『ハッピーバースデー!!!』
新しく、そして広くなった部室。新生スクールアイドル部の面々から、主役はクラッカーの集中砲火を浴びる。
「みんな、ありがとう」
本日の主役──ルビィは、色とりどりなテープを頭に乗せながらにっこり微笑んだ。
「うちの旅館のお料理で、新作デザートとして試作中のみかんケーキだよ!」
「ルビィちゃんに似合いそうな衣装、作ってきたであります!」
「ルビィちゃんの為にって、みんなで曲を作ったの。CDに焼いてきたから、是非聴いてね」
変わらぬ先輩達と、
「誕生日ケーキ美味しそうずら〜。ルビィちゃんおめでとう!」
「逆よ逆! 今日のメインはルビィなのよ!」
同じく変わらない同級生と、
「おめでとうございます! ルビィ先輩!」
「いつも素敵なパフォーマンス、尊敬してます!」
「またスクールアイドルについて、色々教えて下さい!」
今までにはなかった、後輩達。
ここまで一度に大勢から祝われる事など、ルビィの記憶にはなかった。みなが思い思いに、自分をお祝いしてくれている。一年前と似ていて、少し違う。そんな光景と雰囲気。
「みんな、ありがとう。ルビィ、とっても幸せ」
帰り道────
「ルビィ、なーんかあんまり嬉しそうじゃないわね」
バスに揺られながら、隣に座る善子が口を開いた。
「えっ? そ、そんな事ないよ? わざわざ練習休みにして、盛大にパーティー開いてくれて……すっごく嬉しかったよ」
「まあ……その言葉は嘘じゃないんだろうけど」
善子の方も、言葉尻を濁して煮え切らない。
「私達が助けになれるか分かんないけど、あんまり溜め込むんじゃないわよ。──それじゃあね」
「う、うん」
高校が沼津駅に近くなった事で、善子の登校時間は短くなっている。バスを降りた善子は、困ったような笑顔で手を振るルビィを見送る。小さくなっていくバスを見ながら、
「……って言っても、理由は明確よね。生まれてからずっと側で祝ってくれてた人が、今年はいないんだもん」
善子は小さく呟いた。
「──ただいま〜」
帰宅したルビィ。母親から荷物が届いていると伝えられ、居間へ向かう。居間のテーブルの上には、可愛らしいピンクの包装紙でラッピングされた小包。送り主は──『黒澤ダイヤ』。
「…………」
無言ながらも、はやる気持ちで小包を手に取るルビィ。包装紙をビリビリに破こうとした所で、思いとどまって丁寧に剥がす。送り主がこういった所作には厳格だった影響なのか、見られているような気がしたのだ。
やや時間をかけて包装紙を綺麗に剥がしたルビィは、比較的シンプルな箱を開ける。
「わ、可愛い〜!」
中に入っていたのは、ペンや付箋といった普段使いできる文房具や明らかに安物ではない靴紐、現像された東京の名所の写真など。そして、メッセージカード。物色もそこそこに、ルビィはメッセージカードを手に取る。そこに書かれていたのは、『実はこれだけじゃありません。秘密の押し入れへいらっしゃい』という文言のみ。
「…………?」
文章の内容もさることながら、メッセージカードそのものに何か違和感を覚えるルビィ。基本的に真面目で真っ直ぐな性格なので、あまり回りくどい事はしないはずだが。しかしその違和感よりも、
「秘密の押し入れって……あそこだよね? お姉ちゃんから、まだ何かプレゼントが……」
好奇心が勝った。
ルビィが向かったのは、かつて『見たくない』と言われ封印してしまった場所。今ではその封印は解かれているが、代わりに今は駆け抜けた一年弱の思い出の品々が大切にしまってある。迂闊に触れては寂しくなってしまうので、最近はあまり開ける事のなくなってしまった押し入れ。
「ここに何が……?」
手にしたメッセージカードを見やるが、当然そこに答えはない。その手元に視線を落とした瞬間を狙ったのかどうかは定かではないが、
スパーンッ! っと目の前の襖が勢いよく開け放たれた。そしてそこから飛び出した巨大な影が、ルビィ目掛けて飛びついてきた。
