星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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新年明けましておめでとうございます!
今作は引き続きリューさんとアリーゼさんを中心に如何にオラリオに団結と平和をもたらすかを重点に物語を進めていく予定ですので今後ともよろしくお願いいたします。

…え?アリーゼさんの出番が最近ないと?その点に関してはご心配に及びませんよ!


神々の舞台裏

 リューは彼女の語る理想に共鳴した友人達と共に派閥連合を結成し、迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すべく立ち上がった。

 

 そうしてリューの決断の下派閥連合の方針を決め終え、各派閥が行動に移り始めてから二日後のこと。

 

 ある神(アストレア)は自らの愛する眷族達を陰から支えるために。

 

 ある神(ヘルメス)大切な眷族(アスフィ)の涙ながらの熱意に渋々ながらも応えるために。

 

 ある神(ガネーシャ)はリューの麗しき理想に群衆の主(ガネーシャ)としての志を重ね合わせて。

 

 ある神(ディアンケヒト)はリューの麗しき理想と医神としての誇りの繋がりを見出して。

 

 リュー達が敬意を表する主神達もまた自らの眷族達と同じく行動を開始していた。

 

 これはリュー達の知らない舞台裏での話である。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「いやぁ…この面子で集まることがあるなんて正直予想してなかったぜ」

 

「それには私も同感と言えば同感ね」

 

「うむ。主にヘルメスがいることがな」

 

「その通り。アストレアやガネーシャはともかくヘルメス。お主がここにいるのは一番衝撃的だわ」

 

「え?アストレアもガネーシャも結構酷くない?というかディアンケヒト!お前がここにいることが俺的には一番衝撃的なんだけどなぁ!?」

 

 舞台裏に集っていた神々とはアストレア、ガネーシャ、ヘルメス、ディアンケヒトの四人。

 

 どの神も言うまでもなくリューの結成に漕ぎつけた派閥連合に参加する派閥の主神達である。

 

 ただ集まって早々本題…という風には進まず、まず最初に面子の確認で衝撃が走っていた。

 

 そしてその原因はヘルメスの主張するディアンケヒトの存在…ではなくヘルメス以外の三人の視線を集めるヘルメスの存在であった。

 

「…正直俺はゼウスとヘラの時のように中立を気取って、日和見でもするかと思ったぞ?」

 

「今の迷宮都市(オラリオ)はロキとフレイヤが一触即発の状態で状況がどう転ぶか分からないからこそ、ね?」

 

「そうじゃ。そうじゃ。アミッドから【ヘルメス・ファミリア】が協力を名乗り出たと聞いた時は、ヘルメスが妙な媚薬でも飲んで判断が狂いでもしたのかと思ったわ。…まぁ半分冗談じゃが」

 

「おいおいおい。酷くない?俺ってそんなに信用されてないのか?…あぁ。何も言わなくていい。皆迄言わなくていい。その視線で分かったから。俺の扱いが大体分かったから、大人しく事情を話すよ」

 

 ヘルメスは三人の酷評に反論しようとするが…自らの向けられる視線に相手が神の力でも感情の読めない神であろうと、流石に察せざるを得なくなる。

 

 そのためヘルメスは一応自らに向けられている疑念を晴らすために肩を竦めつつ正直に事情を話すことにした。

 

「…いやぁ仕方ないだろ?本当は俺としてはロキとフレイヤの関係を時間が改善してくれるのを待って、それまで自重しようと思ってたんだぜ?…でもアスフィがリューちゃんの熱意に動かされちゃって…」

 

「うちのリューがヘルメスの所のアスフィさんに?」

 

「そうだぞ?アストレア?リューちゃんが【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院で騒ぎを起こした時からアスフィの奴居ても立っても居られなくなって、俺が止めるのも無視して助けに行ったかと思えば…本拠にリューちゃんを引き込んだ時に言われた『共に迷宮都市(オラリオ)の希望を取り戻すために戦おう』っていう言葉にすっかりアスフィの心が揺らいで…」

 

「それで【万能者(ペルセウス)】が決断したからヘルメスはここにいる、と?」

 

「要はそういうことだ。いやー泣き顔アスフィを見れたときはリューちゃんマジ感謝とか思ったけど、今となれば俺の見通しが甘かったとしか言いようがないなぁ」

 

