星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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第一章 深層編
惨劇の間際にて


「それじゃあ、本題ね。『下層』で闇派閥(イヴィルス)の動きがあるという情報がギルドから入ったわ」

 

 茶番はここまで…

 

 そう言わんばかりに纏う空気を一変させた赤髪と緑色の瞳の持ち主でいつもは天真爛漫なはずの少女が重々しくそう告げた。

 

 その少女の名はアリーゼ・ローヴェル。

 

 正義の剣と翼を掲げる女神アストレアの眷族。

 

【アストレア・ファミリア】の団長である。

 

 そのアリーゼは今日もまたいつも通りファミリアの会議を取り仕切る。

 

闇派閥(イヴィルス)の中で未だギルドの警戒を喚起するファミリア…となると、【ルドラ・ファミリア】か?」

 

「ええ。ご名答よ。輝夜!流石は私の愛しの副団長!」

 

「…余計な妄言は良いので話を進めて頂きたいものですねぇ。だ・ん・ちょ・う?」

 

 …額に青筋を立てて今にも腰に差す小太刀をアリーゼの首筋に叩き込もうと腰に手を据える黒の長髪の持ち主でアリーゼ相手には常に短気気味な少女。

 

 その少女の名はゴジョウノ・輝夜。

 

 アリーゼのご丁寧な紹介通り【アストレア・ファミリア】の副団長である。

 

 その輝夜は今日もまたいつも通り団長アリーゼの副団長として補佐役とツッコミ役の役割をこなす…ことを半分アリーゼに強いられている。

 

「…何をするつもりなのです輝夜?…確かにアリーゼがいつも…その…いつも余計な一言が多いですが…それでもその点を我慢すれば尊敬に値するヒューマンであるということを忘れないでください!」

 

「ねぇリオン?我慢しなきゃ尊敬に値しないの?それちょっと酷くない!?」

 

「それは…」

 

「リオン。それには私も同感だと言っておこう。ついつい団長のこういう余計な一言を聞くと無意識に太刀を引き抜きたくなってな…」

 

「その癖はお願いですから直してください輝夜…それとアリーゼ…私はそんなを尊敬していると言うことには一切の偽りはありませんのでそれでどうか許してください…」

 

 アリーゼと輝夜に気を使い困り顔を浮かべる黄金色に輝く髪と空色の瞳を持つエルフの少女。

 

 その少女の名はリュー・リオン。

 

 時にはその激情で周囲を振り回す一方、時にはその優しさやらからかいやすさのせいで周囲に振り回されるという立場がイマイチ固まらない少女。

 

 言うなれば【アストレア・ファミリア】のトラブルメーカー兼マスコットキャラ的立ち位置にいたりする団員である。

 

 そのリューは今日もまたいつも通り癖の強い反応ばかり返すアリーゼと輝夜に振り回されっぱなしであった。

 

「…茶番はいいから話進めてくれよ。それで?アタシも輝夜の考えには賛成だな。1年前の『27階層の悪夢』以降の掃討戦で闇派閥(イヴィルス)の受けた打撃も小さくねぇ。それこそ動ける大派閥は【ルドラ・ファミリア】ぐらい。ほんと、我が一族の英雄様の働きのお陰でアタシらはこうして有利に戦いを進められているわけだ。ありがたすぎて泣けてくるぜ。流石はアタシの未来の旦那様だな」

 

「…その貴方様の旦那様のお陰で今はわたくし達が厄介極まりない戦いに追い込まれている…わたくしはその旦那様のお陰で枕を濡らしてばかり…そこの所分かっているのですかねぇ。この旦那様愛溢れる小人族(パルゥム)様は」

 

「…あっちは都市二大派閥の団長だ。アタシらには分からねぇ重荷を背負ってるんだよ。アタシに文句付けるなよ。まずお前涙流して男の同情引いたりするような柄じゃねぇだろ。そんな冗談流石に面白くねーぜ?」

