星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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狙った訳ではなかったのですが、今年最後の投稿としては一番相応しい回となった…そう断言できる回です。
偶然に心からの感謝を。(笑)


風は都市を繋ぐ礎を築く

「ちょっと待てよ!?迷宮都市(オラリオ)の団結ってマジで【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】込みなのかよ!?正気か!【疾風】!?」

 

「…それもギルドの協力も可能ならば取り付ける…リオン…あなたはどこまでお人好しなのですか…」

 

 ボールスとアスフィの呆れ混じりの声が会議室に響く。

 

 アミッド、アスフィ、ボールスの到着と協力宣言を聞き届けてまもなくリューの要望により早急にリューとシャクティを加えた会議が始められた。

 

 …が、会議は開始早々見事に紛糾。

 

 言うまでもなく原因は発起人たるリューにあった。

 

「ボールスもアンドロメダも何を今更なことを。確かに今は【フレイヤ・ファミリア】も【ロキ・ファミリア】も迷宮都市(オラリオ)の団結へ向けた協力を行う兆しもなくギルドも不穏な動きが多いです。ですが迷宮都市(オラリオ)の団結を目指すのならば、彼らの協力が必要であるのは自明ではありませんか?」

 

「それは…な」

 

「リオンの仰る通りですが…」

 

 リューの言い分は最もだ。

 

 迷宮都市(オラリオ)の団結を目指すならば、迷宮都市(オラリオ)に存在する全勢力が協力して然るべきだろう。

 

 だがそれはあくまで理想論に過ぎない。それがボールスやアスフィの言いたいことである。

 

 ただ加えて言えばその理想論を実現不能とみなす者もいる一方で実現したいと考える者もまた存在するのである。

 

「…我々【ガネーシャ・ファミリア】としてはギルドの権威がこれ以上失墜するのは迷宮都市(オラリオ)にとっても不利益があると考える。よってギルドの体面を保つため…という意味での協力関係の維持は必要だと思う。もちろん皆のギルドへの不信感は重々承知しているが」

 

「それを言うなら、私だって【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】との協力関係の構築は必要だと考えますよ?特に私達【ヘルメス・ファミリア】も【アストレア・ファミリア】も【ガネーシャ・ファミリア】も【ロキ・ファミリア】とは以前から懇意にしています。状況が状況なせいで協力が難しいですが、協力不能…ではないでしょう」

 

 意見を述べたのはシャクティとアスフィであった。

 

 彼女達はそれぞれの立場からギルドや【ロキ・ファミリア】との協力の実現を望んだ。

 

 協力が完全に不可能、期待の余地もない…特にギルドと【ロキ・ファミリア】は二人なりに必要性や期待が持ち得る対象であったのだ。

 

 だがそんな意見に猛反発したのがボールスであった。

 

「おいおい!そんな奴らの協力を仰ぐのに時間を無駄にしたらどうなるか【象神の杖(アンクーシャ)】もアンドロメダも分かってんだろ!?確かに最近の闇派閥(イヴィルス)の糞どもは衰退して息を潜めてるとは言え、再建の猶予を与えたら面倒なことになるぞ!今動ける戦力で闇派閥(イヴィルス)の糞どもを叩くべきだ!それ以外に策はねぇ!」

 

「だがそれをギルドの許可なしに行えば、我々がギルドの不信感を買う。そうなれば今でもギルドの指示に従っているファミリアを敵に回しかねないのを分かっているのか?」

 

「そうですよ…【ロキ・ファミリア】も【フレイヤ・ファミリア】も都市二大派閥としての立場があります。迂闊に戦力を動かせば、敵対行動とみなされる危険があります。ただでさえ先日はその都市二大派閥が抗争寸前にまで陥ったばかりなのですから…軽挙妄動は慎むべきです」

 

「軽挙妄動とは聞き捨てならねぇぜ!アンドロメダ!迷宮都市(オラリオ)を守るための行動が軽挙妄動とはどういうことだ!?」

 

 ボールスは闇派閥(イヴィルス)に対する即攻撃を頑として力説する一方シャクティとアスフィは協力を募った上での闇派閥(イヴィルス)への攻撃を検討する慎重論を唱え、議論が紛糾する。

 

 紛糾する議論を目の当たりにしてリューは議論に介入する機を伺うも判断を窮する。

 

 