 ヘルメスは降参と言いたいかのように両手を挙げてヘラヘラと笑う。

 

 そんな不真面目な態度で語り続けるのかと思いきや、ヘルメスはすぐにも表情を一変して真剣に続きを語った。

 

「正直言って俺はアスフィにとってリューちゃんがどれだけ大切か見誤ってたみたいだ。『大切な友のために立てずしていつ立つのか』…あの時のアスフィの涙ながらのセリフと迫力は当分忘れられないなぁ。…あの勢い下手すればリューちゃんのためなら神殺しも辞さなかったかも」

 

「うぅむ…まぁヘルメスの【万能者(ペルセウス)】の扱いを見れば若干仕方ない気もするが…」

 

「さっきからガネーシャ随分と色々言ってくれるなぁ…ともかくそのアスフィの迫力がファミリアの全員の協力を引き出して俺の意志放置でリューちゃんに協力する方向に動き出した。そうなれば俺も止めることができなくなった、という訳さ」

 

「結局お主自身は渋々、ということか?」

 

「本音を言うなら、な?俺はあくまでロキとフレイヤの関係改善が迷宮都市(オラリオ)にとって最優先課題と思ってる。それを時間しか解決できない以上、不要な行動は控えるべきで…」

 

「と言いつつヘルメスは眷族達の言うなれば暴走を止めなかった。それはヘルメスなりの眷族達への愛か…それとも別の思惑が働いてか。そういうことでしょう?」

 

「ま、そこら辺はアストレア達の想像に任せるよ。」

 

「そう…ならそれ以上は何も聞かないでおくわ」

 

 ヘルメスはアスフィの振る舞いは真面目に語ったものの、アストレアの詮索にはいつも通りの不真面目な態度で応じた。

 

 その意味はまだ自らの真意を明かすつもりはないということ。即ち信頼関係が未だに強固ではないことと同義だった。

 

 そんなヘルメスの反応にアストレアはあっさり引き下がる一方でヘルメスはその信頼関係の弱さを証明するかのようにディアンケヒトに視線を向けて尋ねた。

 

「それで?ディアンケヒトはどうして協力に動いたんだ?【ディアンケヒト・ファミリア】は医療系ファミリアだし、お前は金銭的利益の絡まないこういう話に積極的とはとても思えないんだが?」

 

「それをお主に言われたくないわい。儂は医神である以上迷宮都市(オラリオ)の平和に無関心な訳なかろうて。それにヘルメスは知っておろうが、アストレアの傷ついた眷族達が移送されてきたのは儂のファミリアの治療院じゃ。そこからの繋がりじゃよ。あとは…アストレア自ら単身で本拠に乗り込んできて、儂との直談判を要求してきたり…それ以来アストレアと眷族達は儂の治療院でギルドから匿っておったから、関係が深まるのは自明だと思うがのう」

 

「当然俺も移送のことも匿ってることも知ってたが…あっ…相変わらずアストレアの行動力はパワフルだなぁ…」

 

「別にリューも同じタイミングでアミッドさんの元に直談判しに行ってる訳だから、普通じゃないかしら?」

 

「神と眷族では振舞い方が一緒とは本当は思えないんだけどなぁ…」

 

主神()眷族()は自ずと似るものなのはヘルメスだって知ってるでしょう?だからこれが普通よ?」

 

 ディアンケヒトの協力の理由は医神としての立場と近日急速に深まることになったアストレアとの関係性。

 

 ただアストレア達にはディアンケヒトに治療と保護をしてもらった恩があるとしても、ディアンケヒトがアストレア達に積極的に協力する理由がその説明からでは弱く感じられる。

 

 それに気付かぬヘルメスではなかった。

 

「そしてアストレアがディアンケヒトに直談判した前後で二人が協力関係に至る何かしらの条件ができた…違うか?」

 

「…なぜそう思うんじゃ?」

 

「ディアンケヒトが医神としての誇りだけで無償で積極的に動くとは思えないから、かな?アスフィの話ではアミッドちゃんの協力具合も相当だとか。何でもうちのアスフィと同じくアミッドちゃんもファミリアの団員達を積極的に説得してファミリアを協力へと動かしたとか。ただアミッドちゃんとリューちゃんの関係は本来そう深くないし、一・二度会っただけで変わるってのも少々奇妙だ。…何かあるんだろう?ディアンケヒト?」