 

 輝夜の嫌味に苛立ちを隠せぬ様子で応じる桃色の髪を持つ小人族(パルゥム)の少女。

 

 その少女の名はライラ。

 

 少々楽観的過ぎたり血の気が多過ぎたりと曰く付きの性格を抱える団員が多い中で、ただ一人策を以て冷静に状況に立ち向かう言わば【アストレア・ファミリア】の参謀役である。

 

 ただその参謀役の言葉のキレが今日は少々悪い。それはその『一族の英雄様』にあるのは周囲にとっては周知の事実であった。

 

 そして彼女達四人を中心に良くも悪くも会議が進行していくのが【アストレア・ファミリア】の会議の定番。

 

 だが今日はなぜか話の脱線が妙に多い。

 

 それはアリーゼの天真爛漫さが今日だけは何故か陰りがちなせいで。

 

 それは輝夜がいつになくイラつき嫌味を宣ってしまうからで。

 

 それは周囲の雰囲気に対応できないことによるリューの困惑が尽きないからで。

 

 それはライラの知恵を絞り出す頭の回転が遅くなっているからで。

 

 それらそれぞれの心境が話の脱線を生んでいた。

 

 そしてその根本的な原因は迷宮都市(オラリオ)の現状にあった。

 

 ライラの言うような戦いが有利に進んでいるはずの現状に。

 

「…すまない。話を私が逸らしてしまった。それで団長?貴方はその動きにどう応じる?」

 

「…決まってるわ。私達【アストレア・ファミリア】は『下層』の調査に向かう。何か発見できれば良し、敵の企みを阻止できればなお良し、【ルドラ・ファミリア】を捕らえられれば万々歳ってね」

 

「…団長にしてはらしくない悲観的展望だな。いつもの貴方なら『【ルドラ・ファミリア】なんて清く正しく聡明な私を前にすれば一網打尽よ!バチコーン⭐︎』…ぐらいのことを言いそうだが」

 

「…残念ね。輝夜。私ならさらに『完璧』って言葉を入れるわ」

 

「輝夜の真似が全然似せる気ないだけでなく輝夜が真似を始めた時点でトチ狂ってんだろ…その上アリーゼのツッコミにキレがねー」

 

「二人とも…本当に大丈夫ですか?体調が悪いのなら調査は延期すべきでは…」

 

 輝夜の普段なら考えられない冗談にアリーゼが応じる言葉もノリに欠けるという異常事態。

 

 それにライラは茫然とツッコミを呟き、リューは不安の声を漏らす。

 

 それもこれも皆迷宮都市(オラリオ)の現状が生んだ異常事態。

 

「で?アリーゼが『私達』って言ったってことは今回も応援なしか?」

 

「…ええ。『私達』が解決するのよ」

 

闇派閥(イヴィルス)最後の大派閥【ルドラ・ファミリア】の動き相手に投入できる戦力がアタシら11人だけねぇ… 迷宮都市(オラリオ)の懐事情も寂しくなっちまったもんだ。…これも10年続いた血を血で洗う戦いの結果…か」

 

 現状。

 

 闇派閥(イヴィルス)という悪を相手に総力を上げて戦えないという現状。

 

「なら団長…シャクティには話が通らなかったのか?」

 

「シャクティの方は大丈夫。地上の闇派閥(イヴィルス)の拠点は抑えておいてくれるって。『下層』に援軍を送らせるような真似は絶対にさせない…そう約束してくれたわ」

 

「それは良かった。最低限の戦いを有利に進める条件は整った、か。だが私達への応援は…」

 

「余裕がない…そうよ。【ガネーシャ・ファミリア】も戦力を分けるほどの余裕はないって」

 

 現状。

 

 迷宮都市(オラリオ)の憲兵たる【ガネーシャ・ファミリア】でさえこれまでの激戦の数々が強いた犠牲の多さに耐えきれず戦力に余裕がない現状。

 

