星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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傷つきし星乙女達の帰還

 輝夜とライラの病室脱走から一時間。

 

 アリーゼの要請で団員達を屋上に近づけないように指示したアミッドは二人の病室でヤキモキしながら二人がどのような決断をするか不安で不安で仕方なくなりながら待っていた。

 

 病室内を徘徊するかの如くあっちへ行ったりこっちへ行ったり落ち着きを完全に欠いたアミッド。

 

 このようなアミッドが神経質になっているのには当然理由がある訳で。

 

 何せアミッドはリューとアリーゼから輝夜とライラの安全を託され、アミッド自身が自信を持って引き受けた。

 

 にも関わらず二人の心の傷を癒せないどころか二人の消息を一時掴めなくなるなど…失態などという言葉では軽いとアミッドが思い悩むほどの致命的な失態。

 

 その上まだ二人に希望を示せないと二人と会うことを固辞していたアリーゼに二人の説得を任せてしまうという事態にまで至り。

 

 もはや失態の数々と罪悪感でアミッドには立つ瀬がないようにまで思われた。

 

 説得を押し付けてしまったアリーゼにも二人の安全を託してくれたリューにもアミッドは合わせる顔がないと、自責の念に駆られる。

 

 そんな風に悩みに悩むアミッドであったが、彼女の元にようやく朗報が届いた。

 

「…テアサナーレか」

 

「…ふぅ。え?お前どうしてここに…?」

 

「…っ!ゴジョウノさんっ!ライラさんっ!」

 

 病室の引き戸を開けて入ってきたのは輝夜とライラ。

 

 二人の無事な姿を認めることができたアミッドは思わず勢いよく振り返り、安堵の色を隠せぬ声で二人の名を呼ぶ。

 

 そんなアミッドに輝夜とライラは揃って困惑気味な表情を浮かべつつも目を背けてぼそりと呟いた。

 

「…大分配慮してもらってたそうだな。…気苦労をかけてすまなかった」

 

「あたしからも…テアサナーレ。気を使ってくれて…ありがとな」

 

「いえっ…治療師としてお二人のお力になれないこと誠に無念でなりません…ですがあなた方には…!」

 

 輝夜とライラは柄にもなくアミッドの配慮への謝罪と感謝の言葉を告げる。

 

 その二人の言葉が以前の二人の弱り切った様子の先入観から最期の言葉なのかのように錯覚してしまうアミッド。

 

 アミッドは赤の他人である自らの非力を重々理解しながらも説得の言葉を紡ぎ出そうとする。

 

 だが輝夜とライラはそんなつもりで謝罪と感謝を言葉にした訳ではなかった。

 

「私達には希望がある。心配するな。私ももう腹を括った。…もう弱音など吐かん。進むぞ。前へ」

 

「あぁ。リオンでも見つけられる希望を見つけられないほどポンコツじゃねぇ。あたしも輝夜もリオンのように…なんて言うのは若干癪だけど、進むぜ。前へ」

 

 

「「立ち止まっている暇などない(からな)」」

 

 

 輝夜とライラの二人バラバラに紡いでいた自らの決意の言葉が最後に重なる。

 

 それはまるで二人がこれまで立ち止まってしまっていたことへの後悔と前へ進んでいこうという決意が凝縮された言葉のようにアミッドには聞こえた。

 

 二人は立ち直った。

 

 瞬時にそう理解したアミッドは安堵のあまり涙を溢しそうになるもなんとか抑えるも言葉までは紡ぎ出せず。

 

 そのため輝夜とライラが先に尋ねた。

 

「それで…一つ頼みたいことがあるのだが…」

 

「そっ…そうなんだよ。散々面倒掛けておいてさらに頼み事なんて虫が良すぎる気もするけど…」

 

「…?」

 

 妙に歯切れを悪くしつつそうアミッドに何か頼みごとを伝えようとする輝夜とライラ。

 

 そんな二人の様子に一瞬は首を傾げたアミッドであったが、しばらく考えた後に察した後に言った。

 

「リオンさんとお会いになりたいのですね?それで私の案内が必要だと」

 