 

「それは…のう」

 

 ヘルメスの追及にディアンケヒトは顔を顰め、言葉を濁らす。

 

 生憎ディアンケヒトは嘘があまり得意ではない性分。だからライバル視している同じ医神であるミアハにもついつい突っかかってしまう訳で…

 

 狡猾さを含むヘルメスの詮索には少々ディアンケヒトでは分が悪いと言えた。

 

 そのため擁護するようにディアンケヒトの協力を引き出したとヘルメスが考えるアストレアが口を挟むことになった。

 

「近いうちに分かるわ。ヘルメス。そしてその分かることはヘルメスにとって決して不利益があることではないと約束する」

 

「…要は君の口からもまだ話せない。そういうことなのか?アストレア?」

 

「誰しも隠し事の一つや二つはあるものよ。ヘルメス。それを全て知ろうとすれば、親密だった関係はいとも簡単に壊れる。つい最近にもロキとフレイヤがそうなったのだから説明するまでもないでしょう?だからまずは信じ合わないと」

 

「それもそうだが、信じ合うための条件を俺は整えたい。俺が集める情報が俺の眷族達の命に関わるかもしれない以上、知れることは全て知っておかないと、な?」

 

 アストレアとヘルメスは視線をぶつけ合う。

 

 互いに親密な関係であろうと、話せぬ事柄がある。一方で互いの明かさぬ事柄を可能な限り知ろうと試みる。

 

 アストレアはその試みが親密な関係の破壊に繋がると説く一方でヘルメスはそれでも自らの身を守るためには試みる必要があると説く。

 

 どちらも正しい、と言えた。同時にどちらも完璧な正解ではないのは明らか。

 

 そして多くの人々が疑心暗鬼に陥っている今の迷宮都市(オラリオ)の現状を踏まえれば、ヘルメスの言葉の方が現実味があり真っ当な判断であろう。

 

 だがアストレアは…いや、アストレアと彼女の理想を体現しているに程近いリューとリューを支える者達の考えは違った。

 

 ヘルメスの説くような現実味のある判断を越えた判断の元動いていた。

 

「ヘルメスの言葉も言う通りよ。ただ…リュー達は互いを信じ合い、助け合って迷宮都市(オラリオ)の絶望を打ち払おうとしている。それこそ迷宮都市(オラリオ)中の子供達…彼らだけでなく迷宮都市(オラリオ)中の神々よりも先に疑心暗鬼に陥る不信感から逃れられない精神状態から脱却しつつある。それはヘルメスも知っているでしょう?」

 

「それは…ほんとアスフィを見てて思うが、何をどうしたらそうなるのか正直俺には理解できないな。だが…アストレアの言う通りだ。アスフィ達は既に不信感に縛られない行動を取れている」

 

「なら、私達も不信感に縛られないようにしないと。お互い後ろ暗い所もあるでしょうけど…それでも互いを信じ合い、迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すために行動していきましょう?私もディアンケヒトもできる限り早くそうできるように善処する」

 

「儂もアストレアと同感じゃ」

 

「うむ…アストレアの言う通りだ。俺もそういう心構えで協力していきたいと思う」

 

「…分かった。三人がそう言うなら俺もそうしようじゃないか。俺もできる限り早く俺の思惑を話せる機会を作るとしよう。それでいいかい?アストレア?」

 

「ええ。私達神もリュー達と同じように信じ合い手を取り合っていけるようにしましょう」

 

 アストレアの言う通りリューの示した理想はリューの友人達の心を動かし、互いへの不信感を越えさせた。

 

 それは迷宮都市(オラリオ)の現状を考えれば、人々どころか神々の想定をも越える境地である。

 

 リューの示した迷宮都市(オラリオ)の団結という理想はそれほどまでに夢物語であると同時に、その第一歩を踏み出せたという事実は神々としても衝撃的なことだったのである。

 

 

 なぜならその境地は迷宮都市(オラリオ)の人々が理想とみなす『二十七階層の悪夢』以前の団結の段階をも凌駕しうる境地なのだから…

 

 

