代ガンダムの時点では対策されていない、高濃度圧縮されたGN粒子が強い毒性を持つ現象。

 それまでもが丁寧に再現され……そして機体ではなく、俺の自身のHPが全損した。

 

 

 

 

 あれから数ヶ月。

 

 ビルドダイバーズの勝利で終わったあの戦いのあと。色々追加で戦闘もあったようだが、ELダイバーの少女は助かったし、GBNも無事だった。

 完全無欠のハッピーエンド。めでたしめでたし、で彼らの物語は終わったらしい。

 

 けれど、それは俺たちにはあまり関係のないことだ。

 

 彼らの言葉に影響を受けたりはしたが、結局面識があるわけじゃない。いつの日か挑みたい、そんな相手が増えただけ。

 だから俺は今日も、無事続いているGBNで布教活動に勤しむのだ。

 

「おーし! んじゃ始めんぞー!」

 

 ――ロータス・チャレンジというミッションがある。

 

 GBN内でも屈指の高難易度ミッションとされる、あるフォースが主催するミッションだ。

 挑戦者は地表でスタートとなるこのミッションは、どうにかして宇宙に上がり、そこに存在するラビアン・クラブという巨大要塞を破壊することが目標となる。

 しかしそれにあたっての制限が大きく難易度を上げており、参加可能なのはガンプラ五機まで。制限時間は十五分。この二つの制限が、あのチャンピオンたちのフォースのクリアすら防いでいた。

 

 ……とはいえそれもそこそこ前までの話。既にこのミッションはビルドダイバーズによってクリアされており、もう報酬も出ないミッションとなっている。

 それでもこのミッションが未だに受注可能なのは、あまりの難易度に腕試しとして他ユーザーたちから愛されているからであった。

 

『――隊長! レーダーに反応あり!』

 

『ふっ、約八分か。ビルドダイバーズに迫る――ってなんじゃありゃあ!?』

 

 例に漏れず、俺たちも腕試しと名声のために挑戦したロータス・チャレンジ。

 開始から制限時間約半分の時間を使って俺たちが宇宙へと到達した時。こちらを補足した相手のフォースリーダー、通称ロータス卿がキャラも忘れて驚きの声を上げた。

 けれど……まぁ。流石にこいつは知ってるんじゃないか?

 

『いや、見たことがある……。っ、そうか! F90のミッションパック! その大気圏離脱用装備か!』

 

『その通ォり!!』

 

 俺たち、シャトルに機体の前後を挟まれたかのような珍妙な姿の五機の中から一機が飛び出し、そのシャトルのようなパーツをパージする。

 

『こいつはF90のミッションパックのU(アップリフト)タイプ! そしてこいつが俺の愛機……!』

 

 脇の下から前へと突き出した大型ユニットから放たれたビームが、設置された地雷原を薙ぎ払う。

 その姿はパッと見、F91のようにも見えるが、違う。

 

『RX-F91、シルエットガンダムだァ!!』

 

 更に二射目。ヴェスバーから放たれたビームが、一射目で残った地雷原へと突き刺さる。

 彼はガンダムF90やシルエットフォーミュラ91といった、F91の外伝系作品をこよなく愛する男。

 愛ゆえに、シルエットガンダムにF90のミッションパックを全対応させた大馬鹿野郎である。

 

『絶対これ初心者にやらせるミッションじゃないよねぇ!?』

 

 続いて飛び出したのは、全身が赤い機体。ビームライフルを連射しながら、シールドから光の球体を飛ばし、ビットとして操り始める。

 

『ガンダムレギルス! 敵機は抑えます!』

 

 ガンダムレギルス、MEMORY OF EDEN仕様を駆る彼女は、つい先日GBNを始めたばかりの初心者。しかしその射撃の精度、ビットコントロールはとても初心者とは思えない。

 それもこれも、アセムとゼハートへの想いを拗らせ、全ての人類にAGE本編とMEMORY OF EDENを見させるためだというのだから救えない。

 

『じゃ、僕も仕事しますかね』

 

 そんな赤いレギルスに追従して敵と交戦を始めたのは、Hのような形をしたバックパックを背負った機体。

 敵の群れに向かってビーム砲と、ビームライフル。それからビームサブマシンガンを連射し、レギルスと共に敵の動きを制限、撃墜していく。

 

『アストレイ アウトフレームD、イータ装備。レギルスと共に殲滅行動を開始する』

 

 もはやアストレイシリーズとでも言うべき、ガンダムSEEDの外伝作品群がある。その中でも特に機動戦士ガンダムSEED DESTINY ASTRAYを愛しているのが彼だ。

 一応、アウトフレームDの設定通りストライカーやウィザード、シルエットなど様々な装備を付けられるようにしているのだが、趣味もあって基本的にはドレッドノートイータのバックパックを装備している。

 口癖は何で赤枠とかはあんな有名なのに、アウトフレームは全然話題に出ないわけ?? の悲しいやつである。

 

『おっしゃ、道はできた! ファントムガンダムフルクロス! 突っ込むぞ!』

 

 そして俺の前を行く、友人の操る機体。第二次有志連合戦から更にアップデートされたファントム。

 その名もファントムガンダムフルクロス。ファントムガンダムのデザインをX1に寄せ、フルクロスを装備させた機体である。

 無論、言葉にするのは簡単だ。しかし、フルクロス装備をファントムガンダムの特徴であるファントム・ライトに対応させ、可変もできるようにしてあり、そのこだわりはバカにできやしない。

 事実、変形したファントムフルクロスはファントムライトの光を揺らめかせながら、破壊目標であるラビアン・クラブへと突撃していく。

 

『ハハッ、鋼鉄の七人みたいで楽しいなぁ!!』

 

『いつまでそのように気軽でいられるかな!!』

 

 しかしそれを防ぐように立ちふさがるのはロータス卿の操るマーメイドガンダムと、そのお伴たち。

 ここの突破に時間がかかれば、ラビアン・クラブを破壊するための時間がなくなる。かと言って、無視して突破できるほど敵は甘くない。

 ロータスチャレンジの難易度は、その制限に目が行きがちだがしかし。その制限を活かし、確実に相手を凌ぎきるロータス卿らの実力もバカにしてはいけない。

 

 ……ああ、だが。それでも、勝つのは俺たちだ。

 

「行くぞ! ガンダム00P!!」

 

 高らかに叫ぶ。自分の好きに胸を張っていいと教わったから。俺の好きを全部込めたこの機体で示すのだ。

 

 各部に用意されたアタッチメントには充分な装備がある。

 多くの強力なセンサー類が俺に戦場の情報を与える。

 可変機構による高機動がここまで辿り着かせてくれた。

 内部にGNフィールドを展開できる二重装甲は簡単には貫かれない。

 ガンダムラジエルをベースに、背面と腰部のツインドライブ化を行い。

 00Pの機体の全ての要素を組み込んだこの機体――ガンダム00Pで!

 

「全人類00Pを読めェェェェ!!」

 

俺たちは今日も、俺たちの大好きを叫ぶのだ!!




なんでリライズ最終話、エアマスターバーストとかアーマディロとかのプレバンキット化組いたのにプルトーネは出演しなかったの??

追記
おじさんは他にも虹にのれなかった男が好きです、読め。


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