 なぜなら誰の意見もリューにとっては最もだと思えたから。

 

 

 リューは闇派閥(イヴィルス)の蛮行によって苦しむ人々が生まれるのは許せない。

 

 だからボールスの力説する即攻撃論はリューの気の短い性格的にも完全に合致する所である。

 

 

 リューは今すぐにでも闇派閥(イヴィルス)を打倒し、迷宮都市(オラリオ)に平和をもたらしたい。

 

 

 だが一方でリューはこれ以上の犠牲を生まずに闇派閥(イヴィルス)を倒したいと考えている。

 

 そのためにリューが考え出したのが迷宮都市(オラリオ)の団結という理想であった。

 

 犠牲を減らすためには最大限に集められる戦力と叡智と物資が不可欠だ。

 

 それら全てを結集するには迷宮都市(オラリオ)に存在する全勢力の協力は必要不可欠。

 

 

 ならばシャクティとアスフィの唱える慎重論はリューの望みに一番相応しい。

 

 

 …だからリューは簡単に言えばボールスにもシャクティにもアスフィにも賛成だった。そのためリューはどちらか一方を擁護するような発言ができない。

 

 結果リューは思考を巡らしたまま沈黙し、三人の議論がさらに紛糾するのを見守ることしかできなくなる。

 

 そもそも即席で開催した会議。まとめ役など決められてもおらず、議論を統制できる者はいない。

 

 お陰で議論が紛糾したまま収拾が付けられなくなる…そうなるかと思いきや。

 

 リューはあることに気付き、その紛糾を結果的に抑え込むことになった。

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】…?あなたのご意見はどうでしょうか?まだ一言も発言なさっていないような気がしますが…」

 

 リューが話を振ったのはアミッドであった。

 

 リューの言うようにアミッドは未だ一度も発言することなく瞑想をしているかのように沈黙を保ち続けている。

 

 そのアミッドがどのような意見を持っているのかリューは関心を抱き、何気なく尋ねてみることにしたのだ。

 

 何より【ディアンケヒト・ファミリア】の団長であるアミッドの発言の影響力は決して小さくない。

 

 議論を直前まで紛糾させていた三人も口を閉ざし、アミッドに視線を向けて意見を仰ごうとする姿勢を見せる。

 

 すると四人の視線が集中する中アミッドはゆっくりと閉ざし続けていたその口を開いた。

 

「…正直言って戦略的なことは私には分かりません。その点に関して私は口出しするつもりは一切ございません。皆さんにお任せするつもりです。ディアンケヒト様からも不要な介入は控えるようにご指示を賜っています。ですがあえて一言申し上げさせて頂くならば…私達【ディアンケヒト・ファミリア】の治療師の総意は傷ついて私達の治療院を訪れる方が一人でも少なくなることのみ。そのための最善策を執ることこそが私達に求められること。ならば私達に必要なのは柔軟性。違いますか?」

 

「…わりぃ。聖女様の言いたいことがよく分からねぇ…要は俺の意見に賛成なのか【象神の杖(アンクーシャ)】とアンドロメダの意見に賛成なのかどっちなんだ?」

 

「はぁ…これだからボールスは…」

 

「おい…アンドロメダ?その溜息はなんだ?馬鹿にしてんのか?」

 

 アミッドは淡々と自らの不干渉の立場を表明しつつ、柔軟性の必要性を説く。

 

 その意味をボールスは把握できずぼやくが、アスフィもシャクティもそしてリューもアミッドの言いたいことは瞬時に察していた。

 

「つまりはですね…ボールスの意見もシャクティの意見も私の意見も切り捨てることなく柔軟に状況に応じて採用すべきということですよ。誰かの意見が正しく誰かの意見が間違っているということではないということです」

 

「おっ…おう。なるほどな」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】の仰る通りだと私も考えます」

 

「テアサナーレの言うことは最もだ。だが…基本方針というものは必要だ。それを事前に共有しなければ、現状集まっている我々の協力行動にも齟齬が発しかねないだろう。その点はどうするつもりだ?」

 

 アスフィがアミッドの言葉の意味を説明すると共にリューはアミッドの意見にここぞとばかりに賛成を表明する。

 

 アミッドの言葉はまさにリューの考えを代弁していたに程近かったからである。

 

 ただシャクティが指摘したように柔軟にというのは場当たり的な行動と裏返しに程近い。

 