 そしてその境地に自らの眷族達が辿り着いた以上主神である四人も至らない訳にはいかないという結論に辿り着く。

 

 それは不信感を抱き続けたヘルメスでさえも至った結論であった。

 

 こうして四人の主神の間で考えが一致した所で、ようやく話は本題へと移ることができた。

 

「それで…だな?雑談はそこそこに俺達の役割確認を進めるのはどうだろうか?」

 

「あら、ごめんなさい。ガネーシャ。話が逸れすぎたわね」

 

「…そういえば今更ながら今日のガネーシャは自己主張が弱いな?」

 

「む?ヘルメスはお待ちかねだったか?ならばっ!俺はぁぁぁ!ガネーッッッ…!!」

 

「ガネーシャ。自分の言葉通り役割確認を進めましょう?ヘルメスも余計な煽りはやめなさいね?」

 

「はっ…はいっ!そうします!」

 

「すっ…すまなかった。アストレア…」

 

 ガネーシャは話を本題に移そうとするもヘルメスの余計な呟きがガネーシャの抑え込まれていた熱烈な自己主張を引き出しかけたが…

 

 アストレアの頬は緩んでいても目は全く笑っていない表情で告げられた注意にガネーシャもヘルメスも瞬時に沈黙することになった。

 

 その様子をディアンケヒトは一人部外者として呆れ顔で眺めることになる。

 

 そんな余計な脱線をさらに繰り返しつつもガネーシャは改めて本題へと話を進めた。

 

「で…まず各々ファミリアの役割に関しては眷族から聞いていることだろう。それを受けて俺達は何をするかが問題だ。生憎…【疾風】は…」

 

「そこら辺のことは決められないって匙を投げっちゃったらしいからなぁ…リューちゃん…確かに神々に敬虔なリューちゃんが神に指示を出せないっていう言い分は分からないでもないけど、曲がりなりにも派閥連合の指導者ならそれではちょっと…って感じだな」

 

「うーむ。そこはアミッドも困っておったわ。【疾風】は即断即決で行動する割に時折唐突に優柔不断になるのが対応に困る…と」

 

「…リューからその話は聞いてるけど…私はリューにお任せするって言われちゃってて…だから私達で決めればいいと思うわ」

 

 三人の困り顔にアストレアは返事に窮し、一応の代案を提示する。

 

 現在派閥連合の指導者になったリュー。ただ未だ慣れぬ立場であるため、指示の混乱も多い。

 

 その混乱は今後さらに増加すると思われるが、早々に噴出したのが各派閥の行動指示。

 

 会議の時点では友人達が率先して自らの率いるファミリアの役割を提示することで乗り切ったが、主神にどのような役割を依頼するかまでの介入は眷族という立場からリューが望まなかった。

 

 そのため結論を導き出せず、各団長からそれぞれの主神に横流しされた挙句今こうして主神達が話し合う場が必要になってしまった…という訳である。

 

「アストレアと【疾風】がそう言うなら…それでいいだろう。それで?俺達は何をすればいいのだ?シャクティからはまずリヴィラの街の子供達の主神達をしっかり味方に引き入れる必要があると聞いているが…」

 

「私はその説得が最優先だと思ってるわ。何でもリヴィラの街のボールスという子がリューに積極的に協力を申し出た結果参加してる…だったかしら?リューがいつの間に殿方に積極的に迫られるようになったのかは気になるけど…」

 

「アストレアがそう言うことにも関心があったのは結構衝撃なんだが…それはともかく同じことを俺もアスフィから聞いた。派閥連合内部の団結を維持するために必要だろうな。…主神達を説得できればリヴィラの街だけでなくさらに多くのファミリアを味方に引き入れられるはずだ。その説得を手分けして俺達でするのは最優先だな」

 

「儂も同感じゃ。真っ先に思い浮かぶのがそれじゃろう」

 

 そうしてまず出た案はリヴィラの街の冒険者達の主神達の説得。

 

 リヴィラの街は一人の神の眷族達で構成されている訳ではなく、多くのファミリアの眷族達の混成集団なのでそれぞれの主神を説得する必要があるという訳である。

 

 ただその案で達成できるのは現状の派閥連合を盤石にすることだけ。

 

 次に出たのは現状をどうより良くしていくか、であった。

 

