星乙女達の夢の跡   作:護人ベリアス

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量才録用とは『人の才能をよく見はからってから、能力を生かすことができる地位に採用すること』だそうです。
…リューさんを指導者としてじっとしたままにするのは量才録用ではどう考えてもないと思うんですよね。()


大和竜胆と狡鼠の量才録用

 輝夜とライラの派閥連合加入から三日。

 

 派閥連合結成から数えれば、一週間の時が過ぎていた。

 

 一週間の間に派閥連合の基盤は着々と構築されていっている。

 

 そんな中リューの呼びかけにより急遽各派閥の関係者を招集しての会議が催されることになった。

 

 場所は初回の派閥連合の会議も催された【ガネーシャ・ファミリア】本拠『アイアム・ガネーシャ』。

 

 今では派閥連合の指揮所も兼ねる云わば派閥連合の中枢を担う最重要拠点。

 

 加えて言えばリューに輝夜にライラ、さらには主神であるアストレアまでも滞在する【アストレア・ファミリア】との合同本拠的側面までもなし崩しで有するようになっていたりする。

 

 【アストレア・ファミリア】が団員を大幅に失った今本来の本拠である『星屑の庭』を維持するのが困難との判断をリュー達が導き出し、アストレアに【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院からの動座と本拠の放棄を進言しその許可を賜ったのはつい二日前のこと。

 

 これまでの自分達の生活の拠点を放棄し他派閥に身を委ねることはリュー達自身にとっても苦渋の決断であったが、そのような決断を導き出してでも為さなければならないことがあるという認識はリュー達三人、そしてアストレアの間で議論の余地もなく一致していた。

 

 そしてその結論はガネーシャとシャクティにも即座に伝えられると共に快諾され、今に至る…という訳である。

 

 ともあれそんな場所で二回目の会議が催されようとしているのだが、会議の開催は主唱者たるリューの意図だけが働いた訳ではない。

 

 本当の意味で会議を招集したのは加入して早速自らの力量を心置きなく発揮して見せた輝夜とライラ。

 

 その力量の為し得た采配を認めさせるための場であるというのが真相であった。…特に輝夜の性格的に考えれば無理矢理でも。

 

 その辺りの裏事情はともかく。

 

 早朝の既定の時間通りに参加者であるリュー、輝夜、ライラ、シャクティ、アスフィ、アミッド、ボールスは集い、会議は早々に始められた。

 

 最初に切り出したのもまた案の定というか輝夜とライラであった。

 

 せっせと参加者それぞれの前にリューが資料を配布した後、資料が行き届いたのを確認した輝夜とライラは二列に向き合って座る参加者達を前に上座から話し始めた。

 

「皆さん。ご機嫌麗しゅう。この度は派閥連合の合議にお集まり頂き、誠にありがとうございます。そしてこの度の合議の司会を仰せつかったのはわたくしゴジョウノ・輝夜と…」

 

「…自己紹介いるか?猫被りお姫様よぉ」

 

「…あぁ?ライラ今何と仰いましたかな?」

 

「輝夜のことはともかく今日は資料に沿って進める。事前に受けた報告は大体そこにまとめてあるから読んでおいてくれれば構わない。それよりあたし達から大事な提案があるからそれを聞いて欲しい」

 

「…あ?【疾風】からは情報の共有をするって連絡を受けたんだが、【大和竜胆(やまとりんどう)】と【狡鼠(スライル)】から提案って何の話だ?というか【大和竜胆(やまとりんどう)】と【狡鼠(スライル)】はいつの間に復活して…」

 

 輝夜の猫被りな口調で始められた挨拶はライラによって早々に打ち切られる。

 

 そしてライラは自らの伝えたかった本題へと移そうとした。

 

 が、余計なことにボールスが口を挟んだ。

 

 そもそもボールスは輝夜とライラを【ディアンケヒト・ファミリア】への移送に関与して以来二人の情報は一切得ておらず、唐突に会議の場に立って大事な提案を伝えようとする二人に違和感を覚えたという訳である。

 

 …事実を言うならばダンジョンに常日頃いるが故にボールスだけが情報を得ていなかっただけで輝夜とライラの加入はシャクティもアスフィもアミッドも当然リューも知っていたのだが。

