励みになってます!
『
希望を溢れさせんばかりの興奮に満ちた声でリューはそう叫ぶ。
これはリュ―の中ではアミッドに贈られた言葉だった。
だが実はそばで密かに耳を傾けているアリーゼの元にもきちんと届いていて。
リューの語る理想は…アミッドの心だけでなくアリーゼの心をも揺り動かした。
リューは本気で
そうアリーゼは知った。
アリーゼの想定とは違いリューはそこまで思考が及んでいなかった。その上にアリーゼが以前漏らしてしまった内容に合わせてアミッドがリューを完全に誘導していたと言わざるを得ない。
…アリーゼとしては成長したと思っていたリューが意外と変わっていないことに安心感と残念さを感じつつも。
リューが理想に向かって走り出したことには変わりはない。
リューの奮起を知ったアリーゼが…どうしてこれ以上立ち止まったままでいられるだろうか?
『まだ私には
リューにはまだ理想は語れても周囲に希望として心の支えにする段階にまで考えを発展させることはできていない。
だからリューは自らを信じ、待っていて欲しいと説く。
その言葉もまたアミッドだけでなくアリーゼにも届いてる。
具体的な方法を自らの力で見つけ出さんとするリューの覚悟はアリーゼにリューの成長を感じさせた。
信じて待って欲しいと頼むリューの自信はアリーゼに期待と安心感を与えた。
リューの覚悟と自信のこもった言葉にアリーゼはとうとう自らの取るべき行動に結論を導き出すことができた。
『そのお言葉が聞けて嬉しいです。では…最後にアリーゼの姿を目に焼き付けてから、そろそろ帰らせて頂きたいと思います。【
リューとアリーゼはこんなにも近くにいるのに結局会話は交わすことはできなかった。
アリーゼは自らの身勝手だと捉える都合と成長を続けるリューへの配慮で寝たふりを続けるしかない。
リューはアリーゼ達のために決めた覚悟とアリーゼの体調への配慮で無言のままアリーゼを見つめるしかない。
だが二人の心は今や完全に通じ合っていた。
【深層】の時と同じでリューの切実な自らの仲間を思いやる言葉の数々のお陰で。
リューとアリーゼは希望を取り戻すために共に戦う。
その覚悟が共有された今もはやリューとアリーゼの行動を遮るものなどもはや完全に消え去った。
☆
「全く…図られたわ。アミッドにも…そしてアストレア様にも」
「私は後悔はしてません。こうしてリオンさんもローヴェルさんも立ち上がろうとしている…そのために少しでもお力になれたなら人として本望というもの。リオンさんにもお伝えした通り私達【ディアンケヒト・ファミリア】は【アストレア・ファミリア】と共に手を携え、希望を取り戻すために力を尽くしましょう」
「私も、よ。みんなを支えて
「それはそうですけど…だからって私の元に連れて来るなんて…完全に想定外でした」
アリーゼは頬を膨らませて悔しそうにアミッドとアストレアに愚痴を垂れる。
リューがよりにもよって自らの元を訪ねてくるとは聞いてない上にそこでリューが自らの覚悟の語りを聞かされるなどアリーゼ自身の言う通り完全に想定外だった。
ただそのリューの覚悟を聞いてみたいと本心では思っていたアリーゼは朗らかな表情を浮かべており、垂れる愚痴は半分は軽口のようなもの。
それが分かっているため、アミッドもアストレアもアリーゼに何も伝えずに事を起こしたことへの謝罪は一切口にしない。
代わりにアミッドはリューの前でも告げた覚悟を繰り返し、アストレアは嬉しそうに微笑みと共にリューの見出した希望を称える。
そして二人の話を聞くアリーゼはと言うと…もう既に動き始めていた。
というか既に居ても立っても居られなくなっていたアリーゼはリューが退室した直後にベッドからはとうの昔に這い出て、病衣からの着替えも済ませていた。
言うまでもなく退院の準備を整え、治療院の外へと繰り出すためである。
「アリーゼ?意気込みは万端なのは見れば分かるけど、念のためこれからどうするか聞いてもいいかしら?」
「リオンには自らの道を進んでもらいたいと思います。…リオンは自らの力で希望を見出そうとしている…なら私は邪魔をしません。何よりリオンの見出した希望はあくまでリオンのもの。…私と一緒かどうかはまだ分かりません。リオンよりは遅れてになりますが、私は私自身の希望を見つけ出したいと思います」
「分かったわ。それで輝夜とライラには?」
「二人のことはアミッド?リオンも頼んでくれてたけど、私からもお願い。今の私とリオンではまだ輝夜とライラを動かすだけの希望は示せない。もうしばらく時間が欲しいの」