「…まだ何も手掛かりを示していないのに分かるのか…いや、私達とテアサナーレの共通項はリオンくらいか」

 

「…一発で見抜くとはな…まぁ話が早くて助かるって感じか?」

 

 アミッドはリューとの仲立ちを輝夜とライラが求めていると察する。

 

 そしてアミッドの察しが見事に図星だったので輝夜とライラは驚きつつも納得した様子を見せる。

 

 ただアミッドが輝夜とライラの一歩先にまで動き出すとは想定していなかった。

 

「分かりました。なら今すぐにでもリオンさんの元へ参りましょう。場所は…」

 

「「ちょっと待て!?今すぐか(よ)!?」」

 

「え?お二人の御決意が固まった以上今すぐが適切では?」

 

「それは…色々準備ってものがあるからよ」

 

「…主に心の準備を…だな」

 

 アミッドは即座にリューの元へ向かうことを提案し、早速輝夜とライラの先導をすべく病室を出ようとする。

 

 だがそのような早急な行動を輝夜もライラも望んでいなかった。

 

 …確かに輝夜とライラは希望を取り戻すべく前へと進むことを決めた。

 

 とは言え輝夜とライラにはリューを拒絶して追い出したという負い目があり、リューに会う決意をするのは案外容易ではない。

 

 特に輝夜はリューを前に殴りかかり怒鳴り散らし泣き喚きと…過去の自分を切り刻みたくなるほどの醜態をリューの前で曝した自覚がある。

 

 そのため二人とも即座にリューに会いに行くという決意までは至ることができていなかったのだ。

 

 だがアミッドが即座に動き出そうと提案したのにも当然理由があった。

 

「しかしリオンさんは今か今かとお待ちで…」

 

「…それは分かってはいる」

 

「けど…あたし達はあたし達でちょっと…」

 

 アミッドが漏らしたのは、リューが輝夜とライラを待っているという事実。

 

 リューが輝夜とライラの希望を取り戻すために派閥連合を結成し、今まさに努力を重ねていることをアミッドは知っている。

 

 そんなリューの努力が実り輝夜とライラが再起しようとしていることをアミッドは一刻も早くリューに伝えたい。それがアミッドの本心であった。

 

 輝夜もライラもリューの思いをある程度は知る分アミッドの呟きは嫌でも響き、二人とも言葉を詰まらせる。

 

 だがこの時ばかりは色々負い目があろうとも譲れず輝夜もライラも自らの立場を押し通した。

 

「「とにかく明日まで待ってくれ!?頼む!!」」

 

 こうしてリューと輝夜・ライラの再会は翌日に延期という運びになったのであった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「なるほど…ダイダロス通りの情勢は【ヘルメス・ファミリア】でも収集し難いですか…」

 

「はい…あまりに入り組んでいて範囲も広いため、私達だけでは流石に…力になれず申し訳ありません」

 

「…いえ。アンドロメダが気に病むことはありません。…やはりさらなる協力者を求めなければ、万全な体制は築けない…そういうことですか…」

 

「リオンの言う通りかと。簡単な話ではありませんが…それでも」

 

 アリーゼとアミッドによる輝夜とライラの説得が進んでいた裏側でアスフィとの面会を望んでいたリュー。

 

 そのリューは翌日に早速飛んでくるように現れたアスフィと二人で情報の共有に取り組んでいた。

 

「それにしても…あなたに頼られるのはとても心地が良いです。リオン」

 

「…?それは私が頼りないとかそういう…すみません。派閥連合の指導者としての役割を仰せつかっているのにこんなにも知識不足で…」

 

「ちっ…違います!!…私の言葉不足でしたね。これまで【アストレア・ファミリア】の仲間という頼りになる方々がいる中で私にはあまり頼って頂けなかったので…ただ新鮮でリオンに頼ってもらえるのが嬉しい。そんな私個人の感慨です」

 

「アンドロメダ…こちらこそあなたのような頼れる方が身近にいてくださることが心から幸せだと思っています。いつも力になってくださり、ありがとうございます」

 

 アスフィが微笑みと共に溢した本音にリューもまた本音を伝え釣られるように微笑む。

 