「…お待ちを。輝夜?どうしてシャクティの確認しかしないのです?他のファミリアは…」

 

「そんなこと今更聞くか?青二才?他のファミリアのどこにそんな余裕がある?あらゆる意味で余裕があるのが私達【アストレア・ファミリア】だけ。だから私達に話が回ってきているのだろうが」

 

「しっ…しかし…」

 

 現状。

 

 犠牲を払わされ続けた迷宮都市(オラリオ)のファミリアにはあらゆる意味で戦いを継続するだけの力は残されていない現状。

 

「…ちなみにそれはうちの勇者様も…ってことか」

 

「…ええ。あと【猛者】には掛け合ってももらえなかった。どっちもファミリアを動かせない…みたい。下手に戦力を動かせば何が起こるか分からない…から」

 

「…悪い」

 

「ライラ…お前に謝られると凄く胸糞が悪い。お前が謝るな。お前と【勇者(ブレイバー)】は関係ないだろう」

 

「それでも…悪かった」

 

 現状。

 

 迷宮都市(オラリオ)の最大戦力たる都市二大派閥が身動きが取れないという現状。

 

「…というか…だなぁ。そもそも闇派閥(イヴィルス)の動きが現場で戦うアタシらや【ガネーシャ・ファミリア】よりも先にギルドに入ってること自体話が臭ぇ。そう思えないか?」

 

「…お前の言う通りだ。この流れ…『27階層の悪夢』の時と同じだ。また罠だということは十分に考えられる…」

 

「なっ…まさか輝夜とライラはギルドを疑っているのですか!?」

 

「そうまでは言わん。…だが罠はある。そうアタシと輝夜は予測している。だから無思慮に単独で突っ込むってのは気にいらねぇな」

 

「そんな…では私達は…ほとんど孤立無援…だとでも言うのですか?」

 

 現状。

 

 迷宮都市(オラリオ)中に疑心暗鬼が蔓延り、ファミリア間の共闘でさえ成立させられるのが至難の業で派閥連合の結成など夢のまた夢となっている現状。

 

 そんな数々の現状が彼女達に重くのしかかっていた。

 

 そんな数々の現状が彼女達の心境を暗闇へと追い込んでいた。

 

 だがそんな現状に屈するような彼女達ではなくて。

 

 そんな苦境を覆してきたのが彼女達の真骨頂で。

 

 その中で誰よりも最初に立ち上がるのはいつもアリーゼであった。

 

 アリーゼ・ローヴェルとはいつでも皆の太陽たらんとする…そんな少女だから。

 

 だから今回もまたアリーゼ・ローヴェルは誰よりも早く明るさを取り戻した。

 

「もうっ!どうしてそんなしんみりしちゃうの!みんなもっと心をバーニングしなきゃ!バーニングよ!バーニング!」

 

「団長…」

 

「アリーゼ…」

 

「アリーゼ…」

 

 輝夜は厳しい表情を崩さず、リューは希望を縋るような視線をアリーゼに向け、ライラは呆れ顔。

 

 他の仲間達も似たり寄ったりの芳しくない表情。

 

 アリーゼのたった一言で雰囲気が一変する…などということは決して起きなかった。

 

 空気は暗いまま。

 

 重苦しさが漂ったまま。

 

 それほどまでに現状は彼女達の心にのしかかり、そして蝕んでいた。

 

 だがそれでもアリーゼは諦めない。

 

 この場にいるみんなの…アリーゼ自身を含めたみんなの希望を取り戻し、その空気に明るさを復活させるため。

 

 アリーゼは声を上げ続けた。

 

 アリーゼは一人一人に希望を届けようと試み続けた。

 

「輝夜!あんたの心配はよく分かるわ。私達だけで【ルドラ・ファミリア】に挑むのはリスクがある。そのリスクを最小限に抑えるための手が打ち足りないと思うのはよく分かる。きっと私のことドジっ子!ポンコツ!とか思ってるんでしょうね!それはそれで美少女の私的には萌え要素として嬉しいけど、ドジっ子ポンコツ枠はリオンのなのよね!だから私は恙無く辞退させてもらうわ!」