「お任せを。ローヴェルさんもまた後顧の憂いなく自らの希望を見つけ出すことに専念してください。あなたなら…必ず希望を見つけ出すことができると信じています」
「ありがと。アミッドにそう言ってもらえるなら、きっと私は大丈夫ね!私は希望を見つけられる!うん!大丈夫ね!きっと!」
アリーゼはアストレアの問いに答えると共にアミッドにリューとの同じように輝夜とライラのことを頼む。
その頼みをアミッドは即座快諾すると共にアリーゼへと激励の言葉を贈る。
アリーゼは眩しいと言っても過言ではない笑顔と共に根拠のない自信を宣いつつアミッドの激励に応じた。
もう悩んでばかりで前に進めなくなってしまっていたアリーゼはいない。
そこにいるアリーゼは間違いなくこれまで通りの自信に満ち溢れ、周囲に笑顔を振りまくアリーゼであった。
「ただ治療院を出ると言っても色々と問題があるのでちょっと策を講じようと思います!」
「リオンさんに気付かれてもなりませんし、ギルドがローヴェルさん達の身柄を押さえようと躍起になっていることですし…」
「何よりついさっきリューが勢いでちょっとした騒ぎも起こしたものね」
「…アストレア様?もうちょっと穏便になるようにはできなかったんですか?」
「リュ―の闘志に火をつけようとしたら…ちょっと油を注ぎ過ぎたみたいね」
「アストレア様ぁ…」
アストレアが肩をすくめて苦笑してお転婆っぷりを発揮するのを見て、アリーゼは釣られるように苦笑いを浮かべる。
確かに背中を押して欲しいとアストレアには頼んだものの、暴走まで招いてはアリーゼの眼から見てもやり過ぎ…という訳である。
それはともかくとしてアリーゼが治療院を出るのに策が必要だと述べた理由はアミッドとアストレアが述べた通り。
一つは希望を見つけ出すために動き出したリューや『ジャガーノート』の一件で警戒を抱いているのであろうギルドにアリーゼが治療院を出たことを知られないため。
そしてもう一つはその治療院がリューが直前にアミッドの元を訪問…というよりは半分襲撃状態だったせいでギルドは当然としてあまりに多くの人々の注目を集めてしまっているため。
そのため何の策も講じずに治療院を出ることは不可能になってしまったという訳である。
その対処策としてアリーゼはとっておきの秘策を考えてあったのだ。
「ということでこの際私の先日発現した分身魔法を使ってみたいと思います!ちょっと待ってくださいね…」
アリーゼが宣言したのは分身魔法の使用。
そして分身魔法をどのように用いるかは見てのお楽しみとばかりに、アリーゼはノリノリで二人の返事を聞く前に準備を始める。
深呼吸を数度繰り返した後アリーゼは目を閉じ静かに詠唱を唱え始めた。
「【数多の星々よ。無数に示されし可能性よ。どうか女神の名の下に星乙女達へ光を賜え。我らに輝きを絶やさぬ光を賜え。届けるは我が胸の希望。目指すは愛しき者の理想。希望を紡ぎ、理想へ繋げよ。希望と理想は何時も共にあり。全ては無数の可能性の示すがままに。どうか我らに幸ある可能性を】」
「【ポテンティアーレ・エグゼーセス】」
詠唱完了。
その瞬間ホッと息を吐くアリーゼ。
ただその吐かれた息は一人分ではなくなっていた。
「ローヴェルさんが…一、二、三、四…」
「…十一人?しかも…全員に私の授けた恩恵を感じる…」
吐かれた息は何と十一人分。
アミッドとアストレアの前には詠唱を唱えていたアリーゼを中心に十人の分身達が並び立っていた。
そうして十一人のアリーゼは口々に話し始めた。
「凄いじゃないですか!?分身は分身でも十人の分身ですよ!」
「まぁ詠唱を唱えた私自身以外はどうやら恩恵は持ってても、力具合から考えるにLv.1相当なんですよね~」
「殴っただけで下手すると消えますし、私自身以外はちょっと弱すぎかなーとは思いますけど」
「でも私自身には痛みがない上に私自身のステイタスは変わってないらしいって言うのが結構使い勝手良さそうです!」
「
「分身が私の元に戻ったら
「まだ研究は必要ですけど、この魔法が発現して良かったと私は思います」
「私がどの可能性を選び取ればいいのか分からないなら、この分身の私達の力を借りて全部の可能性を選び取ってしまえばいい」
「それができずとも身体の数が十一倍になればやれることも大体十一倍!最高じゃないですか!」