 

 ちゃっかりボールスだけが差別されていた状況に気付いてしまったリューは擁護するように口を挟む。

 

「すみません…実はこの度の会議は輝夜とライラの提案によるものでしたが、私が皆さんにどうしても急ぎ集まって頂くために偽りごとを…輝夜とライラに関しては後程私から説明しますので…」

 

「黙れ。大男。お前のせいでどれだけ面倒ごとを増やされたことか。これ以上私に無駄な時間を使わせるな」

 

「うるせぇ。眼帯野郎。リオンにおんぶにだっこの野郎に発言権なんてねぇぞ」

 

「あぁぁぁぁ!?!?【大和竜胆(やまとりんどう)】に【狡鼠(スライル)】!?てめぇらそれは聞き捨てならねぇぞ!?」

 

「…」

 

 …だがリューの気遣いは輝夜とライラのボールスへの罵倒によって一瞬にして粉みじんにされた。リューはもう呆れて言葉も出ない。

 

 一方の当事者たるボールスは唐突に始まった理不尽な罵倒に激昂する。

 

 結果腕を組み溜息を盛大に吐くシャクティがその場を収めることになった。

 

「…輝夜もライラも意味もなく煽るな。話を早く進めろ」

 

「シャクティの言う通りだな。私が話している間は口を閉じておけ。大男め」

 

「だから一体俺が何をやったんだと…!」

 

「だからうるせぇ。眼帯野郎。話を進めるぞ」

 

「がぁぁぁぁ!おい【疾風】!?何でもするからあの糞女どもを殴れぇぇぇぇ!」

 

「…ではまず二人の話を聞いてください」

 

「【疾風】ぅぅぅぅ!?!?」

 

 …こうしてボールスは見放され、否が応でも泣き寝入りする他なくなり、輝夜とライラは意気消沈するボールスを尻目に話を続ける。

 

「で、まずこの二日間リオンと輝夜とあたしで色々と情報を整理した。それで一番深刻なのは人員不足だと判断した」

 

「よって人員の配置を再編成する。地図にまとめた。参考にしてくれ」

 

 二人の説明と共に輝夜は足元に準備してあった迷宮都市(オラリオ)全体の地図を参加者全員が見えるよう机の中央に広げる。

 

 全員の視線が集中する中間を置かず輝夜とライラは説明を始めた。

 

「簡単にまとめるなら、現段階では人員不足な以上巡回・警備の優先度が低い場所からは戦力を削減した」

 

「正直特に賭博場なんぞに人員を割くのは無駄も甚だしいが、警備を担当する意志があるのはあたし達派閥連合しかいないというのが現状の結論だ」

 

「…感謝する。そこには迷宮都市(オラリオ)外からも要人が来る。そこで万が一闇派閥(イヴィルス)の襲撃があれば遺恨が残るからな。迷宮都市(オラリオ)内部も安定していない状況下で外交問題まで引き起こす訳にはいかない。私はその判断に全面的に賛成だ」

 

「…と、警備を長年担っているシャクティが言うから賭博場に関しては事実上決定としたい。異論はあるか?…ま、一人異論があるのは十分理解しているが」

 

 輝夜の賭博場の警備の一件に関しての確認に声は上がらない。

 

 ただ輝夜自身触れた通り異論を抱える人物が一人。

 

 それはリューであった。リューは今この場でも少々不機嫌気味な様子で沈黙を保っている。

 

『巡回・警備の優先度が低い場所からは戦力を削減した』という判断はリューにとって甚だ認め難いもの。

 

 リュ―の中で『優先度が低い』などという価値基準は存在せず、迷宮都市(オラリオ)中の人々を等しく守らなければならないというのがリューの理想。

 

 逆に賭博場などに人員を割くのは言語道断でリューはこの判断に猛反発した結果、シャクティ・輝夜・ライラの外交上の問題などの現実を説明され、渋々認めるに至った…という経緯が裏にはある。

 

 そしてリューが渋々認めた内容はこれだけではなかった。

 

「…ダイダロス通りにも人員を一切配置しないのですね」

 