 そのためシャクティは現状の協力関係を維持するためにも方針の決定は必要なのではないかとアミッドに問う。

 

 その問いにもアミッドは一切の抜かりはなかった。

 

 

「その最終決定はリオンさんの判断にお委ねすべきでしょう」

 

 

「…え?私…ですか?」

 

 アミッドが整然と告げた言葉に委ねられた張本人であるリューが目を点にして驚く。

 

 驚くのも当然だ。これまでの議論の結論をリューに出せと求められたのだから。

 

 自分の中でも結論が出せなかったリューが周囲の命運をも決める決定を出すなど重荷以外の何物でもない。

 

 リューはアミッドの言葉に思わず動揺し言葉を失ってしまったものの、すぐにアミッドに前言撤回を求めようと考える。

 

 が、それよりも前に話だけが進んで行ってしまっていた。

 

「ま、それがいいだろうな。【疾風】の結論になら俺は従ってもいいぜ」

 

「だからどうしてボールスは…まぁいいでしょう。私もリオンの結論になら納得します」

 

「同感だ。問題があればもちろん諫めるが…リオンなら大丈夫だと私は思う」

 

「おっ…お待ちを!!どうしてそのようにあっさり【戦場の聖女(デア・セイント)】の言葉を受け入れているのですか!?」

 

 リューが思考停止に陥っているうちにボールスもアスフィもシャクティもあっさりリューの判断に委ねるという言葉に賛同の意思を示していたのだ。

 

 

 つまりはこの場にいるリュー以外の全員が賛同してしまったということ。

 

 

 その事実にリューはさらに動揺を深めつつ反発の声をようやく上げる。

 

 だがリューの反発は色々な意味で遅かった。

 

「…と言われても元々俺らって【疾風】の理想に賛同して集まったんだから、当然と言えば当然じゃないか?」

 

「しかしっ…私などに任せるなど…私では判断を誤るかもしれませんし、そのような大任を任せて頂くわけには…」

 

 ボールスの指摘は理に適っていた。

 

 この場にいる四人は皆リューの理想に動かされて集い、迷宮都市(オラリオ)の団結を実現しようとしている者達である。

 

 ならば理想を提唱したリューの判断に従うべきという考えは至極全うだ。…というよりはリューの理想を完全な形で実現したいならば、本来率先して最終決定権を握るべきであろう。

 

 だがリューはまだ責任ある立場に立った経験は皆無であり、最終決定権を委ねられるという重荷を簡単には受け入れられない。

 

 さらにリューの迷宮都市(オラリオ)の団結を為す本当の目的を鑑みてしまえば、その最終決定権自体リュ―の中では重要性が高くないのである。

 

 

 なぜならリューの本当の目的はアリーゼと輝夜とライラの希望を取り戻したいだけなのだから。

 

 

 そのためリューにとっては迷宮都市(オラリオ)をどのように団結させるかの形に大きな意味はない。

 

 ただ彼女達の希望を取り戻したいだけ。

 

 リューには最終決定権など不要であった。

 

 とは言えリューの本当の目的を知らず、リューがただ迷宮都市(オラリオ)の未来を考えて行動を起こしたと思っている者達からすればリューの固辞は単なる謙遜にしか見えず。

 

 むしろ周囲はリューに最終決定権を引き受けてもらえるように背中を押す流れになっていった。

 

「大丈夫ですよ。何もリオンに全ての責任を押し付けようとかそういうつもりはありません。ただ私達はリオンに見えている理想を共に見てみたい…そんな願いを抱いています。だからリオン。私達はあなたに判断を委ねたいのです」

 

「アンドロメダの言う通りだな。私達は全身全霊を以てリオンを支えていくつもりだ。間違った判断だと思ったらこの場にいる誰かが必ずリオンを諫めるだろう。そして間違えたとしても決してリオンを責めたりはしない。…私もアンドロメダと同じだ。リオンの理想とする迷宮都市(オラリオ)を見てみたい」

 

「アンドロメダ…シャクティ…」

 

 アスフィとシャクティの説得にリューは如何に自らが信頼され期待されているかを感じ取る。

 

 それ自体リューからすれば重荷とも感じられるのだが、そんな信頼と期待をリューは裏切ろうとはとてもではないが思えなかった。

 

 そうして三人の考えを総括するようにアミッドが最後に口を開いた。

 