 何気ない雑談を挟みつつリューとアスフィが話し合う中で。

 

 リューとアスフィのいる【ガネーシャ・ファミリア】本拠『アイアム・ガネーシャ』の指揮所にノックの音が響き渡った。

 

「どうぞ。お入りください」

 

 そのノックの音にリューは反射的に相手が誰かも聞かずに応じる。

 

 リューは新たな何かしらの報告だろうぐらいにしか考えていなかったが故の少々等閑さもある反応であった。

 

 だがそのような反応がリュー的にも不適切であったことはリューよりも先に来客者に視線を向けたアスフィの反応が教えてくれた。

 

「あっ…あなた達はっ…」

 

「…アンドロメダ?一体どうしたので…っ!?」

 

 言葉を詰まらせたアスフィの反応に違和感を抱いたリューもアスフィの視線の向く先を見渡してみる。

 

 そしてアスフィと同じようにリューも言葉を詰まらせた。

 

 

 その来客者とは輝夜とライラだったからである。

 

 

 二人の来訪に呆気に取られるリューとアスフィ。

 

 輝夜とライラの手が繋がれていることから視界を塞がれたライラの手を引いて輝夜がここまで連れてきたのだろう…などという冷静な分析をする余裕はリューにもアスフィにも与えられなかった。

 

 二人を前に輝夜はライラの手を引き、その場に二人揃って跪いたのである。

 

 その意図を図りかねるリューとアスフィは言葉を失ったまま輝夜とライラを見つめる。

 

 すると輝夜とライラは揃って小さく息を吐き、静かに話し始めた。

 

「…謝ってどうにかなるとは思わんが…先に言わせてくれ。治療院であのようにリオンに当たり散らしてしまい…すまなかった。どうやら私は現実をかなり取り違えてたらしい」

 

「あたしからもリオン…悪かった。顔を見たくないなんて言って…本当に悪かった。輝夜の言う通り謝って済むことじゃねぇけど…ごめん」

 

「かぐ…や…らい…ら…」

 

 輝夜とライラはそう言ってリューを前に頭を下げて謝罪する。

 

 この謝罪が輝夜とライラの跪いた理由。

 

 二人は一日考えた結果、リューにきちんと謝らなければリューと向き合えない…そう判断したのである。

 

 そしてリューは二人の謝罪を前に…

 

 

 涙を溢れさせた。

 

 

「いいっ…謝らなくて…いいっ…!私はっ…私は輝夜とライラが生きていてくれて…私のそばにいてくれるなら…それで…それで…いいのですっっ!」

 

「声で分かるけどよ…リオン…」

 

「…あぁ。私達の過ちの招いた声だ。…こんな過ちを犯した私自身が実に忌々しい」

 

「…あたしもだ…情けねぇなぁ…みっともねぇなぁ…あたし達」

 

 リューは涙をポロポロと溢し、泣き崩れる。

 

 心から輝夜とライラのことをリューが思ってくれていたのだと実感させられる輝夜とライラは自らの犯した過ちを再実感し、苦々しそうに自嘲する。

 

 そして自らの犯した過ちを再実感したからこそ…輝夜とライラには紡げる言葉があった。

 

「…リオン。もしこんな私達でもリオンのそばにいる資格があるならば…聞きたい」

 

「色々と前みたいに戦えねぇけどよ…あたし達は。それでも…あたし達は聞きたいんだ」

 

 

「「…私(あたし)達も派閥連合に入れてくれないか?」」

 

 

「っっ!?!?」

 

 輝夜とライラの申し出。

 

 それは輝夜とライラの派閥連合への加入。

 

 リューは思わず涙が止まり目を大きく見開く。

 

 その申し出は言うまでもなくリューにとって望まないはずのないものだったからである。

 

 ただ輝夜とライラは自信なさげに目を伏せると、即座にリューの快諾を得られなかったことを気に病むように呟いた。

 

「…正直虫が良すぎると私自身思う。あれだけ拒絶しておいて気が変わった、仲間に入れてくれなど…」

 

