星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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そういえば今作では五年前という時期の設定上リューさんはほとんど覆面を外したことがなかったという事実を今更ながらここに付記しておきます。
【アストレア・ファミリア】の仲間達の前では覆面をしていなかったので描写する必要がなかった…ということにしておいてください。(苦笑)


風向きの変わる時は今

「ならばリオンさん。リオンさんが希望を取り戻すことこそ…彼女達の心の傷を治癒する唯一無二の治療法。…アリーゼさんと輝夜さんとライラさんの希望のため…そして迷宮都市(オラリオ)のためにどうかお立ち頂けませんか?」

 

 

 アミッドはリューに言った。リューに彼女達の治療を託そうとした。

 

 アミッド自身分かっている。

 

 そのような治療法など言うまでもなく存在しない。

 

 これはただ単に治療師としての役割を放棄しているに程近い発言だ。

 

 だがアミッドには他に治療法が分からなかった。

 

 アミッドでは彼女達を癒せないのだ。

 

 彼女達にとってただの治療師に過ぎないアミッドには身体は癒せても心までは決して癒すことはできない。

 

 なら誰になら出来るか?

 

 リュー・リオンだ。

 

 リュー・リオンしかいない。

 

 彼女達の中でただ一人必死に絶望に抗うことができているリュー・リオンしかいない。

 

 今の【アストレア・ファミリア】にはリューしか頼れる人物がいない。だからアミッドは治療師としての誇りを今は捨て、リューに託そうと試みた。

 

 だがリューはそう簡単には動いてくれなかった。

 

 なぜならそのリュー自身が絶望に飲み込まれかけていたからである。

 

「むっ…無理です。【戦場の聖女(デア・セイント)】…私が希望を取り戻すなど…過ちを繰り返し、輝夜とライラを絶望に追い込んだ張本人である私には絶対に不可能です…」

 

「しかしっ…!」

 

「だっていつも希望をみんなにくれたのはアリーゼだからっっ!!私はアリーゼじゃない!私はアリーゼのようには振る舞えない!!アリーゼが希望を失ってしまったらっ!!もう希望は取り戻せない!!輝夜もライラも!私の言葉では決して動いてくれない!!アリーゼでなければ…!アリーゼでなければっ…!」

 

「…っ!」

 

 アミッドは完全に見誤っていたのだ。

 

 リューの仲間達を大切に思う気持ちは十二分に理解していた。だが【アストレア・ファミリア】の中でここまでアリーゼ・ローヴェルの存在が大きいということは、関係があまり深くないアミッドには読みきれなかったのだ。

 

 事実をきちんと伝えてリューの奮起を促すという意図をアミッドは抱いていたが、思わぬ落とし穴に嵌ってしまったのだ。

 

 だがアミッドは諦める訳にはいかなかった。

 

 このままでは【アストレア・ファミリア】は自壊する。

 

 彼女達は希望を見失い、戦う意志を完全に喪失すれば本当に再起が出来なくなる。

 

 彼女達の自壊の意味はあまりに重い。

 

 アミッドは…迷宮都市(オラリオ)に住む者の多くはそれを知っていた。

 

「…あなた方にとってローヴェルさんが如何に大切な存在なのかは分かりました。ですが…そのローヴェルさんは今はあなた方に希望をもたらすことは叶いません。それどころか彼女自身希望を失ってしまっているのかもしれない」

 

「ぐっ…!」

 

「…理不尽な物言いで身勝手なことを言おうとしているのは分かっています。ですが…あなた方が…あなた方【アストレア・ファミリア】が希望を見失ったら迷宮都市(オラリオ)はどうなるのですか!?」

 

「…何をっ…何を言って…!」

 

『正義の名を持つ貴方達が悪に屈しては迷宮都市(オラリオ)はもう希望を信じられなくなる!』

 

 アミッドの悲痛な叫びがリューにかつて告げられた ある人(アスフィ)の言葉を思い出させる。

 