「…ということです。リオンさん?私達はリオンさんの示す理想を…リオンさんの心に宿る【アストレア・ファミリア】の正なる天秤を信じ、迷宮都市(オラリオ)の希望を取り戻す大役をお引き受け頂きたいのです。…この派閥連合の指導者に就任して頂けませんか?」

 

 アミッドが提示したのは派閥連合の指導者の立場。

 

【アストレア・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】、【ディアンケヒト・ファミリア】、【ヘルメス・ファミリア】、そしてリヴィラ。

 

 これだけの派閥が集まっただけでももう既に立派な派閥連合である。さらに言うならばリューはさらなる団結の拡大を目指している。

 

 ならばその派閥連合を束ねる指導者がどうしても必要だった。

 

 

 一年前までは存在した派閥連合の指導者であった【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナのような指導者が。

 

 

 改めてリューは自らの置かれることになる立場を実感し、その責務が如何に重責かを悟る。

 

 改めてリューは自らの望む希望を取り戻すということが如何に困難を極めるかを理解する。

 

 だがリューは今更引くつもりはなかった。

 

 リューの元には四人の信頼と期待を含んだ眼差しが向けられている。

 

 リューには大切な三人の仲間達の希望を取り戻すという使命が与えられている。

 

 

 リューは自らに与えられた眼差しと使命のために指導者としての立場の重荷を甘んじて受け入れる覚悟を決めた。

 

 

 小さく深呼吸をしたリューは四人の眼差しに応えつつゆっくりとその信頼と期待に応えるべく言葉を紡ぎ始めた。

 

「…私の今の立場はただの【アストレア・ファミリア】の団員に過ぎません。ファミリアの団長であるあなた方には多くの面において及ぶことはないでしょう。本来であればせめて団長で対等な立場であるアリーゼにお任せしたいと今でも思ってしまいます。ですがアリーゼは今立ち上がることができない。ならば…アリーゼの代わりに私が立ちます」

 

 

「不肖の身ですが、私リュー・リオンは皆さんの支持の下派閥連合の指導者に就任させて頂きます。どうかこれより未熟な私をお支えください。共に迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すために戦いましょう」

 

 

「おう!これからよろしく頼むぜ!【疾風】!」

 

「ええ!共に迷宮都市(オラリオ)に希望を…!」

 

「リオン…よく決断してくれた。私の力が及ぶ限り支えると誓おう」

 

「リオンさんのそのお言葉をお待ちしておりました。…きっとローヴェルさんもお喜びになるはずです」

 

 リューは確固たる覚悟の元そう宣言し、改めて協力を仰ぐべく頭を下げた。

 

 そんなリューに四人は勇気を与えてくれる言葉を贈ってくれる。

 

 リューはそんな言葉を贈ってくれる友人達に感謝の念を抱きつつ、四人の信頼と期待に応えるべく自らの引き受けた役割を全うしようと続けた。

 

「では…先程の皆さんの考えをお聞きした上での私の判断を早速述べても宜しいですか?」

 

「もちろんです。リオンさん。遠慮なくどうぞ」

 

「分かりました。ならば…」

 

 リューは早速指導者としての初仕事として派閥連合の方針の結論を述べる許可を求める。

 

 その求めにアミッドが即座に応じて奨励し、他の三人も頷きで賛同の意を示してくれた。

 

 よってリューは間を置かず何とかまとめ上げた自らの判断を言葉にした。

 

「まずですが、ボールスの言う闇派閥(イヴィルス)への即攻撃には私は賛成です。再建の猶予を与えることなく一網打尽にすべきです。よってアジトの捜索と検挙をより強力に推し進めることは不可欠であると考えます」

 

「よっし!流石【疾風】!話が分かってるじゃねぇか!」

 

 リューはまず最初にボールスの意見への賛同の意を表明する。それにボールスはガッツポーズまで決めて上機嫌になる。

 

 ただボールスにとっては少々残念なことにリューは全面的にボールスの意見を受け入れたわけではなかった。

 

「ですがアンドロメダとシャクティの考えにも賛成です。闇派閥(イヴィルス)の討伐を延期することは望ましくないと考えますが、ギルド、【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】の協力を得るための努力も惜しむべきではないでしょう。無論中規模ファミリアや商会…迷宮都市(オラリオ)に共に暮らす全ての人々の協力を得るよう行動しなければならないと思います。不可能だと決めつける根拠などどこにもありません」