 

「なっ…アリーゼ!私はポンコツではないとあれほど…!?」

 

「いや、お前はポンコツで間違いないわ。糞雑魚妖精。それはともかく団長。私は…」

 

「分かってる。あんたがファミリアのことを誰よりも大事に思って敢えて不安を煽るようなことを言ってるのは分かってる。だけどね?輝夜?逆に考えてみて。この機にファミリアの立場を一気に強化する…その絶好の機会だと私は思ってるわ」

 

「…団長?」

 

 アリーゼは知っている。

 

 輝夜には誰よりも現実が見えてしまう。そしてその現実を前に楽観と希望を許せない。そのため悲観的になりやすい。

 

 だからアリーゼは説く。

 

 輝夜とは別の視点でアリーゼなりに現実を語るのが一番輝夜の信じることができる『希望』になる、と。

 

「敢えて私達の力だけで挑む。そうすれば私達の実力が迷宮都市(オラリオ)中に知れ渡り、迷宮都市(オラリオ)での立場がより強固になる。そうすれば私達の正義をさらに人々の心に届かせることができる。私達の名声も間違いなく上がる。そのための布石の一つだと…私は思ってるわ」

 

「そこまで…考えているのか?団長は…」

 

「そして美少女冒険者アリーゼ・ローヴェルの人気もうなぎ登り!私が大活躍したらみんなの人気が霞んじゃうかも!ごめんね!迷宮都市(オラリオ)の冒険者の人気は私が独り占め!キラーン⭐︎」

 

「「イラッ⭐︎」」

 

 目元でピースまで決めて自らの深謀遠慮がなかったかのように間抜けに振る舞い、辛気臭さを一気に吹き飛ばす。

 

 …ついでに輝夜をはじめとした周囲の怒りを呼び起こす。

 

 これが輝夜に希望をもたらす時のお決まりの流れ。

 

 そしてそのアリーゼの希望をもたらす次の狙いは不安を重く受け止めてしまっているリューであった。

 

「次にリオン。今は共闘できない…信じ合えない…そんな状況に私達は置かれてる。そのせいで私達が孤立無援に見えるかもしれない。でもそんな状況なんて簡単に吹き飛ばせるわ。知ってるでしょ?『大抗争』の時迷宮都市(オラリオ)がどれだけ団結していたか。私達の大活躍を見れば迷宮都市(オラリオ)はすぐにでもまた団結できるに違いないわ!」

 

「本当に…アリーゼの言う通りになりますか?…正直今の迷宮都市(オラリオ)の状況は私でも望ましくないのは流石に分かります。それでも…」

 

 アリーゼは知っている。

 

 リューは誰よりも理想を信じていて、そして誰よりもその理想が崩れやすく脆い。

 

 だからアリーゼは説く。

 

 リューと同じ視点で理想を語るのだ。リューと共にその理想を目指すのだ。

 

 その理想がある限りリューは絶望に溺れたりはしないから。

 

 リューとアリーゼが共有できるような理想を語るのが一番リューが『希望』を抱き続けることに繋がりやすい、と。

 

「大丈夫に決まってるじゃない!私達は… 迷宮都市(オラリオ)は再び団結できる。私はそう信じてる。そしてそれが遠くないうちに証明される。その契機にするためにも私達は行かないといけないわ」

 

「…アリーゼはどうしてそうも自信満々で言えるのか…私は分かりません。本当に迷宮都市(オラリオ)は再び団結できるのでしょうか…」

 