「アンドロメダというか皆も知っての通りダイダロス通りを全て掌握するには現状の人員ではどう考えても足りん。…致し方ない」

 

「あたし達的にはダイダロス通りは潜伏するのに凄く都合が良いから闇派閥(イヴィルス)の奴らが潜伏してる可能性が匂う以上手を出したいのは山々なんだが…そこに人員を回すと他が足りなくなる。だから現実味がねぇ」

 

「…」

 

 リューが気にかけていたダイダロス通りの巡回・警備案もこれを機に『優先度が低い』とみなされた。

 

 これではリューの判断は全て却下されているかのよう。

 

 だが輝夜もライラもそこまで無配慮なことはしていなかった。

 

「…とは言えリオンが言ったようにこの迷宮都市(オラリオ)の中に守るべき優先度の高低は存在しないと私達も理解している。よってこれは現状の苦境への応急策に過ぎん。だからこそこの人員不足の苦境を脱する必要があると言う訳だ」

 

「人員さえ増えれば順次巡回・警備範囲も拡大できるからな。あたし達が迷宮都市(オラリオ)に希望を取り戻すと言うなら、全ての人を守り抜かなければならない…リオンの言葉は理想は理想でも本来実現しなければならない事柄に違いねぇ」

 

 この二人の言葉こそがリューの猛反発を抑えることができた要因であった。

 

 長期的にはリューの案の採用を示唆し、現状の対応策を応急策と限定したのである。

 

 単にリューが輝夜とライラの言葉に上手いこと丸め込まれたのかそれとも輝夜とライラが本心からリューの理想を受け入れたのかはともかく。

 

 実を言うと人員に関しては事実上決定を導き出した輝夜とライラ的にも不満な点があった。

 

「で、だ。人員不足は大きな問題。私とライラとリオンの合意の元再編成したのだが、一点だけ気に入らん。ここだ。ここ。どうしてボールス!貴様の管轄するダンジョンの人員増強にリオンがこだわるのだ!」

 

 輝夜が苛立ち交じりに叩いたのはバベルの描かれた迷宮都市(オラリオ)中央部、即ちダンジョンであった。

 

「道理は分かる。それこそ迷宮都市(オラリオ)全体よりも広いダンジョンの情報を把握するには可能な限り人員は多い方がいい。それは輝夜もあたしも十分理解してる。けどどーしてリオンはボールスにこだわるんだ!?リオンにお前何しやがった!!」

 

 ライラの言うように輝夜もライラもダンジョンにおける情報把握の重要性は理解している。

 

 何せ『大抗争』も『二十七階層の悪夢』も先日の一件も全てダンジョンにおいて闇派閥(イヴィルス)が策動したことで起きた惨事。

 

 それらを未然に防ごうとするならば、ダンジョンにおける闇派閥(イヴィルス)の一挙一動たりとも見逃すわけにはいかない。

 

 よって二人ともダンジョンへの人員の増強には賛成だった。

 

 が、リューが毎度ボールスを理由に挙げるのが輝夜もライラも気に入らなかった。

 

「…だからボールスが度々増援要請を送ってくるため見過ごせなかったからと…」

 

「リオンがそんな要請に応えるほどボールスと仲は親しくはないだろうと言っているのだ!」

 

「それは…そうですが」

 

「何かおかしいんだよ…って重要なのはそこじゃねぇよな。輝夜。この話はそれくらいに後でリオンとボールスを追及するとして今置いておこうぜ」

 

「くっ…そうだな」

 

 輝夜とライラはリューの繰り返しボールスの要請があったからという弁明も受け入れ難いらしい。

 

 だがライラはこれ以上の追及を控えるように輝夜を諭し、輝夜もまた大人しく退く。

 

 ライラとしても輝夜としても彼女達にとっての本題に入る方が余程優先であるし、輝夜としては周囲の雰囲気が呆れ気味に突入し始めているのを感じ取ったからである。

 

 そのため輝夜は小さく咳払いをして、雰囲気を一新しようと試みつつようやく本題へと移った。

 

「とにかく私達が言いたいのはただでさえ人員不足なのにダンジョンの監視にさらに人員を割く羽目になり、人員不足が深刻化しているということだ。その上これだけ人員を割いても尚ダンジョン対策の人員は足りないと見て良い」