 

「…ま、リオンならそう言うと思ってましたよ。ええ。皆の力でやってみせようじゃないですか!」

 

「全ての人々…か。やれるだけやってみるべきだろう。リオンの言う通り最初から諦めるのは望ましくないな」

 

 リューはアスフィとシャクティの考えをより拡大して本当の意味で迷宮都市(オラリオ)を団結に導くべきだと説く。

 

 その言葉にアスフィもシャクティも呆れ気味ながらもその理想に賛同する。

 

 そうしてリューの言葉を総括するようにアミッドは言った。

 

「つまりリオンさんは闇派閥(イヴィルス)の討伐と迷宮都市(オラリオ)の団結を同意並行で進めていくべきだ…と」

 

「そういうことです。私の考えに何か問題はあるでしょうか?」

 

 アミッドがリューの考えを要約し、その要約を認めたリューは皆に意見を求める。

 

 それに対して皆が頷いて賛同する中、シャクティが一つの疑問を口にした。

 

「リオンの考えには私も賛成だ。だが誰がどのように進める?現状でも総員は四百人を超えている。分担を明確にしなければ、現場が混乱しかねない。どのように進めるつもりだ?」

 

「それは…私には分かりません」

 

 リューはシャクティの口にした疑問に対して素直に分からないと吐露する。

 

 言うなればリューが考えているのは理想だ。その理想をどのように実現するかはある意味リューの専門外。

 

 今までであれば、輝夜が情報を集め、ライラが策を練り、アリーゼが実現へと導いてきた。

 

 リューはあくまで漠然とした理想を言葉にしたり、アリーゼが実現するために力を振るったのみ。

 

 …シャクティの求めにはとてもではないが応じる器量をまだ持ち合わせていなかった。

 

 輝夜もライラもアリーゼもこの場には当然いない。だからリューはほとほと困り果てる。

 

 だがリューにはそれでも支えてくれる者達がいてくれていた。

 

「ならば皆さんで引き受けることのできる役割をそれぞれ話して頂けばよいのでは?リオンさんの参考になるはずです。ちなみに私達【ディアンケヒト・ファミリア】は検挙の際に治療師が同行できるように手配します。それ以上にお役に立てないのが心苦しいですが…ん何かあれば、ご連絡を。最善を尽くします」

 

「俺達リヴィラならダンジョンで闇派閥(イヴィルス)の不穏な動きがないか監視する…ぐらいか?十八階層は何かと冒険者が通りかかるから情報も手に入れやすい。ダンジョン内での情報収集なら俺達に任せろ」

 

「そうなれば私達【ヘルメス・ファミリア】は地上での情報収集に専念できそうですね。闇派閥(イヴィルス)のアジトを早急に突き止められるように善処しましょう」

 

「となると、我々【ガネーシャ・ファミリア】は検挙の際の実行部隊か…少々現有戦力では荷が重い気がするが…アンドロメダ?ボールス?場合によっては協力してもらえるか?」

 

「賞金首があるなら、何なりと…だな。【象神の杖(アンクーシャ)】?」

 

「…私が過労死しない程度にしてくださいよ?ただでさえ情報収集をするだけでも私の負担が多いんですから…」

 

「…という感じに現状は分担できそうです。このような形でよろしいでしょうか?リオンさん?」

 

 考えを導き出せないリューを支えるように四人がそれぞれの担えるであろう役割を率先して口にして、話を進めてくれる。

 

 その配慮にリューは感謝せずにはいられない。

 

 感極まった表情を浮かべつつ力強く頷いたリューは四人と同じように自らの担えるであろう役割を述べた。

 

「私は…まず検挙の実行部隊には当然加わります。私の本来の力量を考えれば、それぐらいしかできることはないですから。ただ迷宮都市(オラリオ)を団結に導くための交渉役はどうしますか?これまで通り私も是非貢献したいのですが…私の言葉が果たして本当に迷宮都市(オラリオ)中の人々に届くのか…」

 

「自信をお持ちください。リオンさん。私達の心を動かしたリオンさんの理想なら必ず迷宮都市(オラリオ)中の人々に届きますよ」

 

「アミッドの言う通りです。…ただ近日のリオンの不当な悪評に関してが、気になります。そこは問題ないでしょうか?」

 