「──シャイニー──────ッ!!!」
っという大声を上げながら。
「ピギャア────────ッッッ!!⁉︎」
こちらも負けじと大きな悲鳴を上げたが、そんな事で怯む相手ではなかった。
「オーゥ、相変わらずルビィはcuteね! よしよし」
「なななな、何で鞠莉ちゃんが⁉︎」
「たまたま日本に戻る用事があったから、そのついでにちょっと寄ったのよサプライズ成功ね♪」
そこでルビィは、ようやく違和感の正体に気付く。
「あっ、このメッセージカード、もしかして書いたの鞠莉ちゃん……?」
「あら、バレてた? 結構ダイヤの字に似せたつもりだったんだけどな〜。流石は聡明なマイシスターね♪」
そのボケにルビィが反応するより早く、
「──誰があなたのマイシスターですか!」
聞き焦がれていた声が、耳に響いた。
「まったく、『任せろ』と言うから従ってみればこんな無茶苦茶な事を……」
「でも案外ノリノリだったじゃない」
「いきなりヘリで呼び出してくる相手に常識なんて通用しませんわ!」
「──お姉ちゃんっ!」
二人の言い合いを遮って、ルビィはダイヤの腕へ飛び込む。受け止めたダイヤは、優しく微笑む。
「──久しぶりですわね、ルビィ」
「Oh〜、それじゃあ私はもう行くわね」
「もう行くんですの? もう暗くなりますわよ?」
「こう見えて忙しいのよ。本当にちょっと寄っただけ」
ヒラヒラと手を振って部屋を出て行こうとした鞠莉を、
「鞠莉ちゃん」
ルビィが呼び止める。
「ありがとう」
「そんなにサプライズが好きだったのかしら〜? もっとビックリさせてあげた方が良かった?」
「うん、嬉しかった」
「……Happy birthday ルビィ。後は二人でごゆっくり〜☆」
「相変わらず嵐のような人ですわね」
姿の見えなくなった鞠莉を目で追いながら、ダイヤは息を吐く。
「でも、素敵なサプライズプレゼント用意してくれたよ」
「些か無茶苦茶な気もしますが……今回は大目に見ましょう」
ルビィとダイヤは並んで縁側に腰掛け、夜空を見上げる。
「お姉ちゃん、東京での生活って大変じゃない?」
「まあ……乱立する建物や人の多さに目が回りそうな時もありますが、楽しく過ごせてますわ。──毎日のように電話で話してるじゃありませんか」
「そうなんだけど、こうやって話すの久しぶりだなって思って……」
「ルビィこそ、新しい高校では問題なくやれてますの? スクールアイドル部では、次の部長候補だと聞きましたわよ」
「ど、どこでそれを⁉︎ あ、花丸ちゃんかな……」
「凄い事じゃありませんの。スクールアイドルの無かった静真に部活を発足させた働きっぷりは、他に追随を許さなかったそうじゃないですか」
「そ、そんな話まで……」
「姉として誇らしいですわ。好きを情熱に変えるルビィは、とても輝いて見えます」
「そう、かな。えへへ。ルビィもこう見えて上級生になったからね。もっとしっかりして、お姉ちゃんに心配かけないようにしなきゃ! って思って」
「あら、元からルビィの心配なんてしていませんわ。自慢の妹ですもの。東京の学友にも鼻が高いですわ」
「ずっとお姉ちゃんに頼って甘えてばっかりだったから……そんな風に言ってくれて、ちょっと自信ついたかも」
「そんな卑屈になる事ありませんわ。ルビィはできる子だと、胸を張って言えますもの」
ダイヤは軽く胸を叩くと、それから、ふっ、と力を抜く。
「──でもいいんですのよ。今この時に肩を張る必要はありません。甘えたければ甘えていい。歳なんて関係ありませんわ」
それに、とダイヤはルビィの頭を自分の肩に寄せる。
「今日はあなたの誕生日。今日くらい贅沢言ったり我儘言っても、誰も怒りませんわ」
「えへへ、ありがとうお姉ちゃん。大好き」
「それはこちらのセリフですわ。お誕生日おめでとう、ルビィ。わたくしには勿体ないくらい、素敵な妹よ」