  あの時(大抗争)の時と同じだった。

 

 リューは あの時(大抗争)と同じように大切な仲間を失い、希望を見失い絶望に染まりかけた。

 

 …そして ある人(アスフィ)の言葉にリューは拒絶の言葉を突き付けた。

 

 勝手に願望を押し付けるな、と。

 

 リューは思わず同じ言葉でアミッドの叫びを拒絶してしまいそうになる。

 

 だがりゅーのkypぜtよりも前にアミッドは言葉を紡ぎ、希望へ繋げようと試みた。

 

「…希望はあります。今のあなた方は…私達は迷宮都市(オラリオ)は希望を単に見失っているだけ。道標さえあれば、必ず私達の希望を再び見つけ出せるはずです。その道標は恐らくもうリオンさんの中にある」

 

「だからその道標をしてくれていたのはアリーゼでっ…!」

 

「ならばそのローヴェルさんのお言葉を思い返されれば良いではありませんか!?それほどまでにローヴェルさんをお頼りになるなら、そのローヴェルさんのこれまでの言動をお頼りになればいい!!」

 

「…ぇ?」

 

 希望を見出せないと駄々を捏ねるリューにアミッドは苛立ちと共にぶつける。

 

 アリーゼは目を覚まさず希望をリュー達に届けることができない。

 

 だからと言ってアリーゼは本当にリュー達に希望を届けることができないのか?

 

 アミッドは違うと断言した。

 

 アミッドと違いリューはアリーゼのそばにいた。

 

 リュー達自身だけでなく迷宮都市(オラリオ)に希望を届けてきた【アストレア・ファミリア】に、そして団長たるアリーゼ・ローヴェルのそばにいた。

 

 リューにしか分からぬアリーゼの遺した希望の道標がどこかにある。そうアミッドは説いたのである。

 

 そしてその道標とは同時に大事な意味を持っていた。

 

「思い出してください。ローヴェルさんのお仲間として…ローヴェルさんを大切に思う者として思い出すのです。これまで迷宮都市(オラリオ)に希望への道標を示していた【アストレア・ファミリア】を導いていたのがローヴェルさんのお言葉だったならば…再び私達が迷宮都市(オラリオ)が希望を取り戻す道標もまたローヴェルさんのお言葉の中にあるはずです。そしてその道標こそアリーゼさんの希望に繋がり得る鍵。リオンさんがローヴェルさんの希望を取り戻すことと直結しているのです」

 

「アリーゼの希望を取り戻す…つまりそれが分かればアリーゼの意識が戻るかもしれない…とでも仰るのですか?」

 

「…医学的根拠はありませんが、私はそう確信します。その希望を知り実現し得るのは今リオンさんしかいないのです。だからどうか…思い出してみてください。お願いします」

 

「アリーゼのかつての言動…から…」

 

 迷宮都市(オラリオ)の希望への道標とは即ちアリーゼの希望への道標。

 

 それはアリーゼの安否を何物よりも心配するリューにとって一番縋らなければいけない道標であった。

 

 そのためリューはアミッドの言葉をようやく受け入れ、目を閉じるとアリーゼと過ごした思い出を回顧することに全意識を集中させる。

 

 リューにとって希望を取り戻す方法はアリーゼ自身の口から希望を伝えてもらうことであった。

 

 いつもそうやってリュー達は何度も希望を失いかけてもアリーゼのお陰で取り戻してきたから。

 

 だがそれは叶わない。

 

 ならどうすれば希望を取り戻せる?