「この魔法の力を借りたら、希望を見つけ出すのも難しくないかもしれない。この魔法の力を借りたら、リオンの力になれるかもしれない」
「それもこれも私のリオンへの愛の深さのお陰だと思うんです!流石私!」
「「「「「「フフーン!!」」」」」
「「…」」
上機嫌に口々に話し続ける十一人のアリーゼ。
…流石に一人でも騒がしいアリーゼが十一人も集まると騒がしさも鬱陶しさも十一倍で。
十一人のアリーゼを前にしたアミッドとアストレアは説明を聞いているという名目が立つとはいえ、あまり良くない意味で黙り込んでしまう。
一方のアリーゼはというと持ち前の好奇心というか前向きさでこの新しく発現した魔法に興味津々な上にその有用性も早々に見抜いていた。
そのためその有用性を生かして早速活動していこう。そう言う訳であった。
「で、話を戻すと私はこの魔法の研究がてらに分身した状態で治療院を出ます。もちろん時間をずらして変装もした上で、ですけど」
「第一にその過程で追手がつくか否かが懸念すべき点ですね。ギルドかそれとも他の派閥か…その辺りも確認が必要そうです」
「そのついでに分身の制限時間や分身の行動範囲などを検証します。その辺りはここだけでは難しかったので」
「ちなみに言うと分身の一人は治療院に残したいんだけど、アミッド問題ないかしら?念のためリオンが私に会いたくなっちゃったとかあった時にいないだとまずいだろうから、念のためね。もし消えちゃったら代わりの分身を送るか私自身が戻るかするけど」
「…もちろん…構いません」
「そうありがと。助かるわ。残り十人はその後は
「二十の私の目と耳を用いて
「一緒にリオンの力になれるように情報収集とか色々動けたら尚良し。一人だけだとできることは少ないけど、十人の私なら何とかなりそうね!」
「十人もいるんだから数人リオンの護衛に付けるのはどうかしら?」
「ダメよ!リオンに気付かれたら、私自身でもない限り簡単に気付かれるわ!迷惑になるだけよ!」
「じゃあ私自ら行けば…」
「「「「「それはダメ!本人だからってズルい!!」」」」」
「どーして分身のあんた達が本人である私に逆らってる訳!?」
今後の先行きを説明していたはずが、十一人のアリーゼはリューを巡ってギャーギャーと喚き争い始める。
…そんな喧騒を前にアミッドとアストレアだけが取り残される羽目になっていた。
「…凄いですね。ローヴェルさん。いつもこんな調子なのですか?」
「いつもはアリーゼ一人だけど…まぁみんなの前だといつもはこんな調子だったわね」
「ならば…ローヴェルさんは本調子をお取戻しになった、と。私が以前で噂でお聞きし、リオンさんだけでなく
「そこまでは分からない。けれど…私はそうだと信じたい。アリーゼはここに希望を取り戻すために、立ち上がったと」
アミッドは十一人のアリーゼに期待の籠った眼差しを真剣な表情で向ける。
アストレアは十一人のアリーゼに信頼を宿した眼差しを優しい微笑みと共に向ける。
アリーゼの前にあるのは数多の可能性。
その可能性をアリーゼは分身達と共にこれから探っていくことになる。
アストレアの宣言通り。
希望を届ける『アリーゼ・ローヴェル』はここに立ち上がった。
アリーゼさん×十一人というヤバい光景。
…リューさん色んな意味で詰みましたし、アリーゼさんは周囲的にとっても尋常ではないほどの脅威ですね!()
とりあえずやかましい&うざい&鬱陶しいの三コンボ。
リューさんは十一人のアリーゼさんに骨の髄まで美味しく頂かれますね。そのシーンを書くのがマジで待ち遠しい…(笑)
とりあえず詠唱文の作成の仕方がさっぱりなので、適当です。もしかしたら今後修正するかもですが、正直詠唱文には興味ないので修正もないかもです。
あと大体の魔法の特徴でお察しですが、【ポテンティアーレ・エグゼーセス】はうずまきナルトの多重影分身の術をベースにしてます。(まぁ原作前漢読んだ訳でもない俄かの身ですが)
ベースではダンまちで精神力に相当すると推察されるチャクラは均等に配分らしいですが、ダンまちは数より質の世界なので本人の質は維持したままで数の方は最低限の質という設定にしました。…というのは現状でアリーゼさんの把握する限りではですが。
事実上のチート魔法です。
仕方ないじゃないですか…今作のテーマ的にオッタルやフィンさんを相手取る可能性があるんですよ?チート魔法の一つもないと対抗できません…
まぁ実際はチート魔法に頼らずとも対抗する方向で原則進めた上でチート魔法でさらに畳みかけるのですが。