「あとは…他の派閥を新たにどう引き入れていくかだが…アスフィから聞いたが、リューちゃんはロキもフレイヤ様もギルドも引き入れたいん…だって?リューちゃん…正気?」

 

「…そうらしいな。ギルドを司るウラノスなら話が通じないこともないだろうが…ロキとフレイヤを引き入れるということは、和解に導くということだろう?それは…俺達にできるのか?」

 

「正直儂的にはギルドが協力するかも分からぬと思っているがな」

 

「確かにリューの言うことはただの理想かもしれない…けどその理想を実現するために動くのは必要だと思うわ」

 

 現状リュー達の中で出ていた案は【ロキ・ファミリア】・【フレイヤ・ファミリア】・ギルドを味方に引き入れるということ。

 

 …ただそれは理想を信じようとするリューのような人々はともかく夢としか思えないもの。

 

 こればかりはアストレアが口添えしても簡単に三人の疑念を取り除けない。

 

 それがまた迷宮都市(オラリオ)に蔓延る疑心暗鬼が取り除くのが全く容易くないことの証明。

 

 とは言え三人もリューの思い描く三勢力の引き入れはともかくとして迷宮都市(オラリオ)を可能な限り団結に導こうとする理想は共有することができていた。

 

「ま、ロキ達を引き入れられるかはともかくとして他派閥…例えば【ディオニュソス・ファミリア】や【イシュタル・ファミリア】、あと【ミアハ・ファミリア】のような中規模以上のファミリアは交渉する余地は十分あると思うぜ?」

 

「ヘルメスの言う通りだ。シャクティが言っていたが、ギルド傘下のファミリアの一部も靡かせる余地は十分あると見ていいと思う」

 

「ヘルメスとガネーシャの意見は最もね。例え小さな力であろうとも結集することができれば、すぐにでも大きな力になり得る。それこそ都市二大派閥の力をも超えるほどの。まずはそちらの説得の方が優先という考えは私も賛成せざるを得ないわね」

 

「ぬ?ミアハじゃと?ならば儂が意地でも説き伏せてくれるわ!!どちらが迷宮都市(オラリオ)の団結のために貢献できるか勝負じゃぁぁぁ!!」

 

 …ディアンケヒトのミアハへの対抗心か何かよく分からぬ反応はともかく。

 

 四人とも他派閥の積極的な勧誘は全面的に賛成という意志を共有できた。

 

 そうなれば結論はもはや見えたと同然で、アストレアが総括として話をまとめた。

 

「手分けして私達は他の神々に協力を説得して回る。これが私達の行動方針かしら?まずはリヴィラの街の子達の主神達の説得で次に脈がありそうな中小派閥の主神達の説得。ロキとフレイヤとギルドは後回しとしても根回しは進める意義はあると思う。その根回しは…」

 

「ギルドには俺が進めよう。ウラノスなら話が分からぬとは思えん」

 

「ガネーシャ。よろしく頼むわ。となるとロキとフレイヤは…」

 

「おいおい。俺は流石にお断りだぜ?流石にあの女神達の火に油を注ぐのは御免だ。俺は闇派閥(イヴィルス)の情報収集を他の神々の説得のついでにさせてもらう」

 

「となるとディアンケヒトは…」

 

「儂はまずあの二人と特別懇意ではないから無理だと思うがのう…」

 

 アストレアの総括に話はある程度まとまったものの、ロキとフレイヤの和解ないしは説得だけはどうしても誰も積極的に引き受けられない。

 

 何せロキとフレイヤの緊張関係は一時的に緩和していた頃を除けば、天界にいた頃から続く神々の間で有名な関係である。

 

 …その関係を改善しようなどと、高言できる神など簡単に現れるはずもなかった。

 

 だが神でもないのにそれを実現しようという理想を掲げるリューが現れてしまっていた。

 

 そうなると主神()としてのアストレアの立場はおのずと決まっていた。

 

「…なら私しかいないわね。分かったわ。私がロキとフレイヤを何とか和解に…」

 

「待て待て待て!アストレア!君にそんな危険な役割をあっさり任せると思っているのか?俺はやりたくはないが、アストレアが引き受けるのも反対だぜ?」

 

「でも私がやらなければ誰がやるの?」

 