「そんなに私の言葉が信じられないなら賭けをしましょう!リオンの迷宮都市(オラリオ)が団結できないっていう予想が当たったら一生私を好きにしても大丈夫な権利をあげるわ!でも代わりに私の迷宮都市(オラリオ)が団結できるっていう予想が当たったらリオンを一生好きにしてもいい!そうね…一生好きにしていいならリオンと結婚して正式に抱き枕どころかモフモフするなんてのも…ふふ!うん!最高!最高ね!迷宮都市(オラリオ)も団結してリオンと結婚できるなんて最高の未来だわ!」

 

「なっ…アッ…アリーゼ!?けっ…結婚!?私達は女性同士でっ…!しかしっ!決して嫌と言うわけでは…」

 

「真面目に考えるな。馬鹿百合妖精。いつもの団長の冗談だ。というか団長を自由にしていい権利もリオンも自由にしていい権利も結局団長が好き放題やる権利にしかならないのは気のせいか?」

 

「それな。アリーゼにいいこと尽くめ…と言いたい所だが、このリオンの乙女的反応…意外と分からねぇぜ?ついでに言うとそのリオンの態度絶対アリーゼがマジになるぞ…」

 

「あぁ…リオンのそのウブな反応!ほんっっとうに最高ね!まるで私が初めてリオンを抱き枕にしたあの初夜の…」

 

「…アリーゼ!?お願いだから黙ってください!?」

 

「ほら…な?」

 

「…本当にこのポンコツ共はお気楽でいいですなぁ…全く…」

 

 過去を熱く語ろうとするアリーゼと頬を赤く染めてその気があるかのように振る舞うリューを輝夜とライラを含めた周囲は呆れ顔というだけでは表現できない表情で見守る。

 

 この本気か冗談か分からないアリーゼの雄弁でリューをからかい尽くす…そしてリューに憂いを忘れさせるだけでなく周囲までも和ませる。

 

 これがリューに『希望』をもたらす時のお決まりの流れ。

 

 そうして最後にアリーゼが希望をもたらそうとしたのは知恵では解決できぬ状況に戸惑いを見せるライラであった。

 

「あとライラ?確かにライラの言う通り無策で罠に飛び込むのは危険。それは私も重々承知してるわ。でも考えてみて?闇派閥(イヴィルス)の戦力。私達の戦力。それらを鑑みてライラはどう考える?」

 

「…質はこっちが圧倒的上。量は闇派閥(イヴィルス)に大敗。その上奴らは調教師(テイマー)を抱えてるから調教(テイム)されてるモンスターも敵戦力と考えるしかねぇ。質と量を総合的に考えてもアタシらが圧倒的に不利…ただその戦力もこれまでの戦いで大分消耗してるはずで…」

 

 アリーゼは知っている。

 

 ライラは誰よりも知恵の力を知っているが故に知恵が発揮できない状況を恐れる。

 

 だからアリーゼは説く。

 

 その知恵がアリーゼ達の勝利を約束していると。その知恵がアリーゼ達を救うことに繋がると。

 

 ライラにはライラとは別の視点から知恵の生かし方を示すのが一番ライラに『希望』を抱いてもらうことに繋がる、と。

 

「ほら。あんたの頭の中では勝利が見えてるじゃない。勝てるのよ。私達。知恵を絞れば勝てるだけの状況が用意されてる。闇派閥(イヴィルス)の用いる武器なんて調教(テイム)されてるモンスターと火炎石を用いた自爆攻撃ぐらい。手の内が分かってる私達は如何様にも対応できるわ!それを私達自身証明してきてるじゃない!ここで戸惑う必要なんて全くないんだから!」

 

「それは…そうかもだけどよ… 闇派閥(イヴィルス)がどんな隠し玉を持ってるかアタシにだって分からないわけで…」

 

「そんな時はライラの知恵頼りね!負けないで!ライラ!頑張れ!ライラ!私達の運命はライラの知恵にかかっているの!」

 

「だからそうやってアタシに押し付けられるのが嫌なんだよぉ!?」

 

「…その時は皆で知恵と力を振り絞り共に困難に立ち向かいましょう。ライラ。だから…頑張ってください」

 