 

 その方法からアリーゼのこれまでの言動から希望への道標を見つけ出すことはリューの思考からすっかり抜け落ちていた。

 

 アミッドの言う通りだとリューは確信した。

 

 アリーゼのことだ。

 

 みんなが信じて疑わなかったアリーゼなら何かしらの道標を残してくれている。

 

 そうリューは信じることができた。

 

 だからリューはアリーゼとの思い出の中からその道標を手繰り寄せようと、考え込んだ。

 

 自信満々に自らの手柄を誇張しつつも自慢するアリーゼ。

 

 リューをとても楽しそうにからかうアリーゼ。

 

 絶望に挫けそうになっても前へ進もうと声を上げるアリーゼ。

 

 リューにいつも希望をくれたアリーゼ。

 

 色々なアリーゼの姿がリューの脳裏に浮かぶ。

 

 そしてそんなアリーゼの姿を二度と見れないかもしれないという恐怖がリューの心を襲ってくる。

 

 だからこそリューはその恐怖を押し返すべく必死に希望への道標を心の中で探し続けた。

 

 そうして回顧を続けること十分強。

 

 リューは思い出した。

 

 それはあの惨劇が起こる直前のこと。アリーゼは確かに希望への道標をリューに遺していたのだ。

 

 

『今は共闘できない…信じ合えない…そんな状況に私達は置かれてる。そのせいで私達が孤立無援に見えるかもしれない。でもそんな状況なんて簡単に吹き飛ばせるわ。知ってるでしょ?『大抗争』の時迷宮都市(オラリオ)がどれだけ団結していたか。私達の大活躍を見れば迷宮都市(オラリオ)はすぐにでもまた団結できるに違いないわ!』

 

 

迷宮都市(オラリオ)の…団結。アリーゼは確かに言っていました。迷宮都市(オラリオ)が団結して共闘することを望んでいました。…そうです。これこそがアリーゼの希望。輝夜とライラの希望。そうです…そうです!これを実現すればっ…アリーゼの輝夜もライラも希望を取り戻せるっ!これです!【戦場の聖女(デア・セイント)】!ようやく分かりました!私が成し遂げるべきは迷宮都市(オラリオ)の団結です!」

 

 迷宮都市(オラリオ)の団結。

 

 それはアリーゼが不遜にもリューとの賭けの題材にしていた事柄。

 

 そしてアリーゼは迷宮都市(オラリオ)が団結できることに賭けた。

 

 賭けたということはアリーゼは迷宮都市(オラリオ)が団結できると信じているということ。

 

 

 それ即ち希望。

 

 

 アリーゼの希望は迷宮都市(オラリオ)の団結にあるのだ。

 

 恐らくアリーゼは迷宮都市(オラリオ)が団結できないことに絶望して目を覚まそうとしないのだろう。そうリューは判断する。

 

 アリーゼだけではない。

 

 輝夜もライラも迷宮都市(オラリオ)が団結できないことで疑心暗鬼に陥っているのが絶望に染まっている一端になっている。

 

 リュー自身もそうだ。

 

 その疑心暗鬼がアミッドへの不信感にまで繋がっていた。

 

 これはリュー達だけの問題でもない。

 

【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】… 迷宮都市(オラリオ)全体を巣食う絶望と苦難の元凶である。

 

 

 皆の希望を取り戻すための全ての道筋は迷宮都市(オラリオ)を団結に導くことに通じていたのだ。

 

 

 ならば希望を取り戻すため、自らが動かなければ。

 

 アミッドの言う通り【アストレア・ファミリア】ではリューしか動けない。

 

 今希望を取り戻すために立ち上がれるのはリューだけ。

 

 リュー自身アミッドが言うような迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すことがリューに可能などとは到底思っていない。

 

 だがアリーゼに目を覚ましてもらうためなら…躊躇う理由などリューには全く存在しない。

 

 アリーゼが目を覚ませば輝夜とライラも希望を取り戻せるはず。

 

 それと同時に迷宮都市(オラリオ)が団結すればより揺らがぬ希望となり得よう。

 

 リューはアリーゼのために…

 

 

 アリーゼの希望を取り戻すためにリューは今ここに迷宮都市(オラリオ)の団結のため立つことを決心したのだ。

 

 