 

「ということで事前に話には出てるのは知ってるが、早急にさらなる派閥の協力を引き出す必要があるって訳だ」

 

「確か少なくともリヴィラの冒険者達の所属するファミリアの主神達は説得に大方成功し、協力を得られるようになったそうだな?」

 

「【象神の杖(アンクーシャ)】の言う通りその点はお前らの主神様達と俺様の説得のお陰で首尾よく進んでる」

 

「ちっ…あの大男巧妙に功績を立ておって…だからリオンが気遣ってるのか?あぁ?」

 

「…だからなぜ輝夜はボールスに妙に目くじらを立てるのです…それより本題はこれからでは…」

 

 シャクティの確認に立役者の一人を自認するボールスが口を挟む。

 

 二人の言ったようにリヴィラの街に関わるファミリアはアストレアやヘルメスを始めとした派閥連合の中核を担うファミリアの主神達とリヴィラの街を取り仕切るボールスによって協力を得られる手筈が整っていた。

 

 現に輝夜とライラの立てた人員の配置計画に組み込まれ、ボールスの指揮の元情報網の構築等に勤しんでいる。

 

 地上での巡回・警備の体制が整わない反面リューの気遣いによってそれなりに人員に恵まれているボールスは早々に派閥連合に多大な貢献を成してしまったと言う訳である。

 

 もちろんボールスの手腕によるものではあるが、リューの気遣いなくして成せる事柄でもなくライラの『リオンにおんぶにだっこの野郎』と罵倒される所以になっていたり。

 

 さらに言えば多大な貢献があるからこそリューが尚更ボールスに気を使っているようで輝夜的には一層気に入らない。

 

 …というライラと輝夜のボールスへの文句はともかくリューの指摘した通り本題はこれから。

 

 そしてリューがあえて指摘したという点から察せるようにリュー自身に関わる事柄であり、リューの指摘に頷いた輝夜は話を進める。

 

「そこで各派閥の協力要請が肝要になる訳だが、未だ交渉役が決まっておらん」

 

「…確かに輝夜の言う通りだ。我々団長で説得に当たると漠然と決めてはあったが、明確には決めていなかったな」

 

「その上どこの派閥を優先的に協力を仰ぐかも不鮮明です。【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は優先しないという話は出ていましたがそれ以上は…」

 

「今すぐ決めるべきでしょう。希望を取り戻すために戦う同志は多ければ多いほど望ましいです」

 

「ま、俺様達だけでも何とかなると言いたいところだが、人員不足は俺様でも実感する以上賛成だ」

 

 輝夜の指摘にシャクティもアスフィもアミッドもボールスも順々に賛成の意を表明する。

 

 賛成の意を受けて代わってライラと輝夜がまとめた。

 

「と、いうことは全員賛成でいいな?じゃああたし達の立案した交渉対象と交渉人を伝えるぜ。まずはギルドと懇意の派閥にはシャクティを適任と見た。役立たずのギルド様のお怒りを買わないようにしつつ協力を引き出す…頼めるか?シャクティ?」

 

「…そのギルドとの関係はどうする?」

 

「それは私達にも分からん。今後のギルドと私達の動向次第だ。とにかく役割として引き受けてもらえるか?」

 

「もちろんだ。断る理由もない。ギルドとの関係は適宜指示を仰ぎつつ、交渉に当たろう」

 

 ライラと輝夜が最初に告げたのはシャクティの役回り。

 

 シャクティはギルドとの関係に懸念を示したが、この場にいる全員としても輝夜の言った以上の判断は下せない。

 

 そのためシャクティは若干の不安を抱きつつも受諾する他なかった。

 

「そしてリヴィラの街関係の派閥の協力継続の役割は大男。貴様に委ねる。リオンにこれだけ期待されているのだから、失態が少しでもあれば私が許さん」

 

「…俺そんなに【疾風】に期待されてるのか?」

 

「聞かれてるぞーリオン?眼帯野郎が褒めて欲しくて仕方がない餓鬼みたいな声で聞いてやがる」

 