「心配するな。その点は我々が正しい情報を公表し、誤解を解けるように情報を拡散している。少し時間は要するだろうが、リオンの悪評は必ず取り除かれる。そうなればリオンのこれまでの行動への理科が深まり、団結への大きな力になるだろう」

 

「何せ【疾風】はギルドと【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】の本拠に乗り込んで、正面から説得を試みたすげー肝っ玉の持ち主だから、な?」

 

「ボールス…それはリオンを褒めているつもりなのですか?」

 

 リューが提示したのは闇派閥(イヴィルス)と戦う実行部隊と団結へ向けた交渉役の役割。

 

 実行部隊はともかく交渉役に関しては、リューは不安を抱いていたが周囲は揃ってリューを勇気付ける。

 

 そのお陰もあり、リューは自信を蓄えてその役割を担う決心を決めることができた。

 

「ありがとうございます。皆さんの言葉は私にとって非常に力になります。ならば交渉役の役割も引き受けさせて頂きます。最優先はギルドと【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】との交渉…ただそれだけをこなすのにも私一人では流石に不可能です。是非とも団長でもある皆さんの力が必要です」

 

「了解しました。私もリオンさんと同じように協力を取り付けるため言葉を尽くしましょう」

 

「ま、俺もそれなりに顔は利くからな!リヴィラの連中だけでなく懇意にしてるファミリアの連中も協力させられねぇか動いてやる!」

 

「そうだな。私の立場だからこそできることもある…か。ギルド傘下のファミリアの協力を得られないか手を打ってみよう」

 

「…皆さんがそう仰るなら私も頑張りますが…私休む暇あるんですかね…ほんと…」

 

 リューの協力要請に四人は快く受け入れる。…一人アスフィは自らの仕事の多さを想起して、遠い目をしていたが。

 

 それはともかくこうしてリューを含めて派閥連合内の役割分担の大方の枠組みがここに定まった。

 

 そうなれば次はその役割に沿った行動へ移る時だ。

 

 

 リュー率いる派閥連合の迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すための戦いがこれより始まる。




リューさん率いる派閥連合結成!
…ま、言うまでもないですがリューさんには現状フィンさんのような指揮能力は皆無です。
こんな指導者を押し立てて大丈夫なのかって話なんですが、周囲が非常に優秀なので心配は無用です。シャクティさんという指揮官としてはダンまちトップクラスの人材がいるので何とかなります。
リューさんに求められる役割は言うなれば理想を唱える旗振り役。
リューさんは言うなればこの派閥連合の精神的支柱です。リューさんは【フレイヤ・ファミリア】にとってのフレイヤ様でしょうか?絶対的忠誠はありませんが、リューさんあってに派閥連合です。
…流石はリューさん至上主義者の考えですね!

それはともかく流れで派閥連合の精神的支柱になってしまったリューさんですが、非常に残念なことに決定的な欠陥を備えています。
それは目的意識の歪み。
リューさんは迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻したいというよりはアリーゼさんと輝夜さんとライラさんの希望を取り戻したい。
取り戻したい希望は最終的に一緒なので言うほど問題はないんですが、欠陥は欠陥。
後に問題を引き起こす…かも?

ちなみに総員四百名というのはほぼ適当です。原作には派閥の構成員の人数はほとんど言及されてませんからね。しかも五年前では尚分からない。
一応の目安は…
【アストレア・ファミリア】:一名
【ガネーシャ・ファミリア】:約二百名
【ディアンケヒト・ファミリア】:約五十名
【ヘルメス・ファミリア】:約五十名
リヴィラの街:約百名
あくまで総力を挙げれば…です。本拠の防衛や【ガネーシャ・ファミリア】には都市の治安維持等々各派閥動かせない人員がいるので総力で四百名は動けません。
ただリューさん一人で戦うよりは格段に心強い。
そして現状の戦力だけでも既に人員数のみでは都市二大派閥に匹敵します。…まぁ第一級冒険者の人数が及ばないのがダンまちの世界では致命的な欠点ですが。
ただこれだけの勢力が突如出現し、勢力拡大に動き出したということ…その意味は今後物語に多大な影響を与えることになるのは覚えておいて頂きたい点です。

ここに体制が確立されたこともあり、更新された人物相関図も掲載しておきます。宜しければ参考に。

【挿絵表示】


さて今話で今年最後の投稿です。
新年最初はこの話の裏話をお送りしたいと思います。

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