迷宮都市(オラリオ)の団結…なるほど。それこそまさに迷宮都市(オラリオ)の希望。流石です。【アストレア・ファミリア】…ローヴェルさんはきちんとお示しになっていたようですね。あなた方はやはり迷宮都市(オラリオ)に希望をもたらしてくれる素晴らしい方々です」

 

「褒め過ぎです。【戦場の聖女(デア・セイント)】。…ええ。今更ながら思い出せました。ありがとうございます。全てあなたが諦めることなく私を説得してくれたお陰です。あなたの私への信頼に心からの感謝を」

 

「いえ。治療師にも関わらずこのような形でしかお力添えできず大変申し訳ありません。ただ…私の言葉がリオンさんのお力になれて何よりです」

 

 アミッドの感嘆の言葉にリューはこの時覆面を初めて外す。

 

 それはアミッドに心からの感謝を伝えるため。覆面をしたままでは礼を失するとリューは考えたのである。

 

 説得を諦めずにヒントまで与えてくれたアミッドにリューは自らの示すことができる最大限の感謝をその表情と態度で示した。

 

 そんなリューの感謝にアミッドは受け取る資格はないとばかりに申し訳なさそうに謝りつつ顔を上げたアミッドはなぜか思案顔になる。

 

 アミッドの思案顔をリューは不思議そうに見つめていると…

 

 次の瞬間にアミッドが口にしたのは今のリューにとっては喉から手が出るほど欲しかったと言っても過言ではない言葉であった。

 

「ならば…私からリオンさんに贈る言葉は一つでしょう。私達【ディアンケヒト・ファミリア】はリオンさんに全面的に協力致します。私達は医療系ファミリアですので、お力添えできる機会は限られますが…それでも私達にも迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すための一助をさせて頂きたいです」

 

「ほっ…本当ですか!?」

 

「リオンさんには誤解を与えてしまいましたが、ローヴェルさん達への配慮をさせて頂いた時点よりそのつもりでいました。ディアンケヒト様には話を既に通してあります。…団員達には未だ話はしていませんが、必ずや説き伏せましょう。私達【ディアンケヒト・ファミリア】はこれまでもこれからも皆さんを癒すために力を尽くします」

 

「ありがとうございます!今そのお言葉を聞けることが私に何物にも代え難い力を与えてくれます!本当にありがとうございます!【戦場の聖女(デア・セイント)】!」

 

「リッ…リオンさん…」

 

 アミッドが贈ってくれたのはリューへの協力宣言、リューと共に立ってくれるという心強い言葉。

 

 迷宮都市(オラリオ)を団結に導くのが如何に苦難を伴うか流石に理解しているリューからすれば、この言葉ほど今欲しいものはない。

 

 リューは嬉しさのあまり屈託のない笑みを浮かべ、アミッドの手を躊躇なく取りまでする。

 

 かつてのリューならばこのようなことは決してしない。

 

 だが喜びで心を満たされたリューを、そして同じ希望を取り戻そうと覚悟を決める同志を前にしたリューを阻むものなどもはやなかった。

 

 リューは無意識にあの惨劇の後から少しずつ自らの心の壁を取り払い始めていたのである。

 

 そして心の壁を取り払ったリューの笑顔には底を知らない喜びが溢れ出していると見るだけで分かるほどだった。

 

 そんな笑顔は女性のアミッドでさえも頬を赤らめて照れてしまうような破壊力があり、アミッドは思わずリューから視線を背けてしまう。

 

 一方のリューは自らの言動がどれだけ変化しているのか、全く気付いていないのでアミッドの手を握り締めたまま語り続ける。

 

「まだ私には迷宮都市(オラリオ)をどうすれば団結に導けるか…その具体的な方法は分かりません。ですが団結へと向けた行動を始めるための当てはあります。なので私を信じお待ち頂けませんか?」

 

「もっ…もちろんです。リオンさんを私は信じます。私達にできることがあれば何でもご連絡を。次にお会いする時には【ディアンケヒト・ファミリア】の全団員でリオンさんをお迎えできるように尽力致します」