「おい!?【狡鼠(スライル)】!!てめぇ…いい加減張り倒すぞ!?」

 

「…っ!ライラァ!うっっ…頼りにしてます。ボールス。ダンジョンにおいて闇派閥(イヴィルス)の陰謀によるこれ以上の犠牲を増やさないためにもあなたの力が必要です」

 

「くっ…糞っ!分かった!俺なりにやれるだけのことはやってやる!」

 

「…ほんと聞き分けが良すぎやしないかねぇ?あの眼帯男…」

 

 …ライラの茶化しとぼやき通りボールスの聞き分けが妙に良い点が謎なのはともかくとして。

 

 ボールスが継続してリヴィラの街に関わる派閥の引き締めを担うのは妥当な割り当て。

 

 リューとボールスが無駄に振り回される一幕はともかくとして順当な発表の流れだった。

 

 だがここから輝夜とライラが告げる内容が問題だった。

 

「で、問題は現状で事実上傍観・中立を保ってる派閥の連中なんだよなぁ。【ミアハ・ファミリア】はテアサナーレ?神ディアンケヒトが説得に当たってくれるんだっけか?」

 

「はい。ディアンケヒト様が精力的にミアハ様を説得なさっています。近日中には朗報をお持ちできるかと」

 

「分かった。助かる。テアサナーレ。ただどちらにせよ根本的な問題は解決できないのは周知の事実。誰か派閥連合を代表して交渉に当たる人物が必要だ。」

 

「派閥連合を代表して…まさか!」

 

 アスフィが声を震わせる。

 

『派閥連合を代表して』

 

 アスフィがこの一句から推測できる人物はただ一人。

 

 そしてその推測は正解だった。

 

 

「「私(あたし)達はリオンを交渉役に推薦する」」

 

 

「「「はぁ!?!?!?」」」

 

「「…」」

 

 輝夜とライラの宣言に反応が二つに割れる。

 

 シャクティとアスフィとアミッドは驚きのあまり声を張り上げ。

 

 リューとボールスは沈黙を保ち。

 

 その反応がその場の意見が真っ二つに割れたことを証明していた。

 

「待て!輝夜!ライラ!リオンは確かに派閥連合を代表するに相応しい。しかし派閥連合を率いる身だからこそ迷宮都市(オラリオ)の状況を俯瞰して見れる立場にいなければならない。交渉役は指導者であるリオン以外が担うべき事柄だ!」

 

「シャクティの言う通りです!まず交渉と軽く言いますが、敵か味方か不鮮明な相手の元に出向くのです!リオンに万が一のことがあれば…」

 

「私も同じく反対です。リオンさんには万が一があっては絶対なりません。そのようなことがあれば派閥連合は崩壊の危険さえ帯びることでしょう。リオンさんに率先してリスクを冒して頂く道理はありません。交渉役はせめて他の方に」

 

 シャクティもアスフィもアミッドもそれぞれの観点からリューの交渉役になることへの反対の意を口にする。

 

 それに対して最初に反論したのはボールスだった。

 

「確かに【疾風】は派閥連合の指導者…【象神の杖(アンクーシャ)】の言うように状況を俯瞰していられるように後ろでふんぞり返ってる方が指導者としてはいいのかもしれねぇ。案外指揮する時ってのは前線にいるよりも後方にいる方が色々な場所に目を配れるからな。だが…だからと言って【疾風】をずっと指揮所に閉じ込めておくのは宝の持ち腐れじゃねぇのか?」

 

 ボールスにしては気を使ったかのように三人の意見を自らの経験に基づいて擁護しつつ、ボールスは『宝の持ち腐れ』という表現を以て三人の意見に苦言を呈する。

 

 そしてボールスの意見に加えるように輝夜が言った。

 

「三人の言い分は最もだ。恐らくシャクティとアスフィにはリオンを指揮所に留まらせようとするのはリオンの安全のみではなくリオンに指導者としての自覚を持たせようという意識があるのだろう。それは正しい。リオンには未だ指導者としての自覚がないのは事実だ。すぐに暴走しようとしよって…」

 

「…」

 

 輝夜は三人の意見を肯定しつつ、リューに向かって嫌味を呟く。

 