「そりゃ誰も引き受けたくないだろうが…それでもアストレアはダメだ。この派閥連合をまとめてるのが誰か分かってるのか?【アストレア・ファミリア】のリューちゃんだ。その意味はただ単にリューちゃんの理想と人望が為せる技というだけじゃない。アストレアの存在あってこそだ。アストレアに万が一があれば…派閥連合が崩壊するだけではなくリューちゃんはどうなる?リューちゃんが貴方を失ってもこれまで通りでいられるとでも?主神()としてそれが許せるのか?その危険をあえて貴方は冒すというのか?」

 

 アストレアはさらりとロキとフレイヤの仲介役を買って出る。

 

 だがそれにはあのヘルメスが猛反対した。派閥連合の存続という意味でもリューの精神的安定という意味でもアストレアが自ら危険に身を晒すというのはあまりにリスクがあった。

 

 リューがアストレアを失えば、恩恵を失うとかそういう意味だけでなく精神的な支えを失うことになる。

 

 そうなれば…リューはどうなるかはもう誰にも分からない。

 

 それでも明白なことは精神的な支えを失ったリューが派閥連合の指導者として立ち続けることは到底不可能であるということ。

 

 リューを失えば…リューを中心にまとまっている派閥連合は遠からぬうちに崩壊する可能性は高い。

 

 ヘルメスの懸念は当然であり、至極真っ当。アストレアが自らを危険に晒すような真似をするのは本来言語道断だった。

 

 だが…アストレアが無茶な真似までして動こうとするのには理由が存在した。

 

 その理由をヘルメスの指摘は引き出すことになってしまった。

 

「…リューがこれまで通りにいられるか?そうね。それを言うならその危険は私が動かこうとも動かずとも常に存在するわ。あまり時はないのよ。ヘルメス。リューがこれまで通り振舞い続けられる時間はそう長くない。…早く希望を見つけ出さなければ、リューの心は私がいてもいなくとも壊れてしまう。私はそれを傍観していたくはない」

 

「…アストレア?それはどういう意味だい?」

 

 

「リュ―を動かす本当の原動力は私でも迷宮都市(オラリオ)の団結という理想でもない。今のリューを突き動かしているのは今尚目覚めず希望を取り戻せずにいるアリーゼなのよ。」

 

 

 確かにアストレアも迷宮都市(オラリオ)の団結という理想もリューの行動を支えている。

 

 だがリューの原動力の本質はその二つの要素だけでは見抜けない。

 

 リューの原動力の本質…

 

 

 それはアリーゼへの想い。

 

 

 アストレアの言葉がリューにアリーゼの希望を取り戻すための行動を起こすきっかけを与えた。

 

 迷宮都市(オラリオ)の団結という理想がリューにアリーゼの希望を取り戻すための方法を与えた。

 

 リューのアリーゼへの直向きな思いがなければ、アストレアの行動を促す言葉も何の役にも立たないし、迷宮都市(オラリオ)の団結という理想に辿り着くことさえなかった。

 

 

 全てのリューの言動はアリーゼに繋がっていたのである。

 

 

 それをリューと本当に近しい人々以外は知らない。

 

 そしてそのアリーゼは未だ目を覚まさない。

 

 その原因が希望を取り戻せないという精神的問題にあると治療師であるアミッドは分析した。

 

 つまりリューがアリーゼの希望を取り戻せるか否かがアリーゼの意識が戻るか否かに関わる…生死に関わるということである。

 

 リューが本当の意味で壊れるとすれば、アストレアがいなくなった時ではない。

 

 

 アリーゼが希望を完全に見失い、生き続けることを諦めた時である。

 

 

 そしてその時がいつ訪れるかは治療師であるアミッドにも神であるアストレアにも分からない。

 

 アストレアがヘルメスに伏せようとしていた事実の一部がこれであった。

 

 リューはアリーゼの存在に精神的に大きく依存していること。

 

 そしてそのアリーゼが精神的に非常に不安定だと捉えることができること。

 

 

 …これは如何にリューを中心にまとまった派閥連合の基盤が不安定かということと同義。

 

 

 この不安定さを認識しているのは直接治療に関わったアミッドとディアンケヒトとアストレアのみ。

 

 リューは恐らく自分自身でも明確には認識できていない。

 