 

 真摯な視線と共にアミッドに待っていて欲しいと頼むリュー。

 

 リューの言葉通り迷宮都市(オラリオ)の団結という希望を見出したリューの頭には早々にまずできることが浮かんでいた。

 

 そうしてリューの決意の籠った視線にアミッドは力強く頷いて応え、アミッドはアミッドで自らの役割を全うすることを約束した。

 

「ありがとうございます。【戦場の聖女(デア・セイント)】。では早々に不躾かもしれませんが、ファミリアの方々の説得はお頼みします。それと…私の仲間達のこともどうかお願いします。私が彼女達に希望を示せるまでは… 【戦場の聖女(デア・セイント)】だけが頼りです」

 

「…ええ。彼女達のことはお任せください。ローヴェルさんに関してもできる限り手を尽くします。リオンさんは後顧の憂いなくご自分の為すべきとお思いのことに専念なさってください」

 

「そのお言葉が聞けて嬉しいです。では…最後にアリーゼの姿を目に焼き付けてから、そろそろ帰らせて頂きたいと思います。【 戦場の聖女(デア・セイント)】。色々とご迷惑もお掛けしましたが、これからよろしくお願いします。希望を取り戻すため…共に戦いましょう」

 

「ええ。こちらこそお願いします」

 

 そう伝え合ったリューとアミッドは互いの手を固く握り締め合う。

 

 言うなればこの握手は二人の間で協力の誓いが成立した証であった。

 

 そうしてしばらく手を握り合った後、リューが立ち上がると向かったのは二人が話している間ずっとリューの視界にずっと映っていた未だ目を覚まさないアリーゼの元。

 

 アミッドの事前の注意もあって、リューはそれほど近づくことなく本棚の隣で立ち止まる。

 

 リューは何も言わずただただ目蓋の閉じられたままのアリーゼをじっと見つめた。

 

 リューの言葉通りアリーゼの姿を彼女の目に焼き付けるため。

 

 もうリューは覚悟を決めていた。

 

 

 次にアリーゼに会う時は希望を取り戻した時である、と。

 

 

 その時まではアリーゼには会わない。輝夜ともライラとも会わない。

 

 そんな不退転の覚悟を決めた。

 

 リューはその先に希望があると信じているから。

 

 だから躊躇することなくそのような敢えて自らを追い込むような覚悟を決める。

 

 どちらにせよ今のリューが彼女達に言葉を贈っても希望を取り戻させることはできない。

 

 ならば致し方ない…という悲壮な覚悟でもある。

 

 ただリューには漠然とした自信があった。

 

 この希望はアリーゼが考え出したもの。

 

 そしてリューとの賭けの題材にするほど実現することにアリーゼが自信を抱いていたもの。

 

 リューはアリーゼではない。

 

 だからアリーゼのように上手くはいかないかもしれない。

 

 だとしてもアリーゼが成就を確信していたのであれば…リューにはできないと確定した訳ではない。そんな根拠のない自信をリューは抱き始めていた。

 

 何よりアリーゼが意識を取り戻すために希望が必要ならば…リューは火の中であろうと水の中であろうと突き進む覚悟ができた。

 

 これまで幾度もリューに希望を与えてくれたアリーゼに今こそ希望を返し、その恩を返す。

 

 アリーゼを賭けに勝たせることができれば、アリーゼは勇んで意識を取り戻しリューのことを好きにしようとするに違いない…などという楽観的な考えまで思い浮かび、リューは思わず表情を綻ばせる。

 

 そんな余裕を抱き始めていること自体が実はリューが希望を取り戻し始めた証拠でもあった。

 

 リューが希望を取り戻し始めた今、次はアリーゼと輝夜とライラと…そして迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻す番である。

 

 アリーゼの姿はリューの脳裏にしっかり焼き付いた。

 