「…そもそもあたし達が役に立てる場所も限られてる。前みたいに冒険者として戦うこともできねぇし…」

 

 溢れ出る輝夜とライラの自嘲。

 

 前へ進もうと二人とも決意してもどうしても消えぬ負の感情。

 

 申し出つつもリューに断られるかもしれない…そんな憶測が輝夜にもライラにもあったのだ。

 

 だがそんなただの憶測は一瞬にして吹き飛ばされた。

 

「「そんなことない(です)!!!」」

 

 否定の言葉を紡いだのはリューだけでなくアスフィもであった。

 

 輝夜とライラのことを友人だと認めるリューとアスフィの中に二人の憶測が現実に変わる要素など言うまでもなく寸分たりともなかったのである。

 

 そしてリューもアスフィもそんな負の感情に染まった二人の憶測を吹き飛ばすべく言った。

 

「先程私は言ったはずです。私にとっては輝夜とライラがそばにいてくれるだけでも嬉しい。二人の存在が私の心の支えなのです。それに輝夜もライラも何があろうとも私の大切な仲間であるということは不変です!」

 

「リオンの言う通りですよ…リオンがあなた方の協力を受け入れない訳がないじゃないですか…それに現状の派閥連合はただでさえ人員不足。輝夜とライラの力は是非とも必要です」

 

「そっ…それに!私には現実を見定める力が足りません!知識を知恵に変える力が足りません!むしろ私が輝夜とライラの力を借りたいとお願いしなければならない立場です。私は輝夜とライラと共に希望を取り戻すために戦いたい!」

 

「…輝夜とライラなら暴走しようとするリオンを止められるかもしれません。ということで派閥連合で共に戦えることを歓迎しますと言うか共に戦ってください。お願いします。…気を抜くとすぐに指揮所を飛び出そうとするリオンを止めるのはとにかく大変だとシャクティが常々…私ももうその苦労を実感済みで…」

 

「…アンドロメダ?貴方は何を言っているのですか?」

 

「…私はどう反応すればいいんだ?素直に喜んでいいんだよな…?」

 

「…なんか苦労人仲間に引き入れられようとしているような…気のせいだよな?」

 

 リューとアスフィによる輝夜とライラに贈られる激励の言葉。

 

 …若干の不穏な言葉が混じっていたような気もするが。

 

 それはともかくとしてリューもアスフィも輝夜とライラの派閥連合の加入を心より歓迎したのは確か。

 

 そのため輝夜とライラは早速意識を切り替えて動き始めた。

 

「まぁともかく…リオンと同じ希望を抱けるかは正直分からん。だが同じ場所でリオン達と共にこれから共に戦うと誓う。改めてよろしく頼む。リオン?」

 

「あたしも同じく。あたしにできることでとことん協力していくつもりだぜ。改めてだけどリオン。よろしくな」

 

「ええっ!もちろんです!共に希望を取り戻すために戦いましょう!」

 

「さて…リオンが私の現実を見定める目と頭脳を欲しているならば、まずは情報が欲しいな」

 

「派閥連合の指揮所なら情報もぎっしり知識もぎっしり。あたしが知識を蓄えて知恵を使うのに絶好の場所かもな?」

 

「ということでリオン?アンドロメダ?協力を頼めるか?」

 

「もちろんです!アンドロメダ?お付き合い願えますか?」

 

「当然です。私も是非とも輝夜とライラの御意見をお聞きしたい」

 

 こうして輝夜とライラの要望の元改めて情報共有が再開される。

 

 輝夜とライラという大切な仲間の支えを再び得ることができたリューはより一層希望を取り戻すための旅路を躍進していくことになる。




祝輝夜さん・ライラさん派閥連合加入!!
一応リューさんの派閥連合参加はアストレア様合意の上とは言え【アストレア・ファミリア】全体での参加とは言い難いので加入という表現を用いています。
…まぁ作中に書いた通りリューさん主導の派閥連合の実態はリューさんの理想の暴走に振り回される苦労人集団です。()
シャクティさんが既に振り回されてる感じは描写しましたが、さらに規模が大きくなって問題を引き起こすことになります。
流石リューさん()

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