 そしてこれを多くの者に知られれば…如何に派閥連合が貧弱かを周知されることに繋がってしまう。

 

 この事実は結成されたばかりの派閥連合を守るために味方にさえも何としてでも伏せなければならない秘事。

 

 同時に派閥連合に潜む致命的な弱点。

 

 この弱点を克服するにはアリーゼが目を覚ましてくれるような確固たる希望が必要であった。

 

 その希望を可能な限り早く手に入れようという意識がアストレアを無茶もある行動へと導いていた。

 

 

 アストレアにとっては今一番必要なのは希望。

 

 

 リューとアリーゼのためだけでなく輝夜とライラのためにも…つまり自らの大切な眷族達(子供達)全員に必要とされるもの。

 

 その希望を取り戻すためにはアストレアは寸分たりとも妥協を許すことができなかったのである。

 

 アストレアはヘルメスにアリーゼの名前を出す以上の事柄をもう話さなかった。

 

 それ以上のことはヘルメスが勝手に答えを見つけ出し、公にできるような内容ではないと察すると確信していたからである。

 

 そしてアストレア自身それ以上のことを話す気にはなれなかったから。

 

 

 アストレアは気付いていた。

 

 派閥連合の…そして迷宮都市(オラリオ)の命運を握っているのは本当はリューではない。

 

 リューと輝夜とライラの希望であるアリーゼの存在。

 

 アリーゼが目を覚ますか否か…

 

 希望をこれまで幾度も仲間達だけでなく迷宮都市(オラリオ)中の人々に届けてきたアリーゼ・ローヴェルが希望を取り戻せるか否かに懸かっていた。

 

 アストレアにできることは多くない。

 

 リューにできることは多くない。

 

 アストレアとリューが行動すればアリーゼが希望を取り戻すという保証がある訳でもない。

 

 だがアストレアもリューも自らが何もせず傍観することはできなかった。

 

 だからこそ無理でも無茶でも前へ進むべく行動することができていた。

 

 アストレアもリューもあらゆる手を尽くす覚悟は決めていたのだ。

 

 

 アリーゼが希望を取り戻すために。

 

 

 アストレアは目を閉じ今尚アミッドの書斎のベッドで眠っているであろうアリーゼの姿を脳裏に浮かべる。

 

 その可愛い大切な眷族の姿にアストレアは心の中で何度目か分からぬ献身の誓いを立てた。




あんまり作中では触れませんでしたが、この会合でアストレア様は紅一点でした。逆に前回はボールスさん男一人だったんですけどね!

というのはともかく今回は私の小説では結構珍しい神々に焦点を充てた回でした。
…まぁ神々なので何を考えているのかよく分からないというのが今回でも実情になりましたね。アストレア様とディアンケヒト様、ヘルメス様が隠し事をしているご様子…ヘルメス様はまぁ案の定感がありますね。
ガネーシャ様は特になかったので発言自体減りました。ちなみにガネーシャ様って場を弁えることはそれなりにできると解釈してるので今回は自己主張を控えました。

そしてアストレア様が隠し事というある意味の異常事態。
この原因はアリーゼさんにありました。
そして派閥連合というかリューさんの致命的な弱さもアリーゼさんにあります。
アリーゼさんが唐突に死去しても詰みですし、アリーゼさんの希望を取り戻す手段がないという結論にリューさんが至っても詰み。
…超不安定。リューさん抜きで派閥連合が存続しうるかは議論のしどころですが、ボールスさんの離脱は避けられないというのが私の解釈です。アスフィさんも積極性は失う可能性は高い…かも。
みんなリューさんが大好きすぎ!(私の小説の定期事項)
そしてそのリューさんとアストレア様はアリーゼさんのことが大好き。

リューさんという意味でもアリーゼさんという意味でも呑気にしてると詰む可能性がある。
アストレア様の無茶も致し方ない所があります。

そしてこれだけアリーゼさんに焦点を充てたということはお察しでしょう。
ようやくリューさんからアリーゼさんに焦点が移る、という訳です。


それと新年のアストレア・ファミリアということで短編を一作書きました。
最近リューさん以外出番が少ないので宜しければ…

『初夢の枕に立ちし知己は何を伝えん』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14403210#2

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