 リューは恥じらいを覚えつつ視線を背ける。

 

 リューに指導者として泰然と構えようという意識が欠如しているのは周囲が不安視する所ではあるし、リュー自身ある程度自覚するところであるからである。

 

 …とは言え血気に逸って暴走し出してしまうリューの癖は中々矯正することができないのだが。

 

 そしてだからこそボールスの言う通り『宝の持ち腐れ』なのである。

 

「…だが気に入らんが、大男の言う通りだ。リオンの熱意を後方に燻らせておくのはあまりに惜しい。溜め込ませた挙句暴発される方が尚のこと面倒だ。ならリオンにはその熱意を交渉で協力を引き出すのに用いらせるべきだと私達は考えた」

 

「それに考えてみろよ?リオンから大体話は聞いたけどよ…ここにいる全員がリオンの熱意、覚悟、希望への意気込み、理想…それらに惹かれてこうして集っている。なら協力を引き出すのに一番効果的なのはリオンの言葉…違うか?」

 

「「「…」」」

 

 ボールスの意見を補強するように輝夜とライラが持論を述べる。

 

 二人の持論は的を射ていた。

 

 リューの熱意、覚悟、希望への意気込み、理想…

 

 それらを紡ぎ出したリューの言葉が今の派閥連合を作り出しているのは揺るがぬ事実だ。

 

 反対の意見を述べた三人にも自覚がある以上反論はしにくい。

 

 さらにライラはとどめを刺すように呟いた。

 

「それに、よ。当の本人様はもう考えまとめちまってるし」

 

 そうライラが呟くと、『当の本人様』であるリューに視線が集まる。

 

 その一人一人の視線を見渡して応えた後に。

 

 リューは自らの意志を告げた。

 

「…実は私が輝夜とライラに皆さんの説得を頼みました。私はシャクティやアンドロメダ、【戦場の聖女(デア・セイント)】のお心遣いが大変嬉しいです。それに私が指導者としての自覚を持つべきなのは分かっています。…ですが私は一人だけ安全な場所にいるということが嫌なのです。誰かに危険が迫っているならば共に危険へ飛び込みましょう。誰かが死地に赴こうとするならば共に赴き、そこを死地でなくするために力を尽くしましょう。それは本来指導者としての在り方ではないのかもしれません。だとしても…私は皆さんと同じ場所で共に戦いたい。その戦いをまず共に戦ってくれる方をさらに集めるための交渉から始めたい。そう考えています。…ご賛同いただけませんか?」

 

 リューの思いが会議室に響き渡る。

 

 リューは粛々と自らの非を認めと同時に自らの意志を突き通したいと表明した。

 

 長々とした意志表明ではあった。

 

 だが誰一人として口を挟まずリューの話を黙々と耳を傾けた。

 

 そしてリューの賛同を求める問いが紡がれた時。

 

 

 反対した三人が様々な感情を表情に映し出しつつその求めに応じた。

 

 

「…いや、前線に立って自ら模範を示す…それもまた指導者の在り方だ。リオンの考えは何ら間違っていない。分かった。リオンの考えに従おう」

 

「リオンらしいですね。リオンはいつだって前へ進んでいこうとして…私達の先で希望を示そうとしてくれる。私達がただただ過保護なだけだったのかもしれません。分かりました。リオンの考え通りにしましょう」

 

「リオンさんがそう仰るなら…致し方ありませんね。ただ御無茶だけはなされぬように。それだけが私の願いです」

 

 シャクティはリューの考えの正しさを認め、アスフィはリューへの憧れを見せ、アミッドは不安を滲ませる。

 

 三者三様な反応だが、これ以上の反対はしないという点では一致した。

 

 その反応を受けて輝夜とライラはまとめる。

 

「…三人の反応を見るに問題はない、な。よって翌日よりリオンを中核に他派閥の協力要請を積極的に推進する。リオンの補佐には当然私とライラも付くが、シャクティ、アンドロメダ、テアサナーレも協力して欲しい。当然リオン一人で全派閥の交渉が担えるわけではないからな」

 