「リオンに慰められるってアタシどんな状況だよ!?全部アタシ任せとか冗談だよな!?」

 

 適当さを感じる応援を贈るアリーゼと大真面目に哀れみを少々込めて応援を贈るリューにライラは涙目になりそうな勢いで叫ぶ。

 

 これは…普段は大体適当に話を進める誰に対しても同じのアリーゼの対応だった。

 

 こうして破茶滅茶になりつつもアリーゼは三人に希望を届けようと言葉を紡いだ。

 

 そしてその努力は決して無駄ではなく。

 

 輝夜もリューもライラもそして他の仲間達も。

 

 みんなの表情から憂いは消えていた。

 

 アリーゼが口々に並び立てた現実と理想と知恵はみんなに確かに届いていたのだ。

 

 アリーゼは一人一人の顔を見渡す。

 

 アリーゼは一人一人の大切な仲間の表情を確認する。

 

 いける。

 

 今のみんなの表情なら戦える。

 

 どんな苦境でも私達は乗り越えられる。

 

 アリーゼはそう確信する。

 

 アリーゼはそう信じようとする。

 

 その確信と盲信の元アリーゼは静かに宣言した。

 

 

「これ以上惨劇を繰り返さないために。私達の実力を示すために。より良い未来を掴むために。絶好の勝機を失わないために。私達が行く。私達が戦う。…この後すぐ出発するわ。みんな、準備しておいて」

 

 

「「「はいっ!!」」」

 

 戦いの…惨劇の始まりを告げる宣言がアリーゼによって言葉にされる。

 

 仲間達の応じる唱和がその惨劇の始まりを後押しする。

 

 

 こうして惨劇への第一歩は踏み出された。




第一話は原作14巻の【厄災】戦直前に様々な描写を加えると言う形を取りました。
…要は『27階層の悪夢』や『大抗争』の共闘を見せられた後だと【アストレア・ファミリア】単独行動と壊滅、リューさんの復讐を通した独力による闇派閥の壊滅…これらはこういう風に見えると思うんですよね。
こちらこそが正直今作の本命の『敵』です。ま、今回は第一話ですので軽く触れる程度になりました。今後掘り下げていこうと思ってます。
まぁ当然闇派閥との抗争の最終的解決もテーマです。

そして今作の重大なテーマの一つはアリーゼさんの二面性です。これは3周年で決定的に示されたので周知の事実かと思います。
一つ目は天真爛漫適当美少女アリーゼさん!これは説明するまでもないですね。適当なこと言ってリューさんをからかって周囲を振り回して…そんなアリーゼさん。
そして二つ目は色々悩み考え現実を見てしまっているアリーゼさん。このアリーゼさんは冷徹な決断も下せるフィンさん的怖さも抱えてると思ってます。その片鱗が原作では幾度も示されている。ここがアリーゼさんの真髄だと思ってます。ここを描ききらなきゃアリーゼさんを描けない!(と勝手に思ってます)

そして読者の方々にお尋ねしたいのは、第一話で扱ったシーンにおけるアリーゼさんはどっちだったか、です。
…多分読み返せばお分かりでしょう。後者の適当さなど介在しない真剣なアリーゼさんでした。
この後者のアリーゼさんが登場するタイミングは意外と多いんです。そしてこのアリーゼさんの顔が現れる時の共通点は状況が…絶望的な時。
アーディさんが命を落とした直後。リューさんが正義を見失い出奔していた直後。…まだありますが、そんな時にこのアリーゼさんの顔が現れます。
つまりは…【厄災】戦の直前の時点でアリーゼさんは何かしらの絶望を感じていた。
それが何かは触れられていません。【厄災】戦を予知していた訳などない訳で…
なら?ということで導入された説明の入った『現状』です。

先ほども言った通りこの『現状』は今後掘り下げます。
ただ先に示唆できることは、5年後の原作期のオラリオがどんな状況に置かれていたかを思い返してください…ということですね。

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