 次にリューが見るのは希望を取り戻したその時に見られるに違いないアリーゼの屈託のない明るい笑顔。

 

 そう確信したリューはアミッドに一礼を贈って、そのまま診察室を出る。

 

 そんな時リューの視界に飛び込んできたのは診察室のドアのそばの壁に背中をもたれていたアストレアであった。

 

「…ごめんなさい。外から聞かせてもらったわ。彼女の言うことは真実よ。ディアンケヒトから言質はもらってきた。あの子達も迷宮都市(オラリオ)の平和を願う…希望を求める気持ちは同じだった…それが確認できて本当に良かったと思うわ」

 

「ええ。…私も同感です」

 

「…行くのね?リュー?覚悟を…決めたのね?」

 

「…はい。アリーゼのために…輝夜のために…ライラのために…そして迷宮都市(オラリオ)のために…私が希望を取り戻します」

 

「それでいいわ。リュー。それでいい。どうやら考えはあるようね?」

 

「はい。ひとまずの為すべきことは見えています」

 

「なら私は何も言わないわ。行きなさい。リュー。私はあなたを信じてる」

 

「…っ!ありがとうございます。アストレア様。必ずやご期待に添います。ではっ…!」

 

 アストレアは多くを語らなかった。

 

 ただリューの背中を押すための言葉のみを贈るのみ。リューもまた決然とアストレアの言葉に応えるのみ。

 

 最低限の確認を交わした二人にはそれ以上の言葉はもう必要なかった。

 

 アストレアはリューが希望を取り戻すべく明確に動き出したことに安堵を覚えつつリューを送り出す。

 

 リューはアストレアの期待を正面から受け止め、アストレアの見送りを受けながら走り始めた。

 

 

 これは【アストレア・ファミリア】の本当の意味での再起の始まり。

 

 そして迷宮都市(オラリオ)が希望を取り戻すための第一歩となったのであった。




Q.どうしてみんなこんなにアリーゼさんに期待してるんですか?
A.アリーゼさんは今作のもう一人の主役、そして作者的評価でフィンさんを越えるオラリオを導き得る指導者の素質があると捉えるからです。
…と言ってもここからはアリーゼさんが目覚めるまでリューさんがアリーゼさんの代役を必死に勤め上げようと尽力する話が続くんですけどね。
本命アリーゼさんが舞い戻るのはもう少し先。まずはリューさんにアリーゼさんの背中目指して頑張って頂きます。

Q.どうして最初にリューさんとオラリオ団結へ向けた運動への協力の意志を表明したのがアミッドさん達【ディアンケヒト・ファミリア】だったんですか?
A.分かりません。流れでこうなりました。(笑)ま、アミッドさんとの絡みは後々さらに触れるつもりです。

Q.アミッドさんをそんな簡単に信じて大丈夫なんですか?
A.逆に聞くと、純粋っ子リューさんの判断を疑うんですか?純粋っ子リューさんが信じると決めたんですよ!?じゃあ信じてください。(真顔)

Q.迷宮都市(オラリオ)の団結。迷宮都市(オラリオ)の団結。って希望の形としては漠然とし過ぎてませんか?
A. その通りです。だからその具体的な形をリューさんはこれから見出していかなければならないのです。
ちなみに言うと原作においての迷宮都市(オラリオ)の団結は繰り返しかもですが緊急時にしか実現していません。外伝12巻の決戦の時のみです。ただこの時も迷宮都市(オラリオ)全体が団結していたかは甚だ疑問です。冒険者のみの話とも捉えられますから。
少なくとも『大抗争』の時でさえ民衆の一部は離反していたという厳然たる事実を見落としてはなりません。
団結と簡単には言えますが、決して楽ではないのは言うまでもないこと。

リューさんは…いえ、【アストレア・ファミリア】、迷宮都市(オラリオ)がどう団結への道筋を進んでいくか。
彼女達の活躍にご期待ください。

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