「そしてリオンには優先して中規模派閥の交渉を担ってもらう。差し当たりは【イシュタル・ファミリア】や【ディオニュソス・ファミリア】が優先か?規模が大きい派閥を引き入れれば引き入れるほど他の派閥も靡くからよ」

 

「リオンの補佐はもちろん喜んでお引き受けしますが…中規模派閥の交渉をリオンが担うということは…【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】との交渉は当面延期するという理解で問題ないですか?」

 

 輝夜とライラのまとめにアスフィが疑問を口にする。

 

 中規模派閥の交渉を優先するというライラの口振りから考えれば、大規模派閥に該当する【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の交渉は行わない…そのように聞こえたからである。

 

 だがそのような意図は輝夜にもライラにも一切なかった。

 

「な訳なかろう。ロキとフレイヤは未だ最優先だ。あの馬鹿どもが冷戦状態なせいで私達が割を食っているのだ。あのような迷惑な対立は早々に終えさせねばならん」

 

「そうそう。うちの勇者様にもそろそろ本領を発揮してもらわねぇといけないよな。それこそフレイヤの犬どもにうちの一族の英雄様が輝けないとなると尚面白くねぇ」

 

「…この【勇者(ブレイバー)】大好き小人族(パルゥム)様の私情はともかく。ここに関してもリオンときちんと話し合って決めてある」

 

「…となると?」

 

 

「「当然私(あたし)達が担当するに決まってるだろ?」」

 

 

「「「なっ…!?」」」

 

 またも輝夜とライラの宣言に驚愕の声が揃う。

 

 ただ今回はリューが話し合いに関わったという話から即座にリューの元に視線が移り、リューの考えを聞こうという流れになった。

 

 だがリューは目を閉じたまま無言を貫いた。

 

 まるであまり積極的には賛同していなかったという意志を示しているかのように。

 

 そのため輝夜とライラが続けて付け加えた。

 

「特に【フレイヤ・ファミリア】の方は既にリオンは警戒されていたと聞いた。よって一応人を代えた方がマシになるだろうという浅知恵だ」

 

「それに相手はあのフィンだぜ?単に交渉するにしてもリューみたいな愚直に希望と理想を説けば動いてくれるとは考えられねぇ。それなりに駆け引きと取引をしつつじゃねぇとな」

 

「そういうのならリオンより私達の方が適任だろうという訳だ。そもそも場合によっては連中は仮想敵。自ら乗り込んで偵察は望むところだ」

 

「輝夜のような血の気の多い奴が不用意に刺激しないようにあたしも同行するという意味合いもある」

 

 輝夜とライラは色々と理由を並び立てて自らが【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の交渉を担うことの合理性を主張する。

 

 その主張は恐らく正しいのだろう。

 

 だが輝夜とライラ以外の周囲にはリューの態度に違和感を感じずにはいられなかった。

 

 と言ってもリューは沈黙を保つのみで自らの意見は口にせず。

 

 結局流れで承認という形で輝夜とライラの役割は決まることになる。




…まぁお察しの通りリューさんを指揮所に缶詰めにして指揮を執らせようなんて無茶振りな訳ですよ。一応シャクティさんとアスフィさんはリューさんのためという意味でその役割を頼もうとしてたんですけど、リューさんの才能をより生かしたいならそれよりも前線で動き回らせた方がいい。
リューさんの仲間としてより近くにいた輝夜さんとライラさんならではの考えです。それはリューさんの限界を勝手に決めているという意味でもリューさんの在り方を二人よりも理解しているという意味でも。

そして滅茶苦茶厚遇されるボールスさん!
何だかんだ原作でも登場回数少なくないですからね。あの男。輝夜さんとライラさんは『リオンに男が!?それもあの大男(眼帯野郎)が!?』とぶち切れ気味ですが、理解に苦しむと同時にリューが信頼を一程度預けてることに嫉妬も若干?

あとロキ・フレイヤ交渉役は輝夜さんとライラさんに。
ある意味今作の最重要課題ですから、私的には当然の人選ですね。
優秀さでもフィンさんとの繋がりでも多くの意味で二人が適していると思います。
前線に出れない分…というか出れないからこそこの二人はこの役割に精力的に取組むわけで…
二人には一番の難題が回ってきたとも言うべきでしょう()
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